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5章 カルネジア・ハロイツァ

085 勧誘

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「……トーマ、本気なの?たった今僕らを襲ってきた張本人なんだけど?」


 シンの気持ちは分かる。
 今回の襲撃の実行犯だし、ハロイツァの実妹ってのもかなり気になる部分なのだろう。


「はは、シンもちょっと考えてみてくれよ。
 コイツはカルネジア家では冷遇されていて立場も低い。見逃しても殺しても、俺達になんのメリットもないだけじゃなく、カルネジア家すら痛くも痒くもないってくらい影響がないらしい。
 ならいっそのこと、こちら側に引き込んでしまえば、こっちの戦力増強に繋がるし、カルネジア側に情報漏洩という点で、デメリットを与えることが出来る」

「……でもコイツはカルネジアの人間でしょ?裏切ったらどうするの?」

「裏切ったら即殺すよ。どんな理由があろうが知ったこっちゃない。
 でもさぁシン。今まで絶対に逆らわずに好きに扱えた妹が敵に寝返ったら、嫌われ者のハロイツァくんがどんな顔をするか、ちょっと興味ないかい?
 と嫌がらせの意味も勿論あるんだが、ハロイツァは3等級らしいからな。オーサンよりも2つも上だと考えると、俺達3人だけで事を乗り切るのは厳しいと思っての判断でもある」

「私達は、オーサンよりもずっと強い相手を倒さなきゃいけないんだね……」


 リーンの顔が強張っている。
 俺達3人とも、未だにオーサンには遊ばれてる状態だからなぁ。
 それでも撃退できなければ、バッドエンドに直行するだけだ。


「それでシン。個人間での奴隷契約ってのは可能なのかな?」

「ああ、それは可能だよ。コイツが受け入れるならだけど、絶対服従を条件にすることも出来るはずだ。
 スレイさんのところに行けば、お金はかかるだろうけど対応してくれると思う」


 口約束だけよりも、奴隷契約で縛れるならそれに超した事はない。


「ってことだが。俺に絶対服従という条件で奴隷契約するなら、こっち側に来させてやるぞ?
 一応契約期限は、ハロイツァの破滅を見届けるまで。それが済んだら解放してやる」

「えっ?解放……して、くれるの?」

「まぁな。奴隷なんて2人だけでも手一杯だって痛感したからな。
 ハロイツァさえいなくなりゃ、お前も俺達を狙う必要はなくなるんだろ?なら解放しても良いってだけだ」

「ね、狙いません……!絶対、絶対にもう貴方がたを狙ったりしません……!」

「お前も考えてみろよ。このままハロイツァについたままでいるのと、ここで俺たちに付くの、どちらがいいかをな。
 ハロイツァの元に帰れば、今回は許されたとしても、今までの冷遇の日々がこれからも続くだけじゃないのか?
 逆に俺達の側に付いたらどうだ?
 失敗したら死ぬのはどっちでも一緒だろ?でも成功したらハロイツァから解放されるんだぜ?賭けてみる価値は無いか?」

「ハロイツァから……、あの男から、解放……?」


 ハロイツァ君が、嫌われ者の暴君俺様野郎でありがたい限りだ。
 結局本人にどれだけ戦闘力があろうとも、周囲に嫌われていては切り崩されてしまうって話だな。
 俺もみんなに嫌われないように気をつけないとなぁ。


「そうだなぁ。うちに来たら朝は寝過ごしても罰なんかないし、俺達と一緒にまともな食事が腹いっぱい食えるぞ。
 夜だって俺達と一緒に好きなだけ寝れるし、お前だけに寝る時間を削って仕事を押し付けたりはしない。
 仕事が終らなくて寝れない日なんてないし、無理を押し付けておいて罰を与える、無能な上司も居ないぞ?」


 女が段々目を見開いてこちらを見ている。「なんでそれを!?」って感じか?
 まったく、冷遇されてる奴ってのは、異世界でも日本でも扱いは変わらないのかよ。


「勿論治療もしてやるし、新しい装備も用意しよう。それとお前さ、祝福の儀を受けたこと無いよな?
 明らかに6等級冒険者よりも腕が立つのに、魔装術が使えないなんて、カルネジア家、っつうかハロイツァ個人か?どちらにしても、お前に祝福の儀を受けさせてくれなかったんだろうとしか思えない。
 俺に下れば祝福の儀だって、俺の金ですぐに受けさせてやるぞ。
 ハロイツァと本気で敵対する覚悟があるなら、お前も戦力として数えてやるからな」

「うそ、でしょう……?祝福の儀を、私が……」


 むしろ、祝福の儀を受けさせない理由が無い。
 受けさせなかったハロイツァが完全に阿呆なだけだ。

 部下の戦闘力が上がれば、任務の達成率も上がるし、所要時間の短縮にも繋がるのに。
 本当に脳味噌入ってるのか疑わしくなってくるくらいのアホだ。

 リーンのことがなかったとしても、仲良くなれなかっただろうなぁ。


「お前さ、ハロイツァのこと大嫌いだろ?自分を冷遇するハロイツァと、誰も助けてくれないカルネジア家の事を、憎んでるし恨んでるんじゃないか?
 俺達は流石にカルネジア家までは相手にするつもりは無いけど、ハロイツァは俺達に突っ掛かって来るみたいだから、破滅してもらおうと思ってんだよね。
 お前も参加したくないか?
 カルネジア・ハロイツァが見下している人種に敗北して、破滅していく様子をさぁ」


 女の目に光が灯ったように見えた。暗く深い、憎悪の光が。


「まぁね。俺はハロイツァくんとは違って、ちゃんとお前の意思は尊重するし、嘘もつく気はない。
 3等級のハロイツァに比べて、俺達は7等級に上がったばかりの駆け出し、はっきり言って勝算は低い。
 だからお前の意思で選ばせてるんだ。
 なぁ、カルネジア家で過ごしてきたお前こそ、想像しやすいんじゃないのか?
 無様に人種に敗北を喫したハロイツァが、その後どんな扱いを受けるかって事をさぁ」


 ……女が震えている。
 どうやら蓋が開いたようだな。


「……私は、いえ私も!ハロイツァを破滅に追い込みたい!
 私だって、好きでカルネジア家に生まれたわけじゃない!好きで人種に生まれたわけじゃないのに!
 人種だってだけで、なんでこんな扱いされ続けなきゃいけないのよ!
 もう沢山!もう沢山だわ!ハロイツァにもカルネジアにも、恩なんか1つも無い!
 ハロイツァを破滅させられるなら、私はなんだってします!
 お願い!私もハロイツァの破滅を見たい!私の手で破滅させてやりたい!
 私も仲間に入れてください!お願いします!どうか!」



 ん?今なんでもするって……、いやなんでもないです。
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