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8章 異風の旋律
299 作戦決行
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「タイデリア家の私兵は50名。30名ほどで屋敷を制圧し、20名は予備の人員と、相手の拘束を担当します。
トーマさん達は私と同行してください。誰かが異邦人と接触した場合、居場所が分からないと困りますから」
マジで即日決行になってしまったけど、不安要素は異邦人だけだからな。
今まで手が出せなかったためか、スカーさんも微妙に張り切っているし、流れに任せますかね。
旧カルネジア邸、現ロンメノ邸は街の中心に近い場所にあった。
街の中心にあるはずなのに、屋敷の周りには他の建物が全然建っていない。
「……はぁ~。
まさかここに戻ってくる日がくるなんて、人生って分からないものです……。
あ、ハロイツァの気紛れに振り回されるのを嫌った街の住人が、カルネジア邸の近くに住む事を嫌っていたので、街の中心の割には寂れてるんですよね、この辺り」
ハロイツァ嫌われすぎだろ。俺も嫌いだけど。
「こちら側の戦力は正直過剰でしょう。
ですが異邦人への対応だけを考慮して、これほどの戦力を投入させてもらいました。
もし異邦人が居なかった場合は、皆さんの出番はないかと思われます。
……皆さんには申し訳ないですが、皆さんの出番がない事を祈っていますよ」
「同感だよ。最近働きすぎてると思うし、今日は出番がないことを祈ってる」
チート能力者なんて居ないに限るし、ロンメノに利用されている異邦人も居ないほうがいい。
俺もサボれるし、スカーさんも張り切っているし、出番がなければみんなハッピーだ。
「それではこれより、旧カルネジア邸襲撃作戦を決行する!
相手の戦力は全く問題にならないが、異邦人が出た場合には絶対に交戦せず、監視しながらすぐに私に知らせるように!
屋敷の中にいる人間は全て捕縛対象だ! 1人たりとも逃がしてはならない!
リヴァーブ王国を滅ぼそうとした逆賊ロンメノを、絶対に許してはならない!
水のタイデリア家の名に誓って、本作戦を完遂するぞぉ!」
「「「はっ!! 水のタイデリア家の名に誓って!!」」」
襲撃なのに、屋敷の前に大人数で集まって宣誓までしてるよ……。
マジで正々堂々正面突破。何の工夫もない、完全な力押し作戦だ。
「メイス隊! 正面門を破壊しろ!」
「はっ!」
返事をした男が前に出て、でかいハンマーを振りかぶっている。
「はぁっ!!」
掛け声と共に、何の躊躇いもなくハンマーを振り下ろした。
響き渡る轟音と、飛び散る破片。そしてそれを意に介さずに、どんどん進んでくタイデリアの私兵だち。
まじかよ、普通に屋敷の門を破壊したんだが……。
なんつうか、警察とか機動隊による暴徒の制圧みたいなもんをイメージしていたんだけど、やってることが完全に軍によるテロリストの制圧だな……。
いや、実際にテロリストなわけだからこの対応が普通なのか。
異邦人が出てくる可能性を考えると、一瞬だって気が抜けないんだしな。
俺のほうが気を抜きすぎか。
次々に制圧されていく屋敷の人々。
明らかにただの使用人っぽい人たちも混ざっているけど、とりあえず拘束して、後から選別するって感じなのかな。
流石に、ロンメノに関わった奴は問答無用で犯罪奴隷にするような事は、タイデリア家はしないはずだ。どっかのメーデクェイタ家ならやるかも知れないけど。
しかし、未だにロンメノを発見出来ていない。
金持ちのお屋敷には隠し通路とか定番だけど、最近買ったばかりでそんなもの用意できるとも思えないしな。
それともスキルと魔法を駆使した異世界建築技術なら可能なんだろうか?
「トルネ。この屋敷の主がいるべき部屋の場所を……、いや違うな。
お前の母親が使っていた部屋か、お前が使っていた部屋ってどこにある?」
「………………トーマ、もしかしてロンメノは、書斎ではなくて母の部屋にいるって言うんですか……?
さ、流石にそれは、ちょっと気持ち悪いかな、と思うんですけど……?」
「30年近くも片思いを拗らせた男だからな。書斎なんかよりも女の部屋にいそうだと思ってね。
っていうかもしかして、お前って個室もらえてなかったの?」
「流石に個室でしたよ! これでもブルガーゾの実の娘なんですから、当たり前でしょう!
でもハロイツァの指示で、私の部屋は離れに用意されたんですよ。私を視界に入れたくないとかで」
離れにある部屋ってのも可能性高そうだなぁ。
とっくにこの世を去った初恋の相手より、今生きている若い娘の方に目が向いていてもおかしくない。
「あー……、お袋さんの部屋に、ロンメノがいる事を祈ってるよ」
「い、いやいやいやいやいや! そ、それは流石にやめて欲しいんですけど!?
そりゃあもうここは捨てた場所ですけど、それでも気持ち悪すぎますよ!?
と、鳥肌が……!」
しかし現実は非常である。
屋敷の奥の書斎にも、トルネの母親の私室にも、ロンメノの姿はなかった。
トルネの顔から表情が消えた。
「…………離れに案内します。付いて来てください」
ドンマイだトルネ!
そんな想いをするのも間もなく終わるはずだ!
1度屋敷の外に出て、知らなければ気付かないような、獣道にしか見えない道に案内される。
これって道を隠すように木々を植えたんだろうな。
ハロイツァってトルネのこと、どんだけ嫌ってたんだよ。
ひと1人通るのがやっとの細い道を抜け、離れの建物が目に入った。
問題は、建物の前に2つの人影があることか。
「そ、そこまでよっ! こ、こここ、ここを通すわけにはいぐぼっ!?」
転移で接近。膝蹴りを入れる。
敵を前にして、暢気に口上なんてあげてちゃだめだろ。
改めて人影を確認すると、2人ともかなり若い女だった。黒髪の。
「スカーさん。恐らく2人とも異邦人だ。拘束と監視をお願いしていい?」
「大丈夫です。屋敷の本館はほぼ征圧も完了しましたしね。
しかし敵とはいえ、若い女性にも容赦ありませんねトーマさんは」
「チート能力者にそんな気遣いしてる余裕ないってば。
それじゃ俺たちは、建物内を確認してこよう」
「ううう……。ロンメノを逃がすわけにはいきませんけど、出来ればここには居ないで欲しい……!」
トルネが気の毒なほどに怯えてる。
ロンメノに対するトルネの印象って最悪だもんな。
会った事もないのに、自分の知らないところで勝手に婚約者にされて、婚約した理由が母親の代わり、だもんなぁ。
生理的嫌悪感の全部盛り、みたいな印象だろ。
まぁそれがなかったとしても、もう許してやれないんだけどな。
トーマさん達は私と同行してください。誰かが異邦人と接触した場合、居場所が分からないと困りますから」
マジで即日決行になってしまったけど、不安要素は異邦人だけだからな。
今まで手が出せなかったためか、スカーさんも微妙に張り切っているし、流れに任せますかね。
旧カルネジア邸、現ロンメノ邸は街の中心に近い場所にあった。
街の中心にあるはずなのに、屋敷の周りには他の建物が全然建っていない。
「……はぁ~。
まさかここに戻ってくる日がくるなんて、人生って分からないものです……。
あ、ハロイツァの気紛れに振り回されるのを嫌った街の住人が、カルネジア邸の近くに住む事を嫌っていたので、街の中心の割には寂れてるんですよね、この辺り」
ハロイツァ嫌われすぎだろ。俺も嫌いだけど。
「こちら側の戦力は正直過剰でしょう。
ですが異邦人への対応だけを考慮して、これほどの戦力を投入させてもらいました。
もし異邦人が居なかった場合は、皆さんの出番はないかと思われます。
……皆さんには申し訳ないですが、皆さんの出番がない事を祈っていますよ」
「同感だよ。最近働きすぎてると思うし、今日は出番がないことを祈ってる」
チート能力者なんて居ないに限るし、ロンメノに利用されている異邦人も居ないほうがいい。
俺もサボれるし、スカーさんも張り切っているし、出番がなければみんなハッピーだ。
「それではこれより、旧カルネジア邸襲撃作戦を決行する!
相手の戦力は全く問題にならないが、異邦人が出た場合には絶対に交戦せず、監視しながらすぐに私に知らせるように!
屋敷の中にいる人間は全て捕縛対象だ! 1人たりとも逃がしてはならない!
リヴァーブ王国を滅ぼそうとした逆賊ロンメノを、絶対に許してはならない!
水のタイデリア家の名に誓って、本作戦を完遂するぞぉ!」
「「「はっ!! 水のタイデリア家の名に誓って!!」」」
襲撃なのに、屋敷の前に大人数で集まって宣誓までしてるよ……。
マジで正々堂々正面突破。何の工夫もない、完全な力押し作戦だ。
「メイス隊! 正面門を破壊しろ!」
「はっ!」
返事をした男が前に出て、でかいハンマーを振りかぶっている。
「はぁっ!!」
掛け声と共に、何の躊躇いもなくハンマーを振り下ろした。
響き渡る轟音と、飛び散る破片。そしてそれを意に介さずに、どんどん進んでくタイデリアの私兵だち。
まじかよ、普通に屋敷の門を破壊したんだが……。
なんつうか、警察とか機動隊による暴徒の制圧みたいなもんをイメージしていたんだけど、やってることが完全に軍によるテロリストの制圧だな……。
いや、実際にテロリストなわけだからこの対応が普通なのか。
異邦人が出てくる可能性を考えると、一瞬だって気が抜けないんだしな。
俺のほうが気を抜きすぎか。
次々に制圧されていく屋敷の人々。
明らかにただの使用人っぽい人たちも混ざっているけど、とりあえず拘束して、後から選別するって感じなのかな。
流石に、ロンメノに関わった奴は問答無用で犯罪奴隷にするような事は、タイデリア家はしないはずだ。どっかのメーデクェイタ家ならやるかも知れないけど。
しかし、未だにロンメノを発見出来ていない。
金持ちのお屋敷には隠し通路とか定番だけど、最近買ったばかりでそんなもの用意できるとも思えないしな。
それともスキルと魔法を駆使した異世界建築技術なら可能なんだろうか?
「トルネ。この屋敷の主がいるべき部屋の場所を……、いや違うな。
お前の母親が使っていた部屋か、お前が使っていた部屋ってどこにある?」
「………………トーマ、もしかしてロンメノは、書斎ではなくて母の部屋にいるって言うんですか……?
さ、流石にそれは、ちょっと気持ち悪いかな、と思うんですけど……?」
「30年近くも片思いを拗らせた男だからな。書斎なんかよりも女の部屋にいそうだと思ってね。
っていうかもしかして、お前って個室もらえてなかったの?」
「流石に個室でしたよ! これでもブルガーゾの実の娘なんですから、当たり前でしょう!
でもハロイツァの指示で、私の部屋は離れに用意されたんですよ。私を視界に入れたくないとかで」
離れにある部屋ってのも可能性高そうだなぁ。
とっくにこの世を去った初恋の相手より、今生きている若い娘の方に目が向いていてもおかしくない。
「あー……、お袋さんの部屋に、ロンメノがいる事を祈ってるよ」
「い、いやいやいやいやいや! そ、それは流石にやめて欲しいんですけど!?
そりゃあもうここは捨てた場所ですけど、それでも気持ち悪すぎますよ!?
と、鳥肌が……!」
しかし現実は非常である。
屋敷の奥の書斎にも、トルネの母親の私室にも、ロンメノの姿はなかった。
トルネの顔から表情が消えた。
「…………離れに案内します。付いて来てください」
ドンマイだトルネ!
そんな想いをするのも間もなく終わるはずだ!
1度屋敷の外に出て、知らなければ気付かないような、獣道にしか見えない道に案内される。
これって道を隠すように木々を植えたんだろうな。
ハロイツァってトルネのこと、どんだけ嫌ってたんだよ。
ひと1人通るのがやっとの細い道を抜け、離れの建物が目に入った。
問題は、建物の前に2つの人影があることか。
「そ、そこまでよっ! こ、こここ、ここを通すわけにはいぐぼっ!?」
転移で接近。膝蹴りを入れる。
敵を前にして、暢気に口上なんてあげてちゃだめだろ。
改めて人影を確認すると、2人ともかなり若い女だった。黒髪の。
「スカーさん。恐らく2人とも異邦人だ。拘束と監視をお願いしていい?」
「大丈夫です。屋敷の本館はほぼ征圧も完了しましたしね。
しかし敵とはいえ、若い女性にも容赦ありませんねトーマさんは」
「チート能力者にそんな気遣いしてる余裕ないってば。
それじゃ俺たちは、建物内を確認してこよう」
「ううう……。ロンメノを逃がすわけにはいきませんけど、出来ればここには居ないで欲しい……!」
トルネが気の毒なほどに怯えてる。
ロンメノに対するトルネの印象って最悪だもんな。
会った事もないのに、自分の知らないところで勝手に婚約者にされて、婚約した理由が母親の代わり、だもんなぁ。
生理的嫌悪感の全部盛り、みたいな印象だろ。
まぁそれがなかったとしても、もう許してやれないんだけどな。
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