メタルヒーロー、異世界を征く!

ネコヅキ

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三 メタルヒーロー、討伐クエストをする。

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 深森の町マーテル南部。下草が鬱蒼と生い茂る西部とは打って変わり、こちらは巨木の根元に沼が点在している。その沼の中に魔物が潜み、近くを通る者に襲いかかる。油断していると頭からパックンチョされるって寸法だ。今のゴーギャンのように。

『な、何?! 一体何が起こったの!?』

 沼を覗き込んだ瞬間、沼の中から突如として現れ出でた何かに襲われて視界が真っ黒に染まり、慌てふためく魔魅。その間にも全身を何かが締め付けてずるりずるりと真っ逆さまに落ちていく。

『ら、ライトオン』
『サーチライト・オンライン』

 AIによる復唱の後ヘルメット外装部のラインが光り輝く。人工の光によって浮かび上がったのは朱色の肉壁に走る幾つもの赤い線。自身がどうなっていたのか知ったのは少し広い部屋に落とされてからだった。

『まさか飲み込まれていたとはね……』

 辺りを見渡し呟く。今居る場所はおそらく胃の中なのだろうと推測をする。中は溶液で満たされていて、宇宙空間でも活動出来るこのスペーススーツでなければ溺れ死んで吸収されていた事だろう。

『フィストオン』
『フィストオン・ウエポンスキルレディ』

 腰だめに構えた拳にナックルが装備されてその拳に地殻エネルギーが収束されていく。

『メテオインパクト・ミニマムアタック!』
『フルスラスター』

 AIの復唱と共に背中のスラスターが吠えた。ゴブリン爆散の教訓から技の威力を最小限に絞って繰り出した魔魅。けれどメテオインパクトは本来、必殺級の威力がありそれを絞った所で必殺級である事には変わりなく、柔らかな体内ではそれを受け止めきれずに諸々を突き破り外へと飛び出して宙を舞う。

 自らの意思で宙を舞ったのならともかく不意に投げ出されては咄嗟な姿勢制御は非常に困難を極める。その上、ワイヤー無しで空を飛ぶのは初めての彼女がまともな制御が出来るはずもなく『ひああっ』と、錐揉みをしながら悲鳴を上げて別の沼に壮絶な水柱を上げた。

 ザバリと沼から這い上がるも錐揉みの所為で方向感覚を失っている魔魅は泥の中に突っ伏した。

「お、おい! 大丈夫か!?」
『な、なんとか……』

 駆け寄って声を掛けるナミルに頭を振りながら応える魔魅。周囲に泥が飛び散る。

「まさか、今のが秘策ってやつなのか?」

 もしそうだとしたら、なんと馬鹿げた秘策なのだろう。本来は家畜などの動物を使い狩るモンスターであるのに、自身が飲み込まれて内側から討伐するなんてクレイジーの一言だ。魔魅から発せられた『違う』の一言がなければ今後は付き合い方を考え直す所だった。

『あれは、まあ。タダの事故よ』

 まさかたまたま覗いた沼の中にマッドイーターが潜んでいたとは思いもよらなかった魔魅。それを誤魔化すかの様に両肩の装甲が開いて中から棒状の何かがせり出てくる。それを両腕をクロスさせて引き抜いた。

『本当はね。これを使おうと思っていたのよ』
『ショルダーアームズ・オンライン』

 AIの音声と共に棒状であったソレが伸びて一回転すると円筒の輪っかが完成する。この輪っかの名称は『ライトニング・ソーサー』といい、円筒の中に仕込まれている物質が高速で回転する事で摩擦を生み出して静電気を作り出す仕組み。武器に蓄積された静電気はいかずちとなって敵の頭上から降り注ぐのだ。

 威力が高くても範囲が狭いメテオインパクトよりも広範囲に効果を及ぼすライトニングソーサーだが、敵を痺れさせて行動不能に陥れる事を目的としている為に威力は低い。しかし水の中に潜んでいる敵にはその効果はバツグンだ。

「なるほどなぁ。それで痺れさせようって訳か」
『そういう事』

 魔魅はヘルメットの耳の部分に手を当ててバイザーの一機能であるセンサーを起動させる。赤外線センサーでは水面下の状況は確認が出来ず、次いで放った超音波ソナーで沼の底に潜んでいる何かを捉えた。

『居たわ。あそことあそこね』
「え。ホントかよ……」

 魔魅は無造作にソーサーを放り投げるとソーサーはその場にフワリと浮き、魔魅が指示した場所で滞空する。一見フワリフワリとただ浮いているだけに見えるソーサー内部では、静電気を発生させる粒子が高速回転を繰り返して電力を蓄えていく。そしてそれが臨界に達すると轟音を伴って水面に雷が放たれた。

 耳をつんざく様な音と思わず目を閉じてしまう程の閃光から数秒後。水面にプカリと白くてのっぺらとした何かが浮かび上がって来た。それをナミルはまじまじと見つめた後に頷く。

「間違いねぇ。こいつはマッドイーターだ。本当に居やがったよ……」

 当てずっぽうでやった訳ではない。居るのが分かった上で攻撃した。一体どうやってやったのだろう。そんな考えも鼻腔をくすぐる香りに吹っ飛んだ。

「何だ? この匂いは……?」

 スンスンと匂いの発生源を辿ると、いつの間にか水揚げされていたマッドイーターからのものである事が判明し、ゴクリと喉を鳴らして歩み寄る。

「もしかして食えんのか?」

 焦げた切断面に触れながら溢れる唾を嚥下する。『ちょっと一口』。そう思うと同時に再び轟音が鳴り響いた。

「うおっ!? びっくりしたぁ。心臓に悪いなあの武器は……」

 水面に浮いたマッドイーターの腹に向け、魔魅は右腕を真っ直ぐに向ける。すると手の甲の先端から何かが飛び出してマッドイーターに絡み付いた。

 それはワイヤーアンカーといい、ぶら下がりや手繰り寄せなどに使用されるゴーギャンの武装の一つである。ワイヤー一本で大型重機などを手繰り寄せるだけの強度がある為、大人六人がかりで水揚げするマッドイーターの巨体も楽に水揚げが出来る。

『ナミル。私がどんどん狩っていくから、ナミルは討伐証明部位を切り取って』
「お、おう。分かった!」

 魔魅の手から伸びる光の棒。コアブレードで頭と胴を切り離し、次の沼へと魔魅は向かう。ナミルは陸に揚げられ二つに分たれたマッドイーターの顎髭を切り取っていく。陽が暮れる頃にはこの二人によって街道周辺のマッドイーターは狩り尽くされていたのだった。


 ☆ ☆ ☆


 冒険者ギルドのマーテル支部。その受付カウンターにうずたかく積み上げられた麻袋に、その場に居合わせた冒険者だけでなく受付嬢のアリサも顔を引き攣らせていた。

「あ、あの。これは……?」
「マッドイーターの討伐証明部位。顎髭だよ」
「え。これ全部ですか?!」
『確か、二十五体分くらいはあったはずだ』
「えええ……」

 アリサは麻袋の一つを開き中を確かめる。言われた通り、中には円筒の蔓の様な物が五本入っている。それが五袋という事は計二十五体分だ。

「しょ、少々お待ち下さいっ!」

 アリサは慌てて席を外し、バックヤードにある部屋の一つをノックする。そして返事も待たずにドアを開いて室内へと踊り込む。

「な……。どうしたんだ突然、ビックリするじゃないか」

 執務机に座る男が慌てながらも冷静を装い、机の上に置いてあったお菓子をそーっと引き出しの中に仕舞い込んだ。

「た、大変ですマスター!」

 アリサは机に近付き、手を付いて前のめりになる。そして手元に転がってきたお菓子の一つをつまみ上げて口の中に放り込んだ。

「それ、私のおやつなんだが……」
「ひょれどころひゃありまひぇん! あ、これおいし」

 マーテル特産の酒粕を使ったお菓子を咀嚼しながら帰りに買っていこうとアリサは思っていた。

「そ、それでアリサ君。何が大変なのかな?」
「え。ああ、そうでした」

 二つ目をつまもうとした手を止めて、アリサは再び机を叩く。

「マッドイーターが討伐されました」
「な、何だとっ!?」
「今、カウンターに討伐証明部位が持ち込まれています。マスター直々にご確認をお願いしたく参りました」

 真っ直ぐにマスターを見つめながらアリサの左手がそーっと菓子へと伸び、マスターはその手を叩いて阻止する。

「いや、それなら通常の確認作業で良くはないか?」
「そうなんですけど、討伐したのが今日登録したばかりの冒険者でして」
「なるほど分かった。では、先に戻って待つ様に伝えてくれ」
「え? マスターがこのギルドの長なのですからお先に行くべきでは?」
「良いから行く!」
「はぁい」

 ちぇー。と小言を言いながら退室するアリサ。ギルドマスターは机に残ったお菓子を引き出しに仕舞い込み、鍵をかけて部屋を後にした。


 ☆ ☆ ☆


 マッドイーターの討伐証明部位が積まれたカウンター前では、依頼を終えて戻って来た冒険者達でちょっとした騒ぎになっていた。長らく放置されてきた魔物を討伐したのはどこの富豪か御曹司かと皆気になっていた。

 そこへ、冒険者ギルド長が登場するとそのざわめきが益々大きくなる。居合わせた冒険者達も今回の一件がこのマーテルにとって非常に重要な出来事であると誰しもが思っていた。

「えっと――」

 ギルド長が口を開くとざわめきがピタリと止み、妙な静けさが訪れる。

「これはナミル君がやったのか?」

 袋に指を差してナミルに問うマスター。ナミルは首を横に振る。

「いや、それを討伐したのはこのゴーギャンさんだ。オイラは髭を切り取るのを手伝っただけだよ」

 ナミルに集まっていた衆目が今度はゴーギャンへと移る。急に視線を向けられた魔魅は一瞬たじろいだが、視線を注いだ冒険者達が奇異の目に変わる。

「なぁ、これって何の鎧なんだ?」
「さあ? こんな素材の鎧なんて見たことねぇよ。うおっ! なんか光ったゼ?」

 魔魅の背後からそんな囁き声が聞こえてくる。高感度センサーで丸聞こえなのだが魔魅は気にする事なく頷いた。

『そうだ。私が討伐した。ナミルにはその手伝いをしてもらった』
「これだけの数を一体どうやって……。いや、登録したその日のうちにこれだけの事を……。いやいやそうでなくて」

 ブツブツと独り言を言っては首を横に振るギルドマスター。幾度めかの首振りの後、ゴーギャンの目らしき部分を見据えた。

「それよりも、大元のマッドイーターは何処へやった?」
『ああ。それなら放置してきたが、不味かったか?』

 一体だけでも運ぶのに苦労をする巨体。それが二十五もあると流石に放置せざるを得ない。一応、木の根元に置いてきたのでいずれは養分となってこの森の役に立つだろう。

 それを聞いたギルドマスターは「そうか」と頷き、冒険者達に右腕を突き出した。

「ギルドより緊急クエストだ! 冒険者達よ、沼地に置かれているマッドイーターの骸を出来うる限り集めろ!」
『おおおおおっ!』

 ギルド内は数多の冒険者によって、まるでギルドが叫んだかの様に咆哮を上げ、地響きを伴って南へと向かった。その場にはギルド関係者とゴーギャン、ナミルの両名だけが取り残された。

「なあマスター。一体どういう事なんだ?」
「おや? ナミル君はもうとっくに知っていると思ってましたが……」

 そう言って手の平を口に当て耳打ちするギルドマスター。

「薬酒に非常に合うんですよマッドイーターの肉は。この町の隠れた名産品なんです」
「な、なんだってぇっ!?」

 ジュルリ。ナミルの口から涎が溢れそうになって慌てて吸い込んだ。


 深緑の町マーテル特有の早い日暮れ。町のあちこちには明かりが灯され、オレンジ色の炎が暗闇を打ち消している。今日は特に明かりの色が濃く、遠くから見れば町が燃えているかの様な錯覚に陥る。なかでも特に中央広場には明かりが多く設置され、並んだ幾つもの長机の上には数々のマッドイーター料理が並んでいた。

 急拵きゅうごしらえで作られた舞台上にギルドマスターが現れると、騒めきは静寂へと代わった。

「諸君も知っての通り、長きに渡り南方の村との道を閉ざしていた魔物達が今日、討伐された! その偉業を成したのは、たった一人の冒険者だ!」

 ギルドマスターの言葉に静かだった会場が騒めきだつ。知らぬ者は誰かと尋ね、知っている者はこういう奴だと自慢気に話す。

「なんと『彼』は本日登録を済ませたばかりの新人ではあるもののその実力は未知数だと判断した。よって、我々冒険者ギルドはマーテルの長とも話し合い、彼に『鋼』を与える事とした!」

 会場からどよめきが起こる。登録した初日にいきなり『鋼』ランクになるのは非常に稀だからだ。けれど町の為にした事を思えば誰もが納得していた。

「それでは紹介しよう、彼こそがこの町の救世主。ゴーギャンだ!」

 ゴーギャンが舞台へと上がると、その異様な姿から場が一瞬凍り付く。しかし誰かが叫んだゴーギャンコールに一人また一人と続き、広場は熱気に包まれて宴が始まった。

 しかし、お祝いムードで浮かれている町の住民も、危険と隣り合わせの冒険者達も、ゴーギャンコールを真っ先にあげた察知能力に優れた豹猫族のナミルや高感度センサーを内蔵しているゴーギャンでさえも、その様子を屋根の上から眺めている者が居る事など誰一人として気付く者は居なかった。


 ☆ ☆ ☆


 あれから三日。冒険者ギルドの一角に陣取りこの町の名産品である薬酒が入ったジョッキを傾けている三人の男達が居た。身なりは山賊の様にも見えるが、首から下げている『鉄』のプレートは紛う事なき冒険者の証。獣皮をなめした軽装鎧を着込み、腰に差すのは青銅で出来た剣。

 一人の冒険者がギルド内に入ってくるや否や軽快に傾けていたジョッキを止めて、その異形な冒険者に送る視線は露骨に疑いの光が宿っていた。

「来たぞ。奴がそうだ」
「あんな奴がか? あんな全身鎧……なのか? を着込んだ臆病者が二階級特進したってのか?」
「ああ。そうだぜモーガンの旦那。奴は登録初日にマッドイーターを駆除してきたらしい。町の英雄サマなんだとよ」

 彼等の話は高感度センサーが内蔵されているゴーギャンにも聞こえていたが、元々モーガンと呼ばれた冒険者達もコソコソ話をしている訳でもない為に他の者にも丸聞こえであった。

「お帰りなさいゴーギャンさん。あの人達の言う事はお気になさらず」
『あの人達は?』
「他所の街からやって来た冒険者です。話から察するにあなたの噂を聞き付けてやって来たらしいですね」
『そうか』

 短く答えたゴーギャンはギルドカウンターに麻袋を置く。その中にはマッドイーター討伐証明部位である顎髭が四本入っていた。

『今日は四体仕留めた。マッドイーター自体、そろそろ打ち止めになりそうだ』
「そういえば、ナミルさんは今日は?」
『彼女はマッドイーターをバラシヤに持ち込んでいるからそれが終われば来るだろう』
「そうですか」

 アリサの返答が心なしか明るかった。あのもふっとした毛並みをまた拝む事が出来る。そう思うだけでアリサは幸せに満たされていた。

『確認を頼む』
「あ。はいいっ、そうでした」

 ゴーギャンに分からぬ様に垂れ掛けの涎をじゅるりと拭く。その仕草の速度は最早達人級だ。そんなアリサが麻袋を開いて中身を確認し、討伐証明部位が確かにある事をゴーギャンに伝えようと顔を上げたその時、ゴーギャンの肩にソーセージの様な指が付いた手が置かれた。

「よぉ。オマエ」
『なんだ? オレに用があるなら今は忙しいから後にしてくれ』

 男に対して振り向く事なくぶっきらぼうに答える。男にはそれが癇に障ったらしく大きな音を出して舌打ちを一つした。

「オマエよぉ、ズルしたそうじゃねぇか」
『ズル?』
「ああ。登録初日にニランクアップだなんてよ、一体どんな汚ねぇ手を使ったんだ?」

 モーガンが言い放つとその取り巻きがへっへっへ。と、下卑た笑いを披露する。相手を完全に見下した態度の男達に向かって異を唱えたのはアリサだった。

「ちょっとあなた! この方はズルなんかしてませんっ!」
「るせぇ! 姉ちゃんは黙ってな。オレぁ、コイツと話してるんだからよ」

 大声で凄まれ、アリサはビクッと体を震わせる。はぁ。と、ため息を吐いたゴーギャンは麻袋の中の髭を一本取り出して男の目の前に差し出した。

「んだぁ? この汚ねぇ根っこがなんだって言うんだ?」
『コイツはマッドイーターの髭だ。コイツを狩ってこい。そうすればオマエも二階級特進出来るぞ』

 ゴーギャンにとってはランクアップの方法を教えただけであったが、男達から見れば『やれるもんならやってみろ』と言われた風に捉えた。頭に血が上りつつあるモーガンは目の前に吊るされたマッドイーターの髭を叩き落とす。

「巫山戯るのも大概にしろ!」
『何だ。美味い依頼だというのに』

 ゴーギャンは床に落ちたマッドイーターの髭に向かって腕を伸ばすと、手の甲と指の付け根の境目から、『パシュ』という空気音と共に飛び出したワイヤーアンカーが髭に絡み付いて手繰り寄せる。それを空中でキャッチすると、周りの冒険者から『おおっ』と感嘆の声が上がった。

 マッドイーター討伐で美味しい思いをするのは各種センサーが内蔵されたゴーギャンだけだ。この世界の住人では家畜を犠牲にするという正規の手続きを踏まねばならず、その実入りは微々たるものだ。

 血が昇りかけているモーガンはそれを自身への侮辱ととらえた。素材の分からない高価な全身鎧を着込んだゴーギャンと獣皮の皮をなめした軽装鎧を着た自分(それでもそれなりに高価な代物なのだが)。

 その勝手な思い込みで上りかけた血が完全に頭に上ると耳まで真っ赤に染まり顔面を引き攣らせる。青筋が浮き出た禿げ上がった頭はさながら赤いメロンの様。

「決闘だ! 表に出やがれ! このオレさまが化けの皮をひっぺがしてやるっ!」

 ゴーギャンにビシッと指を差し、赤いメロンは踵を返して出口へと向かう。取り巻き達がゴーギャンを顎で出る様にと示すとゴーギャンはため息を吐いた。

「あの、ゴーギャンさん。お手柔らかにお願いしますね」

 彼等はこれでも『鉄』ランクの冒険者だ。この町でのみにあらず、他の街や村でもそれなりに役に立つだろう。それを再起不能にしてしまってはギルドの損失になるかもしれない。この数日で現実化した星殻鎧スタースーツの性能を掴みつつある魔魅は、その性能と彼等を比較して答えを導き出す。

『安心してくれ、全治一ヶ月くらいで済ませるつもりだ』
「……へ?」

 外へ向かうゴーギャンの背中を見送りながら、それは安心出来るのだろうか? と、アリサは顔を引き攣らせながら疑問に思っていた。


 ☆ ☆ ☆


 冒険者ギルドの前の通りには人だかりが出来ていた。その大半はモーガンとのやり取りを見ていた冒険者達で、噂の二階級特進を果たしたゴーギャンの実力を見定めようと集まった者達だ。その他の者達は突然生まれた人だかりに興味を示した者達だ。

 そのひとだかりの中心でゴーギャンはモーガンと対峙していた。

「このオレ様をコケにした事、後悔させてやるぜ!」

 モーガンは抜き身の剣をゴーギャンに向けてから体の真正面で構える。『鉄』のランクだけあってその構えはさまになっている。

「どうしたインチキ野郎。このオレ様の構えを見てビビったか?」

 カッコイイだの洗練されているだの。取り巻き達の世辞が飛ぶが、剣術の免許皆伝間近の魔魅から見れば素人同然の構え。何となくズルをしている様な罪悪感を抱きながらコアブレードと呟いた。

 魔魅の声に反応し、右腕の内側の装甲が開いて長さ十五センチ程の円筒が手の中に滑り込む。それをギュッと握ると生まれた光が八十センチ程度に伸びて静止した。

「そんな棒切れ一つでこのオレ様に勝とうってのか?! 舐めやがって! 喰らえ! 必殺兜割りっ!」

 剣を大上段に構え、間合いを詰めて力任せに振り下ろす。当たれば相手の頭を真っ二つに出来ようがそこは免許皆伝間近の魔魅。腕を最小限に振り動かすだけでモーガンの攻撃を軽く弾き返す。コアブレードの空気を裂く様な音と、白い壁の様な軌跡だけが目に残る。

「このっ! クソッ! 巫山戯んなっ!」

 モーガンの全力攻撃を、ゴーギャンは最小限の動きで次々と弾き返す。野次馬からは驚きの声でもって迎えられ、モーガンの取り巻き達は声すらも出なくなっていた。

 そして集まった野次馬達が額から汗を流し始めた頃、その変化が訪れる。ゴーギャンが弾いたモーガンの武器から水の様なモノが飛び散り、取り巻きの一人に降り注ぐ。

「ん? ……っち! っつ!」

 水滴を浴びた取り巻きが叫びながら身悶え、慌てて上着を脱ぐ。その上着には小さな穴が数か所開き、焦げた匂いが周囲に漂っていた。

「な、なんだ……これは?」
「見ろよ、モーガンの旦那の武器だ!」

 取り巻きの一人が武器を指差す。差したモーガンの武器からは蒸気が立ち上り、周囲の空気が揺らめいていた。

「旦那! 武器が!」
「なっ、オレ様の剣が溶けているだとっ!?」

 あり得ない。野次馬達からも驚きの声が上がる。ゴーギャンの主武器であるコアブレードは惑星のコアエネルギーを収束させた武器だ。見た目はただの棒でもその表面温度は六千度にも達し、単なる青銅の剣など簡単に溶けてしまう。

 ただテレビでは、公式設定通りに機能してしまうと日曜日の朝にグロいモノが良い子のみんなの目に入ってしまう為に斬っても火花が散るだけとなっている。

 勝負はついた。野次馬達の誰もがそう思っていたが当のモーガンだけはその戦意は衰えなかった。

『オレの勝ちだ。大人しく引き下がれ』
「るせぇ! 剣なぞなくても、オマエをぶちのめすにはコイツで十分だ!」

 溶けた剣を投げ捨てて、両の手に拳を作り駆け出すモーガン。何が彼をそこまでさせるのか全く分からないままに、魔魅は繰り出される拳を払いのける。

 そして彼が折れる事をしないと判断した魔魅は、仕方なく無力化する判断をする。しかし、メテオインパクトはゴブリン爆散の例からして生身の体に使う訳にはいかない。肩に内蔵されているライトニングソーサーも関係のない人々を巻き込んでしまう。

 ゴーギャンの武装は大概が大味だ。耐久性の高い相手や大勢を相手に戦うにはもってこいなのだが、少数や周囲に無関係な人々が居るとなると真の実力が発揮できない。悪を挫くヒーローとしては戦い難い武装なのである。

 いかにして相手を無力化するか。ここは魔魅の腕の見せ所だ。彼女の習い事は剣術だけではない。近接格闘術。つまりはCQCも別な師から教えを受けている。モーガンの打撃を軽く受け流せているのもその為だ。

(折角だし、アノ技を使ってみようか)

 それは師から教わった技ではない。たまたま見掛けた魔魅が感銘を受けてコッソリと練習をしていた技だ。

 魔魅はモーガンの攻撃を受け流してから並足を揃え、膝で軽くしゃがんで一歩前へと踏み出して足を絡めてやや下方向に向かって背中で体当たりをする。

『鉄山靠っ!』

 ゲームで得た技が見事に決まった感触を感じた魔魅はマスクの中でニヤリと笑んだ。カウンター気味に体当たりを喰らったモーガンは、白目を剥いて地面に転がる。彼等の戦いを見ていた観客達も突然終わった争いに、一瞬静まり返った。

 次の瞬間、観客からの歓声が爆発の様に起こり、聳える木々に木霊する。観客達はこぞってゴーギャンに讃辞を送り、ゴーギャンはそれに応える事なく立ち尽くす。そこへ事情の知らない一人の男がやって来た。そして騒ぐ群衆に向かって一喝する。

「騒がしいぞ貴様等! オレのギルドの前で一体何を――ん?」
「「「あ」」」

 男と目が合った瞬間、思わず声を漏らした群衆達。彼等はバツが悪そうにそそくさと立ち去り、後にはゴーギャンと白目を剥いたモーガン。そしてその取り巻き達が残された。
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