異世界で目指せハーレム生活! でも仲間のほうがモテモテです

りっち

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7章 更なる強さを求めて

閑話016 呪いの子① ※リーネ視点

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「やっぱり、今回も無理ですか。リーネになにが起こっているのでしょう……」


 またシスターを落胆させてしまった。
 シスターの役に立ちたいのに、私には迷惑をかけることしか出来ない。


 私が物心がついた時には、既にベイクの救貧院にお世話になっていた。
 
 両親の事は何もわからない。
 生まれたばかりの私は、救貧院の前に捨てられていたそうだ。


 救貧院はいつもいっぱいだった。
 受け入れられる数には限りがあって、使えるお金には限りがあって。

 シスターが凄く苦労しているのは子供の目で見ても伝わってきた。

 それでも私はいつもお腹が空いていた。


 私は多分迷宮孤児だから、頼れる相手もいなかった。
 でもシスターや救貧院のために何かしたかった。


 ベイクで私達のような孤児がお金を稼ぐのは大変だ。
 何の後ろ盾もない子供たちは、不当な扱いを受けても泣き寝入りするしかないことが多い。

 そう、誰かに雇ってもらうのは難しい。
 だから救貧院のみんなは同じ結論に辿り着く。

 冒険者になって迷宮で魔物を倒してお金を稼ぐしかないんだ、と。
 

 私も早く迷宮でお金を稼いで、シスターや皆の力になりたいと思っていたけれど、シスターは私が早く迷宮に入りたいと言うと、あまり嬉しそうにはしてくれなかった。


「貴方達のような子供にまで心配させてしまうなんて、本当に私は不甲斐ないシスターです」


 この時はシスターの言っている事はよく分からなかったけど、そんなシスターを見て、やっぱり私も早く迷宮に入らなきゃって思った。

 シスターの方針でベイクの救貧院では、10歳未満の子供は迷宮に入ることを許してもらえなかった。例外的に、お兄さんやお姉さんが迷宮に入るときだけ、10歳にならない子供でも一緒に迷宮に行くことを許された。
 私は間違いなく一人っ子だったから、私より年下なのに私より早く迷宮に入る子達のことが羨ましくて仕方なかった。

 せめて10歳になった時にすぐに迷宮に入れるように、色んな仕事を手伝って、銀貨1枚を稼ぐことにした。


 やる気はあっても体はまだ幼い子供だ。私に出来る仕事なんて多くは無かった。
 それでも銀貨1枚という明確な金額と、10歳までにっていうはっきりとした期限が分かっていたから、何とか頑張ってお金を貯めた。


 年が明けて私は10歳になった。
 孤児に誕生日なんてない。年が明ければ歳を数える。

 早速許可証を発行してもらった。
 お金を貯めるのは辛かったけど、探索許可証を受け取った瞬間、全てが報われた気がした。
 
 今ここから始まるんだ。 
 これからどんどんお金を稼いで、シスターにも笑ってもらうんだ。
 院のみんなと一緒に、お腹いっぱいご飯を食べるんだ。


 仲の良かった子たちのグループが誘ってくれた。もちろん仲間に入れてもらった。
 迷宮は危険なところで、子供1人で稼げる場所なんかじゃない。
 1人で迷宮に挑むなんて、死にに行くみたいなものだから。


 初めての探索の日、緊張もしたけれど、それ以上に期待していた。

 先に迷宮に入った子の殆どが思ったように稼げていないって話は良く聞いていたけど、私は何の根拠もなく前向きだった。
 迷宮に入ることさえ出来れば、シスターも笑ってくれる。院のみんなもおなかいっぱい食べられるはず。

 仲間と一緒に初めて迷宮に足を踏み入れた。



「……う、おえぇぇ……」

「リーネ!?どうしたの!?ねぇ大丈夫!?」




 でも現実は残酷だった。私の想像が及ばないほどに残酷だった。

 息をするのも辛い……。
 心配してくれる友達の声が遠くに聞こえる……。 
 

 迷宮に入ってからが本番だ、迷宮に入ってから如何に稼ぐかが重要だと言われていた。
 だから私も多少の苦労は覚悟していたつもりだったけれど、まさかこんなことが起こるなんて、一体誰が想像できたって言うの……?

 私の体は、まるで迷宮を拒絶するかのように体調を崩し、迷宮に拒絶されているかのように、どうしても迷宮の中に長時間滞在することができなかった。

 始めは優しく励ましてくれた友達も、力強く応援してくれた友達も、何度やっても迷宮に潜れない私を見て、次第にみんな離れていった。

 迷宮に入れないという事は冒険者としてお金を稼ぐことは出来ないということ。そしてそれは、生涯スキルを得ることが出来ないということだった。

 私の人生は、始まる前に終わってしまった。


 10歳だった私は、迷宮に入れないのが認められなくて、銀貨1枚溜めるために過ごした日々を否定されているみたいで、ムキになって何度も迷宮に入ろうとしては、意識をなくして院に連れ戻された。

 そんな私が院のみんなに疎まれるようになるのに時間はかからなかった。


 院の不穏な空気にいち早くシスターは気付いてくれて、私は院の子供たちとは離されて、シスターと一緒の部屋で寝泊りすることになった。


 シスターと一緒に過ごした日々は生涯忘れられない。

 ずっと苦労していたと思っていた。ずっと大変な思いをしているんだと思っていた。
 でも、子供が想像する大変さなんて、現実には到底敵わないんだって思い知らされた。


 次々にやってくる孤児たち、決められた予算、まだなにも出来ない子供達を追い出さなければならない苦悩。
 1人では生きていけないとわかっている子を、自分の手で追い出さなければならない現実。

 そして、追い出した子が命を落としてしまうかもしれない恐怖。

 2年間も一緒の部屋に居たのに、シスターがぐっすりと眠っている日は一度も見たことが無かった。
 
 部屋で時折見せる疲れ切った表情。それでも私に気付くと笑顔を見せてくれた。


 私がここに居てもシスターの負担を増やすだけだ。私は院を出ることに決めた。

 12歳で孤児、しかも迷宮に入ることができない私が、いったいどうやって1人で生きていけばいいのか分からないけど。それでもここでシスターの荷物になっているだけなのは耐えられなかった。


「リーネ。どうしてもどうしようもなくなったら、必ず院に戻ってきなさい。命を捨てるようなことは許しません。貴方1人くらい、私がなんとかしてみせます」


 院を出る日、シスターは私に死ぬなと言ってくれた。
 私がこれからどんな扱いを受けるのか、シスターはきっと気付いていたんだと思う。

 
 ベイクでは迷宮が生活を支える根幹と言っていい。迷宮に入ることができない私はベイクではとても有名になってしまった。
 意地になって迷宮に挑み続けていた時に、私の顔を名前はベイク中に広まってしまっていた。

 まともな仕事にもありつけない。
 何日も食べれないことなんて当たり前だった。


 シスターに迷惑をかけたくない、負担になりたくないのに、それでも命を捨ててはいけないと言ったシスターを裏切りたくなくて、そしてやっぱり死にたくなくて。
 どうしても限界だと思ったときは、救貧院で食事を貰った。

 恥ずかしくて、悔しくて、でもどうしたらいいのかわからなかった。


 もう自分が何歳になったのかも忘れてしまった。毎日が辛くて、余計なことを考える余裕が無かった。
 寝る場所と食べる物を探す日々が、ただ過ぎていった。


 そんなある日、やっぱり限界を迎えた私が救貧院に食事を貰いに出かけると、シスターが笑顔で出迎えてくれた。

 なんでも大金を寄付してくれた冒険者がいたらしく、今日はいつもより多くの食事を用意することが出来たから、私にもいっぱい食べていきなさい、と言ってくれた。

 ああ、シスターが笑っている。私には出来なかったことだ。私には出来なかったけど、その冒険者は確かにシスターの力になってくれたんだ。


 その日はそれだけだったけれど、ある日突然、院とシスターの状況は一変した。

 院で働いている子達に凄まじく報酬の良い仕事が入り、多くの子供が一気に大金を稼いだのだ。
 そして彼らは、その報酬の半分以上を救貧院に寄付した。寄付の総額は金板にまで届いたという。
 私なんて、10歳のあの日以来、銀貨すら手にしたことがなかったから、想像もできない金額だった。

 それでもまだ報酬が手元に残った子供達の多くは、自主的に院を出てシスターの負担を減らしたようだ。


 院の運営に余裕が出来たことで、シスターの表情も眼に見えて明るくなっていた。


「今まで助けてあげられなくて済みませんでした。リーネさえ良ければ、また一緒に暮らしましょう?」


 優しく抱きしめてくれたシスターに、私はしがみついて泣き続けることしか出来なかった。
 
 結局私には何一つ出来なかったけれど。
 シスターを助けてくれて、ありがとうございます……!
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