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9章 異邦人が生きるために

324 王都ネヴァルド

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 日課のソロ探索を済ませ、朝食を取る。

 アサヒとカンナは2人になってしまったが、探索自体は順調なようで、既に8階層を突破しているようだ。
 昨晩は徹夜で探索を行ってきたので、朝食後に祝福の儀を受けたら、陽天の報せまで爆睡するらしい。


 陽天の報せまでパーティで探索。
 88階層の探索では、スクロールのドロップ率が今までよりも低くなっている気がする。
 討伐している魔物の数に対して、スクロール入手率が下がってるように思えるんだよね。

 SPは既に50万を超えているのだが、今のところは祝福の儀を受けるのは控えている。
 戦力的に不満を感じていないし、100万まで溜めれば『常時発動スキル強化』の取得も可能になる。

 欲しいスキルは多いので、今はSPを使わずに貯めておくのだ。




 陽天の報せになったので王都ネヴァルドへ向かう。
 ソロで都会に来るとちょっと不安になるよね。

 さて、何も考えていなかったのだが、俺って城に入れるんだろうか?
 最悪城に入れなくても、中央農地の見学許可と、シルグリイド家と連絡がつけば良いんだけど。

 農地見学については、商工ギルドあたりで許可取れないもんかなぁ?


「中央農地への許可無き侵入は認められてないよ。
 許可の取り方? そりゃあお貴族様にでも頼むしかないだろ」


 やっぱり個人レベルで許可取るのは無理なのか。
 めんどくさいし入れるかどうか分からないけど、一応城に行ってみるか。
 城までの道は分からないけど、とりあえず街の中央を目指せば着くだろ。

 昨日は馬車で進んでいたからあまり気にしなかったけれど、生活に困窮してるような人はあまり見かけないな。
 子供たちも清潔で、変に痩せ細ったりもしていない。
 王都は治安も景気も悪くないようだ。あの王様はよくやってるんだな。


「止まれ。この先に何の用だ」


 普通の街並みを抜けて、昨日馬車で通った高級住宅街っぽい場所の入り口まで来ると、そこを警備していた兵士に止められた。職質タイムですね分かります。


「ちょっと城に用事がありまして。ここって許可がないと通れなかったりします?」

「お前、冒険者だろう? 城になんの用事があると言うのだ! 身分証を見せろ!」


 なんか高圧的になったけど、拒否する理由もない。
 この前貰ったばかりの上級身分証を兵士に見せる。


「む。上級身分証を持っているのか。一応等級を教えてもらえるか?」

「はいはい。冒険者は6等級で、商人は3等級ですよ。
 城へは商売の話をしにいきたいんですよ。別に王族様に会う予定はないです」

「ふむ。身分証は本物のようだな。
 お前の通行は記録しておくから、この先で揉め事を起こさないように気をつけるんだぞ。
 もじ今日中に戻ってくるならここを通れ。別の出口に行くと、また同じように止められるだろうからな」


 お、高圧的な態度でちょっと嫌な奴かと思ったら、意外と親切な人だったっぽい。
 中年のオッサンが1人で、馬車も使わずに城に用事って言ったら怪しすぎるか。
 この人は職務に忠実なだけだな。


「それは助かります。今日中に帰れるかは分かりませんけど、覚えておきます」


 対応してくれた兵士に一言礼を告げて、改めて城を目指す。
 高級住宅街は人気がいないので、走っても人とぶつかる心配はない。
 馬車の往来は激しいけれど、人混みに比べれば何の問題もないな。

 問題があるとすれば、城に取り次いでもらえるかどうかだけだ。

 しかしこうして徒歩で移動してみると、王都の広さがよく分かるな。
 活気で言えばベイクだってボールクローグだって負けてないと思うんだけど、都市面積で比べれば、ベイクの数倍はあるんじゃないだろうか?
 拡張を続けているらしいボールクローグよりも数段広い。


 ようやく城の入り口見えてきた。
 やっぱお城って迫力があるよなぁ。住みたいとは思わないけど。

 ベイクの自宅にずっと居るのもいいんだけど、せっかく心核も余ってるしゲートも使えるんだから、どこか人が来ない場所に別荘でも持ちたい気持ちはあるんだよね。
 誰も人が訪れない場所で、家族だけでゆったりと暮らす。街に毎日通うことも、俺にとっては苦じゃないし。


「止まれ! 城に何用だ!」


 おっと。考え事をしていたら城門まで到着していたらしい。
 当然のように門番に止められる。


「中央農地の見学許可が欲しくてやってきました。商工ギルドに聞いたところ、城に行くのが早そうだったので。
 担当の方に取り次いでもらえないですかね?」

「はぁ? お前約束もなしにいきなり城に来たのか? 徒歩で城に来る奴も居ないし、何者だ?
 身分証を持ってるなら見せろ」


 逆らわずに身分証を手渡す。


「身分証は本物のようだな。ちょっと待ってろ。今身分証の照会を行うからな。
 ――――ふむ。異風の旋律のトーマ、か。6等級冒険者で、3等級商人。間違いなく本人のようだな。身分証を返すぞ。
 さて、重ねて聞くが、事前の約束はないのだな? それだと取り合ってもらえるか分からんぞ?
 一応中に確認はしてみるがな」

 
 1人の兵士が城に向かって走っていった。
 アポなし訪問でも対応してくれる辺り、充分親切な部類だろう。


「ああそれで充分ですよ。事前連絡もなにも分かりませんでしたからね。
 もし今回取り次いでもらえなかった場合、事前予約とかってどうやったら出来るんですか?」

「いやいや。城に誰でも入れるわけがないだろう。城に入りたいのなら、誰かから紹介してもらわないと難しいだろうよ。
 城で働いている者にツテなどなければ、取り次いでもらうのは難しいかも知れんな」

「あー、知り合いって意味なら、タイデリア・ディオーヌ様か、カルネジア・ブルガーゾ様は知り合いですね。まだ城にいるのかは分かりませんけど。
 出来ればシルグリイド・ファーガロン様にも会っておきたいんですけど、まぁ突然訪問したのはこちらですから。会えなくても仕方ありません」

「――――は? なんでお前みたいな奴が、精霊家の当主たちと知り合いなんだよ? 冗談も休み休みに……。
 いや待て。済まないが、もう1度身分証を照会させてもらえるか……?」


 どうぞどうぞ。身分証を手渡す。


「異風の旋律のトーマ……? 異風の旋律……?
 ……異風の旋律って、もしかして昨日登城した、異邦人のパーティか?」

「あ、ご存知なんですね。ですです。異邦人のトーマです」

「ちょちょちょ! ちょっと待っていてもらえるか!? 今城に確認してくるから!」


 身分証を持ったまま、兵士さんは城に向かって走っていった。
 流石城で働いているだけあって、登城した人全部把握してるんだな。

 これで多分中には入れてもらえそうかな?
 ファーガロン様にも会えたらラッキーなんだけど、まだ城にいるんだろうか?
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