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6章 波乱のヴェルトーガ
149 アリスとの会話
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「これより王国で共有すべき情報の検討を行います。
まずは今回の事件の顛末についてまとめますね。トーマとアリスは、気になる点があったら指摘して下さい」
「了解です」「わかりました」
現在はタイデリア家のお屋敷の一室。ディオーヌ様を始め、ヴェルトーガの重鎮が勢揃いしているらしいが、紹介は省かれたので、ベンベムさんやガガンザさんなどの、既に面識のある人以外は全く分からない。
現在はベンベムさん、スカーさんの両名が、今回の連続行方不明事件の顛末について、出席者全員に情報を共有しているところで、今のところ暇で仕方ない。
「トーマさん、でしたよね?貴方も異邦人と言ってましたよね。少しお話してもいいですか?」
どうやらアリスも暇だったようで、隣りにいる俺に話しかけてきた。
ちなみに、リヴァーブ王国の外からやってくる人間のことを指して『異邦人』と呼ぶことが、暫定的にではあるが決定した。なんせリンカーズには、リヴァーブ王国しか存在してないからな。異邦人って概念が今までなかった。
俺とアリスは同じ異邦人ということで、一緒くたにまとめられている状態だ。
「トーマでいいよ。敬語も要らない。俺もアリスって呼ばせてもらうし。俺も暇してたし、雑談歓迎だ」
っとここで、そういえばアリスにはちゃんと自己紹介してなかったことを思い出した。
「改めて名乗っておこうか。俺はトーマ。35歳。アリスと同じく異邦人だ。
俺が来たのは100日くらい前だね。ヴェルトーガじゃなく、ベイクって迷宮都市で活動してた。今は冒険者として、迷宮に入って生計を立てている。
縁あってディオーヌ様と知り合って、今回の事件解決に協力をした。こんなところかな」
「ええ、それじゃあ私もトーマと呼ばせてもらうわ。
まずは、みんなを止めてくれてありがとう。あのままだったら、この街を壊滅させるまで暴走していたかもしれない……」
スカーさんレベルの人が何人も居そうだから、一方的に蹂躙されるとも思えないけど、チート能力の認識を誤っていたら、結構ズルズルと長引いたかもしれないな。
死んだ異邦人6名と、そいつらに弄ばれた被害者には申し訳ないが、最小限の被害で済んだと言えるだろう。
「それに、多少自由は制限されるだろうけど、ディオーヌ様に保護して貰えたのも助かったわ。多分貴方がいなければ、私も殺されて終わりだったと思う」
「いや、それはアリス自身の行動の結果だよ。
あいつらのように力に流されず、自分に出来ることを精一杯やった結果が、被害者の女性に認められたって事だろ。あいつらを止められなかったは仕方ない。特に速水の野郎に逆らう方法はなかっただろうしな」
一応会議の邪魔にならないように、俺とアリスの会話は他の人の耳に届く前に消している。魔力の動き自体は気付かれているだろうけど、会話が聞かれなきゃ問題ないだろ。
「私たちは、この世界に送られてくる前に初めて顔を合わせたんだけど、みんな漫画とかアニメが大好きでね?異世界転移って聞いて、どんな能力でも1つ貰えるって聞いて、凄く嬉しかったの。
私たちは力を合わせて、これから向かう世界の人たちを助けて回ろうって、すっごく盛り上がって、意気投合したんだよ?
……それがどうしてこうなっちゃったんだろう。何が間違っていたのかしら?私達とトーマで、一体なにが違っていたのか、教えてくれないかしら……?」
アリスから見れば、俺の立場こそが自分が立ちたかった場所なのかもしれないな。
それが気付いたら、自分が倒されるべき悪役に回っていたとなれば、恨み言の1つも言いたくなるのかもしれない。
「さあね。もしかしたら、チートを貰って仲間が居たら、俺も同じ道を辿ったかもしれない。
俺のときは頼れる仲間なんて居なかったし、チート能力も貰えなかったから、あいつらみたいに振舞いたくても振舞えなかっただけなんじゃねぇかな。7人で来たって事は、全員で銀貨70枚もあったろ?なんで犯罪になんか手を染めたのか、こっちこそ意味わからねぇよ」
ヴェルトーガに入るのに銀貨21枚。身分証と冒険者登録と探索許可証の発行に銀貨21枚。宿泊費に21枚取られたとしても、銀貨7枚も余剰金があったはずだ。
こいつらのチートがあれば、ヴェルトーガの1階層で死ぬ心配もない。むしろいくらでも簡単に稼げたはずなのにな。
「仕方ないじゃない!冒険者になるのにお金が要るなんて知らなかった!迷宮に入るのにお金が要るなんて知らなかったの!私達だって真っ当に稼ごうとしたわ!でも出来なかった!出来なかったのよ!
なんでよ!冒険者になるのって普通無料でしょ!?迷宮に入るのにお金が要るってなんでなのよ!?街への出入りにもお金がかかるから、外で魔物を探すことも出来なかった!!
私たちは一体、どうすれば良かったっていうのよっ!?」
いやいやアリスさん。今が会議中だってこと忘れてません?
勿論叫び声も全部消音してるけど、そんな叫んでたら、声が聞こえなくても色々バレちゃうって。
「むしろお前がなに言ってんのかわからないな。日本だって、ありとあらゆるサービスは基本的に有料だろうよ?なんで金に困ったことを誰かに相談しなかったんだ?この世界には救貧院っつう救済措置だってある。
神様に会って、チートを貰って、異世界に来て、そりゃあ浮かれるのも分かるよ。でもここは異世界であって、ゲームやアニメの中じゃないんだ。この世界の人たち1人1人にそれぞれ生活があって、社会インフラには整備費が必要だし、街の入り口や迷宮を警備する兵士に、給料だって払わなきゃいけないんだよ」
ポーターで雇った子供達のことを思い出す。自分の都合の良いことしか考えない。要は、幼稚で甘えた考え方ってことだ。
「むしろこの世界は日本よりずっと優しいよ。どうすれば良かったって?恥を忍んで、この世界の誰かに相談すれば良かったんだよ。困ってる人がいれば、この世界は最低限の生活はちゃんと保障してくれる。
結局お前らは、自分は神に選ばれた特別な人間だっていうプライドが邪魔して、この世界に生きる人たちを見下していたんだよ。困ったら、しかるべき相手に相談する。そんなの日本だって同じことだろ」
別に説教する気はなかったんだけど、まぁ巻き込まれた側として、この程度は言わせて貰ってもバチは当たらんでしょ。アリスは机に突っ伏して、泣き出してしまったが。
そのアリスの姿を見て、ディオーヌ様が俺を睨んできた。
あっはっは。バレテーラ。
俺は会議の内容ちゃんと聞いてますから勘弁してください。音魔法で音情報を拾って、把握してただけなんですけどね。
音魔法先生には、いつも本当にお世話になってばかりです。
まずは今回の事件の顛末についてまとめますね。トーマとアリスは、気になる点があったら指摘して下さい」
「了解です」「わかりました」
現在はタイデリア家のお屋敷の一室。ディオーヌ様を始め、ヴェルトーガの重鎮が勢揃いしているらしいが、紹介は省かれたので、ベンベムさんやガガンザさんなどの、既に面識のある人以外は全く分からない。
現在はベンベムさん、スカーさんの両名が、今回の連続行方不明事件の顛末について、出席者全員に情報を共有しているところで、今のところ暇で仕方ない。
「トーマさん、でしたよね?貴方も異邦人と言ってましたよね。少しお話してもいいですか?」
どうやらアリスも暇だったようで、隣りにいる俺に話しかけてきた。
ちなみに、リヴァーブ王国の外からやってくる人間のことを指して『異邦人』と呼ぶことが、暫定的にではあるが決定した。なんせリンカーズには、リヴァーブ王国しか存在してないからな。異邦人って概念が今までなかった。
俺とアリスは同じ異邦人ということで、一緒くたにまとめられている状態だ。
「トーマでいいよ。敬語も要らない。俺もアリスって呼ばせてもらうし。俺も暇してたし、雑談歓迎だ」
っとここで、そういえばアリスにはちゃんと自己紹介してなかったことを思い出した。
「改めて名乗っておこうか。俺はトーマ。35歳。アリスと同じく異邦人だ。
俺が来たのは100日くらい前だね。ヴェルトーガじゃなく、ベイクって迷宮都市で活動してた。今は冒険者として、迷宮に入って生計を立てている。
縁あってディオーヌ様と知り合って、今回の事件解決に協力をした。こんなところかな」
「ええ、それじゃあ私もトーマと呼ばせてもらうわ。
まずは、みんなを止めてくれてありがとう。あのままだったら、この街を壊滅させるまで暴走していたかもしれない……」
スカーさんレベルの人が何人も居そうだから、一方的に蹂躙されるとも思えないけど、チート能力の認識を誤っていたら、結構ズルズルと長引いたかもしれないな。
死んだ異邦人6名と、そいつらに弄ばれた被害者には申し訳ないが、最小限の被害で済んだと言えるだろう。
「それに、多少自由は制限されるだろうけど、ディオーヌ様に保護して貰えたのも助かったわ。多分貴方がいなければ、私も殺されて終わりだったと思う」
「いや、それはアリス自身の行動の結果だよ。
あいつらのように力に流されず、自分に出来ることを精一杯やった結果が、被害者の女性に認められたって事だろ。あいつらを止められなかったは仕方ない。特に速水の野郎に逆らう方法はなかっただろうしな」
一応会議の邪魔にならないように、俺とアリスの会話は他の人の耳に届く前に消している。魔力の動き自体は気付かれているだろうけど、会話が聞かれなきゃ問題ないだろ。
「私たちは、この世界に送られてくる前に初めて顔を合わせたんだけど、みんな漫画とかアニメが大好きでね?異世界転移って聞いて、どんな能力でも1つ貰えるって聞いて、凄く嬉しかったの。
私たちは力を合わせて、これから向かう世界の人たちを助けて回ろうって、すっごく盛り上がって、意気投合したんだよ?
……それがどうしてこうなっちゃったんだろう。何が間違っていたのかしら?私達とトーマで、一体なにが違っていたのか、教えてくれないかしら……?」
アリスから見れば、俺の立場こそが自分が立ちたかった場所なのかもしれないな。
それが気付いたら、自分が倒されるべき悪役に回っていたとなれば、恨み言の1つも言いたくなるのかもしれない。
「さあね。もしかしたら、チートを貰って仲間が居たら、俺も同じ道を辿ったかもしれない。
俺のときは頼れる仲間なんて居なかったし、チート能力も貰えなかったから、あいつらみたいに振舞いたくても振舞えなかっただけなんじゃねぇかな。7人で来たって事は、全員で銀貨70枚もあったろ?なんで犯罪になんか手を染めたのか、こっちこそ意味わからねぇよ」
ヴェルトーガに入るのに銀貨21枚。身分証と冒険者登録と探索許可証の発行に銀貨21枚。宿泊費に21枚取られたとしても、銀貨7枚も余剰金があったはずだ。
こいつらのチートがあれば、ヴェルトーガの1階層で死ぬ心配もない。むしろいくらでも簡単に稼げたはずなのにな。
「仕方ないじゃない!冒険者になるのにお金が要るなんて知らなかった!迷宮に入るのにお金が要るなんて知らなかったの!私達だって真っ当に稼ごうとしたわ!でも出来なかった!出来なかったのよ!
なんでよ!冒険者になるのって普通無料でしょ!?迷宮に入るのにお金が要るってなんでなのよ!?街への出入りにもお金がかかるから、外で魔物を探すことも出来なかった!!
私たちは一体、どうすれば良かったっていうのよっ!?」
いやいやアリスさん。今が会議中だってこと忘れてません?
勿論叫び声も全部消音してるけど、そんな叫んでたら、声が聞こえなくても色々バレちゃうって。
「むしろお前がなに言ってんのかわからないな。日本だって、ありとあらゆるサービスは基本的に有料だろうよ?なんで金に困ったことを誰かに相談しなかったんだ?この世界には救貧院っつう救済措置だってある。
神様に会って、チートを貰って、異世界に来て、そりゃあ浮かれるのも分かるよ。でもここは異世界であって、ゲームやアニメの中じゃないんだ。この世界の人たち1人1人にそれぞれ生活があって、社会インフラには整備費が必要だし、街の入り口や迷宮を警備する兵士に、給料だって払わなきゃいけないんだよ」
ポーターで雇った子供達のことを思い出す。自分の都合の良いことしか考えない。要は、幼稚で甘えた考え方ってことだ。
「むしろこの世界は日本よりずっと優しいよ。どうすれば良かったって?恥を忍んで、この世界の誰かに相談すれば良かったんだよ。困ってる人がいれば、この世界は最低限の生活はちゃんと保障してくれる。
結局お前らは、自分は神に選ばれた特別な人間だっていうプライドが邪魔して、この世界に生きる人たちを見下していたんだよ。困ったら、しかるべき相手に相談する。そんなの日本だって同じことだろ」
別に説教する気はなかったんだけど、まぁ巻き込まれた側として、この程度は言わせて貰ってもバチは当たらんでしょ。アリスは机に突っ伏して、泣き出してしまったが。
そのアリスの姿を見て、ディオーヌ様が俺を睨んできた。
あっはっは。バレテーラ。
俺は会議の内容ちゃんと聞いてますから勘弁してください。音魔法で音情報を拾って、把握してただけなんですけどね。
音魔法先生には、いつも本当にお世話になってばかりです。
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