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29 再び歩き出すために
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「では、また縁があれば」
別れの言葉も、それだけだった。
見切りをつけたように、あっという間にいなくなったサディシャ氏。
夕焼けで赤く染まった雑木林を歩きながら、ため息を吐く。
(いや、まぁ……、用済みなのはそうなのだろうけど)
あそこまで露骨だとは思わなかった。
もしかすると最初からあまり期待はされていなかったのかもしれない。
(警戒、されていたのかもしれませんね)
最初,会ったときから対応が変だったようですし。
ディエントさんも少し違和感を感じていた風に言っていました。
(……ディエントさん、か)
死んだなんて、未だに実感が沸いてこない。
目の前で殺され、喰われたのに、死んだという感覚がない。
今朝方、歩きながら話していた。
塔を登りながら,その後ろ姿を見ていた。
楽しげに笑っている姿も、意を決したような眼差しも、鮮明に。
今にも、後ろから追いかけてきそうな、そんな感覚がある。
そう考えて、振り返る。
(………、さすがに、)
遠くに見える墓標群が、寂しく夕焼けに沈んでいた。
あまり長く見ていると、そのまま引き止められそうな気がして,すぐに前に向き直る。
サラァテュの前にいた時間はとても短く、悪い夢を見ていたような気にもなる。
アレは全て,夢だったと、思いたくなる。
(でも、夢じゃないんですよね……これが)
サディシャ氏の言葉。
サラァテュの振舞い。
ディエントさんの記憶。
今日一日、いろいろな事がありすぎて、頭が追いついてこない。
一度寝て、頭の中をリセットしてから、ゆっくり考え直したい。
でも、
(もうちょっと、もうちょっとだけ、もう少しで答えがあるのに…)
整理してしまうと、失くしてしまいそうな感覚。
この、何かに引っかかっている感覚があるうちに、考えをまとめておきたい。
自分は、一体何に引っかかっているのか。無意識のうちに何に気がついているのか。
(テイム…‥,薬水…、サラァテュ、サディシャ)
気になることを、順番に並べていく。
真相に近づいているのに、真相が一向に見えてこない。
核心に近いことが揃っているのに、肝心なものだけがポッカリ穴が開いている。
(…もどかしい)
模範解答があるならば,今すぐ見てしまいたいような衝動。
何が足りないのか、何が答えなのか、考えても考えても分かる気配はない。
ここまでピースが揃っているのに,何故分からないのか。
(一生に一度、答えを知れる権利があるなら、今すぐ使うでしょう……)
そんな都合の良いものはなく。
手元にあるのは、思考と、想像力と、勘と
(ーーーあれ?)
記憶。
考え込んで、顰めっ面になっていたクァイリは、真顔に戻る。
(前に、聞いたことありますね…)
一生に一度。
聞いたことがあるのか,言ったことがあるのか。
とりあえず、記憶のどこかに似たような”言葉”がある。
それが一体何なのかは、同じように分からないけど。
(ただ…、最近ですよね)
違いは、重い出せそうという希望があるくらい。
現実逃避ぎみに、そのことを思い出そうとし始めるクァイリ。
いつの間にか丘を下りきり、雑木林を抜けていた。
夕日が落ち、光が消えたとき、じんわりと記憶が形をなした。
───人に一度しか会わないと言うことですか?
それは、いつか、クァイリ自身が言った言葉。
一体,いつ誰に言ったのかは、すぐに思い出せた。
旅立ちの前、アンダス先生と、とある話をしていた時。
───何かを知り、そして何もできないと思ったとき、この人を訪ねなさい
そう言われ、封筒を受け取った。
別れ際、アンダス先生が忘れるなと念を押した、あの封筒。
宛先のない、名前も知らない相手に対する、紹介状。
手がかりは一つも……
(いえ……、確か聞いていました)
再会する事を極端に嫌う女史、と。
たった、それだけしかない手がかりとも言えない情報。
聞いた時は反応ができるほど理解も想像もできなかった。
ただ、今は、どこか心当たりがあった。
理由も確信もないけれど、もしかすると、という予感めいた何かが。
(王定典範に背く薬水の処方を指示した…女史)
薬水の扱いやテイムへの知識から、研究者かもしれないとは思っていた。
アンダス先生の口ぶりから、相当博識な研究者と思われる。
村の人々の尊敬の度合いから、何かしら大きな成果を各地に遺している。
一ヶ所の村に留まることはなく,再び同じ村を訪れることもなく、放浪している様子。
特徴は、一致している。
(‥…あては他にはない)
暗く、藍色に染まる空。
手持ちの路銀は、まだもう少しは持ちそうだった。
次の村で、アンダス先生へ手紙を出すことを決め、歩を早めた。
別れの言葉も、それだけだった。
見切りをつけたように、あっという間にいなくなったサディシャ氏。
夕焼けで赤く染まった雑木林を歩きながら、ため息を吐く。
(いや、まぁ……、用済みなのはそうなのだろうけど)
あそこまで露骨だとは思わなかった。
もしかすると最初からあまり期待はされていなかったのかもしれない。
(警戒、されていたのかもしれませんね)
最初,会ったときから対応が変だったようですし。
ディエントさんも少し違和感を感じていた風に言っていました。
(……ディエントさん、か)
死んだなんて、未だに実感が沸いてこない。
目の前で殺され、喰われたのに、死んだという感覚がない。
今朝方、歩きながら話していた。
塔を登りながら,その後ろ姿を見ていた。
楽しげに笑っている姿も、意を決したような眼差しも、鮮明に。
今にも、後ろから追いかけてきそうな、そんな感覚がある。
そう考えて、振り返る。
(………、さすがに、)
遠くに見える墓標群が、寂しく夕焼けに沈んでいた。
あまり長く見ていると、そのまま引き止められそうな気がして,すぐに前に向き直る。
サラァテュの前にいた時間はとても短く、悪い夢を見ていたような気にもなる。
アレは全て,夢だったと、思いたくなる。
(でも、夢じゃないんですよね……これが)
サディシャ氏の言葉。
サラァテュの振舞い。
ディエントさんの記憶。
今日一日、いろいろな事がありすぎて、頭が追いついてこない。
一度寝て、頭の中をリセットしてから、ゆっくり考え直したい。
でも、
(もうちょっと、もうちょっとだけ、もう少しで答えがあるのに…)
整理してしまうと、失くしてしまいそうな感覚。
この、何かに引っかかっている感覚があるうちに、考えをまとめておきたい。
自分は、一体何に引っかかっているのか。無意識のうちに何に気がついているのか。
(テイム…‥,薬水…、サラァテュ、サディシャ)
気になることを、順番に並べていく。
真相に近づいているのに、真相が一向に見えてこない。
核心に近いことが揃っているのに、肝心なものだけがポッカリ穴が開いている。
(…もどかしい)
模範解答があるならば,今すぐ見てしまいたいような衝動。
何が足りないのか、何が答えなのか、考えても考えても分かる気配はない。
ここまでピースが揃っているのに,何故分からないのか。
(一生に一度、答えを知れる権利があるなら、今すぐ使うでしょう……)
そんな都合の良いものはなく。
手元にあるのは、思考と、想像力と、勘と
(ーーーあれ?)
記憶。
考え込んで、顰めっ面になっていたクァイリは、真顔に戻る。
(前に、聞いたことありますね…)
一生に一度。
聞いたことがあるのか,言ったことがあるのか。
とりあえず、記憶のどこかに似たような”言葉”がある。
それが一体何なのかは、同じように分からないけど。
(ただ…、最近ですよね)
違いは、重い出せそうという希望があるくらい。
現実逃避ぎみに、そのことを思い出そうとし始めるクァイリ。
いつの間にか丘を下りきり、雑木林を抜けていた。
夕日が落ち、光が消えたとき、じんわりと記憶が形をなした。
───人に一度しか会わないと言うことですか?
それは、いつか、クァイリ自身が言った言葉。
一体,いつ誰に言ったのかは、すぐに思い出せた。
旅立ちの前、アンダス先生と、とある話をしていた時。
───何かを知り、そして何もできないと思ったとき、この人を訪ねなさい
そう言われ、封筒を受け取った。
別れ際、アンダス先生が忘れるなと念を押した、あの封筒。
宛先のない、名前も知らない相手に対する、紹介状。
手がかりは一つも……
(いえ……、確か聞いていました)
再会する事を極端に嫌う女史、と。
たった、それだけしかない手がかりとも言えない情報。
聞いた時は反応ができるほど理解も想像もできなかった。
ただ、今は、どこか心当たりがあった。
理由も確信もないけれど、もしかすると、という予感めいた何かが。
(王定典範に背く薬水の処方を指示した…女史)
薬水の扱いやテイムへの知識から、研究者かもしれないとは思っていた。
アンダス先生の口ぶりから、相当博識な研究者と思われる。
村の人々の尊敬の度合いから、何かしら大きな成果を各地に遺している。
一ヶ所の村に留まることはなく,再び同じ村を訪れることもなく、放浪している様子。
特徴は、一致している。
(‥…あては他にはない)
暗く、藍色に染まる空。
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次の村で、アンダス先生へ手紙を出すことを決め、歩を早めた。
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