異世界で目指せハーレム生活! でも仲間のほうがモテモテです

りっち

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7章 更なる強さを求めて

237 音楽の力

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 目が覚める。
 昨晩はお楽しみでしたが倦怠感はないな。回復力は確かに上がっている模様。

 身支度をしながら3人に色々悪戯をする。正直この時間が一番楽しいわ~。


 54階層のソロ探索。グラトニーローキャストを1人で相手にするのは大変かなぁと思っていたが、そんなことは無かったぜ!
 というか『攻撃範囲拡張:中』の効果がヤバすぎる。

 今まで魔物が巨大化するたびに、大きいって事はそれだけで強力だよなぁなんて思っていたけれど、攻撃範囲が劇的に伸びたことで、奇しくも同じ感想を、今度は良い意味で抱いてしまった。

 もうね、大型だろうが小型だろうがバッサバッサですよ。一撃で複数の魔物を巻き込めるんですよ。
 グラトニーローキャストの数が多いこともあるけど、いつもよりかなり早い時間で探索を終えることができてしまった。

 ……これひょっとして、スキップさえ使えたら、朝飯前にソロ2周、いけちゃったりするのかな?

 今日は流石に自重するけど、明日からは速度と魔力節約を意識して回ってみよう。


 いつもよりも少し早めに帰宅する。まだ朝食の準備中だったので適当に手伝う。
 
 順次朝食を食べていると、マーサも帰ってきて、みんなと一緒に朝食を食べ始めた。


「昨日は、取り乱しちまってすまねぇ……。つうか、私はずっと迷惑のかけ通しだよな。
 もう吹っ切れたぜ。今まで悪かった!
 これからは異風の旋律専属の鍛冶師として、全身全霊を持って腕を振るうと誓うぜ!」

 
 痛々しく晴れた瞼が、一晩泣き続けていたであろう事を教えてくれる。
 どう見てもやせ我慢しているようにしか見えないが、その原因を作った俺に言えることなんかあるんだろうか。


「……そうか。頼りにしてるよマーサ。これからよろしく頼むな」

「おうっ!最高の装備を用意してやるぜ!」


 結局無難な挨拶を返してしまった。
 全く、情けないな俺は。


 自宅を出てまずはホムロの店へ。リーネ用の最上級の装備を注文する。
 お金は勿論俺が出す。もう身内だからな。

 次に商工ギルドに寄って、ミルズレンダの商工ギルド宛に、3日後に白金板1枚を振り込んでもらう手配と、依頼の完了手続きをしてもらう。もうミルズレンダに行くことはないので、購入した物件は放置することになるな。


 街での依頼を済ませて、やってきました55階層。
 55階層の魔物は『凶暴鬼クレイジートロル』。15階層に出てきたレッサートロルの上位種に当たる。
 8~10メートルはありそうな巨躯に優れた身体能力、非常に強力な再生能力を持ち、巨大な棍棒や斧などを振るってくる強力な魔物だ。
 メンバー全員が『攻撃範囲拡張:中』を取得する前だったら、苦戦は必死だっただろうな。

 ドロップアイテムは『霊樹』。トレントのドロップである霊木と比べて建材向きの素材らしく、高級建築物などに良く用いられるのだそうだ。買い取り額は350リーフ。


 俺1人で探索したときも、物凄く探索速度が速くなったと思ったけれど、パーティ探索に至っては、倍速と言っていいほどの殲滅スピードになってしまった。
 今まで日没まで3セット6回の探索が、5セット10回も回れるようになってしまったのだ。
 なるべく沢山のSPを稼ぎたいので早くなる分には歓迎なのだが、装備品製作の時にガンガンお金をばら撒かないといけないなぁという想いが強くなる一方だ。

 ……というか、50階層台もちょっとヌルくなりすぎてしまってる感じだ。


 本日の探索を終え、冒険者ギルドでリーネも含めて模擬戦を行ってから帰宅する。
 カンパニーメンバーに洗浄をかけつつ夕食の配給。夕食を配り終えたら身内だけでゆったりと夕食タイムだ。今日はマーサもちゃんと帰ってきている。


「まだ構想段階だけどよ。必要になりそうな素材は明日の朝辺りから逐一報告すっからな。
 マジで申し訳ねぇけどよ、素材の調達は任せるぜ」

「ああ頼むよ。どうやら次の戦いも近いらしいからな」


 装備の完成が間に合うとは思えないけれど、素材の調達くらいは進めておきたいところだ。

 
 夕食が終わり、みんなまったりしている。
 次の戦いは近いみたいだけど、最近ゴタゴタしていたミルズレンダとカンパニーの一件が落ち着いて、少し気が抜けたみたいだな。

 ずっと、マーサになんて言うべきか考えていたけれど、気の利いた言葉なんて見つからなかった。
 この世界に来てから、困ったことは全部音魔法先生に頼っていた俺だ。
 今回も頼らせてもらおう。


「みんなちょっと聞いてもらえる?
 俺たちの来た場所にはさ、音楽っていう文化があったんだ。
 沢山の音を繋げて、言葉に出来ない想いを誰かに伝えるっていう文化だな。
 最近音魔法で再現できるようになってきたからさ。一曲聴いてってよ」


 ハルはびっくりしてるけど、他のみんなはやっぱりピンとこない顔をしてる。
 この世界にはまだ音楽っていう文化はないっぽいか。

 音魔法を起動する。
 記憶に残っている好きだった曲を思い出す。
 それに乗せて皆への感謝、最近回った国境壁外への想い、いままでリンカーズで過ごしてきた日々を思い出しながら、かつてはただ好きだっただけの曲を再現していく。


「凄く……綺麗な音だね……。
 初めて聴いた音なのに、どこか懐かしいような……」


 シンには沢山世話になったな。
 この世界を知らない俺に、色々な事を教えてくれた。


「すごいね……。音が重なり合って、音が踊ってるみたい……」


 センパイにはいつもお世話になっております。
 人殺しの俺がいまだ穏やかに過ごせるのは、きっとリーンのおかげだ。


「音楽、でしたか。これは素晴らしいですね……。
 まるで体の内面に直接触れられているような気さえしますよ……」


 トルネは出会いが最悪だったけど。今ではかけがえのない存在だ。

「うん。私はあまり音楽を聴いたりしてこなかったけど、こっちに来てから音楽に触れられるとは想わなかったな……」


 ハルのことも助けられて良かった。
 シンとも良好な関係を続けているみたいだし、同じ異邦人として今後も仲良くしていきたい。


「迷宮に入れないくらいで絶望してたのがバカみたい……。
 世界ってこんなに広くて、綺麗だったのに……」


 他ならぬリーネがそう言えるのなら、迷宮に入れないなんてなんの問題もないってことだ。


「この曲のタイトルはリヴァーブ王国の言葉にはないんだよな。
 あえて分かりやすい言葉にするなら、『私は貴方の人生が幸せである事を願います』かな」

「んだよそれは……。俺にこんなもん聴かせて、どうしろってんだよ……」


 マーサは泣いていた。
 怒ってるようでもなく、悲しんでいるようでもなく、ただ静かに涙を流していた。


「悪いマーサ。お前に言うべき言葉が見つからなかったんだ。
 お前の人生の歯車を大きく変えてしまった俺に、なにが言えるのかわからなかったから。
 俺の想いだけでも伝えておきたくて、音楽に頼らせてもらったんだよ」


 我ながらダサいと思うけど。
 言える言葉がないのなら、違う方法で想いを伝えるしかない。


「……私の、幸せ、か」


 マーサはそれきり目を閉じて、音楽に身を任せるかのように、静かに曲に耳を傾けていた。

 ここにいるみんなが、俺に大きく人生を変えられてしまったと言っても過言ではない。
 責任を取るなんて、軽々しく言うことは出来ないけれど。

 せめて、みんなの幸せを強く願う。
 祈りを捧げるような気持ちで紡いだ音は、ベイクの夜に溶けていった。
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