異世界で目指せハーレム生活! でも仲間のほうがモテモテです

りっち

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7章 更なる強さを求めて

閑話017 呪いの子② ※リーネ視点

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 シスターと一緒に暮らすことに決めた。
 私はもう子供じゃない。迷宮には入れないけれど、今なら役に立てることもあるはずだ。

 そう思って張り切ったのだけど、やっぱり現実は私の想像よりも残酷だった。


 どうやら10年間まともな睡眠も食事も取れていなかった私の体は、身長こそ伸びてくれたけど、体力も筋力もほとんど残っておらず、ある意味子供のときよりも体力がない状態だった。
 
 書類仕事を手伝おうにも、読み書き計算も出来ない。私に出来る事はシスターへの来客の取次ぎや、院の掃除などくらいしかなかった。その掃除も、体力がなくて長時間は続けられないのに……。


 ある日院の受付をしているお爺さん、シスターの旦那さんがニコニコしながら部屋に入ってきた。どうやら以前大金を寄付してくれた冒険者の人が、また同じ額を寄付していってくれたみたい。
 お爺さんとシスターの話を聞いていると、その冒険者は、以前聞いた破格の報酬を支払ってくれた冒険者のようだった。

 凄いなぁ……。
 私も冒険者になれていたら、そんな風に、救貧院に恩返しを出来たのかな。


 口に出したつもりは無かったけれど、どうやら聞かれてしまったみたい。
 いやいやそうじゃないんだよ、とお爺さんは嬉しそうに私に教えてくれた。

 その人は救貧院の出身じゃないんだよって。
 ベイクに来たのも、冒険者になったのもつい最近なんだって。

 じゃあなんで大金を寄付してくれるのか。どうして子供達を破格の条件で雇ってくれたのか。

 お爺さんが尋ねてみたら、スキルを貰った感謝を神に示したいと相談したら、救貧院に寄付して欲しいってスキル神殿で言われたから、神様への感謝のつもりで寄付してるだけなんだって。

 子供達を雇ったのは、自分の仕事に必要だったから雇っただけで、別に子供たちを助ける意図があったわけじゃないんだって、めんどくさそうに答えて帰っていったんだよって。


 そんな人、本当にいるの……?

 お爺さんが嬉しそうに教えてくれたけど、私にはどうしても想像がつかなかった。


 院の経済状況は劇的に改善した。食事だって以前とは比べ物にならないくらいの量が出されているし、ポーター仕事を請け負ったパーティは、3階層で安定して稼いで、院にお金を入れてくれているらしい。

 シスターもお爺さんも、毎日穏やかに笑ってくれるようになった。
 私が子供のときに見たような、無理して作った笑顔じゃない、優しい笑顔。


 院にもシスターにもゆとりが出来て、私も毎日食事をしていたおかげで少しずつ体力が付いてきて、まだ何の力にもなれていないけれど、先行きは明るく感じられた。

 でも、そんな穏やかな日々にこそ、私は不安を覚えずに入られなかった。


 10歳のあの日、これから全てが始まると希望に満ちていたあの日、私の全てが否定された。

 これからは楽になる。今後は何か出来るかもしれない。そう思えば思うほど、不安に押し潰されそうになる。


 迷宮に入れなくなってから、私はずっと呪われていると言われていた。触れたり視界に入れることすら嫌がる人も珍しくなくて、そんな私に回される仕事なんてほとんどなかった。

 この世界は迷宮がなければ成り立たない。なのに私は迷宮に拒絶されている。
 お前は世界に嫌われている。お前は全てに呪われている。近付くな。触れるな。視界に入るな。喋るな。呪いが感染うつるぞ。

 殺した方がいいんじゃないか?でもこいつが死んだら呪いがどうなる?呪いが解放されて、なにか悪いことが起きるかも知れない。殺すのは危険だ。死なせるのは危険だ。近付かないようにしよう。触れないようにしよう。見ないようにしよう。聞かないようにしよう。呪いを解放しては駄目だ。


 生きていても迷惑がかかるのに、死んでも迷惑をかけるかもしれないなんて、私は一体どうすればいいんだろう。

 10年間はなにも考えずにただ生きてこれたけど、突然考える時間が出来たから、私の頭はぐちゃぐちゃのまま、何の答えも導き出せなかった。


 ある日、院の子供が何人か一斉に院を出ていくことになった。年齢的にもまだ余裕があるのにどうして?

 出ていく子供たちは皆。以前に破格の仕事を請け負ったパーティのメンバーだった。

 なんでも、救貧院を出た子供達に迷宮の戦い方を教えてくれたり、食事や宿を支援してくれる組織が新しく作られることになって、破格の仕事を請け負ったメンバー、栄光の運び手の子供たちは、その第一陣としてその組織に参加することになったようだ。

 そんな上手い話があるの?騙されているんじゃないの?
 シスターが喜んでいるのは分かっているけど、子供たちやシスターを悲しませるわけにはいかない。


「ふふふ、心配いりませんよリーネ。この話を主導しているのは、あの冒険者なのですから」


 あの冒険者。
 そう言われて思いつくのは1人しかない。

 私は会った事も見たこともないけれど、あっさりと院とシスターを救ってみせた、冒険者のことだろう。
 シスターはその冒険者に今回の件を直接説明されて、子供達を託すことに決めたそうだ。


「夫には聞いていましたが……。本当に不思議な方だと思いました。
 彼は貧困に喘ぐ子供達をベイクからなくしてくれるんじゃないか、そう思ってしまいました。
 彼は単純に子供を引き取るのではなくて、この救貧院とも協力して、迷宮孤児や駆け出し冒険者の自立を支援するのが目的だと言っていました。
 ふふふ、単に子供が可哀想だから。そんな理由で子供を引き取られるよりも、よほど信用できると感じたんです」


 自立を支援したい……?いまいち話の先がわからない。
 それでもシスターは、私が見たことがないくらいに上機嫌だった。


「ふふふ、リーネ。聞いてください。本当に不思議な方なんですよ。
 彼は私に、このベイクで生活に困窮している子供たちは何人くらいいるのか、と尋ねてきたんです。引き取るといっても、人数に制限があるのは当たり前ですからね。
 ですから少し迷いましたけれど、私は正直に答えることにしました。ベイクで苦しんでいる子供たちは100人は下らないであろうと」


 100人……。改めて聞かされると絶望してしまう。
 100人もの子供を引き取るなんて、貴族様だって簡単ではないはず。
 まして、いくら稼いでいるとはいっても、ただの冒険者の手に負える人数じゃない……。


「ふふ、そうしたらあの人、どうしたと思います?
 分かりました。少しお時間を頂くかもしれません、って言ったのよ。
 ふふふ。無理とも駄目とも言わず、時間をくださいだって。
 分かるリーネ?あの人は、その人数は受け入れられないなんて、始めから全く考えていないの。
 その人数を預かるなら、少し時間がかかるなぁ、としか思ってないのよ?
 信じられる?100人よ?100人の困窮者の受け入れを、少し時間がかかるだけとしか思ってないの。
 ふふふ、あはははは。あははははは。おっかしい!本当におかしいの!
 本当に、本当に自然に、なんでもないことみたいに、時間をくださいとしか言わないんだもの!」


 シスターは心の底からおかしくてたまらないように、本当に愉快そうに大笑いした。
 こんなに笑っているシスター、やっぱりみたことないよ。


「私がずっと悩んできて努力して苦労して、それでもずっと変えられなかったことを、彼は本当に何でもないような顔をして、あっさりと変えてしまうんだなって思ったんですよ。
 今までだってそうだった。彼が救貧院に足を運んでから、全てが好転していったわ。
 今まで誰も出来なかったことを、ただめんどくさそうにしながら、あっさりと全部変えちゃうんだもの。
 もうおかしくておかしくてたまらなかったわ!」


 シスターが言っている事は半分も分かっていなかったけど、それでもその冒険者が凄い人だっていうことだけは分かった。
 だってシスターが、こんなにも楽しそうに笑っているのだから。

 ずっと私がしたかったこと。
 どうしても私には出来なかったこと。

 いえ、今まで誰も出来なかったことなんだもの。


 次の日の朝のシスターは、私よりも起きるのが遅かった。
 シスターが寝坊したところなんて、もちろん一度だって見たことがない。

 寝起きで少し寝惚けているシスターの姿を見て、お爺さんは静かに泣いていた。
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