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8章 異風の旋律

264 光の糸

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 スキル神殿を出て狩人ギルドへ。
 移動中も周囲に注意を向けていたが、やはり状況を把握している人は居ないように見える。


「あ、みんな……! 良かった……!」


 狩人ギルド前に、リーネとクリーヌが待っていた。


「悪い待たせた。何かわかったことはあるか?」

「駄目。みんな混乱してるし、そもそもこれが何か分かる人がいない」


 だろうな。地震の原因なんて分かる奴が居るわけない。
 というかクリーヌの言い方だと、地震そのものもあまり知られていない感じか?
 とりあえずタイミング的に考えて、迷宮討伐に何らかの関わりがあると予想できるくらいなんだが、他に何か手がかりはないだろうか。

 そういや今回『遠見』を取得したんだよな。
 試験も兼ねて、街の外を一望できる場所に行ってみるか……?


「クリーヌ。ボールクローグの城壁の上に登れるとこある?
 俺たちはこの揺れは、迷宮殺しになんらかの関わりがあると予想してるんだよ。
 とりあえず迷宮が発生していた方向を、遠目にでも確認したいんだ」

「ん……。このままギルドに居ても埒が明かない……か。
 壁の上まで案内できる。一緒に来て」


 一瞬迷ったクリーヌだったが、すぐに案内を了承してくれた。
 クリーヌを先頭に移動する。


「そんでリーネ。お前から見て、ギルド内の状況はどうだったのか教えてくれ」

「え? えっと、クリーヌが言ってた通りだよ……?
 みんななにが起きてるんだー、って叫んでて、ギルドの人がただ今確認中ですー、みたいな……?」


 あー、場の混乱が目に浮かぶようだ……。
 情報を集めるためにギルドに行くのは間違っちゃいないけど、そもそもギルドに情報が届いてなければ行く意味ないんだよなぁ。

 TVやネット、電話なんかの情報発信ツールが発達してる現代日本ですら、災害直後って何も分からんからな。それでも日本人は最低限の防災意識あると思うけど、リヴァーブ王国で防災教育なんて行われてるわけもなし。
 まずは自分の目と耳と足で、各種ギルドに届ける情報を集めるしかない。


「ここ。普段は警備兵がいるんだけど、今は誰もいないみたい。
 でも一般開放されてる場所だから問題無い。行こ」


 クリーヌが城壁の内側から入れる登り階段に案内してくれた。
 一般開放されてる場所なら大丈夫か。
 仮に問題があっても、持ち場を離れた警備兵の責任を追及することにしよう。

 城壁もそれなりの高さではあるが、全員スキル持ちなので息切れすることもなく登りきる。
 さてと、最後に討伐された迷宮はどの変なのかな?


「クリーヌ、俺たちの後に残っていたと思われる迷宮の位置って……」

「トーマ……!あっちを見て……!向こうの空が少しだけ明るいよ……!?」


 クリーヌに迷宮の位置を確認しようとすると、リーネが何らかの異変を報告してくる。
 リーネの見ているほうを見ても、空の明るさの違いなんて俺には良く分からないな……?
 ってそうか。リーネは暗視を持ってないのか!

 暗視スキルを1度切って、改めてリーネが教えてくれた方向を見る。

 確かに……、完全に日が落ちているのに、俺たちが見ている方向だけがやけに明るく感じられる。

 ただ、なんだ……?極々最近、似たような光景を目にしたことがあるような……?


「確かに、明るいね。暗視を使っていたから気付かなかったよ。
 でも単純に、昼間のような明るさって感じじゃなくて、何かが光ってるような感じに思えるね」

「うん。それに色も一定じゃない感じ?なんだか沢山の色が煌いているように見えるかな」


 沢山の色が煌きながら、天に昇っていく光景……。
 それってつまり……。


「迷宮殺しが終わった後、迷宮が魔力還元されていってる時みたいだねー」

「ですね。そう考えると、迷宮殺しと関連がある可能性はやはり高そうですね」


 『遠見』発動。光っている方角に望遠を向ける。

 うわ、前振りなしに、展望台の上の双眼鏡を覗いたみたいな視界に切り替わった。
 使い慣れておかないと、気持ち悪くなってしまいそうだ。

 
 どの程度の倍率で遠くを見通せているのか分からないが、光っている方向に目を向けると、空から七色に煌く光が、地面に向かって糸のように収斂しているのが見えた。
 全部で5箇所か。しかし方向くらいは教えられるけど、この視覚情報だけで場所を説明するのは俺には無理だな。


「『遠見』を使って見たんだけど、空から虹色に煌く光が、地面に向かって糸のように収斂してる。それが5箇所。
 魔力還元と比べてみると、空から地面に光が落ちているように見えるな。
 クリーヌ。お前この周辺の地図って頭に入ってるよな?
 今から光の糸が落ちている方向を教えるから、それぞれ記憶して狩人ギルドに報告してくれないか?」

「ん、わかった。教えて」


 凄いマヌケっぽい絵になってると思うけど、遠見をしながら光の糸が落ちている方向に体ごと向いて、指で方向を指し示す。
 俺の知識では、どこも森林地帯の中にしか見えないし、望遠倍率も分からないので距離も測れない。


「ん。覚えた。それじゃ狩人ギルドに報告に行こ。
 この現象がなんなのか、知ってる人がいるかも」


 確かに、情報さえ届けられれば正解を知ってる奴はいるかも知れない。
 今来たばかりだが、同じ道を急いで引き返す。

 狩人ギルドに戻ってきたが、まださほど時間も経っていないし、状況に変化は見られない。
 こういう時って冒険者ギルドに行くイメージがあるんだけど、どこのギルドも同じ状況なのかな?
 
 クリーヌはごった返すギルド内を器用に潜り抜けて、カウンターの奥まで入り込み、ギルド員と何か話しているようだ。
 そしてギルド員がどこかに走って行ってしまうと、クリーヌが俺たちに向かって手招きをしている。
 どうやら俺たちも、このごった煮の中に突撃する必要がありそうだ。

 さて、どんな情報が得られるかな?
 最悪空振りもありえるので、過剰に期待するのは控えるべきか。
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