異世界で目指せハーレム生活! でも仲間のほうがモテモテです

りっち

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7章 更なる強さを求めて

閑話021 生死を分けるもの ※ホムロ視点

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 武器屋になる。それが俺の夢だった。
 その為には迷宮を攻略して、必要なスキルを得る必要があった。

 幸い俺の住んでいるベイクの迷宮は、他の迷宮と比べて難易度が低い。
 時間さえかければ、駆け出しの俺だって、死ぬようような事態はまず起こらない。


「ホムロ。父ちゃんはな。いつか一流の武器屋になって、一流の冒険者達に、一流の装備品を揃えてやるのが夢なんだ!」


 それが親父の口癖だった。

 俺は覚えていないのだが、祖父は武器屋を営んでいたらしい。
 だが商売は上手く無かったようで、俺が生まれる前に店は潰れた。

 親父はそんな祖父を見て、自分が一流の武器屋なってみせると意気込んでいた。
 ま、一流どころか、武器屋を開く前に迷宮でおっ死んじまったんだけどよ。

 別に親父の遺志を継ぎたかったわけじゃない。ただ単純に、安全に暮らせる生活に憧れただけだ。


 親父が迷宮で死んじまったことで、俺は少し思うところがあった。
 親父は夢を追うことに必死になりすぎて、無茶な探索を繰り返して死んでしまった。

 夢を叶えたい気持ちは分かる。スキルを得るために、少しでも先の階層に行きたい気持ちは痛いほど分かる。


 でも、死んじまったらおしまいだ。
 祖父も親父も、結局は早くに死んじまった。

 俺が2人の死を活かさなければ、あの2人は完全に無駄死にになってしまう。


 俺はどれだけ時間をかけてでも、安全を最優先することにした。
 俺が死ぬわけには行かないのだ。俺は武器屋になるまで、絶対に死んでやらねぇぞ!


 普通の武器屋がスキルを得るための時間より大幅に遅れてではあるが、俺は必要なスキルを得ることが出来た。
 堅実な探索のおかげで、金にもかなりの余裕がある。ここから修行して、武器屋になってみせる。


 なんとかミルズレンダで弟子入りを果たしたまではいいが、どうして父があんなに無茶をしてまでスキルの獲得を急いだのか、弟子入りして初めて分かった。

 武器屋に必要な能力ってのは、なにもスキルだけじゃない。鍛冶そのものの技術も必要だ。
 だがスキルと同じく、長年経験を積まなければ身につけられない鍛冶の技術を習い始めるのは、早ければ早いほど良いとされている。

 平均よりも大幅に年上の俺は、鍛冶修行で現実の厳しさってモンを思い知らされちまった。


 10年も修行したんだが、俺に辿り着けたのは黒硬鉄ブラックメタル級。下から数えた方が早い、ミルズレンダでは店を開くことも許されない等級だった。

 しかしブラックメタル級は、ミルズレンダ以外の街でなら武器屋・鍛冶屋を営むことが許されている。高品質の武器を作ることは出来なくても、修理することなら可能だからだ。


 元々ミルズレンダで店を開こうなんて思っちゃいない。
 ベイクの迷宮は初心者向けだ。客層だって駆け出しが多い。

 これ以上続けても芽が出るとは思えない鍛冶の修行はきっぱり諦め、ベイクに戻って店を開いた。


 店を開いてからずっと思っていることだが、なんで装備品ってこんなに高いんだろうな?
 もちろん製作の手間を考えれば、この値段に文句などつけようはないんだが。

 でも、一番力がなくて、少しでも装備品を良くしないといけない奴等が、こんな値段の装備、買えるわけないだろ?

 爺さんがどんな店を開いていたかは知らない。

 親父は一流の商品を一流の冒険者に卸す、一流の武器屋になるのが夢だった。

 でも俺自身は三流もいいとこだ。
 一流の武器屋なんて他の誰かがやりゃあいい、俺は三流なりに、三流の店をやらせてもらうぜ。


 俺はとにかく、どうやったら装備品を安く販売できるかを考えることにした。

 一流の冒険者なんて、リヴァーブ王国全てを見渡しても一握りしか居ない。
 そんな一部の客だけを奪い合っても仕方ねぇ。

 駆け出し冒険者なんて掃いて捨てるほど居やがるんだ。
 仮に迷宮で死んじまっても、元々の売り上げも少ないから、店への影響も少ないだろう。

 何より、本当に装備品を必要としているのは、一部の冒険者なんかじゃない、どこにでもいるこいつらなんだ。


 俺は大した金にもならねぇ駆け出し冒険者を邪険にすることなく、なるべく親身になって応対した。
 駆け出しってのはいくらでもいるし、減ることも無い。

 働いても働いても店の売り上げは伸び悩むし、俺自身忙しくてやってられねぇと思った。
 それでも、俺の店で装備を少しずつ整えていく冒険者を見るのが好きだった。


 何年も金にならねぇことをしていると、冒険者ギルドから優良店として認識されるようになった。
 駆け出し冒険者はとりあえず『生死を分けるもの』にいけば問題ない、と。

 金にもならねぇ面倒事を押し付けやがってと思ったけれど、不思議と悪い気はしなかったな。


 ある日、変な客がやってきた。
 俺と同じくらいの年代に見えるのに、装備品を1つも持ってねぇ。聞けばさっき冒険者登録をしてきたばかり。予算は銀貨1枚も払えないという。

 こんな奴が生きていけるとも思えなかったが、銀貨1枚以下で買える装備、と用意してあった棍棒が初めて売れた。
 くくく、本当にこんなの買う奴が居るなんてな。

 
 すぐに死ぬんだろうと思っていたそいつは、決して無茶をせず堅実に迷宮に潜り続けた。
 少しずつ使える金も増え、10階層にも行かないうちに金貨数枚もする装備を買っていきやがる。

 こいつ、ちょっと前まで銀貨1枚も払えなかったくせに、いつの間にこんなに稼ぐようになったんだ?


「ホムロ、悪いけど協力して欲しいことがあるんだ」


 そいつにある日、変な依頼をされた。3日後までずっと休まず迷宮に篭り続けるから、その補助をして欲しいと。
 驚いたことに、たった3日の補助のために、金板2枚を即金で払いやがった。
 こいつって確か、冒険者になってまだ100日も経ってなかったはずだ。

 聞けば仲間を助けるために、たった3日で白金貨3枚稼がなければいけないという。
 そんな事は不可能だと言おうか迷ったが、報酬は破格だし、黙って受けてやることにした。


 俺の常識を吹き飛ばすように、そいつは立ちはだかる問題全てを真正面から解決していった。
 1人、また1人と仲間を増やし、その全員がシルバーライト製の装備を持つほどのパーティに成長した。

 オイオイ嘘だろ?こいつって、始めは銅板8枚の棍棒しか買えなかったんだぜ?

 100日も待たずに、こいつは俺が用意できる最高級品に身を包んだ冒険者になった。




「今までありがとうホムロ。ホムロにはずっと世話になりっぱなしだったよ。
 迷宮に入った最初の最初から世話になってたなんて、今まで知らなかった。感謝してる」


 ある日こいつはミルズレンダで、ダーティ素材の扱われ方を聞いてきたらしい。
 ちっ、つまんねぇこと言ってんじゃねぇよ。そんな装備に身を包んだ冒険者がよぉ!
 くくく、なんだかおかしくってたまらねぇぜ!


「始めは銀貨すら払えなかった癖しやがってよ。1年と待たずに最高級品を買っていってくれたわけだ。しかも5人分だぜ?」


 くくく、ガーッハッハッハ!!
 笑いがとまらねぇってのは、まさにこのことだな!


「テメェには本当に面倒かけさせられたがよ。結局は全部報われたってことだぜ!」


 そうだ。報われたんだ。

 爺さん。親父。見てるか?この最高級品の先を求める、一流冒険者の姿って奴を!
 コイツが初めて握った武器は、俺がわざわざ作ってやった、銅板8枚の棍棒なんだぜ!?

 俺は一流の店になんかなれなかったけどよ。
 一流の冒険者が初めて握った武器を用意したのは俺なんだよ!

 この一流の冒険者が、駆け出しの頃に生死を分けたものは、俺がわざわざ自作した、銅板8枚の棒切れだった。

 こんなに職人屋冥利に尽きること、一流の冒険者だけを相手にしてたら絶対に味わえなかったぜ。
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