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1章 仲間との出会い
013 命を奪うという自覚
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散々歩き回ったおかげで、1階層のMAPは完璧に把握している。2階層に続く階段へは迷うことなく到達した。
道中ですれ違ったマッドスライムさんたちは、当然行きがけの駄賃となってもらいました。
勢いそのままに階段を下りて2階層へ。こういうのは勢いが大事よね。考えるほど躊躇しちゃって進めなくなるヤツなんで。
今回は2階層の地図を持参して来ている。既に調査済みの階層であれば、迷宮の地図はギルドで購入出来るのだ。お値段は欲しい階層×銅板1枚。わりと良心的な価格だと思う。
きっとギルドは地図の代金で稼ぐよりも、地図を安価にしてなるべく多くの冒険者を迷宮で活動させた方が、結局は利益が大きいと見込んでいるのだろう。貧乏冒険者の身としては大変有り難い方針だ。
ちなみにもう必要ないかもしれないけれど、1階層の地図も合わせて購入することにした。
いやぁゲーム脳的に考えて、1階層飛ばして購入するってのは、どうしてもモヤモヤしてしまうんだよねー。俺はマップ全部埋めないと気が済まない病の患者です。
現実に迷宮に入ることになって、その病気の症状が出てくるかは今のところ不明。
特に問題も無く2階層へ到達。1階層と比べて、迷宮の内装にはあまり変化は感じない。気持ち薄暗いかな?という程度。
さてと、ここでつっ立ってても仕方ない。迷宮鼠を探さないと。
と、しばらくネズミを探してみた訳ですが。正直2階層舐めてました。1階層が余裕過ぎて、2階層もなんとかなると甘く見すぎてましたわ。
ネズミが強かったわけではない。それ以前の問題。そもそも魔物に出会えないのだ。
2階層を歩いていて、恐らく俺以外に5、6グループが、現在2階層で活動しているっぽい。
1階層はほぼ俺の貸切状態だったので、獲物の奪い合いを意識する機会は無かった。2階層では魔物よりも、他の集団との競争こそがネックなのだ。
このまま無策で動き回ってても魔物に出会うのは難しそうだな。少し情報を整理して、意識的にエンカウントを狙ってみよう。
2階層の地図を広げ、まずは自分の位置を確認する。次にこの階層で他の冒険者と擦れ違った場所を、改めて確認。そして各集団が去っていった方向を思い出し、大雑把に各集団の進行ルートを予想する。
かなり適当な推測だが、アテも無いまま歩き回るよりは幾分かはマシだろう。恐らく人が少ないであろうエリアに当たりをつけて、少し急ぎで移動する。
まだ遭遇してない冒険者が既にそっちにいる可能性?そんなものは考えないことにします。
ん?進行方向から、キィキィって声が聞こえてきた。
冒険者の会話とは思えない。先ほどの予測は運良く当たってくれたようだ。
さて、ネズミとはいえ魔物なんだから、普通に襲ってくるんだよな。ここからは警戒しつつ、なるべく音を立てないように進んでいく。
そして迷宮鼠の姿が見えた。
あれがネズミ?結構でかいな。確か、げっ歯類の中で一番デカいとされるカピバラさんより、多分一回りくらいはデカく見える。サイズはともかく、見た目はネズミそのものだ。
なんだか少し太いというか、裕福そうというか、ネズミという割にはあまり素早そうには見えない。分かりやすく言えば、ネズミにしてはおデブさん体型なのである。
おっと。俺がおデブさんと思ったことがバレたわけではないだろうが、どうやら気付かれてしまったようだ。
こちらに向き直り敵意を飛ばしてくる。新人冒険者の俺に暗殺は無理があったか。
正面から一戦交える覚悟をして棍棒を構える、と同時にネズミが突進してくる!
やべ!コイツ思ったより思い切りが良い!
って一瞬焦ったけど動き自体は遅ぇ!
落ち着け落ち着け、と頭で念じながら、なるべく引き付けてから、大きく右側に避ける。
突進を避けられたネズミは、俺の姿を見失ったのか動きが止まっている。
チャンスだ!
後ろから全力で棍棒を振り下ろし、まずは外しようが無いデカい図体に一撃。棍棒から生き物を殴った重い感触が伝わってくる。考えるな。
殴られて硬直しているネズミの頭めがけて、棍棒を振り下ろす。
一撃。まだ生きている。思ったよりも硬い感触。
もう一撃。なにかが潰れるような感触。まだ生きている。
もう一撃。鈍い音がして、今までよりも深く、頭に棍棒がめり込む。
ようやく倒せたようだ。迷宮に融ける様にネズミの体は消えていった。
残されているドロップアイテムを拾う。確か魔法石だったっけ?
ただ宿とかギルドで目にしたものと比べて、サイズは小さいな。ゴルフボールくらいの大きさだろうか?
魔法石を袋に入れて息を吐く。ふぅ、これが2階層。これが命のやり取りか。
気付くと全身が汗で濡れていた。
相手は強くなかったし、攻撃を受けることも無く、結果的には一方的な勝利だった。
しかし初めて向けられた、明確な殺意と敵意。命を奪ってしまった生々しい感触が、まだ手に残っている。
大丈夫。俺は落ち着いているはずだ。俺は今後も冒険者として、活動していけるはず。
せっかく魔物と遭遇できるエリアに来たんだ。もう少し戦闘を試してみるか、言われたとおり戻るか。
ここまで考えて気付く。やはり自分は興奮状態にあるのではないかと。
自分では平静だと思ってるけど、全く動揺していないわけではないんじゃないか?
わずかであれ、動揺した状態で迷宮に滞在し続けるのは危険だ。この日は言われたとおりに迷宮を出ることにした。
戻った俺を見たオーサンは「今日はこれで終わりにして宿に戻れ。明日の朝に自分の体調に問題が無ければ、トーマは大丈夫ってこった」と評した。
宿に帰り、いつも通り食事をして、いつも通り就寝する。
朝いつも通りの時間に起床し、いつも通り朝の仕込を手伝い、いつも通りにギルドに顔を出した。
「お前さんにゃあ、冒険者って仕事に適正があるってこったな」
オーサンはいつも通り、めんどくさそうにそう口にした。
道中ですれ違ったマッドスライムさんたちは、当然行きがけの駄賃となってもらいました。
勢いそのままに階段を下りて2階層へ。こういうのは勢いが大事よね。考えるほど躊躇しちゃって進めなくなるヤツなんで。
今回は2階層の地図を持参して来ている。既に調査済みの階層であれば、迷宮の地図はギルドで購入出来るのだ。お値段は欲しい階層×銅板1枚。わりと良心的な価格だと思う。
きっとギルドは地図の代金で稼ぐよりも、地図を安価にしてなるべく多くの冒険者を迷宮で活動させた方が、結局は利益が大きいと見込んでいるのだろう。貧乏冒険者の身としては大変有り難い方針だ。
ちなみにもう必要ないかもしれないけれど、1階層の地図も合わせて購入することにした。
いやぁゲーム脳的に考えて、1階層飛ばして購入するってのは、どうしてもモヤモヤしてしまうんだよねー。俺はマップ全部埋めないと気が済まない病の患者です。
現実に迷宮に入ることになって、その病気の症状が出てくるかは今のところ不明。
特に問題も無く2階層へ到達。1階層と比べて、迷宮の内装にはあまり変化は感じない。気持ち薄暗いかな?という程度。
さてと、ここでつっ立ってても仕方ない。迷宮鼠を探さないと。
と、しばらくネズミを探してみた訳ですが。正直2階層舐めてました。1階層が余裕過ぎて、2階層もなんとかなると甘く見すぎてましたわ。
ネズミが強かったわけではない。それ以前の問題。そもそも魔物に出会えないのだ。
2階層を歩いていて、恐らく俺以外に5、6グループが、現在2階層で活動しているっぽい。
1階層はほぼ俺の貸切状態だったので、獲物の奪い合いを意識する機会は無かった。2階層では魔物よりも、他の集団との競争こそがネックなのだ。
このまま無策で動き回ってても魔物に出会うのは難しそうだな。少し情報を整理して、意識的にエンカウントを狙ってみよう。
2階層の地図を広げ、まずは自分の位置を確認する。次にこの階層で他の冒険者と擦れ違った場所を、改めて確認。そして各集団が去っていった方向を思い出し、大雑把に各集団の進行ルートを予想する。
かなり適当な推測だが、アテも無いまま歩き回るよりは幾分かはマシだろう。恐らく人が少ないであろうエリアに当たりをつけて、少し急ぎで移動する。
まだ遭遇してない冒険者が既にそっちにいる可能性?そんなものは考えないことにします。
ん?進行方向から、キィキィって声が聞こえてきた。
冒険者の会話とは思えない。先ほどの予測は運良く当たってくれたようだ。
さて、ネズミとはいえ魔物なんだから、普通に襲ってくるんだよな。ここからは警戒しつつ、なるべく音を立てないように進んでいく。
そして迷宮鼠の姿が見えた。
あれがネズミ?結構でかいな。確か、げっ歯類の中で一番デカいとされるカピバラさんより、多分一回りくらいはデカく見える。サイズはともかく、見た目はネズミそのものだ。
なんだか少し太いというか、裕福そうというか、ネズミという割にはあまり素早そうには見えない。分かりやすく言えば、ネズミにしてはおデブさん体型なのである。
おっと。俺がおデブさんと思ったことがバレたわけではないだろうが、どうやら気付かれてしまったようだ。
こちらに向き直り敵意を飛ばしてくる。新人冒険者の俺に暗殺は無理があったか。
正面から一戦交える覚悟をして棍棒を構える、と同時にネズミが突進してくる!
やべ!コイツ思ったより思い切りが良い!
って一瞬焦ったけど動き自体は遅ぇ!
落ち着け落ち着け、と頭で念じながら、なるべく引き付けてから、大きく右側に避ける。
突進を避けられたネズミは、俺の姿を見失ったのか動きが止まっている。
チャンスだ!
後ろから全力で棍棒を振り下ろし、まずは外しようが無いデカい図体に一撃。棍棒から生き物を殴った重い感触が伝わってくる。考えるな。
殴られて硬直しているネズミの頭めがけて、棍棒を振り下ろす。
一撃。まだ生きている。思ったよりも硬い感触。
もう一撃。なにかが潰れるような感触。まだ生きている。
もう一撃。鈍い音がして、今までよりも深く、頭に棍棒がめり込む。
ようやく倒せたようだ。迷宮に融ける様にネズミの体は消えていった。
残されているドロップアイテムを拾う。確か魔法石だったっけ?
ただ宿とかギルドで目にしたものと比べて、サイズは小さいな。ゴルフボールくらいの大きさだろうか?
魔法石を袋に入れて息を吐く。ふぅ、これが2階層。これが命のやり取りか。
気付くと全身が汗で濡れていた。
相手は強くなかったし、攻撃を受けることも無く、結果的には一方的な勝利だった。
しかし初めて向けられた、明確な殺意と敵意。命を奪ってしまった生々しい感触が、まだ手に残っている。
大丈夫。俺は落ち着いているはずだ。俺は今後も冒険者として、活動していけるはず。
せっかく魔物と遭遇できるエリアに来たんだ。もう少し戦闘を試してみるか、言われたとおり戻るか。
ここまで考えて気付く。やはり自分は興奮状態にあるのではないかと。
自分では平静だと思ってるけど、全く動揺していないわけではないんじゃないか?
わずかであれ、動揺した状態で迷宮に滞在し続けるのは危険だ。この日は言われたとおりに迷宮を出ることにした。
戻った俺を見たオーサンは「今日はこれで終わりにして宿に戻れ。明日の朝に自分の体調に問題が無ければ、トーマは大丈夫ってこった」と評した。
宿に帰り、いつも通り食事をして、いつも通り就寝する。
朝いつも通りの時間に起床し、いつも通り朝の仕込を手伝い、いつも通りにギルドに顔を出した。
「お前さんにゃあ、冒険者って仕事に適正があるってこったな」
オーサンはいつも通り、めんどくさそうにそう口にした。
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