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森の入り口からすこし入ったところで瑛美は歌いながらフラフラと歩いていた。こうしていればいつも彼が見つけてくれる。
まもなく彼は現れた。彼は瑛美の手をとり歩き出す。
まばらに生えたたくさんの木々。色づいた葉。森はどこも似たような風景で瑛美一人ではどこへもいけなかった。
さくさくと落ち葉を踏みしめ二人は歩く。奥へ奥へと進んでいき大木の前で彼は足を止める。木は既に枯れていて幹の根本付近にはおおきな空洞ができている。
彼は幹の中へ入り、その下にある扉を引き上げる。地面の下にある地下室。そこが彼の住まいだった。
彼は下へと降りていく。瑛美もそれに続いた。
ランプの灯をともし部屋に明かりをいれる。
足下の絨毯は深みのある赤。グランドピアノとソファアとテーブル。ただそれだけが置かれたシンプルな部屋。
そこは日が暮れてから二人で歌い、話す所だった。部屋の向こうにもまだいくつか部屋がありその一室で瑛美は寝起きしていた。
「私……舞台に立つの」
瑛美はそういって彼を見る。
「そう」
彼はピアノに近づくと音を一音だす。
澄んだ音。
部屋いっぱいに広がるその音に瑛美は聞き入る。
「曲は、『つかの間の夢を』だったね」
瑛美は驚く。
「なぜ知ってるの?あれはまだ……」
すると彼はその曲を弾き始めた。
「三十年……少し時間がかかりすぎだ」
それは独り言のようだった。彼は手を止める。
「なぜ……?」
いまだ驚く瑛美に彼は笑いかける。
瑛美は不思議そうに彼を見る。
「これは技術的にはおまえにも可能なはずだ」
「でも……」
「最初に言ったはずだ。私を想い、私の為だけに歌うがいい。そうすればおまえはこの曲を歌いこなせるだろう」
彼はピアノを弾き始める。紡がれるのはまだ世に出ていないはずの『つかの間の夢を』。
それはひどく美しくせつないメロデイー。彼の指からは繊細な音があふれだす。その音色の美しさに瑛美は心を奪われる。
そして瑛美は歌い始めた。彼を想い、彼の為だけに。
まもなく彼は現れた。彼は瑛美の手をとり歩き出す。
まばらに生えたたくさんの木々。色づいた葉。森はどこも似たような風景で瑛美一人ではどこへもいけなかった。
さくさくと落ち葉を踏みしめ二人は歩く。奥へ奥へと進んでいき大木の前で彼は足を止める。木は既に枯れていて幹の根本付近にはおおきな空洞ができている。
彼は幹の中へ入り、その下にある扉を引き上げる。地面の下にある地下室。そこが彼の住まいだった。
彼は下へと降りていく。瑛美もそれに続いた。
ランプの灯をともし部屋に明かりをいれる。
足下の絨毯は深みのある赤。グランドピアノとソファアとテーブル。ただそれだけが置かれたシンプルな部屋。
そこは日が暮れてから二人で歌い、話す所だった。部屋の向こうにもまだいくつか部屋がありその一室で瑛美は寝起きしていた。
「私……舞台に立つの」
瑛美はそういって彼を見る。
「そう」
彼はピアノに近づくと音を一音だす。
澄んだ音。
部屋いっぱいに広がるその音に瑛美は聞き入る。
「曲は、『つかの間の夢を』だったね」
瑛美は驚く。
「なぜ知ってるの?あれはまだ……」
すると彼はその曲を弾き始めた。
「三十年……少し時間がかかりすぎだ」
それは独り言のようだった。彼は手を止める。
「なぜ……?」
いまだ驚く瑛美に彼は笑いかける。
瑛美は不思議そうに彼を見る。
「これは技術的にはおまえにも可能なはずだ」
「でも……」
「最初に言ったはずだ。私を想い、私の為だけに歌うがいい。そうすればおまえはこの曲を歌いこなせるだろう」
彼はピアノを弾き始める。紡がれるのはまだ世に出ていないはずの『つかの間の夢を』。
それはひどく美しくせつないメロデイー。彼の指からは繊細な音があふれだす。その音色の美しさに瑛美は心を奪われる。
そして瑛美は歌い始めた。彼を想い、彼の為だけに。
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