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第2章 アカデミー1年生
43 side玖姫
しおりを挟む子供達が目を覚ました。最初はリア。起きた途端に泣き出した。
「うああああぁぁぁあん!!!」
泣きじゃくる我が子に戸惑っている両親。何やってんのよ!
「あんたらねえ!娘がこんな泣いてんだからそっと抱き寄せて頭を撫でるくらいしなさい!まさか拒否されんのを怖がってんじゃないでしょうね!?」
ワタシの言葉に両親は言う通りにした。ぎこちないが、まあいいだろう。リアも両親にしがみつき、その日は泣き疲れてまた眠るまで両親にくっ付いていた。
...この子は多分大丈夫。すぐでなくとも元気になれる。
あの時のシャルの行動が効いてるわね!傷ついた女の子を優しく抱き締めて甘い言葉を使い、そっと接吻するなんて!口にしなさいよ!と言いたかったけどやめといたわ。これが空気を読むって事なのよね。ともかくあれでリアの心は落ち着いた。やるわね、シャル。
問題は男の子2人。でも気になるんだけど。
「なんでセイルの親は来てないのよ?孤児ではないでしょうが。少なくとも金はあるはずよね?」
ここにはリアとアルトの両親。それと校長と養護教諭しかいない。校長に聞いてみた。シャルの記憶によると名前はパティ。なんと平民出身で成り上がったという中年の女性。貴族どもに舐められぬように、学力も魔法も武力も並大抵の男では足元にも及ばないというほど磨き上げたらしい。いいわね!ワタシそういうの好きよ。
「それが...連絡はしたのですが見えないのです。語るべきではないかもしれませんが...。少々複雑な事情がありまして。」
「話してちょうだい。その結果引っ張ってくるか張り倒してくるか決めるわ。」
ワタシの言葉に戸惑っているようね。しかしパティは話してくれた。こんな形のワタシだけど、彼女は信頼してくれるのね。...ふふ。
そして聞いた話をまとめるとこうね。
セイルの母は平民だけど、父はなんと貴族。使用人に手を出した、ってやつね。
その後母は職を変え女手ひとつでセイルを育てる。しかし事故に遭い死亡。父に引き取られる。
父親は最初セイルを引き取るつもりはなかった。だが彼が賢く器量も良いので、念のため教育を施しておくと決めたらしい。正式に子供が2人いるが、両方とも性格や成績に難あり。セイルは保険の保険ね。なので今の段階ではセイルを息子と公表してないので、家名を名乗る事も許していないと。
今セイルが暮らしているのは王都の小さな一軒家。そこに老齢の使用人夫婦と暮らしている。彼らを祖父母のように慕っており、以前彼が家族と言ったのはこの夫婦の事ね。でもこの夫婦に今のセイルの状況を伝えると天に召されかねない。だから父親にの報告した。
そして今回の件について父親は、「使い物にならないならいらない。」と抜かしやがったとの事。ふーん?へえ?あらそう。
「ど、どうなさいました?」
「セイルの家を教えなさい。父親張り倒してくるわ。さあ案内して!」
「おおおお待ちください!問題になってしまいます!相手は一応貴族なんですから!」
「ワタシに人間の身分制度なんて関係ないわ!」
「貴女になくても、シャルトルーズ君にはあるんです!貴女の行動は彼が責任を取ることになる可能性がありますよ!」
「そこはあの父親に押し付けんのよ!さあ!」
「だめですってば~~~!!」
ワタシとパティのやり取りを周りはオロオロしながら見るばかり。そこに。
『何してる、玖姫。』
『刹鬼!岩鬼も。今共有するわ。』
医務室に入ってきた2人に今までのやり取りを伝える。
『ふむ...しかし我々が立ち入る問題ではない。』
『じゃあどうすんのよー。彼はシャルの友人よ!ワタシ達にとっても我が子のようなもんなんだから!』
『ならば当事者になればいい。彼は我々で引き取るか?』
『『え?』』
ワタシと岩鬼が聞き返した。
『その父親はセイルをいらんと言った。ならば我々が育てよう。中々気概もありそうだしな。
だが私達はシャルの使い魔だし...。よし。岩鬼、ゼルブルークを連れて来い。』
『分かった。』
パティ達が訳が分からない、という風にこっちを見ている。あ、日本語で会話してたからね。気が抜けると出ちゃうのよねぇ。
岩鬼はすぐ戻ってきた。ゼルブルークを引きずって。
「いたたたたた!!!なんなんだ一体!?」
後ろからヘーゼルとジルクリッドも来たわ。
「其方らもいるか。丁度いい。セイルの父親は彼を捨てるらしい。なので我々が育てる。
ゼルブルーク。其方が養父になれ。人間は保護者が必要なのだろう?人間ではない私は育てる事は出来ても戸籍の繋がりは持てん。
ヘーゼル。其方はセイルの父親に伝えとけ。学費は5年分搾り取っとけよ。後で難癖つけられんように言質と証拠を忘れるな。
ジルクリッド。寮にセイルの部屋を用意しろ。シャルの隣が空いてるだろう。寮費と生活費は私が稼ぐ。仕事を寄越せ。」
「あらー!いいじゃないの!ワタシも岩鬼も働くわよ!」
「おう。」
「待て待て待て!」
ヘーゼルがストップをかけてきた。なんなのよ!
「えーと...その話は不可能では無いが...。まずゼルブルーク。お前はいいのか?」
「ああ。まずその親父締めてくる。」
「駄目よ!ワタシがやるんだから!」
「どっちも駄目だ!!」
その後も話し合いを重ね、刹鬼の要望は通った。セイルはシャルの兄弟になり、ワタシ達が卒業まで寮で面倒を見る。もちろんその後放り出す事はしないわ。
セイルの父親もあっさり応じたらしいわ。腹が立つのでこっそり刹鬼が呪いをかけていた。といってもこれ以上毛髪が生えないってだけね。抜ける一方よ。それを聞いたゼルブルーク達は頭を抱えて後ずさってたわ。
シャルに関しては今の所大して心配はしていない。生きているのは分かるもの。今安全だって事もなんとなく分かる。だから刹鬼達も先に子供達をなんとかしようとしてるの。
そして次の日、アルトが目を覚ました。だが、見るもの全てに怯えてしまっている。両親でもジルクリッドでも駄目。まともな言葉も話せず、「いやだああああ!!」とか「うあああああ!」としか言わない。サルファーロ、ヴァレンシアンジュ、イシアスも駄目。皆悲痛な面持をしているわ。
しかしワタシ達にはあまり拒否反応は無いわね。単に異形のものに怯えてるだけだわ。
そしてセイルも目を覚ます。こっちは対照的に静かだ。落ち着いてるわけではなく、肉体と精神が分離してる...って感じね。何に対しても無反応。
セイルは時間がかかる。アルトから治療しますか。ちなみにリアはすでに元気だ。シャルやゼルブルークを恨むつもりもない、助けに来てくれて嬉しかった。それよりアルトとセイルを助けたい。と言ってくれたわ。...強いわね。
それにしても、やたらとシャルの事をワタシ達に聞いてくるようになったわ。食べ物の好き嫌いやら趣味やら、好きなタイプやら。あらあ?あらあらあらぁ?ふふー。
「セイラン。魔法で精神の傷を治すことって出来る?」
養護教諭に聞いてみる。ワタシ、というよりシャルにその知識はない。
「...不可能ですね。精神操作魔法で無理やり動かす事は出来ますけど、意味はありません。魔法が切れれば元に戻るだけですね。」
ふむ。そんな簡単にはいかないのね。うーん。少し荒療治してみようかしら?
『ねえ刹鬼。アルトの治療だけど、こんなのどうかしら?』
刹鬼と岩鬼と相談よ!ワタシの考えを伝える。
『ふむ、いいのではないか?君がそういうのは得意だろう。私と岩鬼はあまり得意ではない。一応両親とセイランに伝えておこう。』
決まりね。ワタシはアルトの前に立つ。正確には浮いているが。
「ひぃっ...!うぅぅぅ...。」
少し落ち着いてきたけどまだまだね。ワタシが手を伸ばすと全身で拒否してきた。
「やだあ!触るな!」
「触るわよ。貴方ちょっと軟弱ね。無理もないけど、それでもこれからもシャルの友人やりたかったら強くなりなさい!」
シャル。という言葉に反応した。今だ。ワタシはアルトの頭を鷲掴みにした。
「今から貴方の精神に潜るわ。精々抵抗することね!!」
貴方の剥き出しの感情を全部見せなさい!
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