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7章 更なる強さを求めて

206 次の時代へ

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「トーマって怒れば怒るほど無関心になっていくから怖いよね」

「なんだかんだいって、普段のトーマは周りにとっても気を遣ってるんだよねー。
 トーマって自分の意思で、相手への興味を全部捨てちゃえるんだと思うなー」

「ええ。私を殺そうとした時も、私に対して何の感情も抱いてないように見えましたよ。アレは怖いんですよ。関心が無いんです。生きてようが死んでようがどうでもいい。どうでもいいから躊躇なく殺されると思わされるんですよね」

「うん。正直トーマがこれ以上強くなる方が怖いような気がしないでもないか、な?」

「いやいや。俺ってのんびりゆっくり暮らすのが夢の、平凡なおっさんですから。
 大体俺は他人様に迷惑かける気なんてねぇし。金払ったら使い倒すけど」


 ジジイは喚き散らして煩かったので、一旦黙るように言ってある、
 音魔法で消音してもいいんだけど、いつまで経っても魔力回復が起こらないからな。


「そんで?マーサ。お前を冷遇した理由とやらに納得いった?
 じゃああとは身内同士で勝手にやってくれ。もう帰っていいだろ?」

「は、はぁ!?ここまでやっといて放置して帰ろうとしてんじゃねぇよ!
 しかもなに私を置いていこうとしてんだよ!?
 私も行くって!もうこんな街に義理立てするつもりもねぇ!トーマたちと行くよ!!」

「は?別に要らねぇし。俺こそ何の義理立てもねぇよ。今さらなに言ってんのお前?」

「ちょ!?なんでそうなんだよ!?しかもミルズレンダと敵対したら、私以外の職人なんて絶対掴まんねぇぞ!?」

「だから?それなら装備面での強化を諦めりゃいいし、俺自身が鍛冶を始めるって手もあるわ。
 こう見えて俺って金持ってるからさ。なんか手段はあると思うんだよね。
 ってことで、俺にとってもうミルズレンダにもマーサにも価値はありませんから。
 引き取る理由もないっすね」


 むしろ素材集めに時間を割く必要がなくなって、スキルの強化に専念できるまであるな。
 まぁ装備面での強化は惜しいけど、今の装備が悪いわけじゃないし。


「いやいや!?私ってこう見えて最高峰の職人だから!!絶対役に立つから!!」

「役に立つっても、素材は自力で集めるしかないし、どっちにしても俺自身の負担増えるだけじゃん。俺ん中ではその負担に見合った価値をお前に感じなくなったんだよ。悪いね。
 ミルズレンダ出たいなら勝手にすればいいんじゃない?ご自由にどうぞ」

「頼むってええええ!!連れてってくれよおおお!!今さら置いて行かれても、どうしろって言うんだよおおお!!うわあああああああああああああああああ!!!」


 うえ、号泣しながら抱きついてきやがった。


「え、え~と……、トーマ?なんでそんなに頑なにマーサルシリルさんの加入を拒むのか、教えてもらっていい?」

「うん?そんなのめんどくさいからに決まってんじゃん。
 変なジジイに殺されかけて、反撃しようと思ったら止められて、かと思えば再開しろって言われて、そして聞き出した答えがジジイが若者に嫉妬しただけって、もう全部が全部馬鹿馬鹿しいじゃん?
 この時間を無駄にした感じ、好きじゃないんだよね」

「ごめんなさいごめんなさいごめんなさい!!ごめんなさいいいいいいいいい!!」

「あ~……。トーマひょっとして、ミルズレンダ全体への興味を捨てちゃったのかなぁ……。
 ねぇねぇトーマ。仮にマーサルシリルさんを利用するならどうすればいいかなー?」

「ん?そうだなぁ。まず最低限、普通に素材が調達できないと意味無いよな。
 どんな技術持ってようが、使えなきゃゴミと変わらないわけだし」

「しますしますうううう!!調達します!!しますからあああああああああ!!」

「ね、ねぇトーマ。素材の扱いが普通の職人と同じようになれば、マーサルシリルさんを連れて行く価値があるんですよね?
 例えば、トーマだったらどんな手を使いますか?」

「ん?まぁまずそこのゴミにマーサへの扱いをやめさせりゃいいだけだろ?
 ミルズレンダ中のシルバーライト級とやらの両腕全部落としてやれば、流石に首を縦に振るんじゃない?
 結局根本の問題はさ。この街の職人優遇が行き過ぎてることが悪いんだよね」

「落しちゃ駄目えええええええ他の職人さんの腕落しちゃ駄目えええええええ!!」

「別に今ここでマーサを連れて行こうが行くまいが、どうせそのうち今のミルズレンダの情勢は崩壊すると思うし、今ここで引退させてやったほうがむしろ親切じゃない?」

「うん?トーマどういうこと?どうして今のミルズレンダの情勢が崩壊するの?」


 音魔法起動。ジジイに聞かせるつもりは無い。


「いや単純な話、これからはどんどんマーサみたいな人間が増えてくるんだよ。つうかまぁ俺が増やすつもりなんだけどさ。
 結局この世界って、どんな仕事するにもスキルが必要になるわけでしょ?スキルが無いと修行すらさせてもらえないわけよ。だからそこのゴミみたいな老害が幅を利かせてるんだけどさ。
 旋律の運び手の選択肢って、多分冒険者に留まらないと思うんだよね。スキルが取れずに今まで5年10年足踏みしていたところが、1年2年で済むようになって行くと思う。
 マーサ1人どころじゃない、大量の若い才能達が一気に押し寄せて来るんだよ。時代が変わるんだ」

「じ、時代が、変わりゅ……?」

「ああ、時代が変わるんだよ。流石にマーサみたいに、赤ん坊の頃から迷宮に入る奴ってのはそうそういないだろうけどな。
 勿論冒険者だって強くなっていく。これからはチマチマ領土増やしていくんじゃなくて、未踏の地をどんどん進む冒険の時代になっていくんだよ。
 今権力にしがみついてるだけのアホは、俺がなにもしなくても勝手に居なくなっていくだろうな」

「…………」

「この世界に生きている限り、スキルは絶対だ。でもこれからはスキルの取得スピードは上がって、迷宮は絶対じゃなくなるんだ。
 迷宮に入れないやつも生きていける時代が来るんだよ。
 早くそんな時代にしたいからさ。異邦人に邪魔されたくないし、ミルズレンダなんかに構ってる暇もねぇんだよな」


 スローライフを送りたいのは本心だけど。
 新しい時代の到来は、ワクワクして仕方ないんだ。


「そんな時代、本当に来るのかな?なんだか僕には想像もできないや」

「ははっ!なに言ってんだよシン!シンとリーンだって、その時代の最前線に立ってるじゃんか!
 2階層で苦戦してたのが、もう深階層域に潜ってるだろ?14歳と11歳が深階層域で戦えてる!
 もうとっくに時代は動き始めてるんだぜ!?その中心に居るのはお前達なんだよ!」


 異風の旋律はトルネが最年長で16歳だからな。俺を除けばの話だけど。
 こいつらが中心になってリンカーズを変えていくって考えると、ゾクゾクしてくるわ!


「職人都市ミルズレンダ?そんなのはもう既に過去の話なんだよ。
 きっとこれから色んなことが起きるんだぜ?色んな常識が変わっていく。
 若い才能を否定するやつに牛耳られている場所に未来なんて無い。だからもう興味ない」

「…………トーマ」


 いつの間にか俺から離れていたマーサが、俺を真っ直ぐに見つめていた。


「私が間違ってた……。お願いします。私も連れて行って欲しい。
 ミルズレンダから逃げるだけなんて私らしくなかった。
 私も新しい時代が見たい。新しい時代を走るトーマたちの手伝いがしたい!
 頼む!!私も連れてってくれ!! 私も、私も新しい時代を生きてみたい!
 ミルズレンダから逃げ出すんじゃない!
 新しい時代を掴むために!!前に進みたいんだっ!!!」


 ふむ。もう流されるだけ、待つだけの不貞腐れた天才じゃないか。
 本気で置いていくつもりだったけど、今のマーサなら次の時代の最先端に立てるかもな。

 まったく、若者ってのは簡単に殻を破っていくねぇ。
 おっさんには眩し過ぎるわ。
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