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9章 異邦人が生きるために

349 夜の砂漠

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 解体作業を済ませて、砂の瞬きの馬車は1度ウィルスレイアに戻っていった。俺たちは現地に置き去りである。
 俺たちにはゲートがあるので遭難の心配がないし、砂の瞬き側からなら、俺たちと合流するのは難しくないそうだ。
 なので1度彼らは素材を納めに狩人ギルドに戻って、納品が終わったら戻ってきてくれる。


「現状ではグランドドラゴン辺りが良さそうか? あまりでかいと壁外に放し飼いにして飼うことになるかも知れないけど、戦闘力だけで言えばトップクラスだよな」

「騎乗魔物に向いてるかは微妙だけど、戦闘力だけ見ればグランドドラゴンかなー? 砂漠に対応してるかは分からないけど、砂漠の影響はあまり無さそうだったよねー」


 やっぱり大きいってだけでもかなりのアドバンテージだよなぁ。
 砂に足を取られることも殆ど無さそうだったし。


「シザーマウンテンはダメそうだねぇ。能力的には申し分ないけど管理が大変そうだ。
 それに砂に潜る魔物は、いざって時にちょっと怖いところがあるよ」

「砂に潜れる魔物のほうが移動速度は早めなんですけどね。馬車を砂に潜れるように改造する意味もないですし、やはり砂上を走るような魔物のほうが安心できます」


 単純な戦闘力だけで選べれば楽なんだけどなぁ。
 例えば使役したい時だけ召喚したりとか、普段は亜空間に仕舞っておくとかできればねぇ……。


「うん。みんな、このまま夜の砂漠も調査してみない? 魔物は分からないけど、魔物じゃない生き物には夜行性の動物も沢山居ると思うの。毎回日没で帰っていたから、夜の生態系って何も分かってないじゃない?」


 夜行性の生物か。
 考えてみれば砂漠って昼と夜の環境に大きな差があるし、夜にしか出歩かない生き物が居てもおかしくないな。
 魔物には夜行性とかあるんだろうか? 今まで意識したことなかったな。迷宮だと時間は関係なかったし。


「夜の砂漠……! とっても面白そうだね……!
 私たちはいざとなったらゲートで帰れるし、水も魔法で出せる。食べ物は現地調達で、調理も魔法で出来ちゃうし……。このまま夜まで探索しても問題なさそうかな……?」

「なるほど。じゃあこのまま夜まで魔物を狩りまくるとしようか。ドリチルが帰ってきたら、追加で狩猟団雇おうか。解体と運搬を担当してもらうだけだから戦闘力はあまり必要ないし」


 というか、解体と運搬にこそ時間がかかるんだよね。出来ればその辺や勝手にやってもらって、俺たちは魔物に集中したいところだ。


「なるほど、いいんじゃないかな。報酬は魔物素材の買い取り額の半額も渡せば、解体も運搬も手を抜かないだろうし。僕たちにはあまり必要な素材はないだろうしねぇ」

「じゃあドリチルたちまだ戻ってきてないけど、そろそろ再開するか。魔力も回復しきったし、このまま駄弁ってても仕方ないだろ」

「ええ~……。広範囲に音魔法拡散しながら戦っておいて、なんでそんなに魔力使ってないんですかこの人……」


 最後の一撃は鈴音が勝手にやっただけだから、殆ど消耗してないんですぅ。

 さて音魔法起動。次はなに流そうかな?




「いやいやいや、やりすぎではないかこれは……?」


 ドリチルが帰ってきたので解体作業開始。追加で狩猟団を雇うことと、夜通し戦闘を行う事を伝え、報酬も魔物素材の売上金の半分で話がついた。


「ただ解体と運搬を担当するだけで半分は貰いすぎだとは思うが、異風の旋律側からの申し出であるなら喜んで引き受けようぞ。
 追加の狩猟団を雇う話は、俺が狩人ギルドに話せば良いのか?」

「いや、俺はゲートが使えるから、ドリチルたちが帰還するタイミングで女性陣を1回街に送って、狩人ギルドに話をつけておくよ。ここまでの案内を砂の瞬きに頼みたいと思ってる」

「その程度ならお安い御用だ。砂塵の槍ともあまり揉めたくなかったからな。一緒に依頼を請けられるなら禍根は残るまい」


 話はついたので、ひたすら音魔法で魔物を釣って惨殺することにした。
 いやぁ魔物ってのは後腐れがなくていいよね。野生動物だったら絶滅とか生態系の変化とか、色々気にしなきゃいけないことも多いんだろうけれど、魔力によって発生する魔物には絶滅の心配もないし、壊れる生態系もないだろう。今回の件が終われば、また同じように発生するんだろうし。


 いつの間にか日没だ。相変わらず砂漠の夕日は美しい。
 1日の終わりを感じさせる、美しくも寂しい時間。

 これに合う曲はっ……と。
 シューティングゲームの曲って素敵なものが多いよな。ゲーム自体は苦手なんだけど。
 張り詰めた緊張感とどこか漂う哀愁が、砂漠の夕日に良く合う気がする。


「さて、これからが夜の砂漠になるね。日中とは出現する魔物が変わる可能性もあるから気をつけよう」

「うん。まぁそれはいいんだけどねシン。なんか私たちって、魔物の氾濫が起きた時と変わらないくらい魔物倒してないかな?」

「気にすんな。魔物ってのは神様に人間の敵として生み出された生物だからな。倒しすぎて困るようなこともないんじゃないか? ま、リンカーズの開発が進みきったらどうなるかわからないけど」

「日が落ちると一気に気温が下がるんですね。環境適応スキルがなかったら、かなり過酷な状況だと言えますね」

「確かにねー。『環境適応:小』すら持ってない異邦人が暮らしていくのは大変そうかなー」

「ま、そこは魔導具とかで補助してあげるつもりだよ。『環境適応:小』なら割とすぐに取れるし、あまり心配はしてないんだ」


 夜の砂漠にはどんな曲が合ってるかな?
 少しスローテンポでしっとりと聞けるような曲にしとこうか。


 夜の砂漠は気温が思い切り下がって、確かに異邦人にはキツい環境だろうな。
 出てくる魔物は日中と殆ど差がないし、行動パターンにも変化は見られない。

 う~ん。魔物には夜行性とか関係ないのかな?


 魔物が途切れたので小休止していると、突然鈴音が小さく鳴った。
 ん? と視線を腰に下げようとした瞬間、遠くに動く影が見えた。
 暗視があるのに見えにくいな。砂漠に上手く身を隠しているみたいだ。

 鈴音がわざわざ教えてくれたって事は、何か面白い生物なのかな?
 これは確かめてみる価値がありそうだ。
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