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職権濫用!?(前編)
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「ーー以上。解散」
その声に弾かれるように、キャスト達は一礼してから、その場を後にした。
人気ホストクラブAventurierのオーナーである東条響こと葉山樹生が、営業後に店のメンバー全員を集めてミーティングを終えたところだった。
樹生のミーティングはかなりあっさりとした印象だ。無駄を省き、大事な部分に要点を絞るシンプルさ。
ダラダラと長ったらしく説教したり、情に訴えるような熱血指導をすることもなく、連絡事項を淡々と伝えるだけだ。
なのに不思議と樹生が二言三言何かを言っただけで、その場の空気が一気に引き締まる。
天性のカリスマ性というものなのだろうか。多くを語らずとも、自然と全体の士気が高まっていくのだ。
樹生のミーティングが短時間で終わるのは、アフター予定の客を待たせないという意味でも大きな意味を持つ。
アフターの予定があるキャスト達は気を引き締めながら、客の元へと急いだ。
店を華々しく盛り上げてくれたキャスト達がその場を去ると、今度は内勤達の出番である。
数人の内勤メンバーが、客もホストもいない静かな店内で、慌ただしく片付けを始めた。
一人、テーブルを鏡のように拭き上げ満足げな顔を覗かせている内勤がいた。その人物に樹生が声をかける。
「JINは掃除が終わった後も残ってくれ。話がある」
「も~樹生さんってば。そんなあからさまに職権濫用…」
JINは、自分と樹生の他に誰もいなくなった店内で、照れ笑いを浮かべながら言った。
この店の内勤として最近雇われ始めたばかりのJINこと世良仁太郎は、樹生の恋人である。
仁太郎は、高校生時代に樹生の店の前でヤンキー達と喧嘩を繰り広げ営業妨害をしていた元不良で、当時は樹生もほとほと手を焼いていた。
それがひょんなきっかけから、樹生が拾ったような形となり、現在に至る。
ーー実際は、樹生の方が仁太郎に惚れ込んでしまったというのが、一番大きな理由なのだが…。
現在仁太郎は樹生のマンションで同棲中だ。当然二人は帰る場所は同じだが、交際していることは公にしていないため、普段は別々に帰宅するようにしていた。
「何言ってんだ。本当に仕事の話だぞ」
気を抜くな、と樹生が真面目な顔をして仁太郎を窘める。
「帰宅してからだと気持ちのスイッチがオフになるだろ。今のうちに伝えておく」
「はい……」
仁太郎は勘違いしてしまった気恥ずかしさから顔を赤くしたが、直後にキリッと気を引き締め直した。
「ーーで、こういうケースの場合はこうした方がいい」
「はい」
真面目にメモを取る仁太郎の姿を見て、樹生がふっと微笑む。
「少しは慣れたみたいだな」
「ああ…うん、多少は。でもまだまだ難しいことも多くて。今日もミスしちゃったし」
仁太郎が苦笑しながら言う。
「でも俺、頑張るから。早く色んなこと覚えて、今よりもっと戦力になれるように」
「お?向上心あるな」
「向上心っていうか……樹生さんに少しでも恩返ししたいからさ」
今まで樹生に何度救われたか知れない。仁太郎がそう伝えると、樹生は小首をかしげた。
「恩返しーーか。それなら、とっくに返済は終了してお釣りがくるぐらいなんだがな」
思ってもみない樹生の言葉に、仁太郎が目を丸くする。
「本当に…?」
「ああ。仁太郎が入ってくれたお陰で店の負担はかなり減った。お前に任せてるのは今はまだ簡単な仕事ばかりだが、それだって誰かが必ずやらなきゃいけないことだ。お前は仕事が丁寧だし、誰よりも真面目に取り組んでる。特殊な夜の世界でも、案外こういうことが大事だったりするんだぜ。むしろ助けられてるのは俺の方だ」
予想もしていなかった樹生からのストレートな賛辞に、仁太郎は顔をほころばせた。
「樹生さんの助けになれてんなら、嬉しい」
仁太郎が、照れくさそうにヘヘッと笑う。
その素直な笑顔に触発されるように、仁太郎の頬に樹生の長い指が伸びて、直後ふたつの唇が触れ合った。
「い、い、樹生さん!?」
慌てる仁太郎に樹生は不敵な表情でニヤリと笑い、
「職権濫用もたまにはいいかもな」
と、再び口づけを落とした。
「ん…」
誰もいない静かなフロアで、二人がキスを交わし合う音だけが響く。
仁太郎は与えられる甘い誘惑に翻弄されながら、樹生の広い背中に腕を回した。
それからどれくらい経ったのだろうか。時間の感覚はとっくにないが、実際は一分にも満たない間だったかも知れない。
「わーお、すっげーもん見ちゃった~」
樹生でも仁太郎でもない、第三者の声が耳に届く。
樹生とのキスに酔いしれて、意識がとろん…となっていたところに一気に冷水を浴びせられた。
まるで心臓をハンマーで殴られたような感覚だ。
仁太郎が青ざめながら声のする方に視線をやると、そこにはとっくに帰ったはずだった人気ホストの龍が立っていたのである。
「え…あ…」
まさかの展開に、頭がグルグルして声が出せない。仁太郎は目眩がしそうになるのを必死にこらえながら、かろうじてそこに立っていた。
樹生はさすがに冷静だが、それでも若干困ったような顔を覗かせている。
「あ、俺は忘れ物取りに来ただけなんで。お気になさらず、どうぞ続きしちゃって下さい」
龍はそう言って何事もなかったように二人を素通りし、ロッカーに向かった。
気にせず続きをしろと言われて「はいわかりました」とラブシーンを続行する人間などいるはずがない。
何も言えずただ冷や汗をダラダラかいてその場に立ち尽くしている仁太郎とは対象的に樹生はケロッとした顔で、
「龍、今日時間あるか?このあと飯でも行かないか」
と龍を誘った。
その声に弾かれるように、キャスト達は一礼してから、その場を後にした。
人気ホストクラブAventurierのオーナーである東条響こと葉山樹生が、営業後に店のメンバー全員を集めてミーティングを終えたところだった。
樹生のミーティングはかなりあっさりとした印象だ。無駄を省き、大事な部分に要点を絞るシンプルさ。
ダラダラと長ったらしく説教したり、情に訴えるような熱血指導をすることもなく、連絡事項を淡々と伝えるだけだ。
なのに不思議と樹生が二言三言何かを言っただけで、その場の空気が一気に引き締まる。
天性のカリスマ性というものなのだろうか。多くを語らずとも、自然と全体の士気が高まっていくのだ。
樹生のミーティングが短時間で終わるのは、アフター予定の客を待たせないという意味でも大きな意味を持つ。
アフターの予定があるキャスト達は気を引き締めながら、客の元へと急いだ。
店を華々しく盛り上げてくれたキャスト達がその場を去ると、今度は内勤達の出番である。
数人の内勤メンバーが、客もホストもいない静かな店内で、慌ただしく片付けを始めた。
一人、テーブルを鏡のように拭き上げ満足げな顔を覗かせている内勤がいた。その人物に樹生が声をかける。
「JINは掃除が終わった後も残ってくれ。話がある」
「も~樹生さんってば。そんなあからさまに職権濫用…」
JINは、自分と樹生の他に誰もいなくなった店内で、照れ笑いを浮かべながら言った。
この店の内勤として最近雇われ始めたばかりのJINこと世良仁太郎は、樹生の恋人である。
仁太郎は、高校生時代に樹生の店の前でヤンキー達と喧嘩を繰り広げ営業妨害をしていた元不良で、当時は樹生もほとほと手を焼いていた。
それがひょんなきっかけから、樹生が拾ったような形となり、現在に至る。
ーー実際は、樹生の方が仁太郎に惚れ込んでしまったというのが、一番大きな理由なのだが…。
現在仁太郎は樹生のマンションで同棲中だ。当然二人は帰る場所は同じだが、交際していることは公にしていないため、普段は別々に帰宅するようにしていた。
「何言ってんだ。本当に仕事の話だぞ」
気を抜くな、と樹生が真面目な顔をして仁太郎を窘める。
「帰宅してからだと気持ちのスイッチがオフになるだろ。今のうちに伝えておく」
「はい……」
仁太郎は勘違いしてしまった気恥ずかしさから顔を赤くしたが、直後にキリッと気を引き締め直した。
「ーーで、こういうケースの場合はこうした方がいい」
「はい」
真面目にメモを取る仁太郎の姿を見て、樹生がふっと微笑む。
「少しは慣れたみたいだな」
「ああ…うん、多少は。でもまだまだ難しいことも多くて。今日もミスしちゃったし」
仁太郎が苦笑しながら言う。
「でも俺、頑張るから。早く色んなこと覚えて、今よりもっと戦力になれるように」
「お?向上心あるな」
「向上心っていうか……樹生さんに少しでも恩返ししたいからさ」
今まで樹生に何度救われたか知れない。仁太郎がそう伝えると、樹生は小首をかしげた。
「恩返しーーか。それなら、とっくに返済は終了してお釣りがくるぐらいなんだがな」
思ってもみない樹生の言葉に、仁太郎が目を丸くする。
「本当に…?」
「ああ。仁太郎が入ってくれたお陰で店の負担はかなり減った。お前に任せてるのは今はまだ簡単な仕事ばかりだが、それだって誰かが必ずやらなきゃいけないことだ。お前は仕事が丁寧だし、誰よりも真面目に取り組んでる。特殊な夜の世界でも、案外こういうことが大事だったりするんだぜ。むしろ助けられてるのは俺の方だ」
予想もしていなかった樹生からのストレートな賛辞に、仁太郎は顔をほころばせた。
「樹生さんの助けになれてんなら、嬉しい」
仁太郎が、照れくさそうにヘヘッと笑う。
その素直な笑顔に触発されるように、仁太郎の頬に樹生の長い指が伸びて、直後ふたつの唇が触れ合った。
「い、い、樹生さん!?」
慌てる仁太郎に樹生は不敵な表情でニヤリと笑い、
「職権濫用もたまにはいいかもな」
と、再び口づけを落とした。
「ん…」
誰もいない静かなフロアで、二人がキスを交わし合う音だけが響く。
仁太郎は与えられる甘い誘惑に翻弄されながら、樹生の広い背中に腕を回した。
それからどれくらい経ったのだろうか。時間の感覚はとっくにないが、実際は一分にも満たない間だったかも知れない。
「わーお、すっげーもん見ちゃった~」
樹生でも仁太郎でもない、第三者の声が耳に届く。
樹生とのキスに酔いしれて、意識がとろん…となっていたところに一気に冷水を浴びせられた。
まるで心臓をハンマーで殴られたような感覚だ。
仁太郎が青ざめながら声のする方に視線をやると、そこにはとっくに帰ったはずだった人気ホストの龍が立っていたのである。
「え…あ…」
まさかの展開に、頭がグルグルして声が出せない。仁太郎は目眩がしそうになるのを必死にこらえながら、かろうじてそこに立っていた。
樹生はさすがに冷静だが、それでも若干困ったような顔を覗かせている。
「あ、俺は忘れ物取りに来ただけなんで。お気になさらず、どうぞ続きしちゃって下さい」
龍はそう言って何事もなかったように二人を素通りし、ロッカーに向かった。
気にせず続きをしろと言われて「はいわかりました」とラブシーンを続行する人間などいるはずがない。
何も言えずただ冷や汗をダラダラかいてその場に立ち尽くしている仁太郎とは対象的に樹生はケロッとした顔で、
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と龍を誘った。
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