【おまけページ更新中】世良くんの刺激的な日々後日談

雨樋雫

文字の大きさ
27 / 34
金木犀の想い出

胸の痛みと、優しい香り

しおりを挟む
「送ってくれてありがとう。でも、あの、やっぱり病院に…」
「ちゃんと自分で行くから大丈夫。それとさ、和花ーー」

 仁太郎が何か言いかけた時、帰りの遅い娘を心配した父が、慌てて玄関から飛び出してきた。

「和花…今何時だと思って…っ」

 和花の父親はそこまで言いかけると、絶句した。
 娘の制服は無惨にも切り裂かれていて、その横には明らかに不良と分かる出で立ちの少年が立っているのだ。

「貴様…まさか…」
 何かがあったことを察した父親が、仁太郎をギロリと睨みつけた。

「違うの、お父さん。世良くんは私を助けてくれて…」
「和花さんを巻き込んでしまって、申し訳ありませんでした」

 庇ってくれようとした和花の声を遮り、仁太郎は一切言い訳もせず、父親に向かって深く頭を下げた。

「最近妙に色気づいたと思っていたらそういうことか…。よりによってお前のようなクズが…っ、うちの娘を誑かして…!!」

 怒りにわなわなと震えながら一方的に仁太郎を責める父親を、和花が必死に止める。

「だから違うって言ってるじゃない!世良くんは悪くないんだから!何も知らないくせに勝手なこと言わないでよ!」
「今すぐ、娘とは別れろ!」

 和花がどんなに違うと説明しても、大事な娘を傷物にされたことで怒りが頂点に達している父親に、娘の声は聞こえない。

「……はい」

 仁太郎は、あまりにもあっさりと、了承した。

 もう、覚悟していたのだ。自分のような不良と一緒にいては、彼女のためにならないのだと。

「なんで!?なんで別れないといけないの!?」

 和花は、納得がいかないと仁太郎の袖を掴んで必死に訴える。

 それは普段おっとりしていて穏やかな彼女が、初めて見せた抵抗だった。

 そんな和花に、仁太郎が少し困ったような顔を見せる。
「和花と俺は、住む世界が違う。和花はこっち側と関わっちゃ駄目だ」

 仁太郎が自分を気遣って言っているのはわかっている。けれどずっと心を繋げていたと思っていた相手からバッサリと切り離されたことが悲しくて、和花の目尻にじわりと涙が滲んだ。

「そんな…、住む世界が違うなんて、そんなこと言わないで…」
「俺といたら、また巻き込まれるかもしれない。一緒にいて楽しかったけど……ここらが潮時だ。今までありがとうな」
「やだ…別れたくない…」
「大事にしてやれなくて、本当にごめん」

 仁太郎はふっと笑って、最後の言葉を口にした。

「元気で」

 そう一言だけ告げると、仁太郎はそのままくるりと踵を返した。

「……やだ…っ!!やだああああああっ!!!」

 去っていく仁太郎を追いかけたかったけれど、もがく和花を父親が必死に繋ぎ止める。
 どんどん遠くなる背中。別れたくないと、和花の泣き叫ぶ声が辺りに響いたが、仁太郎はもう二度と振り返ることはなかった。






 本当に、好きだった。
 誰よりも大切にしたかった。
 けれど、そんな相手を、自分のせいで傷つけてしまったのだ。

 (俺は、好きな女ひとり幸せにしてやれないんだな…)

 こんな自分は、誰かと付き合う資格なんかない。その日、仁太郎は、もう二度と誰とも恋をしないと決めた。


 その時、ふわりと甘い香りが仁太郎の鼻をかすめた。

 (金木犀、か。もうそんな季節になってたんだな)

 見ると、鮮やかなオレンジ色の可憐な花が、その存在感のある香りとは対照的に、慎ましやかに咲いていた。

 何故だろう。その時は、金木犀が傷心の自分を慰めてくれているようにも感じて、ほんの少しだけこの胸の痛みが和らいだような気がした。
 初めてできた彼女と別れた帰り道。優しい香りに包まれながら、仁太郎は帰路についた。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

邪神の祭壇へ無垢な筋肉を生贄として捧ぐ

BL
鍛えられた肉体、高潔な魂―― それは選ばれし“供物”の条件。 山奥の男子校「平坂学園」で、新任教師・高尾雄一は静かに歪み始める。 見えない視線、執着する生徒、触れられる肉体。 誇り高き男は、何に屈し、何に縋るのか。 心と肉体が削がれていく“儀式”が、いま始まる。

お兄ちゃんができた!!

くものらくえん
BL
ある日お兄ちゃんができた悠は、そのかっこよさに胸を撃ち抜かれた。 お兄ちゃんは律といい、悠を過剰にかわいがる。 「悠くんはえらい子だね。」 「よしよ〜し。悠くん、いい子いい子♡」 「ふふ、かわいいね。」 律のお兄ちゃんな甘さに逃げたり、逃げられなかったりするあまあま義兄弟ラブコメ♡ 「お兄ちゃん以外、見ないでね…♡」 ヤンデレ一途兄 律×人見知り純粋弟 悠の純愛ヤンデレラブ。

極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です

朝陽七彩
恋愛
 私は。 「夕鶴、こっちにおいで」  現役の高校生だけど。 「ずっと夕鶴とこうしていたい」  担任の先生と。 「夕鶴を誰にも渡したくない」  付き合っています。  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  神城夕鶴(かみしろ ゆづる)  軽音楽部の絶対的エース  飛鷹隼理(ひだか しゅんり)  アイドル的存在の超イケメン先生  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  彼の名前は飛鷹隼理くん。  隼理くんは。 「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」  そう言って……。 「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」  そして隼理くんは……。  ……‼  しゅっ……隼理くん……っ。  そんなことをされたら……。  隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。  ……だけど……。  え……。  誰……?  誰なの……?  その人はいったい誰なの、隼理くん。  ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。  その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。  でも。  でも訊けない。  隼理くんに直接訊くことなんて。  私にはできない。  私は。  私は、これから先、一体どうすればいいの……?

BL 男達の性事情

蔵屋
BL
 漁師の仕事は、海や川で魚介類を獲ることである。 漁獲だけでなく、養殖業に携わる漁師もいる。  漁師の仕事は多岐にわたる。 例えば漁船の操縦や漁具の準備や漁獲物の処理等。  陸上での魚の選別や船や漁具の手入れなど、 多彩だ。  漁師の日常は毎日漁に出て魚介類を獲るのが主な業務だ。  漁獲とは海や川で魚介類を獲ること。  養殖の場合は魚介類を育ててから出荷する養殖業もある。  陸上作業の場合は獲った魚の選別、船や漁具の手入れを行うことだ。  漁業の種類と言われる仕事がある。 漁師の仕事だ。  仕事の内容は漁を行う場所や方法によって多様である。  沿岸漁業と言われる比較的に浜から近い漁場で行われ、日帰りが基本。  日本の漁師の多くがこの形態なのだ。  沖合(近海)漁業という仕事もある。 沿岸漁業よりも遠い漁場で行われる。  遠洋漁業は数ヶ月以上漁船で生活することになる。  内水面漁業というのは川や湖で行われる漁業のことだ。  漁師の働き方は、さまざま。 漁業の種類や狙う魚によって異なるのだ。  出漁時間は早朝や深夜に出漁し、市場が開くまでに港に戻り魚の選別を終えるという仕事が日常である。  休日でも釣りをしたり、漁具の手入れをしたりと、海を愛する男達が多い。  個人事業主になれば漁船や漁具を自分で用意し、漁業権などの資格も必要になってくる。  漁師には、豊富な知識と経験が必要だ。  専門知識は魚類の生態や漁場に関する知識、漁法の技術と言えるだろう。  資格は小型船舶操縦士免許、海上特殊無線技士免許、潜水士免許などの資格があれば役に立つ。  漁師の仕事は、自然を相手にする厳しさもあるが大きなやりがいがある。  食の提供は人々の毎日の食卓に新鮮な海の幸を届ける重要な役割を担っているのだ。  地域との連携も必要である。 沿岸漁業では地域社会との結びつきが強く、地元のイベントにも関わってくる。  この物語の主人公は極楽翔太。18歳。 翔太は来年4月から地元で漁師となり働くことが決まっている。  もう一人の主人公は木下英二。28歳。 地元で料理旅館を経営するオーナー。  翔太がアルバイトしている地元のガソリンスタンドで英二と偶然あったのだ。 この物語の始まりである。  この物語はフィクションです。 この物語に出てくる団体名や個人名など同じであってもまったく関係ありません。

スライムパンツとスライムスーツで、イチャイチャしよう!

ミクリ21
BL
とある変態の話。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

同僚に密室に連れ込まれてイケナイ状況です

暗黒神ゼブラ
BL
今日僕は同僚にごはんに誘われました

処理中です...