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一人きりの辺境伯1
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緑が目に眩しい森の小屋で、ステレはいつもの日常に戻った。夜明けと共に起きて、森を見回り、獲物を取り、日暮れと共に寝る生活である。数ヶ月街で贅沢な暮らしをしたが、思ったより身体は森での生活に順応していたようだった。
帰って幾日も経たないうちに、どこで嗅ぎつけたのか<夜明けの雲>が顔を出したが、『結局剣の師には師事できなかった』と聞くと、残念そうに帰って行った。随分あっさり引き下がったと思ったら、未だに変異種(巨大魔獣の元)が現れていないらしい。真面目に仕事をしないとステレに相手にしてもらえないので、面倒臭げながら『カタが付いたらまた来るわ』と言って仕事に戻って行った。
近所のにーちゃんとしか思えない口振りに、この男は本当に魔人なんだろうか?と時々確信が持てなくなるステレだった。
そんな日々が戻って月2巡目が過ぎようとする頃、ステレは通常より早くドルトンの先触れを受けることになった。
何かあったのか聞いても、先触れのミュンは『詳しくは会長がお話します』としか言わない。良くないことで無ければいいと、気持ちを落ち着けながら待っていると、現れたドルトンは果たしてというべきか、酷く難しい顔をしていた。
「何があったの?」
「はい…実は今回は王都のご使者を案内して参りました」
「王都の使者?」
ドルトンが脇に退くと、外套を脱ぎながら只人の男が前に出て来た。それは麓の砦の将、テルザー卿であった。
「ご壮健そうで何よりです。疑った訳ではありませんが、実際に魔の森でお一人で暮らしている様を目の当たりにして、驚きを禁じえません」
テルザーは騎士の立礼をしながら言った。
「王都からの要請で、テルザー卿を鬼人殿の元にご案内するよう指示がございました」
「いったい……」
ただの言伝ならドルトンに依頼すれば済む話である。今までずっとそうだった。末席ではあるものの、わざわざ只人の貴族であるテルザー卿を使者に立てるということは、相応の理由があるに違いない。しかも、テルザー卿は一人で、砦の兵を連れて来ていない。ということは、内密な話ということになる。
実を言えば、ドルトンはテルザーの用向きを知っている。だから難しい顔をしてやってきたのだ。
「中がいいかしら?」
「我々の他はおりませんので、庭でもよろしいかと」
「では、まずお茶を煎れるわ」
気持ちを落ち着けるために、只人だった頃を思い出し、時間をかけて丁寧に茶を煎れる。
庭先のテーブルに茶器を並べ、まずは皆で香りを楽しんだ。
「僭越ではありますが、王都よりの指示を受けておりますことから、まずは私からご説明をさせていただきます」
茶を喫し一息ついた頃合いを見計らい、ドルトンがそう切り出した。テルザーは事情を半分も聞いておらず、ステレは何も知らない。嫌も応も無かった。
「まずは、テルザー閣下に…」
「私は平民上がりの王国騎士です。この場では敬称は不要です」
ドルトンの堅苦しい言い回しを、テルザーは窘めた。万事が騎士らしくあろうとしているように見えるテルザーだが、どちらかと言えば堅苦しいのは苦手なのだろう。
「では、テルザー卿に鬼人卿をご紹介したく思います」
ステレが『え?』と慌ててドルトンの顔を見ると、ドルトンの目は『この場は任せて欲しい』と言っていた。
「この方は、討死されたことになっている、ステレ・カンフレー様です」
ドルトンの言葉の意味をテルザーが理解するまでに、少しの間があった。
「あぁっ…」
突然声を上げたテルザーは席を立つと、ステレの前で跪き騎士の礼を取った。ステレも慌てて立ち上がる。
テルザーは義侠の人である。
この男は、アルデ卿の領地ヴィッテルスの端の集落の顔役の息子であった。ありていに言えばヤクザの後継ぎである。
ヤクザではあるが、住民には慕われていた。彼らの住む地は、河口の貿易と農業で栄えていた領都から遠く離れた、貧しい土地柄である。水量豊富な大河が目の前にあるのに、台地の上の彼らは地続きの隣領の水源に頼るしかなかったのだ。テルザーの構える一家は、警邏の目も途絶えがちな土地をならず者から守り、人を遣っては遍歴商人を招き寄せるなど、領主の手の届かぬ所を補う、無くてはならない存在だった。
キブト王の時代、王はとかく貴族には厳しかった。飢饉でもないのに領内で飢死なぞ出そうものなら、管理不行き届きでどんな罰を下されるか戦々恐々としていた。そのため、どこの領でも農民が死なない程度には配慮があったが、王の死後政策は貴族寄りに戻りつつあった。そんな矢先に、水を頼っていた隣領がグリフ支持に回ってしまい、テルザーは苦慮する事になった。何しろ、ヴィッテルス公爵はブレス王派の筆頭貴族である。悩んだ末、テルザーは手下と近隣の住民の有志をまとめ上げ、故郷を捨てる覚悟でグリフに味方することにしたのだった。
その結果王国騎士の位を賜ることとなったのだから、テルザーの選択は報われたと言える。
「お会いできたこと光栄です。女性の身でありながら、陛下をお守りし<首取り>を討ち取った武勇は聞き及んでおります…っと、女性に対する賛辞としては、あまりふさわしくありませんでしたな」
「いえ、私のはその為に陛下のお側に控えておりました。今、騎士である卿からその言葉をいただき、報われた思いでおります。どうか頭を上げて下さい。私は今は無位の鬼にすぎません」
テルザーを促し、二人はまた席に着いた。
テルザーは憧憬とも取れる目でステレを見ている。自らの未来のために、領主を裏切る形でグリフに味方することにしたが、全てはグリフが生きていればこそだ。ガランドの傭兵隊による襲撃は、グリフの最大の危機と言って良かった。そしてガランド自身も音に聞こえた使い手である。ステレはガランドの罠に気づき、そして相討ち同然になりながらガランドを討ち取って、グリフの危機を救った。グリフを支持する者にとっては、感謝してもしきれない功績だった。
「テルザー卿、どうでしょうか?ご納得いただけましたでしょうか?」
「無論です。この方がカンフレー家のステレ嬢であるなら、異論などあるはずもない」
隣のドルトンに問いかけられ、テルザーは興奮気味に答えた。
話からすると、テルザーは命じられた役目に不満を持っていたが、ステレの正体を知り納得したということだろうか。
「どこに耳があるか分かりません、砦ではお伝え出来ませんでした、ご容赦ください」
「いえ、確かにこれは砦で話すことはできないでしょう」
テルザーはステレに向き直った。
「すみませんでした。ようやく納得して役目を果たすことができます」
そう前置きすると、姿勢を正し、ステレの目を正面から見据えた。
「まず、私ですが、この度準男爵位を賜ることとなりました」
「え?あ、いや…それはおめでとうございます」
世代限りの王国騎士と異なり、準男爵は世襲が可能な爵位である。
どちらも領地には期待できない法服貴族だが、この差は大きい。王国南西部出身のテルザーが、わざわざ遠く離れた北部の砦に派遣されているのは、そもそもがテルザーを世襲可能な爵位に着けるための実績作りの面があった。
「正直、目立つ功績も無いままでの陞爵は引け目がありましたが、命じられた役目の重さと、この森を越える苦労を思えば、胸を張って誇ることができそうです」
「その役目とはいったい…」
「私は、陛下よりステレ嬢…鬼人卿宛ての書簡をお預かりし、それをお伝えする名代に指名されました」
「……なんですって?」
王が準男爵を名代にして文書を託すなど、前代未聞だ。
信じられないという顔をするステレに、テルザーは書類筒から羊皮紙を取り出すと、立ち上がり目の前に両手で掲げた、ステレもドルトンも立ち上がると、テルザーはよく通る声で文面を読み上げる。
「余は、魔の森の鬼人からの報告に対する対処を伝えるにあたり、テルザー準男爵を余の名代として指名する。この権限は他の目的においては効力を持たないものとする。御名」
羊皮紙を返しステレに示した。ステレは文面が一字一句間違いない事を確認した。王のサインは魔法のインクで署名されており、この文面が意に沿わないものであれば、はじけてしまうはずだ。
続けてテルザー卿は封蝋の捺された筒をステレに差し出した。ステレは確かに未開封である王家の封蝋であることを確認してテルザーに返すと、「謹んで承ります」と宣言してテルザーの前に跪づいた。ドルトンもテルザーの横で跪き、頭を下げた。これからの彼の言は、王の言葉に等しい。
目の前で封を切ったテルザーは、息を整えると文面を読み上げた。
「一つ、王国は鬼人による魔の森に関する報告を、非常に重要かつ重大な事項と受け止めた。よって、現在は王都の飛び地としている魔の森一帯、白骨山脈とヨールン山地、ドウェル山地に囲まれた一帯を新たにウィルムポット領として管理すると決した。
二つ、鬼人をウィルムポット辺境伯として封じる。緊急性に鑑み、この綬爵は本書を持って発効とし、関連する儀式は省略する。御名」
「…………へ?」
ステレはマヌケな表情のままテルザーを見た。テルザーは我が事のように嬉しそうだったが、ステレの困惑しきった表情に、わずかに表情を翳らせた。
「申し訳ありません。これ以上の事は知らないのです」
そう言われて困ったステレは、テルザーの後ろに控えるドルトンを見た。
難しい顔をして、フルフルと首を振る。
もう一度テルザーを見る。
テルザーは書面を返してステレに見せた。確かに読み上げられたものと同じ文面が書かれ、魔法のサインも輝いている。
「いや…だって……」
「ご陞爵おめでとうございます」
テルザーがドスの効く声で言った。言葉の前と後に「押忍!」と付けそうな勢いだった。
もう一度ドルトンを見る。
「えーと……あぁ、辺境伯ご就任おめでとうございます」
「……殴るわよ」
何か言わなければと困った挙げ句に、テキトーに言った感ありありで祝福され、ステレはガックリと肩を落とした。ドルトンはステレが爵位など望んでいないと、知っているはずなのに…
。
ステレは『領地』を見渡した。
領地は魔獣の跋扈する山と森、屋敷は一間の山小屋、家臣0、領民0、兵力0、家畜0、耕作地0、税収0、財政は物々交換、特産品は、魔物の毛皮と岩塩と砥石。
(…あ、兵力は1か)
(ふふっ、私としたことが…1って0の二倍よね(※違います)0と1じゃ全然違うわ)などと、しばらく現実逃避していたステレは、ふっと我に返る。
「私一人でどうすりゃいいのよ!」
ステレは途方に暮れた。
帰って幾日も経たないうちに、どこで嗅ぎつけたのか<夜明けの雲>が顔を出したが、『結局剣の師には師事できなかった』と聞くと、残念そうに帰って行った。随分あっさり引き下がったと思ったら、未だに変異種(巨大魔獣の元)が現れていないらしい。真面目に仕事をしないとステレに相手にしてもらえないので、面倒臭げながら『カタが付いたらまた来るわ』と言って仕事に戻って行った。
近所のにーちゃんとしか思えない口振りに、この男は本当に魔人なんだろうか?と時々確信が持てなくなるステレだった。
そんな日々が戻って月2巡目が過ぎようとする頃、ステレは通常より早くドルトンの先触れを受けることになった。
何かあったのか聞いても、先触れのミュンは『詳しくは会長がお話します』としか言わない。良くないことで無ければいいと、気持ちを落ち着けながら待っていると、現れたドルトンは果たしてというべきか、酷く難しい顔をしていた。
「何があったの?」
「はい…実は今回は王都のご使者を案内して参りました」
「王都の使者?」
ドルトンが脇に退くと、外套を脱ぎながら只人の男が前に出て来た。それは麓の砦の将、テルザー卿であった。
「ご壮健そうで何よりです。疑った訳ではありませんが、実際に魔の森でお一人で暮らしている様を目の当たりにして、驚きを禁じえません」
テルザーは騎士の立礼をしながら言った。
「王都からの要請で、テルザー卿を鬼人殿の元にご案内するよう指示がございました」
「いったい……」
ただの言伝ならドルトンに依頼すれば済む話である。今までずっとそうだった。末席ではあるものの、わざわざ只人の貴族であるテルザー卿を使者に立てるということは、相応の理由があるに違いない。しかも、テルザー卿は一人で、砦の兵を連れて来ていない。ということは、内密な話ということになる。
実を言えば、ドルトンはテルザーの用向きを知っている。だから難しい顔をしてやってきたのだ。
「中がいいかしら?」
「我々の他はおりませんので、庭でもよろしいかと」
「では、まずお茶を煎れるわ」
気持ちを落ち着けるために、只人だった頃を思い出し、時間をかけて丁寧に茶を煎れる。
庭先のテーブルに茶器を並べ、まずは皆で香りを楽しんだ。
「僭越ではありますが、王都よりの指示を受けておりますことから、まずは私からご説明をさせていただきます」
茶を喫し一息ついた頃合いを見計らい、ドルトンがそう切り出した。テルザーは事情を半分も聞いておらず、ステレは何も知らない。嫌も応も無かった。
「まずは、テルザー閣下に…」
「私は平民上がりの王国騎士です。この場では敬称は不要です」
ドルトンの堅苦しい言い回しを、テルザーは窘めた。万事が騎士らしくあろうとしているように見えるテルザーだが、どちらかと言えば堅苦しいのは苦手なのだろう。
「では、テルザー卿に鬼人卿をご紹介したく思います」
ステレが『え?』と慌ててドルトンの顔を見ると、ドルトンの目は『この場は任せて欲しい』と言っていた。
「この方は、討死されたことになっている、ステレ・カンフレー様です」
ドルトンの言葉の意味をテルザーが理解するまでに、少しの間があった。
「あぁっ…」
突然声を上げたテルザーは席を立つと、ステレの前で跪き騎士の礼を取った。ステレも慌てて立ち上がる。
テルザーは義侠の人である。
この男は、アルデ卿の領地ヴィッテルスの端の集落の顔役の息子であった。ありていに言えばヤクザの後継ぎである。
ヤクザではあるが、住民には慕われていた。彼らの住む地は、河口の貿易と農業で栄えていた領都から遠く離れた、貧しい土地柄である。水量豊富な大河が目の前にあるのに、台地の上の彼らは地続きの隣領の水源に頼るしかなかったのだ。テルザーの構える一家は、警邏の目も途絶えがちな土地をならず者から守り、人を遣っては遍歴商人を招き寄せるなど、領主の手の届かぬ所を補う、無くてはならない存在だった。
キブト王の時代、王はとかく貴族には厳しかった。飢饉でもないのに領内で飢死なぞ出そうものなら、管理不行き届きでどんな罰を下されるか戦々恐々としていた。そのため、どこの領でも農民が死なない程度には配慮があったが、王の死後政策は貴族寄りに戻りつつあった。そんな矢先に、水を頼っていた隣領がグリフ支持に回ってしまい、テルザーは苦慮する事になった。何しろ、ヴィッテルス公爵はブレス王派の筆頭貴族である。悩んだ末、テルザーは手下と近隣の住民の有志をまとめ上げ、故郷を捨てる覚悟でグリフに味方することにしたのだった。
その結果王国騎士の位を賜ることとなったのだから、テルザーの選択は報われたと言える。
「お会いできたこと光栄です。女性の身でありながら、陛下をお守りし<首取り>を討ち取った武勇は聞き及んでおります…っと、女性に対する賛辞としては、あまりふさわしくありませんでしたな」
「いえ、私のはその為に陛下のお側に控えておりました。今、騎士である卿からその言葉をいただき、報われた思いでおります。どうか頭を上げて下さい。私は今は無位の鬼にすぎません」
テルザーを促し、二人はまた席に着いた。
テルザーは憧憬とも取れる目でステレを見ている。自らの未来のために、領主を裏切る形でグリフに味方することにしたが、全てはグリフが生きていればこそだ。ガランドの傭兵隊による襲撃は、グリフの最大の危機と言って良かった。そしてガランド自身も音に聞こえた使い手である。ステレはガランドの罠に気づき、そして相討ち同然になりながらガランドを討ち取って、グリフの危機を救った。グリフを支持する者にとっては、感謝してもしきれない功績だった。
「テルザー卿、どうでしょうか?ご納得いただけましたでしょうか?」
「無論です。この方がカンフレー家のステレ嬢であるなら、異論などあるはずもない」
隣のドルトンに問いかけられ、テルザーは興奮気味に答えた。
話からすると、テルザーは命じられた役目に不満を持っていたが、ステレの正体を知り納得したということだろうか。
「どこに耳があるか分かりません、砦ではお伝え出来ませんでした、ご容赦ください」
「いえ、確かにこれは砦で話すことはできないでしょう」
テルザーはステレに向き直った。
「すみませんでした。ようやく納得して役目を果たすことができます」
そう前置きすると、姿勢を正し、ステレの目を正面から見据えた。
「まず、私ですが、この度準男爵位を賜ることとなりました」
「え?あ、いや…それはおめでとうございます」
世代限りの王国騎士と異なり、準男爵は世襲が可能な爵位である。
どちらも領地には期待できない法服貴族だが、この差は大きい。王国南西部出身のテルザーが、わざわざ遠く離れた北部の砦に派遣されているのは、そもそもがテルザーを世襲可能な爵位に着けるための実績作りの面があった。
「正直、目立つ功績も無いままでの陞爵は引け目がありましたが、命じられた役目の重さと、この森を越える苦労を思えば、胸を張って誇ることができそうです」
「その役目とはいったい…」
「私は、陛下よりステレ嬢…鬼人卿宛ての書簡をお預かりし、それをお伝えする名代に指名されました」
「……なんですって?」
王が準男爵を名代にして文書を託すなど、前代未聞だ。
信じられないという顔をするステレに、テルザーは書類筒から羊皮紙を取り出すと、立ち上がり目の前に両手で掲げた、ステレもドルトンも立ち上がると、テルザーはよく通る声で文面を読み上げる。
「余は、魔の森の鬼人からの報告に対する対処を伝えるにあたり、テルザー準男爵を余の名代として指名する。この権限は他の目的においては効力を持たないものとする。御名」
羊皮紙を返しステレに示した。ステレは文面が一字一句間違いない事を確認した。王のサインは魔法のインクで署名されており、この文面が意に沿わないものであれば、はじけてしまうはずだ。
続けてテルザー卿は封蝋の捺された筒をステレに差し出した。ステレは確かに未開封である王家の封蝋であることを確認してテルザーに返すと、「謹んで承ります」と宣言してテルザーの前に跪づいた。ドルトンもテルザーの横で跪き、頭を下げた。これからの彼の言は、王の言葉に等しい。
目の前で封を切ったテルザーは、息を整えると文面を読み上げた。
「一つ、王国は鬼人による魔の森に関する報告を、非常に重要かつ重大な事項と受け止めた。よって、現在は王都の飛び地としている魔の森一帯、白骨山脈とヨールン山地、ドウェル山地に囲まれた一帯を新たにウィルムポット領として管理すると決した。
二つ、鬼人をウィルムポット辺境伯として封じる。緊急性に鑑み、この綬爵は本書を持って発効とし、関連する儀式は省略する。御名」
「…………へ?」
ステレはマヌケな表情のままテルザーを見た。テルザーは我が事のように嬉しそうだったが、ステレの困惑しきった表情に、わずかに表情を翳らせた。
「申し訳ありません。これ以上の事は知らないのです」
そう言われて困ったステレは、テルザーの後ろに控えるドルトンを見た。
難しい顔をして、フルフルと首を振る。
もう一度テルザーを見る。
テルザーは書面を返してステレに見せた。確かに読み上げられたものと同じ文面が書かれ、魔法のサインも輝いている。
「いや…だって……」
「ご陞爵おめでとうございます」
テルザーがドスの効く声で言った。言葉の前と後に「押忍!」と付けそうな勢いだった。
もう一度ドルトンを見る。
「えーと……あぁ、辺境伯ご就任おめでとうございます」
「……殴るわよ」
何か言わなければと困った挙げ句に、テキトーに言った感ありありで祝福され、ステレはガックリと肩を落とした。ドルトンはステレが爵位など望んでいないと、知っているはずなのに…
。
ステレは『領地』を見渡した。
領地は魔獣の跋扈する山と森、屋敷は一間の山小屋、家臣0、領民0、兵力0、家畜0、耕作地0、税収0、財政は物々交換、特産品は、魔物の毛皮と岩塩と砥石。
(…あ、兵力は1か)
(ふふっ、私としたことが…1って0の二倍よね(※違います)0と1じゃ全然違うわ)などと、しばらく現実逃避していたステレは、ふっと我に返る。
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追記:2025/09/20
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