私のアレに値が付いた!?

ネコヅキ

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秘密の露見。

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 ソレは視界の端で見付けたナニカ。キラリキラリと街灯の明かりを反射させながら、暗がりから私達に向かって近付いて来る。

 リリーカさんを前へと押し出したのは、無条件反射。それも、神がかったものだった。何しろ、ソレが何なのか私も認識出来てはいなかったからだ。

 次に訪れたのは、肉が裂かれてソレが腕の中に入り込む感覚。続いてそこから噴き出た液体が齎らす喪失感。痛みは最後にやって来た。

「くうっ!」
「お姉様っ!?」

 不意に押され、たたらを踏んだリリーカさんが驚く。目標をとり逃したと気付いた犯人は、刺し貫いたモノを乱暴に引き抜き、その所為で激痛が頭を突き抜ける。

「光の精霊リュミエール、契約に基づき我の元に来たれっ!」

 振り翳した杖から現れた精霊が光を齎す。精霊は闇を払い、石畳とソコに広がる赤い液体をクッキリと浮かび上がらせる。そして、襲撃者の顔も光の下に曝け出した。

「ヨルヴッ!?」

 閑静な住宅地にリリーカさんの声が響いた。


 ウィリデ王国冠十二位ナンバーズの第九位、メアン=サヒタリオ=フォワールの息子。ヨルヴ。
 風が吹いたら飛んでいきそうな、もやしの様に痩せ細った体つき。茶色の頭髪で、マッシュルームカットを超えたキノコ傘ヘアの所為でどこからどう見てもシメジにしか見えない。

 その彼が、赤い液体が滴り落ちるナイフの切っ先をこちらに向けて荒い息を繰り返している。その目は憎悪に満ちていた。

「一体どういうおつもりですかっ!?」

 リリーカさんの威圧を伴った一喝に、ビクッと反応を示したヨルヴ。

「どどういう? きき決まっているじゃないか、パパの仇だっ!」
「仇……? 一体何の話ですの?」
「ししらばっくれるなっ! パパに毒を盛ったのはお前だろうがっ!」
「なんですって?!」
「ぱ、パパが言っていたんだ。毒を盛ったのは絶対にリブラだとねっ!」

 また突拍子もない事を言い出したとも思えたが、目が血走り荒い息を繰り返しているヨルヴの様子から、毒を盛られたというのは本当なのだろう。色々とツッコミどころが満載ではある。

「お姉様、もう少し我慢出来ますか?」
「あ、うん。全然大丈夫だよ」

 とはいえ、地面に広がる赤いシミは重傷といえるべき量になる。地面に視線を落としたリリーカさんの顔が険しくなった。

「すぐにヨルヴを引っ捕らえ、早急に治療院へお連れ致します」

 ポケットから取り出したハンカチで傷口を縛り、ヨルヴに向かって杖を構えるリリーカさん。その頃には脳天まで響いていた痛みが少しづつ引いていた。

「なな何をするつもりだこの罪人がっ!」

 ナイフの切っ先をブルブルと振るわせながら、ヨルヴは一歩また一歩と後退をする。

「一般市民に危害を加えた以上、罪人として扱われるのはアナタでしてよ」
「うう五月蝿いっ! 下等な平民なぞいくら傷つけようが構わないではないか!」

 吠えるヨルヴにリリーカさんはため息を吐いた。

「では、わたくしへの暗殺行為は犯罪では無いとでも?」
「ううう……五月蝿い、五月蝿いっ、うるさぁぁいっ!」

 脳味噌がアドレナリンに漬かりすぎたのか、ナイフを振り翳して突進を始めるヨルヴ。対してリリーカさんは涼やかだった。

「リュミエール、閃光フラッシュッ」

 精霊からの閃光がヨルヴを包み込む。その光が薄れると、地面を転がるヨルヴが居た。

「めっ、目がぁぁっ! 目がぁぁっ!」

 何処かで聞いた様な台詞を吐きながらヨルヴは転がり回る。もう戦う意志は無いとも見えるが、それでもリリーカさんは止まらない。

「木の精霊ドリアルド。契約に基づき我の元へ来たれ!」

 光の精霊に続き、木の精霊を呼び出したリリーカさん。呼び出された木の精霊は、先に召喚されていた光の精霊と並んだ。冷静に見えていたリリーカさんだが、どうやら相当怒っていらっしゃる。

「ドリアルド、彼の者を捕らえなさい」

 ギチッ。と、声とも軋みともいえる音を発すると、その身から無数のツタがヨルヴへと伸び、あっという間にミノムシ状態になった。

「クソッ! 離せこの魔女め!」

 どうにかして抜け出そうと身体をくねらせるヨルヴ。巻き付いたツタはただのツタでは無い様で、いくら足掻いてもビクともしない。

「無駄ですわ。あなた如きではそれは解けません」
「クッ、クッ……クソォォッ!」

 必死に抵抗を試みていたヨルヴは無駄だと悟ったようで、ようやく大人しくなった。
 リリーカさんも大丈夫だと判断したのだろう。啜り泣くヨルヴに背を向けて私のそばにしゃがみ込む。

「立てますかお姉様?」

 私の腕を取って肩に回そうとしたリリーカさんから強引に腕を引き抜く。

「だっ、大丈夫だからっ……あ」

 迂闊だった。大丈夫と示したジェスチャー。つい、怪我をしていた腕をも使っておこなってしまっていた。慌てて傷口を抑えてももう遅かった。

「お姉様、お怪我は……?」

 当然の疑問が投げられる。私はそれに答えられなかった。

「お姉様……?」
「……ゴメン」

 それだけを言い残し、私は逃げ出した。

 知られた。バレた。頭にはそれだけが浮かんで消えた。途中、誰かに呼び止められた気がしたが、振り返る事なく真っ直ぐに走り続けた。

 ☆ ☆ ☆

 ──ソコは石材で囲まれた部屋だった。カートフォル男爵家で見た地下室に似てはいるが、空だったあちらと違いここには様々な物が置かれていた。

 木製の机に椅子。十字架を象った柱。そして、何処からどう見ても拷問器具にしか見えない道具群。

「ここって……」
『ここは拷問室ですわ』 

 部屋の隅の暗がりから、一人の少女が姿を現した。やや茶色がかった長い髪、漆黒で露出度多めのゴシックロリィタを身に纏い、日焼けの跡すらない白い肌を際立たせている。少女は、私がよく知る人物だった。

「り、リリーカさんっ?!」
『ここはお姉様が最終的に来る場所ですの』
「なんで私がこんな所に来ないといけないの!?」
『決まっているではありませんか……』
「つっ!」

 突然、腕を襲った鋭い痛み。赤い筋が出来てそこから赤い液体が滲み出る。消えゆく傷口をリリーカさんは指差した。

『朽ちず、果てず、永遠に富を生み出す無限機構。欲深い者達にとってお姉様はまさに金の成る木……』
「だから、そうならない様に必死で隠してきたの! 私だって金のタマゴを産み出すガチョウになんてなりたくは無いわ!」

 あの話の結末はよく覚えている。ガチョウは欲を出した飼い主に腹を裂かれて死んでしまうのだ。しかし不老不死である私は、死んで楽になる事すら出来ない。

『ご安心下さいお姉様。もし、お姉様が囚われの身になってここに繋がれた時、お姉様をお助けする救世主が必ず現れます。その事を覚えておいて下さいまし』
「救世主?」
『ええ、とっても頼りになるお方ですわ。お姉様もきっと恋に堕ちてしまう事受け合いです』

 恋などしたら私の特異能力がバレてしまう。でもまてよ。ちょっとの間だけなら一緒に居ても問題は……

「いやいやいやっ!」

 もたげかかった私の中の女を払拭する。一定期間付き合った後に別れるとしても、納得してくれれば問題は無い。でも、もしも諦めなかったら? 取っ替え引っ替えした先には修羅場が待っているのは確実。危険物を普通に持ち歩いているこの世界でそんな事をしたら……どちらにしても良い未来は訪れなさそうだった。

『どうやら時間のようですわね』
「え?」

 ゆっくりと、しかし確実に、リリーカさんの身体が闇に同化していく。

「ちょ、待ってリリーカさんっ! 救世主って誰なの!? 私が知っているヒトなの?!」
『それではお姉様、またこの場所で』

 それだけを言い残し、リリーカさんは闇の中に消えていった。

 ☆ ☆ ☆

 ──朝。あんな事があった後では目覚めが良い訳もなく、気だるさを感じながら白磁の器に腰掛けた。
 目を閉じて集中する。昨日までの老廃物をまとめて出すイメージを作り上げて力を注ぐ。

「……あれ?」

 出てきたのは、匂いを伴った風魔法だけに思わず拍子が抜ける。早々に瞑想を切り上げて買い置きしていた薬を飲もうと準備を始めた。
 ヤカンに水を入れてコンロに置き、迫り出した球体に手を触れる。ジェットコースターに乗った時に感じる、スーッと血の気が引く様な感覚の後、コンロに炎が宿った。

「あんな事があった後じゃ、出るもんも出ないか……」

 コンロから立ち昇る炎と、シュンシュン。と音を出し始めたヤカンを見つめながら、昨日の事に頭を抱えた。

「少なくともリリーカさんにはバレていると思っていいわね……」

 治療院で施術して貰うほどの重傷が、数分後には完治しているなんてあり得ない。あの女の様に恐怖に満ちた顔で、バケモノと言うのかもしれない。

「もう限界なのかな……」

 これ以上この街に留まっていてもどんどん能力がバレていく。今はまだ、悪意を持つ人にはバレていないのが幸いだがいずれ知れ渡ってしまうだろう。そうなれば、夢でリリーカさんが言っていた場所に幽閉されて二度と日の目を見る事は出来なくなるに違いない。
 幸い他の街への交通の便は良い。大河を渡った街に北の山向こうの街。東に行けば港町があり、南に行けば学術都市なんてものもあるそうだ。

「一応案として考えておこう」

 煎じた薬をグイッと飲み干して、朝食とも昼食ともつかない食事をしに出掛けた。
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