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6章 波乱のヴェルトーガ
閑話013 夢の異世界と、現実の異世界③ ※ハル視点
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「俺がいない間はシン、お前にリーダー任せていいか?」
トーマがディオーヌ様の依頼の延長で、数日間パーティを抜けることになった。残ったメンバーで、私の教育を重視して過ごすことになった。
魔装術やダガーの扱いを重点的に教わり、先日覚えさせてもらった音魔法の使い方もレクチャーしてもらった。
「でも生活魔法は、正直トーマに教えてもらった方がいいと思う。僕たちとトーマの魔法の使い方は違いすぎてね。全然真似できないんだ」
いや、それはトーマがおかしいんであって、私も同じこと出来るとは思えないよ?
宿に戻り夕食を食べ、みんな一緒の部屋で宿泊するのは継続する。トーマが居なければ、部屋を分ける必要はないもんね。
今晩から早速、リーンセンパイの読み書き講座が始まるみたい。
「ふふ。こうしてると、トーマに読み書き教えてたことを思い出すよー。トーマも読み書き出来なかったから、先輩の私が教えてあげたんだよー?」
「ま、その頃はまだ僕らは正式なパーティを組んでなかったから、ちゃんとお金を貰って、仕事として教えてたんだけどね」
「へぇ。ハルの話を聞いた今となっては納得ですけど、あのトーマが読み書きも出来なかった頃があったんですねぇ」
「うん。トーマが色々出来なかった頃って、今のトーマを見るとちょっと想像できないよね」
「トーマは本当に変わった冒険者だったよ。別の世界から来たって聞いて、逆に納得してしまったくらいにね。
僕やリーンに教えを乞うことも躊躇わないし、人と深く関わらないようにしてるみたいなのに、危なっかしくて周りの人がついつい気にしちゃうんだよね」
「そうそう!会ったばかりの私達に、自分の武器を渡しちゃったりするのよー?私と兄さんの2人がかりで襲ったらどうするつもりだったの、っていうねー」
みんなとお喋りしながらの読み書きの授業は、すっごく楽しかった。まるで、同級生と他愛もないことで盛り上がる、私の夢見ていた青春そのものだ。
その夜、トーマは宿に戻ってこなかった。おつかれさまですリーダー。
でもそのおかげで、みんなと一緒に寝るまでお喋りできて楽しかった。
次の日からはトーマ抜きで迷宮に潜って、2階層で探索を行う。
レッサーゴブリン相手に単独で戦えるようにと、何度も何度も戦わされた。でも、スキルのおかげか移動が辛くない。そして魔装術の効果が想像以上で驚いた。
魔装術無しでレッサーゴブリンにダガーを突き入れたときは、肉に刃を入れる感触が生々しく伝わってきたのに、魔装術を使って攻撃すると、まるでバターでも切るように、殆ど力も入れずに切り裂くことが出来た。
「ハルも少しずつではあるけど、戦えるようになってきたね!
トーマが初めてスキルを取ったのって、この世界にきてから50日くらい経った後みたいなんだよー。それを考えると、ハルのほうが全然成長早いよー!」
チートもなく、若返りもせず、スキルもなく、仲間も無しに、50日間もどうやって生きてたのあの人?トーマみたいな人は、日本にだってなかなか居ないはず。
その日もトーマは帰ってこなかった。缶詰めにされてるみたい。
次の日は、チャンスがあればレッサーゴブリン以外の魔物とも戦うことになった。
アーマーラットの装甲も、魔装術があれば問題なく貫けるし、みんなの動きを見ていれば、2階層の魔物の動きなんて全然遅い。
まだまだみんなのフォローが無いと戦えないけれど、魔物の命を奪うことには、あまり抵抗を感じなくなってきた気がする。
その日の夕食後、リーンセンパイの読み書き講座を受講していると、ようやくトーマが帰ってきた。
「ごめん……!とりあえず一旦寝させて……!」
そう言ってベッドに沈んでいった。お勤めご苦労様です。
リーンは読み書き講座を中断することこそなかったけど、なんだかずっとソワソワしていた。トルネを見ても同じようにソワソワしていて、なんだかおかしかった。
授業を終えるや否や、2人ともすぐにトーマのベッドに潜りこんだ。トーマを起こすわけじゃなくて、ただ一緒にいたいだけなんだろうなぁ。
なんだか2人の邪魔をしたくなくて、シンを誘って部屋を出た。
「シン。ありがとうね。みんなが居なかったら、私どうなっていたかわからないよ。もしかしたら奴隷になったり、犯罪者になっていた未来もあったかもしれない」
「いやいや。お礼をならトーマに言ってよ。ハルを助けると決めたのも、その後ハルを守ると決めたのも、全部トーマだよ。
僕は同じパーティの仲間に力を貸しただけさ」
謙遜じゃなくて、本気で言っているように見える。シンってトーマの事、大好きだもんね。
「そうかな?私が久我に捕まったときも、あいつらと戦ったときも、私を守ってくれたのはシンだったよ?訓練場で戦い方を教えてくれたのも、悩みを聞いてくれたのもシンだった。だからありがとう。
うん。なにも間違ってないよ?」
「あはは。どういたしまして。なんだかトーマと初めて会った時を思い出したよ。
僕とリーンがもう少しで命を落すところを、トーマに助けてもらったんだけどさ。トーマは『大人しく俺に奢られろ』なんて言うんだよ?
まったく、トーマやハルが居た世界は、とっても優しい人が多かったんだろうなって思ってるよ」
どうなのかな。優しい人は多かったかもしれない。でもこの世界だって、優しい人ばかりだと思う。
シンはトーマのことを話すとき、本当に嬉しそうな顔をする。
ああ、やだなぁ。なんで私は、あんな中年のおっさんに、嫉妬しちゃってるんだろう。
ふふ、嫉妬。嫉妬か。なんだか私、恋する少女みたい。
これが青春ってことなのかな?今まで体験してきてないから、良く分からない。
ただ1つ言える事は、私はシンをトーマになんかあげたくないってことだ。
「ねぇシン。私、シンのことが好きだよ」
トーマがディオーヌ様の依頼の延長で、数日間パーティを抜けることになった。残ったメンバーで、私の教育を重視して過ごすことになった。
魔装術やダガーの扱いを重点的に教わり、先日覚えさせてもらった音魔法の使い方もレクチャーしてもらった。
「でも生活魔法は、正直トーマに教えてもらった方がいいと思う。僕たちとトーマの魔法の使い方は違いすぎてね。全然真似できないんだ」
いや、それはトーマがおかしいんであって、私も同じこと出来るとは思えないよ?
宿に戻り夕食を食べ、みんな一緒の部屋で宿泊するのは継続する。トーマが居なければ、部屋を分ける必要はないもんね。
今晩から早速、リーンセンパイの読み書き講座が始まるみたい。
「ふふ。こうしてると、トーマに読み書き教えてたことを思い出すよー。トーマも読み書き出来なかったから、先輩の私が教えてあげたんだよー?」
「ま、その頃はまだ僕らは正式なパーティを組んでなかったから、ちゃんとお金を貰って、仕事として教えてたんだけどね」
「へぇ。ハルの話を聞いた今となっては納得ですけど、あのトーマが読み書きも出来なかった頃があったんですねぇ」
「うん。トーマが色々出来なかった頃って、今のトーマを見るとちょっと想像できないよね」
「トーマは本当に変わった冒険者だったよ。別の世界から来たって聞いて、逆に納得してしまったくらいにね。
僕やリーンに教えを乞うことも躊躇わないし、人と深く関わらないようにしてるみたいなのに、危なっかしくて周りの人がついつい気にしちゃうんだよね」
「そうそう!会ったばかりの私達に、自分の武器を渡しちゃったりするのよー?私と兄さんの2人がかりで襲ったらどうするつもりだったの、っていうねー」
みんなとお喋りしながらの読み書きの授業は、すっごく楽しかった。まるで、同級生と他愛もないことで盛り上がる、私の夢見ていた青春そのものだ。
その夜、トーマは宿に戻ってこなかった。おつかれさまですリーダー。
でもそのおかげで、みんなと一緒に寝るまでお喋りできて楽しかった。
次の日からはトーマ抜きで迷宮に潜って、2階層で探索を行う。
レッサーゴブリン相手に単独で戦えるようにと、何度も何度も戦わされた。でも、スキルのおかげか移動が辛くない。そして魔装術の効果が想像以上で驚いた。
魔装術無しでレッサーゴブリンにダガーを突き入れたときは、肉に刃を入れる感触が生々しく伝わってきたのに、魔装術を使って攻撃すると、まるでバターでも切るように、殆ど力も入れずに切り裂くことが出来た。
「ハルも少しずつではあるけど、戦えるようになってきたね!
トーマが初めてスキルを取ったのって、この世界にきてから50日くらい経った後みたいなんだよー。それを考えると、ハルのほうが全然成長早いよー!」
チートもなく、若返りもせず、スキルもなく、仲間も無しに、50日間もどうやって生きてたのあの人?トーマみたいな人は、日本にだってなかなか居ないはず。
その日もトーマは帰ってこなかった。缶詰めにされてるみたい。
次の日は、チャンスがあればレッサーゴブリン以外の魔物とも戦うことになった。
アーマーラットの装甲も、魔装術があれば問題なく貫けるし、みんなの動きを見ていれば、2階層の魔物の動きなんて全然遅い。
まだまだみんなのフォローが無いと戦えないけれど、魔物の命を奪うことには、あまり抵抗を感じなくなってきた気がする。
その日の夕食後、リーンセンパイの読み書き講座を受講していると、ようやくトーマが帰ってきた。
「ごめん……!とりあえず一旦寝させて……!」
そう言ってベッドに沈んでいった。お勤めご苦労様です。
リーンは読み書き講座を中断することこそなかったけど、なんだかずっとソワソワしていた。トルネを見ても同じようにソワソワしていて、なんだかおかしかった。
授業を終えるや否や、2人ともすぐにトーマのベッドに潜りこんだ。トーマを起こすわけじゃなくて、ただ一緒にいたいだけなんだろうなぁ。
なんだか2人の邪魔をしたくなくて、シンを誘って部屋を出た。
「シン。ありがとうね。みんなが居なかったら、私どうなっていたかわからないよ。もしかしたら奴隷になったり、犯罪者になっていた未来もあったかもしれない」
「いやいや。お礼をならトーマに言ってよ。ハルを助けると決めたのも、その後ハルを守ると決めたのも、全部トーマだよ。
僕は同じパーティの仲間に力を貸しただけさ」
謙遜じゃなくて、本気で言っているように見える。シンってトーマの事、大好きだもんね。
「そうかな?私が久我に捕まったときも、あいつらと戦ったときも、私を守ってくれたのはシンだったよ?訓練場で戦い方を教えてくれたのも、悩みを聞いてくれたのもシンだった。だからありがとう。
うん。なにも間違ってないよ?」
「あはは。どういたしまして。なんだかトーマと初めて会った時を思い出したよ。
僕とリーンがもう少しで命を落すところを、トーマに助けてもらったんだけどさ。トーマは『大人しく俺に奢られろ』なんて言うんだよ?
まったく、トーマやハルが居た世界は、とっても優しい人が多かったんだろうなって思ってるよ」
どうなのかな。優しい人は多かったかもしれない。でもこの世界だって、優しい人ばかりだと思う。
シンはトーマのことを話すとき、本当に嬉しそうな顔をする。
ああ、やだなぁ。なんで私は、あんな中年のおっさんに、嫉妬しちゃってるんだろう。
ふふ、嫉妬。嫉妬か。なんだか私、恋する少女みたい。
これが青春ってことなのかな?今まで体験してきてないから、良く分からない。
ただ1つ言える事は、私はシンをトーマになんかあげたくないってことだ。
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