私のアレに値が付いた!?

ネコヅキ

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迷子の幼女。

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 赤みがかった金色の髪をしたツインテールの子供。ウォルハイマーさんの姿が見えなくなってから辺りをグルリと見渡す。

「子供ねぇ……」

 それらしい人物は見当たらない。というより人すら居ない。

「どうしようか?」
「どうするって、何をなさるおつもりなのですか?」
「いや、ウォルハイマーさんを手伝おうかって思ってて」
「それは彼の仕事ですわよお姉様」
「だけど、事件に巻き込まれたら可哀想じゃない? 最近物騒だし」

 主に巻き込まれているのは私だけど。

「それはそうですが、無闇に関わるべきではありませんわ。それに、お姉様はわたくしとデー……い、依頼の最中ではありませんか」

 まあ確かに、今の私はリリーカさんの依頼でこうしている訳だけど。ところで今完全にデートって言おうとしてたな。

「だったらこういうのはどうかな?」

 私の出した提案は、仲睦まじく散策しながら子供を探す。というものだ。見付けたら衛兵さんに引き渡せば良いだけだし。

「まあ、それでしたら問題はありませんわ」

 リリーカさんも渋々納得してくれた。

「お待たせ致しました」

 テーブルにデザートが運ばれて来る。真っ白な下地に金の模様を描いたお皿の上に乗っていたのは、黄金色のケーキ。

 金の帯が幾つも重なり合い、頂上に向かってソフトクリームの様に螺旋を描く。元の世界で言うところのモンブランケーキだ。

「美味しそう……」

 元の世界でもこの世界でも、甘い物が別腹なのは皆同じ。コース料理を食べたというのに、コレだけは何個でもイケそうな気がしてくる。

 カチャリ。と銀のフォークを掴み取り、いざ投入。しかしその直前に、ダラリと下がったテーブルクロスがモコリと盛り上がった。

「ぷはぁっ!」

 テーブルクロスを捲り上げ、太腿の間に顔を出したのは、ストロベリーブロンドをツインテールに纏めた美幼女。彼女は私と目が合うなりニッコリと微笑む。お、親方っ。テーブルの下から女の子がっ! ってか、いつからソコに居た⁉︎

 テーブルの下からよいしょ、よいしょと這い出して、私の膝の上に腰を落ち着けた美幼女は私の顔を見上げ、そしてとんでもない事を言い出した。

「ねぇねぇお兄ちゃん。コレ食べても良い?」

 指を差して無邪気に笑う美幼女。その指の先には『私の』デザートが鎮座していた。本当はダメ、と言いたい。それは『私の』だと主張したい。だけどこの笑顔には抗えない。

「い、いいよ」
「やったぁっ、いただきまーす」
 
 モリモリモリと無くなってゆく『私の』モンブラン。嗚呼、お楽しみのスイーツがお亡くなりなってゆく……

「どうかしたの? お兄ちゃん」
「え? ううん、何でもない。ホラ、口の周りにクリームが付いてる」

 テーブル上のナプキンを手に取り、美幼女の口を拭う。

「有難うお兄ちゃん」

 こんなキュンキュンきちゃう笑顔が見れたのだから、良しとしますか。と、心の中で号泣しながら自身を納得させていた。

「ねぇ、リリーカさん。この子ってさ……」

 視線をリリーカさんへと向ける。そのリリーカさんは、目玉が飛び出るくらいに瞼をかっ開き、驚愕の表情のままで凍り付いていた。

「あ、あなたは──」

 そう言い掛けて口を噤む。

「リリーカさん、どうかした?」
「い、いえ。何でもありませんわ」

 ふいっと視線を逸らした所を見ると、何でもなくはないらしい。

「この子ってウォルハイマーさんが探していた子じゃない?」
「え? いえ、きっと人違いですわ」

 ンな訳無いだろう。ストロベリーブロンドのツインテールで六歳くらいの子供。全てが合致するじゃないか。

「いやいや、絶対にこの子だって。どうしたの? 何か変だよリリーカさん」
「そ、そんな事はありませんわ。た、多分デザートにアルコールでも入っていたのです。きっとその所為ですわ」
「えっ?!」

 お、お酒!? やばっ、そんなの子供に食べさせちゃった!

「んー?」

 再びクリームを沢山付けて、もっちゃもっちゃと『私の』モンブランを食べ進める美幼女。アレ? 見た所何ともない様な……

「ごちそーさまっ」

 食べ終えた美幼女が小さな手をペチンと合わせた。

「美味しかった?」
「うんっ、とってもっ」

 満面の笑みで答える美幼女。酔っている感じは見られない。

「お嬢ちゃんお名前、言えるかな?」
「エリィはねぇ、エリィって言うの」
「そっかー。ねぇ、エリィちゃんは何処から来たのかな?」
「えっとねぇ、あっちぃ」

 ウォルハイマーさんが去っていった下層方向へと指差すエリィちゃん。どうしてこう、いちいちキュンとくるんだろうか。

「さっきね、エリィちゃんの事を探しに来た人が居たんだけど、そろそろお家に帰らない?」
「いやっ」
「どうして?」
「エリィもっと遊びたいのっ」

 まあ、六歳児っていったら遊びたい盛りなんだろうけど……どうしたもんかな。強引に連れて行くわけにもいかないし、ここは一つ遊び疲れるのを待つしかないか?

「分かった。じゃあ、お兄さんが遊んであげる」
「ほんとっ?!」
「カーン様っ!?」

 今までソッポを向いていたリリーカさんが妙に慌てた様子で私を見つめていた。

「じゃあ、公園に行って遊ぶ?」

 エリィちゃんがふるふると可愛く首を振ると、ツインテールがビシバシと猛威を振るって抗議する。不満だってか。

「エリィ、サーカスが見たい」
「サーカス?」
「下層で行われている演物ですわ。中層の東門から出て、南へ少し下がった所で催していたはずです」

 そういえば、衛兵本部からの帰り道にテントが建っていたのを見たな。あれはサーカスのテントだったのか。

「じゃあ、それを見に行くって事で良いかな?」
「さんせーい」
「いえ、それは……」
「お願い、お姉ちゃん」
「ハァ……分かりましたわ」

 初めは難色を示していたリリーカさんも、エリィちゃんのキュンキュンくるお願いポーズに抵抗出来なかったのだろう。渋々。といった風で折れた。

「けれど、それを見ましたらお帰りになって下さいまし。宜しいですか?」
「エリィ、わかったっ」

 手を上げて元気良く返事をするエリィちゃん。こうして私とリリーカさんは、美幼女のエリィちゃんを連れて下層へと赴く事になった。



 中層の門を抜けた途端、人の数が桁違いに増える。豊穣祭も残り僅かでも、噂を聞き付けた商人や吟遊詩人。冒険者の人達によって益々人が増え、最終日に向かって大盛り上がりになるのだそうだ。

「ひとがいっぱぁい」

 目をキラキラと輝かせ、忙しなく首を動かすエリィちゃん。一瞬だけその動きが止まるのだが、その先に食べ物屋さんが在るのは気の所為か。

「迷子にならないように手を繋ごうね」
「うんっ」

 手を差し出すとスグにふにゅり。とした柔らかい手が掴み取る。その手はカイロの様にホコホコと暖かく、若干湿り気を帯びている。子供って体温が高いと聞くけれど本当なんだね。

「お姉ちゃんも」

 んっ。と差し出した湿り気を帯びた手を、ハァ。とため息を吐いて掴むリリーカさん。この子が現れてからどうも不機嫌な様子だ。

「なんか、こうしていると夫婦みたいだね」

 私とリリーカさんの間に手を繋いだ美幼女が居る。アットホームな親子の図。あるいは宇宙人を捕まえた黒服か。

「そうですわね」

 不機嫌な空気をどうにか出来ないか。と、出した言葉に、リリーカさんはぶっきらぼうに応える。以前ならデレて喜ぶのに一体どうしたというのか。

「ふーふ? お兄ちゃん達ふーふなの?」
「ううん、まだ違うよ。だけど、将来ふーふになる予定なんだ。ね、リリーカ」
「カーン様、わたくしは矢張りエリィさんをお帰しになられた方が宜しいと存じますわ」
「えーっ、エリィ嫌ぁ。サーカス見るぅ」

 ほっぺをぷっくりと膨らませ、そっぽ向くエリィちゃん。ああ、抱き締めたい。でも、我慢我慢。

「ここまで来ておいて帰るだなんて可哀想でしょ」
「そうは仰いますが結構目立っておいでですのよ?」

 そりゃまあ、美人が男装すれば美男子になるし、リリーカさんだってかなり可愛い。そして美幼女がその間に挟まっているのだから目立たない筈がない。

「別に多少目立っても問題なくない?」
「そういう訳にはいきませんわ。正体を知っているぅっ!」

 突然声のトーンを上げてその場に蹲るリリーカさん。しょうたい? 誰かに招かれでもしているのか?

「ど、どうしたの?」
「な、何でもありませんわ」

 足を抑えてプルプル震えている所を見ると何処かにぶつけたのだろうか? あれでも、ぶつける様な障害物なんて無いけど……

「エリィちゃん何か知ってる?」
「んーん。エリィ知らなぁい。お姉ちゃん大丈夫ぅ?」

 蹲るリリーカさんにエリィちゃんも屈んで顔を覗き込む。直後、リリーカさんが立ち上がった。

「だっ、大丈夫ですわ。これくらい何でもありません。さぁっ、早く参りましょうっ」

 先程とは打って変わって乗り気のリリーカさん。本当に今日はおかしい。コロコロと態度が変わり、女心と秋の空をその身で体現している。その天候の急変っぷりは、同じ女の私でも理解に苦しむ。

「ん?」

 クィクィッとズボンが引っ張られる。引っ張ったのはエリィちゃんだ。

「お兄ちゃん、いこっ」

 エリィちゃんが微笑みながら差し出した手を掴み、心の内にモヤモヤとしたモノを抱えたままサーカスへと向かった。
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