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1章 仲間との出会い
012 そろそろ2階層を覗いてみよう
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「じゃあ、これの下拵えも頼む」
「おっけーっす」
今俺は迷宮の安らぎ亭で、朝食の仕込みの手伝いをしている。
リンカーズに来てから、俺はすっかり健康的な生活習慣になってしまった。早起きして、上手い食事を堪能し、思い切り動き回ったあとはさっさと寝る生活。
冒険者に限らず、普通の人は夜は酒場に集まったり、色街で遊んだりするらしい。
あー色街いいっすねぇ。俺もパーッと遊びたいわぁ。
お 金 が あ れ ば な !
そんな感じで早寝早起き生活の俺は、目が覚めてから宿の朝食が出来るまで結構暇だった。ユリンさんに仕込みの手伝いを提案してみたところ、二つ返事で了承を貰えた。
ユリンさんと旦那さん曰く、朝の人手はいくらあっても良いそうだ。
勿論賃金などは発生していない。朝の仕込を手伝うことで、この世界の食材の知識を教えてもらっているのだ。しかもプロの料理人に、である。
普通に考えたら教えを請うこちら側が対価を支払うべき案件なので、タダ働きでも全く不満は無い。
料理は出来るようになっておくべきだろうしね。今後何があるか分からないし。
なんか日本に居た時よりも積極的に働いてる気がするなぁ。それでも毎日が充実しているように感じるのは、自主的に働いているからなんだろうな。
日本に居たころは、多少ミスをしても死ぬようなことは無かった。逆にまぁまぁ成功しても、別になにかが変わることも無かった。
日本で働いていた時だって、結局は自分の生活のために働いていたわけだけど、リンカーズで働くということはもっとシンプルで分かりやすい。
働かなければ食えず、失敗したら死ぬ。そして働いた分だけ成長できるのだ。
働いた分だけ成長できる。これはきっと、日本で働いていても同じだったはず。
でも、少なくとも俺に限って言えば、成長したと実感できる機会にあまり恵まれなかった。
日本に居たままだったら、なんだかんだと周囲に愚痴をこぼしながら、平凡な一生を送っていたことだろう。多分生涯1人っきりでな!
思えば、この世界に馴染むのが我ながら早かった気がする。
肉の下処理をしながら、どうでも良いことをつらつらと考える。単純作業してる時ってついつい色々考えちゃうな。
「ということで、そろそろ2階層を見てこようと思ってるんだ。オーサンから見て、俺は2階層に降りても大丈夫だと思う?」
「どういうワケだよ話が見えねぇ。1から説明しやがれ」
「説明も何も、1階層を回るのにも慣れてきたからさ。毎日のマッドスライム狩りではもうあまり疲れも感じないし、自分ではそろそろ2階層に行っても良い頃合いなんじゃないかと感じるんだよ。
でも俺はまだ10等級の新人冒険者だからな。客観的に評価してもらわないとやっぱ危ないと思って。
その点、ギルド職員のオーサンなら今まで沢山の冒険者を見てきただろうし、オーサンから見てまだ危なっかしいと思えるなら、その判断に従うべきだと思ったんだ」
「はっ、殊勝な考え方じゃねぇか。
……そうだなぁ。ここ数日でトーマは、迷宮に対して気負ったところはなくなってる。体力も多少はついただろうし、2階層に行くのも良い頃合いかもしれねぇな」
お、オーサンからもオッケー頂きました!これで心置きなく2階層に進める。
「ただ……。いや、そうだな。一度試してみた方が早いか。
以前も言ったと思うが、2階層からは迷宮鼠が襲ってくるようになる。まずはネズミを1体倒してすぐ戻ってこい」
ん?
倒すのは勿論だけど、なんで戻ってくる必要が?
「迷宮鼠はその名の通り、動物タイプの魔物だ。冒険者の中にはたまにな、生き物の命を奪うことに、激しい抵抗感を覚えてしまう奴が出るんだよ。
お前が大丈夫かどうかは、実際に倒してみるまでは分からんからな。倒した後に、自分ではなんとも無いと感じたとしても、必ず1回戻ってこい。俺の目で判断してやる」
あーそういう方面での心配か。自分では多分平気だと思うんだけど、どうなんだろうな?
なんとなく冒険者って、盗賊狩りとかしてるイメージ強いし、冒険者を続けていたらいつの日か、人を殺めなければいけない日も来るのだろうか。
その時が来たら、俺は躊躇無く相手を殺すことが出来るのか、そうでないのか。
「オーサンの言ってることは理解したよ。マッドスライムはあまり生物って感じじゃなかったからあまり抵抗なかったけど、見た目も感触も生き物タイプの魔物だと感じるものがあるかもしれない。
なんとなく、自分的には平気なような気はしてるんだけどね」
こういう精神面での淡白さが、神様に目をつけられた『異世界転移に向いている適正』の1つなんじゃないかなぁ、なんてちょっと思い始めてる。
「俺も正直言えば、あまり心配はしてないんだがな。こればっかりは試してみないとわからんもんなんだよ。
3階層からは人型の魔物も襲ってくるようになるし、戦闘も本格化していく。少しでも躊躇いを覚えてしまうようなら、冒険者は向いてないってこった。
……戦うべき時に戦えない奴が混じってると、周囲を巻き込んで不幸になっちまうことだってある」
オーサンの言葉に、なんだか不思議な重みを感じた。
ギルド職員として色々な冒険者を見てきたせいなのか。彼自身の体験に寄るものなのか。
2階層では、冒険者として命を奪って生きていく覚悟を試されるということなのだろう。
果たして俺は冒険者として、覚悟が出来ているのだろうか。
そんなことを思いながら冒険者ギルドを後にした。
「おっけーっす」
今俺は迷宮の安らぎ亭で、朝食の仕込みの手伝いをしている。
リンカーズに来てから、俺はすっかり健康的な生活習慣になってしまった。早起きして、上手い食事を堪能し、思い切り動き回ったあとはさっさと寝る生活。
冒険者に限らず、普通の人は夜は酒場に集まったり、色街で遊んだりするらしい。
あー色街いいっすねぇ。俺もパーッと遊びたいわぁ。
お 金 が あ れ ば な !
そんな感じで早寝早起き生活の俺は、目が覚めてから宿の朝食が出来るまで結構暇だった。ユリンさんに仕込みの手伝いを提案してみたところ、二つ返事で了承を貰えた。
ユリンさんと旦那さん曰く、朝の人手はいくらあっても良いそうだ。
勿論賃金などは発生していない。朝の仕込を手伝うことで、この世界の食材の知識を教えてもらっているのだ。しかもプロの料理人に、である。
普通に考えたら教えを請うこちら側が対価を支払うべき案件なので、タダ働きでも全く不満は無い。
料理は出来るようになっておくべきだろうしね。今後何があるか分からないし。
なんか日本に居た時よりも積極的に働いてる気がするなぁ。それでも毎日が充実しているように感じるのは、自主的に働いているからなんだろうな。
日本に居たころは、多少ミスをしても死ぬようなことは無かった。逆にまぁまぁ成功しても、別になにかが変わることも無かった。
日本で働いていた時だって、結局は自分の生活のために働いていたわけだけど、リンカーズで働くということはもっとシンプルで分かりやすい。
働かなければ食えず、失敗したら死ぬ。そして働いた分だけ成長できるのだ。
働いた分だけ成長できる。これはきっと、日本で働いていても同じだったはず。
でも、少なくとも俺に限って言えば、成長したと実感できる機会にあまり恵まれなかった。
日本に居たままだったら、なんだかんだと周囲に愚痴をこぼしながら、平凡な一生を送っていたことだろう。多分生涯1人っきりでな!
思えば、この世界に馴染むのが我ながら早かった気がする。
肉の下処理をしながら、どうでも良いことをつらつらと考える。単純作業してる時ってついつい色々考えちゃうな。
「ということで、そろそろ2階層を見てこようと思ってるんだ。オーサンから見て、俺は2階層に降りても大丈夫だと思う?」
「どういうワケだよ話が見えねぇ。1から説明しやがれ」
「説明も何も、1階層を回るのにも慣れてきたからさ。毎日のマッドスライム狩りではもうあまり疲れも感じないし、自分ではそろそろ2階層に行っても良い頃合いなんじゃないかと感じるんだよ。
でも俺はまだ10等級の新人冒険者だからな。客観的に評価してもらわないとやっぱ危ないと思って。
その点、ギルド職員のオーサンなら今まで沢山の冒険者を見てきただろうし、オーサンから見てまだ危なっかしいと思えるなら、その判断に従うべきだと思ったんだ」
「はっ、殊勝な考え方じゃねぇか。
……そうだなぁ。ここ数日でトーマは、迷宮に対して気負ったところはなくなってる。体力も多少はついただろうし、2階層に行くのも良い頃合いかもしれねぇな」
お、オーサンからもオッケー頂きました!これで心置きなく2階層に進める。
「ただ……。いや、そうだな。一度試してみた方が早いか。
以前も言ったと思うが、2階層からは迷宮鼠が襲ってくるようになる。まずはネズミを1体倒してすぐ戻ってこい」
ん?
倒すのは勿論だけど、なんで戻ってくる必要が?
「迷宮鼠はその名の通り、動物タイプの魔物だ。冒険者の中にはたまにな、生き物の命を奪うことに、激しい抵抗感を覚えてしまう奴が出るんだよ。
お前が大丈夫かどうかは、実際に倒してみるまでは分からんからな。倒した後に、自分ではなんとも無いと感じたとしても、必ず1回戻ってこい。俺の目で判断してやる」
あーそういう方面での心配か。自分では多分平気だと思うんだけど、どうなんだろうな?
なんとなく冒険者って、盗賊狩りとかしてるイメージ強いし、冒険者を続けていたらいつの日か、人を殺めなければいけない日も来るのだろうか。
その時が来たら、俺は躊躇無く相手を殺すことが出来るのか、そうでないのか。
「オーサンの言ってることは理解したよ。マッドスライムはあまり生物って感じじゃなかったからあまり抵抗なかったけど、見た目も感触も生き物タイプの魔物だと感じるものがあるかもしれない。
なんとなく、自分的には平気なような気はしてるんだけどね」
こういう精神面での淡白さが、神様に目をつけられた『異世界転移に向いている適正』の1つなんじゃないかなぁ、なんてちょっと思い始めてる。
「俺も正直言えば、あまり心配はしてないんだがな。こればっかりは試してみないとわからんもんなんだよ。
3階層からは人型の魔物も襲ってくるようになるし、戦闘も本格化していく。少しでも躊躇いを覚えてしまうようなら、冒険者は向いてないってこった。
……戦うべき時に戦えない奴が混じってると、周囲を巻き込んで不幸になっちまうことだってある」
オーサンの言葉に、なんだか不思議な重みを感じた。
ギルド職員として色々な冒険者を見てきたせいなのか。彼自身の体験に寄るものなのか。
2階層では、冒険者として命を奪って生きていく覚悟を試されるということなのだろう。
果たして俺は冒険者として、覚悟が出来ているのだろうか。
そんなことを思いながら冒険者ギルドを後にした。
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