しゃんけ荘の人々

乙原ゆう

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2.202号室 住人 宮間礼子

21.

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「本当にばっさりいっちゃっていいの?」

 おどおどしながら来店した鈴音ちゃんは、緊張気味に鏡の前に座っている。表情が硬いのは長い髪にハサミを入れるのが嫌なのか、美容院が嫌なのか、人見知りなのだからか。施術中に会話を嫌がる人もいれば楽しみ人もいる。この子はどうなのかしら。

「はい」

 鏡の中の鈴音ちゃんは前を向いて答えてくれるけどアタシとは鏡越しに目をあわさない。警戒心がちょっと邪魔だ。
 怖くないよと、念じながら髪に櫛を通していく。
 頭には人の急所が詰まっていて、何かがあったときはとっさに庇う場所だ。髪を触らせるってことは頭を他人に預けるわけで。見ず知らずの人間に触らせるのに抵抗を感じる人もあるだろう。アタシは気にしたことないけどね。

「そういえば美沙恵が……。ドイツに行ったわね」

 1週間前に今から旅立つとメッセージがきた。『今度会ったらドイツ料理をふるまうね~』と。美沙恵は料理上手だから楽しみだ。

「あ、はい。そうなんです。見送りに行ったんですけど。『ちょっと行ってくるね~』って。近所にお買い物に行くみたいでした」
「ぶっ」

 あまりにも美沙恵らしくて思わず吹き出してしまった。

「ああ、なんかわかるわ。美沙恵らしい。けろっとしてるのよね」

 今は仕事中と唱えながら笑いを堪えて鏡の鈴音を見ると、おお、ちょっと微笑んでる。うん、可愛いなぁ。

「そうなんです。美沙恵ちゃんはいつもニコニコしてて。慌ててるとこなんか見たことないし。……私なんか国内でもこれからちゃんと暮らしていけるか不安なのに・・・外国なんて」
 
 はやくもホームシックなのかしら?今日からこっちで暮らすとは聞いてるけど、イヤイヤ、早すぎるでしょう?

「美沙恵ちゃん、すごくかっこいいんです。優しいし、何でもできるし。私も美沙恵ちゃんみたいになりたいです」

 うーん、それはちょっと……どうなんだろう。この子にはそのまままっすぐでいて欲しいんだけど……もちろんそんなことは言えないから笑顔でスルーだ。

「とりあえず、外見から真似ようと思ったんですけど。ダメですか?」

 不安そうな声と表情。鏡越しにはじめてあった目に思わず囚われる。え?ダメでしょ?その目。庇護欲がむくむくわき上がって暴動騒ぎだわ。

「OKOK。大丈夫よ。任せなさい。美沙恵と同じようにはできないけど鈴音ちゃんにとびきり似合う髪型にしてあげるから」
「はい、お願いします」

 ふにゃりと笑う鈴音ちゃんを見て流石にひるんだ。この子輝かせてしまってほんとうにいいんだろうかと。
 でも何だかこの子自信がないから。このまま俯いた人生歩んで欲しくない。
女って見た目一つで気持ちも変わる。自分にはそれができる手段がある。なら一肌脱がなくてどうするよ。危なかしいならちゃんと見てればいいのよ。奇しくも彼女はお隣さん。えーえー、思う存分かまい倒してやるわっ。
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