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11章 新たな都市の建設

463 王国民の危機感

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 ファーガロン様の問いかけの意味がよく分からない。分からないので素直に聞くか。


「えーと、質問の意味がよく分かりません。王国に興味があるかないかと言われても、漠然としすぎてて答えようがないと言うか」

「興味がないっていうのは、トーマさんたちの行動に対して僕たち王国民がどう反応しても、別に構わないって感じていないかい? ってことだよ。以前はそんな感じじゃなかったと思うけど」


 え、そう?
 元々王国民の反応はどうでもいいってスタンスじゃなかったっけ?


「ん~。自分ではあまりよく分からないですね。元々王国とは敵対せずに協力関係を築いていくつもりでしたし、実際そうやってきたと思うんですけど」

「そう、協力関係だ。トーマさんは今まで、王国に対して協力を願うことが少なくなかった。そして今回も一見同じように見えたけど、トーマさんはあっさり引いてしまったよね? あれはどうして?
 今までだったらもっと僕達を説得しようとしてたでしょ?」

「ああ、単純な話、協力が得られても得られなくても影響がないからですね。フィールダーとゲイザーを保護できなかったからといって、王国が滅亡したりするわけじゃないですし。
 緊急性も重要度も低かったから、すぐに引いただけですよ。ファーガロン様があの場で言われた通り、断られても何も困りませんし」


 今までの要望だって、断られたら別の手段探してたと思うよ?
 でも今は王国の協力を得られなくても、そんなに問題ない程度の能力が身についてしまったしな。


「多分先ほどの会議で、王とディオーヌ殿は僕と同じ危機感を抱いたと思うんだよね。
 トーマさんはもう、王国の助力を必要としていないんじゃないかって。
 今までだってトーマさんに頼りきりだった案件は多かったけど、それでも僕たちが力になれることも多かったと思うんだ。でも今日のトーマさんの反応を見たとき、異風の旋律はリヴァーブ王国の支援を一切必要としないほどの存在になってしまったんだと、そんな恐怖を抱いたのさ」


 ファーガロン様に言われた事を、改めて自分で考えてみる。

 よくよく考えると、確かにもう王国に協力して欲しいって案件は特にないな。
 今回の保護区の件だって、王国内がダメだったら別の土地に無理矢理保護区を作ることも出来るし、そもそもやめても何も困らない。動物達だって別に、保護されることを望んでるわけでもないわけだしね。

 仮に迷宮の氾濫が起こったとしても、ボールクローグで起こった程度の規模なら、もはや俺1人であっさり鎮圧できてしまえる気がする。刃紋も閃空もあるし。

 大体にしてエリアキーパーとの戦いが始まった辺りから、俺って王国に何の支援も受けてなくない?
 エリアキーパーの居場所に辿り着いたのも、実際に討伐したのも、ルイナスリーム建設だったり、スキップオーブの提供だったり、俺の方が一方的に支援してるだけの気がするんだけど、その状況で今さら危機感とか言われてもなぁ。


「ふむ。確かに王国の支援がなくても、もう十分生きられそうではありますけど。でもそれって前から言ってませんでした? 最近だって、俺は1人で生きていける気がするとかなんとか言われた記憶あるんですけど」

「あの時は冗談だったけど、今思うと結構前から危うかったかもしれないね。今まではなんだかんだ言って、トーマさんたちも王国と共存していかないと生きていけないと思えたんだ。
 でも今日の会議では、トーマさんは本当に王国側の意見はどうでも良さそうにしてただろ? そしてブルガーゾ殿に言ったことも、本気を孕んでいるように聞こえたんだ。実際本気だったんだろうけどさ。
 もうトーマさんや異風の旋律のメンバーは、王国の支援なんかなくても、何の問題もなく生きていける強さを手に入れてしまった。じゃあ逆に王国側は? 異風の旋律が居なくなって、リヴァーブ王国は生きていけるのか? って話になっちゃうわけ」

「いやいやいや。そりゃ問題なく王国は存続していけるでしょ。そもそもの話、異邦人はこの世界にとって異物なんですから。居なくなっても全く問題は起こりませんよ」

「……本当に? 本当に異風の旋律が王国を去った場合、リヴァーブ王国はやっていけるのかな?
 旋律の運び手の活動だって、君達がいるからこそ成立している。ルイナスリームだってそうだ。君達が去った後、最早あって当然となった様々な要素が瓦解し始めたとしても、不思議ではないだろう?」

「ん~、それは大丈夫じゃないですかねぇ。カンパニーもルイナスリームも、既に俺の手を離れて勝手に動き出してますよ。元々俺が居なくても成立するように目指して作ってましたし。
 それに、仮にファーガロン様が仰る通り、王国が俺達無しでは成立しなくなっていたとして、それでどうするんだって話ですよ。そんなのは流石に俺の知ったことじゃない。それは王国側の問題であって、その責任を俺に押し付けられても困ります」

「……だから困ってるんだよねぇ。分かっちゃ居るんだけど、王国だってそう簡単には変われないからさ。
 僕やディオーヌ殿に出来る事は、こうやって個人的に交友を深めて、少しでもトーマさんの中のこの国の重要度を高めるくらいしかないんだよなぁ」

「そこまで卑屈にならなくても、王国だってこれからゆっくり発展していけばいいじゃないですか。王国の為に俺が出来ることなんて、もう何もないと思いますよ? 保護区の件だって、別に王国のためにご提案したわけじゃありませんしね」


 王国よりも動物のほうが優先度は上です。
 でもそれは今に始まったことじゃないしなぁ?


「ま、トーマさんが言った通り、王国の人々も成長しているからさ。急に見捨てたりしないでくれればそれでいいよ」


 流石にそんな気はないけどなぁ。

 でもまぁ、今までが色々動きすぎてたんだよね。俺は本来もっと怠け者のはずだから。

 
 まさか保護区の話をしに行って、王国不要論に発展するとは思わなかったわ。
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