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2.202号室 住人 宮間礼子
16.
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というわけで女子会だ。高校時代の同級生、京子と早紀は偶然にも県内の同じ大学に進学し、卒業後は県内でそれぞれ別の会社でOLをしている。
そしてこれまたたまたま就職先が3人とも比較的近かったので住処も近く。なかなかの腐れ縁だ。
京子は会社で経理の仕事をしていて、腰までの超ストレートロングの髪が目を惹く。今時ここまで髪の長い子珍しい……あ、今日見たな。例のあの子。あれはどうにかしたい。いつきに聞けば誰だかわかるだろうか。
まぁ、それはともかく。仕事中はキッチリ後ろで一つに束ね、黒縁眼鏡で武装してるらしい。1度武装姿を見せてもらって早紀と大笑いした。チャームポイントの目元がキレイに隠され、「女史ですか!?」といいたくなるような風格だったのだ。
「仕事で何かと無茶ぶりしてくる奴らも多いからね。普段隙なくつくりあげといて『ここぞ!』ってときに甘く笑えば男は大抵大人しくなる」
と、サラリと言ってのけたのでまたしても早紀と大笑いした。自分の美しさを熟知して最大限に利用するなんてなかなかできることじゃない。しかもさっぱり竹割性格なので女性からもウケがいいのだからたいしたものだ。
早紀は会社で受付嬢をやっている。前髪なしのミディアムボブ、毛先のゆるめのパーマが上品。所作がキレイで親しみやすく見た目も可愛いので、昔からストーカーを生産するんじゃないかとヒヤヒヤしている。会社側としては適材適所なんだろうが、友人としては「そんな目立つとこに配置すんなっ」って思ってしまった。
「受付なんて最悪ー。人の顔覚えるの一番苦手なのに」
元々フットワークの軽い彼女にとって、受付の座りっぱなしの業務はこたえたようで、会社になれた頃にはヨガ教室に通いを始めていた。今ではそのうちインストラクターにでもなるんじゃないかと思うくらいの勢いだ。
今日はイタリアンがいいと、誰かが言い出したためにみっちゃんが働く馴染みのトラットリアへやってきた。ここのカプレーゼ、トマトが最高に美味しいので来たら必ず注文する。パスタはボロネーゼとイカスミ、ピザはマルゲリータ。ここのは薪釜使用のナポリ風で生地が柔らかくて美味しく食べ応えがある。海老とブロッコリーのアヒージョ、アクアパッツァ、スパークリングの辛口白ワインをオーダーし終わると早紀の左手薬指に視線が集まった。
その指にはキラッキラに光輝くダイヤモンドが鎮座しているのだ。気になって気になって仕方がない。
「「で、それは?」」
見事に礼子と京子の声がきれいにハモった。
「ご覧の通り。売約済みになりましたー」
手の甲をこちらに見せて、えへへと早紀は笑う。
入社して間もなく同じ会社の4歳年上の先輩と付き合いだして約3年。めでたくゴールインだ。祭りだ、今日は祭りだ!
京子と一緒に変なテンションで盛り上がるのを早紀がなだめる、いつものパターン。いや、本当にめでたい。
「結婚式はどうするの?」
「えっとね、11月に。礼子ちゃん、ヘアメイクお願いできる?」
「もちろん!まかせなさい。世界一キレイな花嫁にしてあげる」
祝い事のヘアメイクは本当に幸せだ。それが友人なら尚更。って思ってたら早紀がニヤリと悪い笑みを浮かべた。
「ありがとう!『街の気になる美容師さん』にやってもらえるなんて最高」
げ?あれ見られた??
「ああ、載ってたねぇ。早紀に教えてもらって雑誌買ったよ。なんで教えてくれないかなぁ」
「ア、アタシは人をキレイにしてナンボの黒子なの!表に出てどうするっ。っていうか出たくてでたんじゃない。つまりは、アタシの中ではなかったことになってんのよっ」
「あれだけデカデカと取り上げられといてバレないって思う方がおかしいから。仕事中の礼ちゃんの写真、かっこよくってさぁ。速攻京ちゃんにお知らせよ。あれ見たら指名したくなるって」
「そうそう。仕事に対するストイックさが女ゴコロをくすぐるよね?礼子、あれでお客増えたんじゃないの?」
京子の指摘はまさにその通りで。雑誌発売と共に新規のお客様の指名が増えたのも確か。
あの話が店長からあったときはもちろん断った。自分は黒子に徹したいしそもそもメディアに露出なんてまっぴらだ。なのに店長が一言。
『お客様の推薦を無駄にするの?そんなことしないわよね?ついでに顧客獲得に尽力なさいな』
本当にいい店長なんだけど、あのときばかりは鬼に見えたわよ。
写真を撮られるのも嫌だった。カメラ目線で笑顔なんて無理って言ってたら、カメラマンが仕事風景をそういや撮ってたな。何がどうなったのか、見るのが怖くて原稿確認が入ってたけど店長に丸投げしてしまった。つまり、完成品を見ていない。従って反論も言い訳も何もできないのである。
「……で?新婚旅行はどこへ行くのかしら?」
思いっきり話を逸らしてみたら案の定ふたりは絶句した。
「……よくそれだけあからさまに話をかえられるよね?」
「早紀、アンタがダーリンとのあれこれを聞かれたくなくて話を逸らしてるのはわかってんのよ」
ニヤリと笑い返してやった。
「あ、そうだ!早紀の話途中だった!で?プロポーズの言葉は??」
ギャーギャー騒ぎながらその夜も更ける。ああ、個室で良かった。騒がしい客でゴメンナサイだわ。
そしてこれまたたまたま就職先が3人とも比較的近かったので住処も近く。なかなかの腐れ縁だ。
京子は会社で経理の仕事をしていて、腰までの超ストレートロングの髪が目を惹く。今時ここまで髪の長い子珍しい……あ、今日見たな。例のあの子。あれはどうにかしたい。いつきに聞けば誰だかわかるだろうか。
まぁ、それはともかく。仕事中はキッチリ後ろで一つに束ね、黒縁眼鏡で武装してるらしい。1度武装姿を見せてもらって早紀と大笑いした。チャームポイントの目元がキレイに隠され、「女史ですか!?」といいたくなるような風格だったのだ。
「仕事で何かと無茶ぶりしてくる奴らも多いからね。普段隙なくつくりあげといて『ここぞ!』ってときに甘く笑えば男は大抵大人しくなる」
と、サラリと言ってのけたのでまたしても早紀と大笑いした。自分の美しさを熟知して最大限に利用するなんてなかなかできることじゃない。しかもさっぱり竹割性格なので女性からもウケがいいのだからたいしたものだ。
早紀は会社で受付嬢をやっている。前髪なしのミディアムボブ、毛先のゆるめのパーマが上品。所作がキレイで親しみやすく見た目も可愛いので、昔からストーカーを生産するんじゃないかとヒヤヒヤしている。会社側としては適材適所なんだろうが、友人としては「そんな目立つとこに配置すんなっ」って思ってしまった。
「受付なんて最悪ー。人の顔覚えるの一番苦手なのに」
元々フットワークの軽い彼女にとって、受付の座りっぱなしの業務はこたえたようで、会社になれた頃にはヨガ教室に通いを始めていた。今ではそのうちインストラクターにでもなるんじゃないかと思うくらいの勢いだ。
今日はイタリアンがいいと、誰かが言い出したためにみっちゃんが働く馴染みのトラットリアへやってきた。ここのカプレーゼ、トマトが最高に美味しいので来たら必ず注文する。パスタはボロネーゼとイカスミ、ピザはマルゲリータ。ここのは薪釜使用のナポリ風で生地が柔らかくて美味しく食べ応えがある。海老とブロッコリーのアヒージョ、アクアパッツァ、スパークリングの辛口白ワインをオーダーし終わると早紀の左手薬指に視線が集まった。
その指にはキラッキラに光輝くダイヤモンドが鎮座しているのだ。気になって気になって仕方がない。
「「で、それは?」」
見事に礼子と京子の声がきれいにハモった。
「ご覧の通り。売約済みになりましたー」
手の甲をこちらに見せて、えへへと早紀は笑う。
入社して間もなく同じ会社の4歳年上の先輩と付き合いだして約3年。めでたくゴールインだ。祭りだ、今日は祭りだ!
京子と一緒に変なテンションで盛り上がるのを早紀がなだめる、いつものパターン。いや、本当にめでたい。
「結婚式はどうするの?」
「えっとね、11月に。礼子ちゃん、ヘアメイクお願いできる?」
「もちろん!まかせなさい。世界一キレイな花嫁にしてあげる」
祝い事のヘアメイクは本当に幸せだ。それが友人なら尚更。って思ってたら早紀がニヤリと悪い笑みを浮かべた。
「ありがとう!『街の気になる美容師さん』にやってもらえるなんて最高」
げ?あれ見られた??
「ああ、載ってたねぇ。早紀に教えてもらって雑誌買ったよ。なんで教えてくれないかなぁ」
「ア、アタシは人をキレイにしてナンボの黒子なの!表に出てどうするっ。っていうか出たくてでたんじゃない。つまりは、アタシの中ではなかったことになってんのよっ」
「あれだけデカデカと取り上げられといてバレないって思う方がおかしいから。仕事中の礼ちゃんの写真、かっこよくってさぁ。速攻京ちゃんにお知らせよ。あれ見たら指名したくなるって」
「そうそう。仕事に対するストイックさが女ゴコロをくすぐるよね?礼子、あれでお客増えたんじゃないの?」
京子の指摘はまさにその通りで。雑誌発売と共に新規のお客様の指名が増えたのも確か。
あの話が店長からあったときはもちろん断った。自分は黒子に徹したいしそもそもメディアに露出なんてまっぴらだ。なのに店長が一言。
『お客様の推薦を無駄にするの?そんなことしないわよね?ついでに顧客獲得に尽力なさいな』
本当にいい店長なんだけど、あのときばかりは鬼に見えたわよ。
写真を撮られるのも嫌だった。カメラ目線で笑顔なんて無理って言ってたら、カメラマンが仕事風景をそういや撮ってたな。何がどうなったのか、見るのが怖くて原稿確認が入ってたけど店長に丸投げしてしまった。つまり、完成品を見ていない。従って反論も言い訳も何もできないのである。
「……で?新婚旅行はどこへ行くのかしら?」
思いっきり話を逸らしてみたら案の定ふたりは絶句した。
「……よくそれだけあからさまに話をかえられるよね?」
「早紀、アンタがダーリンとのあれこれを聞かれたくなくて話を逸らしてるのはわかってんのよ」
ニヤリと笑い返してやった。
「あ、そうだ!早紀の話途中だった!で?プロポーズの言葉は??」
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