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悪役令嬢殺人事件④
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「売ったのは金髪縦ロールの女だそうだ。顔はつばの広い帽子を深くかぶっていて見えなかったそうだよ」
毒の購入者の情報はすんなり手に入る。所謂司法取引という奴だ。劇物の違法販売は結構罪が重い。場合によっては極刑も有り得た。その為か、下手人達は減刑と引き換えにペラペラ素直に喋ったそうだ。これまで摘発されずにやって来れたのは役人と繋がっていたらしく、その事までそれはもう懇切丁寧に話してくれたらしい。
「思ったより大物と繋がってるみたいだし、侯爵辺りに貸しが出来て万々歳だ」
恐らく、侯爵家がその辺りの取り締まりを担当しているのだろう。私には関係ない世界の話であるため、何処の家の事かはまるで分らない。勿論興味もないのでスルーしておく。
「どういった物を身に着けていたかは、聞きだせましたか?」
「かなり仕立ての良い、豪勢な服装だったそうだ。場違いすぎて、はっきり覚えてたそうだよ」
王子は上機嫌そうだ。公爵家とやらに貸しを作れたからというのもあるだろうが、王子にも今回の犯人像がはっきりと見えてきたのだろう。とにかくこれで毒瓶"13本"の出所がはっきりとした。
「そうですか。出来ればアップル伯爵の屋敷に向かいたいんですが」
「ああ、構わないよ。僕も一緒に行こう」
後は13本目の瓶を見つければ、この事件は解決する。私はそれを見つける為に伯爵邸へと向かった。邸宅内へと通された私は、早速マーガレットの私室を隅々まで詳しく調べさせて欲しいと伯爵に頼んだ。
「娘の部屋をですか?それは構いませんが、出来れば――」
「ご安心ください。物を壊したり荒らしたりはしませんので」
犯人逮捕に必要とは言え、亡くなった我が子の部屋は出来るだけそのままにしておきたいというのが親心という物だろう。私もその辺りは心得ている。
「お願いします」
許可を貰い、早速始める。
実は隠し場所は、超能力を使って初期の段階で既に見つけてあった。後はそこを調べれば良いだけだなのだが、迷う事無く真っすぐに見つけてしまうと訝しまれてしまう可能性が高い。だから色々探す振りをして時間を潰し、最後に天井板に違和感を見つけた振りをして、発見に至って見せる事にする。
「あの天板。なんだか動きそうですね?」
私は「ん?」という感じに眉根を寄せ、天蓋付きのベッドの真上辺りを指さした。
「そうかね?私には只の天井にしか見えないのだが?」
アップル伯爵が天井を眺めて首を捻る。それもそのはず、目視では判別つかないレベルで自然に仕上げられていた。正にいい仕事してますとしか言いようがない。とても”令嬢が"やったとは思えない見事な細工だ。
「確認してみます」
「僕がやろうかい」
「いえ、大丈夫です。こういうのは得意ですから」
王子は運動神経が良さそうだが、万一落ちて怪我をされては敵わない。その点超能力のある私にその心配はなかった。私はベッドの天蓋の淵に手をかけ、するすると猿の様に登っていく。はしたないと思うかもしれないが、今日は此処に上るつもりだったのでちゃんとズボンを着用してきている。その辺りも抜かり無しだ。
「ほう、見事だね。流石は僕の婚約者だ」
私は曖昧に上から笑顔を返す。人が頑張って仕事をしているのに、頭の痛い問題を思い出させないで欲しい。私は天蓋に足をかけて両手で天井を持ち上げた。天板は容易く上に持ち上がり、私はその縁を掴んで懸垂の要領で狭い隙間を覗き込む振りをする。瓶の位置は事前に確認している為、今更改めて確認する必要は無いのだが、雰囲気作りのためだ。
「何かあります」
そう言って私は超能力で体を軽くし、片手を奥に突っ込んで懸命に探る。当然これも振りだ。実際の所、瓶は手の届く範囲には無いのだが、下からでは当然そんな事は分かりようもないだろう。私はこれまた超能力で瓶を自分の手元に運び、頑張った風を装い手にとった。そして天蓋を伝って下へ降りる。
「調べて見ないと分かりませんが、恐らくこれは毒の瓶ですね」
「本当ですか!?何故そんな所に?」
「どれどれ?」
王子が毒の瓶を私から受け取り、瓶の口にハンカチを擦り付けた。何をしているのか分からずその様をぼーっと眺めていると、王子は嬉しそうにニヤリと笑う。
「ふむ、間違いなくヘ素だね」
「え?分かるんですか?」
「ああ、このハンカチは銀糸が刺繍されていてね。へ素の成分である硫黄に反応するのさ」
そう言うと王子は手にしたハンカチを私に広げて見せた。王子の言う通り、真っ白なハンケチに施された銀糸の意匠が黒く変色している。
「そんな場所に毒瓶が隠されていたなんて……」
これで誰が限りなく黒に近いかの状況証拠は集まった。絶対的な証拠はないが、問題はない。重要なのは伯爵が納得するかどうかなのだから。
さあ、後はそれを伯爵に示すだけだ。
毒の購入者の情報はすんなり手に入る。所謂司法取引という奴だ。劇物の違法販売は結構罪が重い。場合によっては極刑も有り得た。その為か、下手人達は減刑と引き換えにペラペラ素直に喋ったそうだ。これまで摘発されずにやって来れたのは役人と繋がっていたらしく、その事までそれはもう懇切丁寧に話してくれたらしい。
「思ったより大物と繋がってるみたいだし、侯爵辺りに貸しが出来て万々歳だ」
恐らく、侯爵家がその辺りの取り締まりを担当しているのだろう。私には関係ない世界の話であるため、何処の家の事かはまるで分らない。勿論興味もないのでスルーしておく。
「どういった物を身に着けていたかは、聞きだせましたか?」
「かなり仕立ての良い、豪勢な服装だったそうだ。場違いすぎて、はっきり覚えてたそうだよ」
王子は上機嫌そうだ。公爵家とやらに貸しを作れたからというのもあるだろうが、王子にも今回の犯人像がはっきりと見えてきたのだろう。とにかくこれで毒瓶"13本"の出所がはっきりとした。
「そうですか。出来ればアップル伯爵の屋敷に向かいたいんですが」
「ああ、構わないよ。僕も一緒に行こう」
後は13本目の瓶を見つければ、この事件は解決する。私はそれを見つける為に伯爵邸へと向かった。邸宅内へと通された私は、早速マーガレットの私室を隅々まで詳しく調べさせて欲しいと伯爵に頼んだ。
「娘の部屋をですか?それは構いませんが、出来れば――」
「ご安心ください。物を壊したり荒らしたりはしませんので」
犯人逮捕に必要とは言え、亡くなった我が子の部屋は出来るだけそのままにしておきたいというのが親心という物だろう。私もその辺りは心得ている。
「お願いします」
許可を貰い、早速始める。
実は隠し場所は、超能力を使って初期の段階で既に見つけてあった。後はそこを調べれば良いだけだなのだが、迷う事無く真っすぐに見つけてしまうと訝しまれてしまう可能性が高い。だから色々探す振りをして時間を潰し、最後に天井板に違和感を見つけた振りをして、発見に至って見せる事にする。
「あの天板。なんだか動きそうですね?」
私は「ん?」という感じに眉根を寄せ、天蓋付きのベッドの真上辺りを指さした。
「そうかね?私には只の天井にしか見えないのだが?」
アップル伯爵が天井を眺めて首を捻る。それもそのはず、目視では判別つかないレベルで自然に仕上げられていた。正にいい仕事してますとしか言いようがない。とても”令嬢が"やったとは思えない見事な細工だ。
「確認してみます」
「僕がやろうかい」
「いえ、大丈夫です。こういうのは得意ですから」
王子は運動神経が良さそうだが、万一落ちて怪我をされては敵わない。その点超能力のある私にその心配はなかった。私はベッドの天蓋の淵に手をかけ、するすると猿の様に登っていく。はしたないと思うかもしれないが、今日は此処に上るつもりだったのでちゃんとズボンを着用してきている。その辺りも抜かり無しだ。
「ほう、見事だね。流石は僕の婚約者だ」
私は曖昧に上から笑顔を返す。人が頑張って仕事をしているのに、頭の痛い問題を思い出させないで欲しい。私は天蓋に足をかけて両手で天井を持ち上げた。天板は容易く上に持ち上がり、私はその縁を掴んで懸垂の要領で狭い隙間を覗き込む振りをする。瓶の位置は事前に確認している為、今更改めて確認する必要は無いのだが、雰囲気作りのためだ。
「何かあります」
そう言って私は超能力で体を軽くし、片手を奥に突っ込んで懸命に探る。当然これも振りだ。実際の所、瓶は手の届く範囲には無いのだが、下からでは当然そんな事は分かりようもないだろう。私はこれまた超能力で瓶を自分の手元に運び、頑張った風を装い手にとった。そして天蓋を伝って下へ降りる。
「調べて見ないと分かりませんが、恐らくこれは毒の瓶ですね」
「本当ですか!?何故そんな所に?」
「どれどれ?」
王子が毒の瓶を私から受け取り、瓶の口にハンカチを擦り付けた。何をしているのか分からずその様をぼーっと眺めていると、王子は嬉しそうにニヤリと笑う。
「ふむ、間違いなくヘ素だね」
「え?分かるんですか?」
「ああ、このハンカチは銀糸が刺繍されていてね。へ素の成分である硫黄に反応するのさ」
そう言うと王子は手にしたハンカチを私に広げて見せた。王子の言う通り、真っ白なハンケチに施された銀糸の意匠が黒く変色している。
「そんな場所に毒瓶が隠されていたなんて……」
これで誰が限りなく黒に近いかの状況証拠は集まった。絶対的な証拠はないが、問題はない。重要なのは伯爵が納得するかどうかなのだから。
さあ、後はそれを伯爵に示すだけだ。
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