異世界で目指せハーレム生活! でも仲間のほうがモテモテです

りっち

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11章 新たな都市の建設

閑話035 選んだ道の先 ※アリス視点

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 アンジェとシルヴァール様はとても親身になってくれた。
 私の境遇を憐れみ、その原因となった異風の旋律は罰せられるべき存在だと言ってくれた。
 2人に励まされて、私もそうなのではないかと思ってしまった。

 だから、シルヴァール様に促されるままに、私に施された誓約を解除してしまった。


 誓約が解除され、『事象復元』が使えるようになったけれど、アンジェは決して使わないようにと厳命してきた。
 もしどうしても使用したいのであれば、異風の旋律の陣営に潜り込んでから使いなさいと。

 ここまで言われれば流石に私でも気付いてしまう。
 私の能力が、如何に強力で迷惑なものであるかという事を。

 同時に思い至るのが、この能力の危険性を正確に把握しながらも、長期間私を保護してくれていたディオーヌ様の苦労と、そしてそのディオーヌ様からも厄介払いされた私を引き取ると判断した、異風の旋律の覚悟だった。

 その相手に、私は今いったいなにをしているんだろう……。


「アリスは嘘なんかつく必要はないのよ。ただ自分がされた事を、正直に話せば良いだけなの。それは別に悪い事なんかじゃないわ。
 逆に異風の旋律が、異邦人を殺した経験や貴女の軟禁生活に関わっていた事実を他の異邦人に黙っている方が問題よ。他の異邦人にだって、真実を知る権利はあるでしょう?」

 
 アンジェにそう諭されて、その時は私もその通りだと思ったんだけど……。

 本当にそうなのかな? 私が言っていることって、本当に真実なの? 他の異邦人が過去の出来事を知る必要って、本当にあるのかな……?

 だって私は、なんで久我たちが殺されたのかも、私が幽閉されていた理由も、伝えることが許されていないのに。



「あっはっはっはっは! 面白いくらいに上手くいっていますわね。流石アンジェですわっ!」

「ええ、そうですわね……。でもこれは、いくらなんでも上手く行き過ぎているような……」


 異風の旋律の支援が王国全土に到っていないという理由で、異風の旋律が無償で提供している馬車サービスをターゲットにして、何度も襲撃させる。
 勿論襲撃者にヘイトが向かないように、乗客に怪我はさせないように徹底させてはいるようだけれど、襲撃された馬車は運行できずに、結局乗客たちには迷惑がかかってるんじゃないの……?

 襲撃者は捕縛されるものの、シルヴァール様のお力ですぐに釈放され、またすぐに別の馬車を襲撃する。
 そんな日々が数日続くと、旋律の運び手は馬車事業からの完全撤退を表明した。

 これに喜んでいるのはシルヴァール様だけ。
 利用客からは襲撃者達への怒りの声が大きく広がっており、突然引継ぎを任された王都もゴタゴタしている。
 なによりも、馬車事業に携わっていた殆どの人たちが、王都に雇われる事を拒否してしまい、引き継ごうにも人手が全く足りていないのだ。

 その為、異風の旋律と旋律の運び手は完全に被害者として扱われ、襲撃者と王国側に非常に強い敵意が向いているような気がする……。


 馬車事業が打ち切られると同時に、非戦闘員同行制度も打ち切られる事になった。
 新たなスキルの情報が公開されたのに、そのスキルを取りに行くための方法が失われ、慌てたのはまたもや王国側だった。

 シルヴァール様や、メーデクェイタ家、カルネジア家の当主の話では、異風の旋律は王国からの呼び出しを完全に拒否して、取り付く島もない状況らしい。


「どうして、どうしてこんなにあっさり全部捨ててしまえるの……?
 だって、自分がゼロから作り上げてきたシステムでしょう? しかも全部無償で行ってきた行為……。
 王国のために、身を粉にして尽くしてきたんじゃなかったの……?
 利益も出ていない。悪評に対する対応も放置。王国と仲良くする気すらない……。
 今までやってきたことと、今やっていることが、全然噛み合ってないじゃない……」


 上機嫌なのはいつだってシルヴァール様だけ。
 アンジェは全てが自分の思い通りに進んでいるのに、なぜかいつも浮かない顔をしていた。


 異風の旋律が異邦人の為に作ったという、ルイナスリームという都市の情報が解禁された。
 ベイクに居た異邦人は既に沢山の人が定住を決めていたけれど、まだ迷宮の発生と討伐も行われているのに、王国の人たちを呼び込む事になるとは思わなかった。

 わざわざトーマ本人が王国中を回って、各都市のゲート使いに登録を行い、冒険者ギルドに告知してきたらしい。


「あーあ。ついにルイナスリームにも王国人が殺到しちまうのか。
 ま、いずれは公開しなきゃなんねぇことなのは分かってっけど、時期尚早だと思うんだよなぁ。
 トーマが言うには、このままルイナスリームを秘匿していたらそれを理由に批判してくる奴等が居るから、仕方なく情報解禁に踏み切ったって感じだったんだ。
 クソ共が……。余計なことしやがってよぉ……!」


 ルイナスリームに協力するようになってからいつも上機嫌だったタケルさんが、最近凄く機嫌が悪い日が多くなった。
 探索に誘っても断ってくることが多くなり、異風の旋律の悪評を口にしようものなら、物凄い形相で掴みかかってくるくらいだった。

 タケルさんは王国民に利用されたところを、異風の旋律に救われた恩がある。
 だから異風の旋律が悪く言われているのが、許せなくて仕方ないみたいだった。

 私が異邦人たちに広めた話のせいで、タケルさんは異邦人達の方を見てくれなくなっていった。

 それでも監視の義務があるから、私の傍を離れることもない。

 
 話しかけても返事が返ってくることも減り、次第に私からも話しかけられなくなっていった。

 タケルさんは、異邦人達の異風の旋律に抱いている評判の出所が私だって、恐らく気付いているんだろう。
 だけどトーマと約束した手前、私から目を離す事も出来ず、どうしたらいいのか分からずにどんどん不機嫌になっている。

 私、なにやってるんだろ……。
 タケルさんに命を拾ってもらっておいて、タケルさんが1番嫌がる事を続けているなんて……。

 私はどうしたら良かったのか、これからどうすればいいのか分からず、何も出来ずに悩みことしか出来なかった。



 でも現実は待ってはくれない。
 ルイナスリームのターミナル広場で、6人の異邦人が重傷で発見される事件が起こったのだ。

 ルイナスリームにはまだ魔法治療院がない。
 なのでゲートが使えるタケルさんが、ベイクまで6人を連れて行って治療した。

 タケルさんから監視の継続を理由に同行した私は、四肢以上に心を砕かれた異邦人の姿を目にする事になる。


「おい! なにがあった!? 誰にやられた!? お前らは何をしたんだ!?」

「ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい」


 素行が悪く問題行動の多かった6人の異邦人は、ただ虚ろな目をしながら謝罪の言葉を口にするだけ。


「何があったって聞いてんだよ!? まさかお前ら、トーマに手を出したわけじゃねぇだろうな!?」

「ひいいいっ!? ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい!! 許してください許してくださいもうしませんもうしません絶対にしませんごめんなさいごめんなさいごめんさいっ!!」


 トーマの名を聞かされた途端、6人は発狂して部屋の隅に蹲り、ただ大声で虚空に許しを請いながら震えだす。

 この世界に精神病院も隔離施設もない。しかもここはベイクだ。
 魔法治療院でトーマの名前を出した事で、この異邦人達がトーマと敵対していると推察されたのだろう。

 救貧院も宿も、全ての施設が6人の受け入れを拒否した。

 仕方なくルイナスリームの異邦人区画にある建物の中に、6人全員を押し込めておく事になった。

 私の『事象復元』でも、壊れた心は直せない。でもタケルさんから6人の世話を命じられる。勿論私に拒否する資格などない。


 
 次の日、6人の様子を見ていた私のところにタケルさんがやってきた。
 その表情は怒りに満ちていて、その瞳は私への憎悪で塗りつぶされているようだった。

 タケルさんは勿論、久我たちやディオーヌ様、トーマにだってこんな視線を向けられた事はない。

 恐怖で強張る私に、タケルさんは静かに問いかけてくる。


「なぁ。これで満足か……?」

「……え?」

「これで満足かって聞いてんだろぅがっっ!! テメェはこれで満足なのかよ、ああっ!?」


 突然怒りを爆発させるタケルさんの姿に圧倒されて、私は思考が停止する。


「なんなんだよ……。テメェいったいなんなんだよ、なにがしてぇんだよ……!
 テメェのせいで、今まで上手くいっていた異邦人と王国民の関係も悪化して、王国と異邦人の両方がトーマから見捨てられちまう結果になったんだぞ……!
 これがテメェの望んだことなのかって聞いてんだよっ!!」

「ト、トーマから、み、見捨てられたって、い、いったいどういう……」

「ざけんなよテメェ!! テメェが全部起こしたことだろうがっ!!
 いったいトーマが今までどれだけ王国と異邦人のために働いてくれたと思ってんだよっ!?
 王国民への支援を全部打ち切った上に、旋律の運び手も解散するって言ってたんだぞ!? これからだって異邦人は転移してくるってのに、テメェがやった事で、彼らは支援を一切受けられなくなるんだぞ!? 責任取れんのかテメェによぉっ!?」

「か、カンパニーの、解散っ……!?」


 働かない頭で、それでもタケルさんに言われたことの意味を必死に考える。
 王国民への支援が打ち切られた話は、連日シルヴァール様が楽しそうに話していたから知っている。

 でもなんでそれが、カンパニーの解散に繋がって、異邦人への支援の打ち切りに繋がる、の……?

 だって、王国民と異風の旋律が対立したからって、異邦人には何の関係も……。


「ははは……。まさかテメェがそこまで頭空っぽだったとは思わなかったぜ……。この期に及んで、カンパニーが解体される意味がわからねぇって、ありえるか普通?
 大体にしてよぉ。テメェらが邪魔した馬車サービスだって、非戦闘員同行制度だって、全部カンパニーの活動の延長線上だったじゃねぇか。それらを悉く邪魔しておいて、なんでカンパニーだけは続いてくれると思ってんだよ?
 これから来る異邦人への支援は勿論のこと、今居る異邦人達への支援も終わりだ。スキップオーブも回収される可能性もあるだろうな。ルイナスリームからもトーマは既に手を引いてるぜ。
 なぁ……、だからさっきから聞いてんだろ? これで満足なのかってよぉ……!? 王国中の人間、これからこの世界に訪れる全ての人たちに迷惑をかけて、なにがしたかったんだテメェはよぉ!?」

「え……、そ、そんな……。え、だってわ、たし……、こ、こんな事にな、なるなんて……」

「こんな事になるなんて思わなかったって? じゃあそれをみんなに説明して回るんだな。誰が納得してくれるのかしらねぇけどよ、そんなクソみたいな説明でよぉっ!!
 王国中の人間と、これからこの世界に来る全ての異邦人に、こんな事になるなって思わなかったんですって、説明して回ってみろやぁっ!!」


 し、知らない知らない知らないっ!!
 私はこんなの望んでないっ!!

 私が望んでたのはっ! 私が本当に望んでいたのはっ……!


「トーマたちに無理言って見逃してもらったってのによ……。こんな結果になっちまって、もうどうすりゃいいのかわかんねぇよ……!」


 私が望んでいたのは、私を助けてくれたタケルさんに、少しでも恩返しすることだったはずなのに……!


「結局、トーマたちやタイデリア家の皆さんが正しかったってことか……。なぁクソ女」


 タケルさんは最早怒りすらなくなってしまったような、欠片も関心を持っていない視線で私を射抜く。

 や、やめて……! 
 その先の言葉だけは、それだけは……!


「あの時、お前なんか見捨てちまうべきだったぜ……」


 そう吐き捨てて、タケルさんは振り返ることもなく去っていった。

 その背中に声をかけることも出来ず、私はただ呆然としながら、自分が間違った選択をしたことだけを噛み締めていた。
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