【おまけページ更新中】世良くんの刺激的な日々後日談

雨樋雫

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金木犀の想い出

ヤキモチ

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 彼女と過ごしたのはたった数ヶ月のことで。
 二人の関係はあっという間に終わってしまったけれど、確かに幸せはそこにあった。

 自分のせいで巻き込んでしまった恋人。
 あの子は今、元気にしてるだろうかーー。


 仁太良がそんなことを思い出していると、樹生が少し面白くなさそうな顔をした。

「元カノだろ、それ」
「え…なんでわかっ……」
「お前ほどわかりやすい人間もいねーよ」

 不満気に言いながら、樹生が仁太郎をぐいと引き寄せて唇を奪う。

 唐突なキスに動揺している仁太郎に構わず、樹生は仁太郎の唇をこじ開け舌先で歯列を辿って、口内を愛撫し始めた。

「んん…っ、ちょっと樹生さ…」

 軽く抵抗するも、樹生は全然離してくれる気配がない。呼吸ができないくらい激しい抱擁とキスに、思わず酔ってしまいそうになる。

「は…あ」

 ようやく長いキスが解かれ、焦点がギリギリ合う距離で見つめ合うと、そこには複雑そうな顔をした樹生がいた。
 いつもと違う様子の樹生になんだかドキリとして、そんな気持ちを誤魔化すように、仁太郎が樹生をわざと茶化す。

「もしかしてヤキモチやいた?なーんて」

 ちょっとした冗談のつもりだった。
 この百戦錬磨な男が、たかが過去の恋人ごときに妬くなんて、そんなわけがない。
 そう思って軽い調子で言ったのに、樹生の口から発せられた言葉は意外なもので。

「悪いか…?」

 樹生は物凄くバツの悪そうな顔で、そんなことを言うのだ。

「え、え、マジで…???ホントに???」

 仁太郎の問いに樹生はぷいと顔をそらした。
 その仕草がなんだか子どもっぽくて可笑しくて。普段は冷静で、年上の余裕を漂わせている樹生が見せた初めての表情に、仁太郎は思わず可愛いだなんて思ってしまった。
 そして、過去の恋人に妬いてくれたことを嬉しい、とも。


 仁太郎はずっと、喧嘩の売り買いをすることで行き場のない気持ちを消化しようとしていた。

 それは彼女ができてからも変わることなく、結果的にその浅はかな自らの行動で大切な人を傷つけてしまった。あの頃の自分は本当に馬鹿だったと、今なら思う。

 そんな退廃的な日々を繰り返していたどうしようもない自分を変えてくれたのは、紛れもなく目の前の樹生で。

 仁太郎に本気でぶつかって、そして向き合ってくれた、唯一の人。
 家庭にも周囲にも恵まれず荒れた生活しか知らなかった仁太郎に、それ以外の道を、そして幸せを与えてくれた。

 仁太郎が今こうして穏やかな時間を過ごせているのは、樹生のお陰だ。

 (この人とーー樹生さんと、出会えて良かった)

 安心して心を預けることができる、誰よりも大切で、大きな存在。
 頼りがいのある広い背中に、仁太郎が後ろから腕を回す。

「俺には樹生さんだけだよ」

 抱き締める腕にぎゅ、と力を込めると、樹生はふっと笑って振り向き、再び仁太郎を自分の胸に抱き寄せた。

「知ってる」

 それから二人はどちらからともなく唇を寄せ合い、互いの愛情を確かめ合った。

 室内が、金木犀の香りで満たされる。

 切ない別れの香りだった。
 けれど、もう来年からは、きっと今日の出来事を思い出すんだろう。
 愛する人と過ごす時間をーー。
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