異世界で目指せハーレム生活! でも仲間のほうがモテモテです

りっち

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7章 更なる強さを求めて

閑話018 呪いの子③ ※リーネ視点

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「リーネ。今夜栄光の運び手の子が院に来ます。カンパニーへの参加者を募るために。
 貴方にも一度、カンパニー参加を前向きに検討してみて欲しいのです」


 どうやら例の冒険者は、昨日時間がかかると帰っておきながら、今日には追加で40人規模の受け入れが可能になったと提案してきたらしい。
 たった1日でどうやったらそんなことが出来るの?

 とはいえ、迷宮に潜れない私が冒険者の集まりに参加するのはどう考えても無理だろう。


「先ほどお話したときに確認してみました。
 今回の受け入れは、年少者に限った話ではないということを。
 支援が必要だと思うものから優先して引き取っているだけだと。
 カンパニーの規則さえ守れるものであれば、子供でなくとも受け入れてくださると」


 子供じゃなくても……。それは正直信じられない話だ。

 ……いや、今までの話だって、到底信じられるようなものでは無かったはずなんだけど。


 子供と違って、大人になっても生活に困窮している者は、将来性が無いと判断されて冷遇されるのが一般的だ。
 大人になっても芽が出なかった人まで引き取るなんて、本当になにを考えている人なのかわからない。


「それでですね。私はこうも言ったんですよ。
 魔物と戦えない者は引きとってもらえないのか、スキルが覚えられなければ参加出来ないのかって」


 瞬間、全身の血が抜けていくような錯覚を覚えた。
 世界に呪われた私を受け入れてくれる人なんて居ない。そんな人はシスターたちだけだった。
 
 それでも、拒絶されることを想像するだけで、こんなにも恐ろしい。


「あの人ね、魔物と戦えなくても構わない、規則を守れば問題ない、ってしか言わなかったのですよ?
 私はちゃんと言ったんです。迷宮にも入れない、スキルも覚えれない子なんですって。
 なのにあの人ったら、規則を守れば構わない、とだけしか言わなかったのですよ。まるでそんなこと、心底どうでもいいかのように」


 迷宮に入れないことが、心底どうでもいい……?

 そんな風に考えてる人には、今まで会ったことがない。
 シスターでさえ、迷宮に入れない私を憐れんでくれたのだから。
 迷宮に入れなことは、不幸なことのはず。

 だってそうじゃなかったら、私の今までの人生はなんだったのって話になる。

 私はこの時初めて、カンパニーの話に興味を持てた気がした。
 今まで凄いなぁとは思っても、どこかで他人事だと思っていたのかもしれない。


 夜になって食堂でカンパニー参加への説明会が開かれることになった。

 私のときみたいに、10歳未満の子は冒険者になることを許してもらえないから、説明会には参加させてもらえなくて、みんな文句を言っていた。
 私も10歳になるまでは、冒険者に強く憧れていたっけ。


「え!?クレーレさんと受付のお爺ちゃんってご夫婦だったんですか!?」


 シスターが年配の男性を案内してきた。あの人が冒険者なのかな?

 話を始める前に、彼は食べ物を持ってきたからと言って、何も無いところから次々と食べ物を出して配り始めた。 
 食べ物はいくらでも出てくるみたいで、しかも全てが暖かかった。食堂に集まった人数だけでなく、参加を許されなかった子達にまで食べ物は行き渡った。

 そしてこの中では最年長に近い私は、ほぼ最後のほうに食べ物を受け取ったはずなのに、まるで調理してから時間が経っていないかのように、パンも焼き串も暖かいままだった。


 やはり年配の男性があの冒険者で間違いないみたいだ。トーマっていうらしい。

 冒険者には最近なったばかりで、10階層にソロで到達したらしい。正直信じられない想いだったけれど、栄光の運び手を守りながら、1人で10階層の魔物を倒し続けていた話は何度も聞かされたから、それに比べれば1人で探索した話のほうが受け入れやすかった。

 説明が進むに連れて子供達が盛り上がってきたのが分かる。
 迷宮に潜らない私でもわかるくらいの、超がつくほどの高待遇だ。今まで通り院でお世話になっているよりも、ずっと迷宮に潜りやすくなるだろう。

 シスターが不思議な人だと言っていたのが良くわかる。確かに不思議な人だった。
 私達に一切の同情の念を感じさせない、むしろ私達を利用して儲けようという話にさえ聞こえる。

 自分が儲けるために私達を稼げるように鍛えてくれるという。なんだかあべこべで、誰が得をして誰が損をしているのかよく分からない。
 私達にとって何一つ不利な条件がないようにしか思えないのに、彼は私達を金儲けに利用すると言っているのだ。なんだか混乱してきた。

 彼は質問されたことに淀みなく答えてみせる。そこに嘘や誤魔化しは一切感じられない。感じられないからこそ恐ろしい。待遇が良すぎておかしいと思うのに、おかしい点が見当たらないんだから。

 やがてこの中でも最年長だと思われるグループが質問し始める。
 彼は1人1人に応対しながらも、決して拒絶だけはしなかった。


「私も、私も質問させてください……」


 気付けば私も口を開いてしまっていた。でも囁くような声でしかなかった。
 こんなに騒がしい場所で、こんな私の声が聞こえるはずもないのに、この人は私を真っ直ぐに見つめ、手を返して私の言葉の先を促した。

 私の言葉を聞いてくれた。
 それだけで頭がいっぱいになって、自分がなにを喋っているのか、自分でも良くわからない。


「迷宮に潜れないってのは、実際どの程度の話なんだ?」


 彼の言葉が私の耳を打つ。どの程度?どの程度ですって……?

 迷宮に入ることも出来ないし、外で働こうにも読み書き計算も出来なければ、特別な知識や技術もない。まるで参加を拒むかのように、何も出来ることは無いと告げた。


「うーん、そっか。じゃあカンパニーに参加してから教えることになるかなぁ」


 なのにこの人は、本当に心底どうでもいいように、カンパニーに参加することが決定しているかのように話し始めた。
 待って。待ってよ。私の話を聞いて?

 10歳のあの日からずっと苦しんできた。迷宮にさえ潜れればと考えなかった日は無かった。

 なのに、それがどうでもいいことなの!?


「待ってください!!!私戦えないんですよ!?迷宮に入れないんです!!」


 堪えきれず、私は叫んでしまった。腹の底から何かが湧き上がって来る。
 この人に言っても仕方ない。そんな事はわかってるのに、この衝動を止められない。


「私戦えないの!!スキルも覚えられないの!!!私がいたら、貴方にも、他の人にも迷惑がかかるって言ってるの!
 でも私は迷宮に入ることすら出来ない!呪われた人間なの!!
 私だって参加したい!助けて欲しい!でも私が参加したらみんなに迷惑がかかっちゃうの!!私は呪われてるんだから!!!この世界に嫌われているんだから!!!」


 今までの人生全てで言われ続けてきた、呪いという言葉。
 彼に言っても意味がないのに、それでも私は叫び続けた。

 助けられるものなら助けてみせろと。私だって助けて欲しいんだと。

 お願い。助けて……!


「お前の言い分は分かったけど、結局はカンパニーへの参加表明ってことでいいんだよな?
 ぶっちゃけると、お前の言い分なんて俺にはどうでも良いんだよ」


 私の人生全てをぶつけるような叫びだった。なのに彼はそれを真正面から受け止めて、心底面倒くさそうに言い放ってみせた。

 私の言い分なんてどうでもいいと。
 私の事情なんてどうでもいいと。

 私の呪いなんて、取るに足りないものなんだ、と。


「俺は、お前のなんか目じゃないほどの、世界を滅ぼす可能性があるほどの呪いってやつにも触れたことがあってね。迷宮に入れない程度、俺にとっては全くどうでも良いんだよ」


 世界を滅ぼすほどの呪い……?

 迷宮に入れない……、


「俺にとって重要なのは、俺のカンパニーに参加したいっていう意志だけだ」


 呪いも経歴も能力も必要ない。重要なのは意思だけ……?


「参加したいなら参加すればいい。お前の呪いなんてぜんっぜん大したことがないって思うようになるぜ」


 私の呪いなんて、迷宮に入れないことなんて、全然大したことない……?

 さっきまで溢れてたのとは全く違う何かが胸からこみ上げてくる。

 呪いなんかどうでもいい。
 重要なのは私の意思。

 重要なのは呪いじゃなくて、私自身……!


「参加したい……!参加させてください!もう嫌、もう嫌なの!
 私だって普通に生きてみたい!知らない人に指を指されて笑われたくない!普通に生きたいだけなのに!誰にも迷惑なんてかけてないのに!ただ生きているだけなのに!!
 お願いします!私もカンパニーに、カンパニーに参加させてください!」


 先ほどよりも強い何かを彼に叩きつけるように、カンパニーへの参加を希望する。
 まるでここで断られたら、もう生きるアテなどないかのように。

 全身全霊で私の意志を彼にぶつけた。


「いやいや、だから参加希望なら受け入れるっつってんじゃん。
 今なにも出来ないなら、これから何でも覚えていきゃいいだけの話だから」


 なのにこの人!私の想いを全部まるっと無視して、本気で私に全く興味も持たずに、本当にサラッと、至極当然のように私を受け入れてしまった……!


「お前自身のやる気がなくならない限り、カンパニーの中の居場所がなくなることはないって約束してやるよ」


 私の意志が潰えない限り、私の居場所はなくならない。

 あまりにも自然に、あまりにも当たり前のように、彼は約束してくれた。



 呆然とする思考の隅で、私を見て笑顔で頷いているシスターの顔だけが印象的だった。
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