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2章 強さへの道標

036 魔法についての基礎知識

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「おうトーマ。昨日のスクロールはお前が使ったんだな」


 朝一でオーサンにバレた。あれ?確かに持ち帰って売りに出さなかったけど、使ったのが俺だって所までバレたのはなんで?


「まぁね。2人は要らないってことで俺が使わせてもらったよ。でもなんでオーサンがそれを知ってるんだ?」


 スキル由来の推察ならば教えてくれないかもしれないが、一応聞いてみる。


「ああ、俺は『魔力探知』のスキルも持ってるからな。魔法を使えるヤツと使えないヤツでは微妙に体内の魔力の流れに違いがあるんだ。
 トーマには毎日会ってるからな。変化はすぐにわかったぞ。
 魔力探知は誰でも持ってるスキルってぇわけじゃねぇが、少なくとも4等級以上の冒険者なら持ってないほうが珍しいくらいの必須スキルだ。早いヤツなら6等級に上がる前に取得することもあるらしいな」


 ふむ、つまり魔法を使えるかどうかは隠すことが出来ないということか。
 って言っても冒険者として上を目指せば、むしろ魔法を使えない人のほうが少なくなっていきそうなんだよなぁ。あまり気にしても仕方ないか。


「なるほどねー。ちなみにオーサンは昨日スクロール見たから俺が音魔法を覚えたってのは知ってると思うけど、例えば魔力探知スキルや魔導具とか、何らかの方法で俺が取得している魔法を、俺に気付かれずに知る方法ってあるのか?」


 例えば鑑定のスキルとかかな。


「んー?あるかも知れねぇが俺は知らねぇな。魔力探知で分かるのは、相手が魔法を使えるかどうかだけだ。
 尋問用のスキルや魔導具で無理矢理聞き出すってことは可能かもしれねぇが、本人に気付かれずに情報を盗み見るって方法は聞いたことねぇよ」


 情報を抜かれる可能性は否定できないけど、少なくとも一般的ではないってことか。

 銀貨2枚を支払って本日の訓練を始めてもらう。



 走りこみは前回より長時間走らされて、結局3人とも倒れるまで走らされた。


「まだまだ足りねぇが、先週に比べりゃだいぶマシになったのは認めてやるよ」


 あ、はい。増えた体力分余計に走らされたんで、喜ぶ余裕もないっすけどね……。




 走り込みの後は武器の指導だ。


「3人とも前回と比べてサマになってきてはいる。毎日訓練を続けてるようで感心感心」


 まぁサボった分だけ迷宮攻略が遅れるだけだからな。今はサボる余裕がないだけともいう。


「ただ、トーマはどうだかなぁ。駆け出しの癖に色々手を出しすぎじゃねぇか?
 メインが両手持ちの戦斧というかウォーハンマー、サブウェポンで短剣とスリングショットって選択自体は悪くねぇと思うんだけどな。出来ることが多いに越したことはねぇが、それぞれの技術が中途半端になる場合もあるぞ。
 結局はトーマの判断に任せるが、欲張りすぎるとロクなことにならんから気をつけろ」


 オーサンから苦言を呈されてしまった。

 今のメイン火力である石斧を外すわけには行かないし、ソロになったときの可能性を考えると、接近戦武器である短剣術も今のうちに鍛えておきたい。
 そして遠距離武器は連携にも奇襲にも使いやすい武器だから、必要になる前に扱いを覚えておきたいんだよなぁ。

 って、これこそが欲張っているってことか。気をつけよう。


 お昼寝休憩を挟んだら、またひたすら模擬線を行うようだ。



 休憩室でシンとリーンが寝たのを確認してから、2人を起こさないよう静かに部屋を出る。この時間に魔法についてもう少し確認しておきたいのだ。

 1階の受付ロビーでオーサンを発見する。


「オーサンちょっと話があるんだけど、今って時間もらえるかな?」

「あん?ちゃんと休んでおかねぇとあとが辛いと思うがな。まぁ話すのは問題ねぇよ、話してみろ」


 銀貨2枚はオーサンを1日貸し切るための料金だからな。今日1日オーサンはギルドの通常業務を免除されているらしい。


「魔法についてもう少し聞いておきたくてね。今のところ魔法を使えるのは俺だけだから、訓練時間を割いてもらうのもどうかと思って今聞きに来たんだ」


 魔法使いオーサンに魔法についてもう少ご教授願おう。


「まずは魔力について。魔法使用の代償として魔力が使われるのは知ってるし、自分でも実際試したから分かってるんだけどさ。消費した分の魔力の回復ってどんな感じなのか教えてくれないか」

「なんか思った以上に初歩的な質問だったが、まぁいい。
 基本的に魔力は勝手に回復して行くもんだ。ただ、安静にして休むとか、睡眠を取ったりすると回復効率が良くなる。つまるところ、体力の回復方法とさほど変わらないということだ。
 体力と魔力の回復方法に違いがあるとするならば、魔力の回復は体を激しく動かしている時でも多少は回復していくという点だな。先ほどの訓練や、魔物と激しい戦闘している最中にも、魔力を使用していなければ失った魔力の回復は行われている。勿論回復効率は良くないんだけどな」


 ん、これはちょっと勘違いしそうだから整理しておく。
 戦闘中も常に魔力が回復し続けているという訳ではなくて、あくまでも使魔力は回復していく。

 を使用していない限り、ではなくを使用していない限り、なのだ。この2つの違いは大きいだろう。

 つまりは魔法でなくとも、魔力を必要とするスキルを使用していては魔力は回復しないのだ。当たり前と言えば当たり前なのだが、常時発動型の魔力消費系スキルなんてものがないとも限らない。


「なるほどねー。魔力の操作だったり、設置型の魔法を行使する場合はどんな扱いなんだ?」

「んなモン覚えてから試せば、説明なんかいらねぇと思うんだけどなぁ」


 俺は理屈から入るタイプなんだよっ。


「魔力操作してるだけでも回復は止まるし、設置型魔法の場合は、設置する時と発動する時にそれぞれ魔力を使う。魔法を設置したあと、発動待ちの状態なら魔力は必要ないから回復するぞ。
 ただ殆どの魔法の場合、設置してから発動するまでは、あまり長い時間維持できない」


 あー、魔法関係は意識して制限かけてあるって書いてあったからな。
 トラップを設置して長時間隠れている、とかは難しいわけだ。


「なるほど、ありがとう。最後にあと2つ教えて欲しい。
 もし体内の魔力を使い果たしたらどうなるのか。
 そして、体内の魔力量を増やすにはどうしたら良いのか」


 今後の育成方針にも関わってくるし、この2つは特に重要だ。


「あーっと、つまりは魔力切れの説明だな。
 一般的に、体内の魔力を使い切った状態を『魔力切れ』と呼んでいる。魔力切れを起こしてしまうと意識が飛んでしまい、最低限の魔力が回復するまで気絶し続ける。迷宮の中で魔力切れなんて起こしたらかなり危険だぞ。寝る前にでも魔力を使いきって、一度体験してみるこったな。
 信用できる仲間の前でも一度魔力切れを見せておいて、どの程度の時間で回復するかも確認したほうがいい。人によって魔力の回復が早いヤツとかいたりするからな」


 魔力切れは起こさないのが基本だけど、起こしてしまった場合も想定しておけってことだな。


「そんで魔力量を増やす方法だが、具体的な方法ってのは知らねぇ。魔法の訓練を続けて、魔物を倒し続けていればいつの間にか増えてるもんだからな。
 魔法を専門的に研究してるヤツとかならコツみたいなものを知ってる可能性もあるが、少なくとも俺は知らんな」

「あー……、結局は地道に鍛えろってことか?」

「そうそう。上達に近道なんてねぇってこったな」


 う~ん、ファンタジー世界でも結局は『地道にコツコツ努力を積み重ねる』が最適解なんだな。楽して成せる事もなしってか。

 都合良く一足飛びで強くなる方法なんて、リンカーズには用意されていないらしい。人生地道が一番の近道です。


 ここって本当にファンタジー世界なんですかねぇ……。
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