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9章 異邦人が生きるために
310 正しい努力
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「お前ら、本当に迷宮を踏破しちまったんだなぁ……」
もう日没は過ぎているが、オーサンがまだギルドに残っていた。
「お蔭様でね。オーサンにはだいぶ世話になったよ」
「はっ! 全くだぜ! お前は本当に手がかかる冒険者だったなぁ。
それが1年を待たずに迷宮踏破かよ。ったくお前はどんだけ非常識なんだよ」
「それでも、これからは冒険者が強くなる速度は増していくと思うよ。
オーサンも指導員を続けたいなら、今からでも鍛えなおすことを勧めとく。
きっとこれからの冒険者は、俺みたいなのが普通になっていくだろうからさ」
「「「いやそれは無い」」」
総ツッコミを受けてしまった。
でもチートを持たずにこの世界に来て、色んな人の助けを借りてここまで強くしてもらったんだ。
特別なことなんか何もしてない。
だから、誰にでも出来るはず。
「そりゃあ一気に昇級試験受けるわけだよなぁ。っと、忘れてたぜ。
迷宮踏破おめでとう。異風の旋律は、もはや名実共に、一流の冒険者パーティになった。
お前らの指導をすることが出来て、心から光栄に思うぜ」
「はは。そう言ってもらえて、こっちこそ光栄だね。
ま、これからもよろしく頼むよ。カンパニーの奴等のことも、俺たちみたいに導いてやってくれ」
「無茶言いやがんじゃねぇよ! ま、これからも宜しくな。
――――迷宮都市ベイクは、異風の旋律というパーティが生まれた事を、心から誇りに思うぜ」
相変わらずのめんどくさそうな感じで、オーサンは賞賛の言葉を贈ってくれた。
はは。なんか初めて会ったときみたいな事を言いやがって。
どうせオーサンとは、今後も一生付き合っていくんだろうな。オードルもいるしさ。
「「迷宮踏破おめでとう!」」
自宅に帰ると、ジーンさんとリンシアさんもお祝いしてくれた。
最下層までヌルすぎて、別に大したことじゃないように思えていたけど、みんなに祝ってもらえると悪い気はしないな。
「トーマよぉ。お前、いつまで6等級でいるつもりなんだよ?
お前が6等級とか、詐欺を通り越して犯罪だぜ?」
詐欺も犯罪ですよマーサさん。
「別に6等級でも不便はないしなぁ。相手が侮ってくれるなら儲けもんだし。
上位冒険者なら他のみんながなってくれるみたいだし、俺はこのまま6等級のままでいいわ」
「これからのリヴァーブ王国の冒険者等級の基準は変わっていくかも知れないね。
ボールクローグでも大量のスキル取得者が出たわけだし、ヴェルトーガなんかも既に結果が出始めてるわけでしょ。
今の6等級と来年の6等級は、水準が全然違っているかも知れないよね」
「そうですね。シンの言うとおり、各地で少しずつ変化が起きているということもありますけど、異邦人の存在がやはり大きいと思いますね。
スキルを持たずに、レンジや速水みたいな戦闘能力を持った人間が出てくる可能性があるわけですから」
「あっはっはっは! そう考えるとおもしれぇもんだな!」
突然タケルが爆笑しだした。
いきなりの笑い声に、全員の視線がタケルに集まる。
「いやいや考えてもみろって! 俺たち異邦人はチート能力を持っているから、この世界の人よりも強くなれる?
なのに実際に誰よりも強くなったのは、チートを持ってないトーマとハルじゃねぇかよ!
神様から貰ったチート能力なんて、この世界じゃ大して役に立たねぇんだなと思ったら、笑うの我慢できなくなっちまったぜ!」
「あー……、それは正直耳が痛いっすねぇ。うちら2人で冒険者やってた時も、攻撃魔法頼りだったっすから。
本格的な戦闘訓練なんて、ベイクに来て初めてやったっすよ」
「……チートで戦闘能力を持ってしまうと、それに頼ってしまう側面は否定出来ないわ。
実際レンジさんだって、電気魔法の訓練はしていたみたいだけど、戦闘技術を磨いているところは見た覚えがないし」
レンジのあの戦闘力を考えると、レンジがやっていた事は間違ってないとは思うけどね。
それだけじゃ不十分だったってだけで、ユニークスキルを伸ばす方向性自体は正しいと思う。
「難しい話だねー。強力な能力を得ることで、逆に隙が出来てしまうのかー。
レンジの能力は強力すぎて、この世界に対抗策があることを想像できなかったんだねー」
「うん。レンジの能力も速水の加速チートも、私達異邦人の常識だけだと、破る方法を考え付くのは少し難しいかな。
でもそこに魔法だったりスキルだったりの知識が加わると、異邦人の常識では想像できない攻め手が生まれるんだよね」
「異邦人の能力も、私達から見たら常識外れだよ……。
だから、どちらの知識も疎かに出来ないってことなのかなぁ……?」
「――――俺たちがまだ3人だった時に、オーサンに言われたことなんだけどさ。とにかく思考を止めるな。格上を相手にどうやって出し抜くか考えろ。発想の引き出しを増やせ。地道な努力こそが、強くなるための最短の道だって教わったんだよ。
その後俺たちは、ずっと格上ばっかりと戦うことになってさ。気を抜く余裕もなかったんだよな。
オーサンは正しい努力をしろって言ってた。正しい努力は、その効果を何倍にも高めてくれるんだって。
チート能力なんて持ってしまうと、正しい努力の仕方が、わかんなくなっちまうんじゃねぇかな」
なんだかんだ言って、オーサンの指導こそが俺の根幹だ。
オーサンは常に格上と戦う事を意識しろと繰り返していた。
そのおかげで、今まで何とか生き延びることが出来たんだと思う。
「チートを持つことで努力の仕方が分からなくなる、ですか。
確かにチートを封印したタケルも、堅実に9等級になっているわけですしね。
自身の成長を阻害するほどの強力な力。やはり個人が持つには過ぎた能力なのかもしれませんね」
「うん。もし追い詰められた時に、それを覆せる能力があったら。そう思うと、そこで思考が終わっちゃうもんね。
オーサンの教えは逆なんだよね。相手のほうが強い場合に、どうやって劣勢を覆すか、なんだもん。
そりゃあトーマが格上ばかりと戦って、今まで生き延びているわけだよ。トーマってずっと、自分より強い相手にどうやって勝つかって、オーサンに教えられてたんだから」
そもそもあの頃の俺たちより弱い奴って、殆どいなかっただろうからな。
基礎的な体力も技術もなく、ただ棍棒振ってただけだったもんなぁ。
それが今や迷宮踏破の神殺しだよまったく。
オーサンめ。
仕方ないから感謝してやるよ。
もう日没は過ぎているが、オーサンがまだギルドに残っていた。
「お蔭様でね。オーサンにはだいぶ世話になったよ」
「はっ! 全くだぜ! お前は本当に手がかかる冒険者だったなぁ。
それが1年を待たずに迷宮踏破かよ。ったくお前はどんだけ非常識なんだよ」
「それでも、これからは冒険者が強くなる速度は増していくと思うよ。
オーサンも指導員を続けたいなら、今からでも鍛えなおすことを勧めとく。
きっとこれからの冒険者は、俺みたいなのが普通になっていくだろうからさ」
「「「いやそれは無い」」」
総ツッコミを受けてしまった。
でもチートを持たずにこの世界に来て、色んな人の助けを借りてここまで強くしてもらったんだ。
特別なことなんか何もしてない。
だから、誰にでも出来るはず。
「そりゃあ一気に昇級試験受けるわけだよなぁ。っと、忘れてたぜ。
迷宮踏破おめでとう。異風の旋律は、もはや名実共に、一流の冒険者パーティになった。
お前らの指導をすることが出来て、心から光栄に思うぜ」
「はは。そう言ってもらえて、こっちこそ光栄だね。
ま、これからもよろしく頼むよ。カンパニーの奴等のことも、俺たちみたいに導いてやってくれ」
「無茶言いやがんじゃねぇよ! ま、これからも宜しくな。
――――迷宮都市ベイクは、異風の旋律というパーティが生まれた事を、心から誇りに思うぜ」
相変わらずのめんどくさそうな感じで、オーサンは賞賛の言葉を贈ってくれた。
はは。なんか初めて会ったときみたいな事を言いやがって。
どうせオーサンとは、今後も一生付き合っていくんだろうな。オードルもいるしさ。
「「迷宮踏破おめでとう!」」
自宅に帰ると、ジーンさんとリンシアさんもお祝いしてくれた。
最下層までヌルすぎて、別に大したことじゃないように思えていたけど、みんなに祝ってもらえると悪い気はしないな。
「トーマよぉ。お前、いつまで6等級でいるつもりなんだよ?
お前が6等級とか、詐欺を通り越して犯罪だぜ?」
詐欺も犯罪ですよマーサさん。
「別に6等級でも不便はないしなぁ。相手が侮ってくれるなら儲けもんだし。
上位冒険者なら他のみんながなってくれるみたいだし、俺はこのまま6等級のままでいいわ」
「これからのリヴァーブ王国の冒険者等級の基準は変わっていくかも知れないね。
ボールクローグでも大量のスキル取得者が出たわけだし、ヴェルトーガなんかも既に結果が出始めてるわけでしょ。
今の6等級と来年の6等級は、水準が全然違っているかも知れないよね」
「そうですね。シンの言うとおり、各地で少しずつ変化が起きているということもありますけど、異邦人の存在がやはり大きいと思いますね。
スキルを持たずに、レンジや速水みたいな戦闘能力を持った人間が出てくる可能性があるわけですから」
「あっはっはっは! そう考えるとおもしれぇもんだな!」
突然タケルが爆笑しだした。
いきなりの笑い声に、全員の視線がタケルに集まる。
「いやいや考えてもみろって! 俺たち異邦人はチート能力を持っているから、この世界の人よりも強くなれる?
なのに実際に誰よりも強くなったのは、チートを持ってないトーマとハルじゃねぇかよ!
神様から貰ったチート能力なんて、この世界じゃ大して役に立たねぇんだなと思ったら、笑うの我慢できなくなっちまったぜ!」
「あー……、それは正直耳が痛いっすねぇ。うちら2人で冒険者やってた時も、攻撃魔法頼りだったっすから。
本格的な戦闘訓練なんて、ベイクに来て初めてやったっすよ」
「……チートで戦闘能力を持ってしまうと、それに頼ってしまう側面は否定出来ないわ。
実際レンジさんだって、電気魔法の訓練はしていたみたいだけど、戦闘技術を磨いているところは見た覚えがないし」
レンジのあの戦闘力を考えると、レンジがやっていた事は間違ってないとは思うけどね。
それだけじゃ不十分だったってだけで、ユニークスキルを伸ばす方向性自体は正しいと思う。
「難しい話だねー。強力な能力を得ることで、逆に隙が出来てしまうのかー。
レンジの能力は強力すぎて、この世界に対抗策があることを想像できなかったんだねー」
「うん。レンジの能力も速水の加速チートも、私達異邦人の常識だけだと、破る方法を考え付くのは少し難しいかな。
でもそこに魔法だったりスキルだったりの知識が加わると、異邦人の常識では想像できない攻め手が生まれるんだよね」
「異邦人の能力も、私達から見たら常識外れだよ……。
だから、どちらの知識も疎かに出来ないってことなのかなぁ……?」
「――――俺たちがまだ3人だった時に、オーサンに言われたことなんだけどさ。とにかく思考を止めるな。格上を相手にどうやって出し抜くか考えろ。発想の引き出しを増やせ。地道な努力こそが、強くなるための最短の道だって教わったんだよ。
その後俺たちは、ずっと格上ばっかりと戦うことになってさ。気を抜く余裕もなかったんだよな。
オーサンは正しい努力をしろって言ってた。正しい努力は、その効果を何倍にも高めてくれるんだって。
チート能力なんて持ってしまうと、正しい努力の仕方が、わかんなくなっちまうんじゃねぇかな」
なんだかんだ言って、オーサンの指導こそが俺の根幹だ。
オーサンは常に格上と戦う事を意識しろと繰り返していた。
そのおかげで、今まで何とか生き延びることが出来たんだと思う。
「チートを持つことで努力の仕方が分からなくなる、ですか。
確かにチートを封印したタケルも、堅実に9等級になっているわけですしね。
自身の成長を阻害するほどの強力な力。やはり個人が持つには過ぎた能力なのかもしれませんね」
「うん。もし追い詰められた時に、それを覆せる能力があったら。そう思うと、そこで思考が終わっちゃうもんね。
オーサンの教えは逆なんだよね。相手のほうが強い場合に、どうやって劣勢を覆すか、なんだもん。
そりゃあトーマが格上ばかりと戦って、今まで生き延びているわけだよ。トーマってずっと、自分より強い相手にどうやって勝つかって、オーサンに教えられてたんだから」
そもそもあの頃の俺たちより弱い奴って、殆どいなかっただろうからな。
基礎的な体力も技術もなく、ただ棍棒振ってただけだったもんなぁ。
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オーサンめ。
仕方ないから感謝してやるよ。
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