異世界で目指せハーレム生活! でも仲間のほうがモテモテです

りっち

文字の大きさ
317 / 580
8章 異風の旋律

閑話022 熱の伝わり ※とある狩人視点

しおりを挟む
「ボールクローグ近郊の迷宮5箇所から、魔物の氾濫の兆候が確認された。
 明日の夜には、ボールクローグは魔物の波に飲み込まれることになるだろう」


 私は頭が真っ白になった。
 迷宮の氾濫だって、何十年に1度あるかないかってくらいの大災害だっていうのに、それが同時に5箇所も発生している……!?

 せっかく最近冒険者として4等級になり、大きな狩猟団への入団が叶ったばかりだっていうのに、どうしていきなりこんなことが起きるのよ……!

 迷宮の氾濫が起きると、逃げ場なんてなくなってしまう。
 ゲートの使用は制限されていないけど、そもそもゲートを利用できるのなんて一部の金持ちだけ。
 私程度の稼ぎでゲートを利用するのはかなり辛い。

 ボールクローグを捨てて逃げるとしても、魔物は人を探してどこまでも追いかけてくる。
 街の外で氾濫に襲われるよりは、城壁のあるボールクローグに留まるべきだ。
 
 ……どちらにしても、生き残れるとは思えないけれど。


「新人、どうした? 元気がないな?」

「あ、クリスンさん? 家族の様子を見に行ったんじゃ?」

「ああ、うちの子供たちは優秀だからな。ギルドからの情報を受けて、みんなもう出来る事をやっていたよ。父親の俺が一番不甲斐ないくらいだ。ははは」


 クリスンさんは私が入団を許された狩猟団の古参メンバーで、体が小さいリスの獣人で見た目もとっても可愛いのに、戦闘では誰よりも前に出て戦い、団のメンバーからも頼りにされている先輩だ。


「クリスンさんは良く笑っていられますね……。
 まさか生きているうちに迷宮の氾濫に遭遇するなんて思ってなかったから、私はどうしたらいいかわかんないですよぅ……」


 クリスンさんに当たっても仕方ないのに、クリスンさんの人当たりの良さに、ついつい愚痴を吐いてしまう。


「ははは。俺だって迷宮の氾濫なんて体験したことないからな、どうしたらいいかなんて分からないよ。
 でもさっき家族を見て思ったんだよな。ああ、まだ全然諦めてない人がいるんだって」

「諦めて、ない……」

「ああ。ゲートでの避難を勧めたんだけどさ。家族が1人でも残るなら、その1人のために全力で協力するのが家族なんだ! って、逆に怒られちまったよ。
 はっはっは。父親なんて情けないもんだよなぁ」


 クリスンさんが私の顔を真っ直ぐ見上げてくる。
 大先輩なのにこんなこと思うのは失礼かもしれないけど、可愛すぎますよクリスンさん。


「なぁ新人。どうせ何もしなくても死んじまうならよ。死なないために足掻いてみないか?
 ウチの家族が言うにはよ。全然諦めずに動いている、すげぇ奴らが協力してくれてるらしいんだ。
 絶望的な状況には変わりねぇけどよ。座して死を待つなんて、前線都市ボールクローグの冒険者として、狩人として、かっこわりぃじゃねぇか」


 クリスンさんがとっても良い事を言ってくれていたけど、上目使いのクリスンさんが可愛すぎて、半分くらい頭に入ってきません。
 でも、おかげで少し前向きな気分になれた気がする。


「狩猟団のリーダーと個人で活動してる狩人は集まって! 狩人ギルドも出来る事を全力でするわよ!」


 クリスンさんと話していると、ウチの団出身という狩人ギルドマスターが指示を出し始めた。
 な? 俺の言った通りだろ? って言いたそうなクリスンさんの首を傾げた姿が可愛すぎました。


 狩人達は迷宮の正確な位置の割り出しと、ボールクローグ近郊に住む住人の避難誘導を任された。
 ウチの団は大型馬車を持っているので、避難誘導を担当する。

 避難を渋った場合は置いていくように通達されていたけど、実際に村や町を訪れてみると、避難を渋るどころか、大歓迎で受け入れられた。
 どうやら迷宮と空を繋ぐ光の糸が見える位置に住んでいたため、なにかが起こっている事は察していたのだそうだ。


「ありがたい……。本当にありがたいことです……。我々の足ではボールクローグまで移動するなんて、到底考えられませんでしたから。
 迷宮の氾濫なんて恐ろしくて堪りませんが、私達を見捨てずに手を差し伸べてくださったボールクローグの皆様には、感謝しかありません……!」


 う、ちょっと後ろめたい……。
 私なんか、迷宮の氾濫を知って、真っ先に諦めた中の1人なのに。


「新人。難しく考えなくて良いんだ。この村の人たちに取っちゃあ、目の前のお前の行動が全てなんだからよ」


 こういう気遣いが出来るところが、みんなに頼られる秘訣なのかなぁ。
 単純に外見で好かれている可能性も否定できないけど。

 始めの避難民を連れてボールクローグに戻ってくると、既に避難民の受け入れ態勢が整えられていた。
 住人たちとも協力して休める場所を提供し、食事などの配給も開始されていた。
 でも、何より驚いたのは、避難民にも防衛の協力を要請したことだった。


「ボールクローグにいる人間だけで今回の氾濫を乗り切れるとは思っておりません!
 お願いします! 皆さんの力を貸してください! 皆さんにも出来ることはあります! どうか一緒に戦いましょう!」


 そして戦える者、戦えない者、こんな仕事をして欲しい、ここが人手が足りていないなど、ボールクローグに到着したばかりの避難民の皆さんが、自主的に協力してくれている光景が、なんだか信じられなかった。
 迷宮の5箇所同時氾濫なんて、歴史上でも1度も起こった事はないほどの大災害なのに、どうしてみんな、そんなにすぐに動き出せるんだろう……?


 朝になって、今回の迷宮の氾濫を引き起こしたとされる犯人が公表されて、犯人に対する多少の粗相は許されたっていうのに、みんなそんな奴に構っている暇は無いとばかりに、行きがけに1発殴る程度で、あとはもう眼中にもないようだった。
 働くことが出来ない子供たちが、絶え間なく石を投げつけていたけれど。


「ははは。みんな何かをしてねぇと不安なのさ。俺だってそうだけどよ、5箇所同時氾濫なんて聞いたことすらないからな。今がどんだけ絶望的かってのは、みんなちゃんと分かってんだよ。
 だから不安で押し潰されないように、出来る事を無心で頑張ってんだよ。止まっちまったら、もう動き出せねぇからな」

「でもクリスンさん。不安なだけだったら、犯人達にもっと怒りをぶつけてもよさそうじゃないですか?
 それなのに、まるでどうでも良いんだよって言わんばかりの扱いですよね?」

「ああ、それもなんとなく分かるぜ。始め迷宮の氾濫を聞いた時に、みんなには絶望が広がったと思う。俺ももう終りだと思ったしな。
 でもよ。諦めてない家族を見て、俺も諦めてられないなって思ったんだ。諦めてない俺を見て、お前が前向きになったみたいにな」


 私の場合はクリスンさんの可愛さのおかげですけどね?


「俺が思うによ。絶望って奴が広がるように、諦めてないやつの姿ってのも、人から人へ伝染していくもんなんだよ。
 誰かは知らねぇが、恐らく氾濫の話を聞いてから、全く諦めていなかった奴がいるんだよ。そいつの姿を見てボールクローグの奴等も熱を取り戻したんだ。
 そしてそんなボールクローグの住人を見て、避難してきた人たちにも熱が伝わったんだと思うぜ」

「熱が伝わる、ですか」

「ああ。人ってのは1人じゃ生きていけねぇもんだからな。俺が家族に救われたように、お前が狩猟団で活動しているように、生きるってのは繋がるってことだ。
 絶望して血の気が引いてよ、生きていくのに必要な熱ってのが失われた時にはよ。熱を持っている人間の姿が、生きるのに必要な熱を呼び起こしてくれたんじゃねぇのかと思うんだよ」


 そこでクリスンさんは1度言葉を切って、私に向かって少し意地の悪そうな笑顔を向けてきた。そんな顔しても可愛いですよクリスンさん。


「避難してきた人たちだってよ。会った直後は絶望してただろ?
 でも熱を取り戻したお前の姿を見て、みんな前向きになったんじゃねぇかよ」


 そう、なのかな?
 私の姿が、誰かの熱を取り戻すことに繋がったのかな?

 クリスンさんの話がちゃんと理解できているのか自信ないけど、クリスンさんの話を聞いた私の中には、今までよりも強い熱が宿っているような気がした。
しおりを挟む
感想 28

あなたにおすすめの小説

S級クラフトスキルを盗られた上にパーティから追放されたけど、実はスキルがなくても生産力最強なので追放仲間の美少女たちと工房やります

内田ヨシキ
ファンタジー
[第5回ドラゴンノベルス小説コンテスト 最終選考作品] 冒険者シオンは、なんでも作れる【クラフト】スキルを奪われた上に、S級パーティから追放された。しかしシオンには【クラフト】のために培った知識や技術がまだ残されていた! 物作りを通して、新たな仲間を得た彼は、世界初の技術の開発へ着手していく。 職人ギルドから追放された美少女ソフィア。 逃亡中の魔法使いノエル。 騎士職を剥奪された没落貴族のアリシア。 彼女らもまた、一度は奪われ、失ったものを、物作りを通して取り戻していく。 カクヨムにて完結済み。 ( https://kakuyomu.jp/works/16817330656544103806 )

男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件

美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…? 最新章の第五章も夕方18時に更新予定です! ☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。 ※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます! ※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。 ※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!

第2の人生は、『男』が希少種の世界で

赤金武蔵
ファンタジー
 日本の高校生、久我一颯(くがいぶき)は、気が付くと見知らぬ土地で、女山賊たちから貞操を奪われる危機に直面していた。  あと一歩で襲われかけた、その時。白銀の鎧を纏った女騎士・ミューレンに救われる。  ミューレンの話から、この世界は地球ではなく、別の世界だということを知る。  しかも──『男』という存在が、超希少な世界だった。

異世界でただ美しく! 男女比1対5の世界で美形になる事を望んだ俺は戦力外で追い出されましたので自由に生きます!

石のやっさん
ファンタジー
主人公、理人は異世界召喚で異世界ルミナスにクラスごと召喚された。 クラスの人間が、優秀なジョブやスキルを持つなか、理人は『侍』という他に比べてかなり落ちるジョブだった為、魔族討伐メンバーから外され…追い出される事に! だが、これは仕方が無い事だった…彼は戦う事よりも「美しくなる事」を望んでしまったからだ。 だが、ルミナスは男女比1対5の世界なので…まぁ色々起きます。 ※私の書く男女比物が読みたい…そのリクエストに応えてみましたが、中編で終わる可能性は高いです。

男:女=1:10000の世界に来た記憶が無いけど生きる俺

マオセン
ファンタジー
突然公園で目覚めた青年「優心」は身辺状況の記憶をすべて忘れていた。分かるのは自分の名前と剣道の経験、常識くらいだった。 その公園を通りすがった「七瀬 椿」に話しかけてからこの物語は幕を開ける。 彼は何も記憶が無い状態で男女比が圧倒的な世界を生き抜けることができるのか。 そして....彼の身体は大丈夫なのか!?

収納魔法を極めた魔術師ですが、勇者パーティを追放されました。ところで俺の追放理由って “どれ” ですか?

木塚麻弥
ファンタジー
収納魔法を活かして勇者パーティーの荷物持ちをしていたケイトはある日、パーティーを追放されてしまった。 追放される理由はよく分からなかった。 彼はパーティーを追放されても文句の言えない理由を無数に抱えていたからだ。 結局どれが本当の追放理由なのかはよく分からなかったが、勇者から追放すると強く言われたのでケイトはそれに従う。 しかし彼は、追放されてもなお仲間たちのことが好きだった。 たった四人で強大な魔王軍に立ち向かおうとするかつての仲間たち。 ケイトは彼らを失いたくなかった。 勇者たちとまた一緒に食事がしたかった。 しばらくひとりで悩んでいたケイトは気づいてしまう。 「追放されたってことは、俺の行動を制限する奴もいないってことだよな?」 これは収納魔法しか使えない魔術師が、仲間のために陰で奮闘する物語。

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

処理中です...