19 / 43
19 監視役の男ドーガ
しおりを挟む
監視役の男は、ノアを孤立させるための役回りとしてコリン卿が付けた者だった。
ノアの口を封じ精神的に追い詰めて、誰とも接触を持たせない事が目的だったようだ。当然ダリルの粗暴な行為や暴力についても容認していた。
かつて孤児だった監視役の男ドーガは、コリン卿に拾われて以来わずか8歳にしてコリン卿という支配者に対し屈服している人間でいるしかなかった。
生まれながらに疎外され個として名誉を喪失しているのだから、自分は永続的かつ暴力的に支配される側の人間なんだと、そう思っていたとドーガは話す。
ノアが俺と出会った時、ドーガはすぐに俺の身分に気が付いて、ダリルを処分した後はどこかほっとした様な顔をしたのを覚えている。
「仕方がなかったんですよ・・俺はノアが生まれた頃に拾われて、コリン卿に服従させられていた。ノアも不運な奴で、コリン卿の実の息子だというのに、まるで俺と変わらないくらい粗末な暮らしを強いられていた・・それでもノアは優しい母親と、幸せそうに笑っていたんです。なのに、あのクズ野郎どもが!」
ドーガは強い口調で、しかし静かに話を進めていった。
「ノアはコリン家で、ずっと目を背けたくなるほどの扱いを受けていたのに、あんなひどい兄貴の盾に・・ノアは黒魔術の首謀で断罪者に仕立てられて以来、毒味役にあてがわれ、何度も毒を食らって苦しんでいました。あんなに小さな体で、ろくに食事も与えられず・・!それなのに、王宮でもまた毒味役にされるなんて・・デニーバはノアの魅力に気が付いて、何度もノアを凌辱した。俺はコリン卿だけでなくデニーバにも牽制され、手出しが出来ずただ見ているしかなかった・・ノアは母親を亡くして以来笑わなくなって、全てを忘れた忘却者のようになってしまったんです。俺の事も、何も覚えていない・・」
コリン子爵家の嫡男は暴走した黒魔術の跳ね返りによって重症となるほどの怪我を負ったが、その程度で済んだのも、ノアが盾になってまで聖魔法を放って守ったからだ。死霊魔法を完遂せずに済んだのも、ノアがいたからだろう。
コリン卿もそれを全て分かっていたはずなのに、ノアを断罪者に仕立ててまで、偽りの犯罪事実を捏造した。
黒魔術を暴走させ、実母を死なせ、長兄に怪我を負わせた悪魔の断罪者ノアの出来上がりだ。
コリン子爵家嫡男の実母の死の恨み執着は根強いもので、あの日決行するまでの長い時間を黒魔術の決行の為に費やしていたようだ。
屋敷の地下には膨大な物的証拠が残されていて、あらゆる残骸や試行を繰返した状態が隠しようのない証拠となった。嫡男は禁忌を犯した罪で極刑となるだろう。
コリン卿は、複数の使用人の殺害や犯罪を捏造した罪、ノアを追いつめ毒殺しようとした罪を認めた。
コリン子爵家の人間は全て断罪され、身分を奪爵させ爵位を剥奪した。
コリン卿の血族血統のものは全て同等の処分として、新たにノアをコリン家の当主として子爵卿を襲爵させた。
この醜聞や不祥事は瞬く間に市井の噂となった。真実を知った民はみなノアの名誉を汚すようなこの事件について同情し哀れみをみせ、聖なる魔法の力を持つノアを敬った。
「ノアは、13才より前の記憶がないと言っていた。それは何故なんだ?」
「分かりません。ノアは誕生日の朝に何もかも忘れて記憶がありませんでした。ただ、この事件で母親を亡くし心を傷め、さらには何度も毒の影響で死にかけた・・ノアが自ら忘れる事を望んだのかも知れません」
「そうか・・これからお前はどうするんだ?お前はコリン家で陰ながらノアを守っていたんだろ?毒に苦しむノアを看病したのもお前なのではないのか?見つかれば殺されてもおかしくなかったはずだろ?」
「ノアが哀れだっただけです。それに俺はそもそもコリン家の奴隷です。俺の命なんてコリン卿にとっては何の価値もない。いつでも奪われる覚悟でした。これからは・・コリン卿がいなくなったなら、身分を持たない俺の生き様なんてまた誰かに買われて奴隷になるだけです」
「ドーガと言ったな。お前、ノアの護衛をしないか?これからはノアを危険から守ってやれ。俺がお前を雇ってやるよ」
ドーガがノアを幼い頃から見守っていたと考えれば、ノアの敵ではないことが分かる。この男もまた、ノアと同じようにコリン卿に苦しめられていたんだ。8才の頃から18年間も・・
「そんな簡単に俺を信用していいんですか?俺には身分を証明するものなんて何もない、ただの奴隷です。」
「お前はダリルがノアを痛めつけていた時、悔しそうに目を逸らしていた。それに俺の身分に気が付いてデニーバ一族を断罪した時、お前はほっとした顔をした。ノアを思っての事なんだろ?まあ、もしお前が何か不穏な行動をするようなら即刻切り捨てるが。さて、お前はどうしたい?」
ドーガは一瞬俺を見て泣きそうな顔をしたが、すぐに真剣なまなざしを見せて片膝を付いた。そして、礼をとると真摯な語調で言った。
「命に変えてもノアを守ります。俺を主の下臣にして下さい。命令に従います」
「分かった。ドーガ、お前はこれまで使い捨ての労働力として使われていた。人権の保障すらされず、無賃労働を強いられていたんだろ?デニーバの没収した財産の中から一部お前に与える。それからお前の奴隷解除だ。お前を俺の臣下にする。下臣などとへりくだるな。分かったか?」
「はい!主!」
「主って・・ははっ!まあ、いいよ。ドーガ、頼んだぞ!」
ドーガはどこかほっとしたような顔を見せて初めて笑顔を見せた。
「ああ、それから・・念の為確認なんだが、お前はノアをどう思っているんだ?」
「主、俺は主の想い人に手を出したりしませんのでご安心を。それから、ダリルがノアを何度も欲のはけ口にしていましたが、ナカにはモノを一度も挿れていません。ノアは処女ですので安心して下さい」
「は!?何言って!はぁ・・お前、俺の臣下になるなら口を噤んでろよ?余計な事は言うな。全てにおいて他言無用だ。あとでフリードに臣下の心得でも教えて貰え!」
「分かりました。フリード様、よろしくお願いします」
「ぷっ!くははっ!ノアが無事で良かったじゃねぇか!あー、それで?臣下の心得だっけ?任せろ、ドーガ」
そう言って、ドーガとフリードは顔を見合わせて俺を笑った。
ノアの口を封じ精神的に追い詰めて、誰とも接触を持たせない事が目的だったようだ。当然ダリルの粗暴な行為や暴力についても容認していた。
かつて孤児だった監視役の男ドーガは、コリン卿に拾われて以来わずか8歳にしてコリン卿という支配者に対し屈服している人間でいるしかなかった。
生まれながらに疎外され個として名誉を喪失しているのだから、自分は永続的かつ暴力的に支配される側の人間なんだと、そう思っていたとドーガは話す。
ノアが俺と出会った時、ドーガはすぐに俺の身分に気が付いて、ダリルを処分した後はどこかほっとした様な顔をしたのを覚えている。
「仕方がなかったんですよ・・俺はノアが生まれた頃に拾われて、コリン卿に服従させられていた。ノアも不運な奴で、コリン卿の実の息子だというのに、まるで俺と変わらないくらい粗末な暮らしを強いられていた・・それでもノアは優しい母親と、幸せそうに笑っていたんです。なのに、あのクズ野郎どもが!」
ドーガは強い口調で、しかし静かに話を進めていった。
「ノアはコリン家で、ずっと目を背けたくなるほどの扱いを受けていたのに、あんなひどい兄貴の盾に・・ノアは黒魔術の首謀で断罪者に仕立てられて以来、毒味役にあてがわれ、何度も毒を食らって苦しんでいました。あんなに小さな体で、ろくに食事も与えられず・・!それなのに、王宮でもまた毒味役にされるなんて・・デニーバはノアの魅力に気が付いて、何度もノアを凌辱した。俺はコリン卿だけでなくデニーバにも牽制され、手出しが出来ずただ見ているしかなかった・・ノアは母親を亡くして以来笑わなくなって、全てを忘れた忘却者のようになってしまったんです。俺の事も、何も覚えていない・・」
コリン子爵家の嫡男は暴走した黒魔術の跳ね返りによって重症となるほどの怪我を負ったが、その程度で済んだのも、ノアが盾になってまで聖魔法を放って守ったからだ。死霊魔法を完遂せずに済んだのも、ノアがいたからだろう。
コリン卿もそれを全て分かっていたはずなのに、ノアを断罪者に仕立ててまで、偽りの犯罪事実を捏造した。
黒魔術を暴走させ、実母を死なせ、長兄に怪我を負わせた悪魔の断罪者ノアの出来上がりだ。
コリン子爵家嫡男の実母の死の恨み執着は根強いもので、あの日決行するまでの長い時間を黒魔術の決行の為に費やしていたようだ。
屋敷の地下には膨大な物的証拠が残されていて、あらゆる残骸や試行を繰返した状態が隠しようのない証拠となった。嫡男は禁忌を犯した罪で極刑となるだろう。
コリン卿は、複数の使用人の殺害や犯罪を捏造した罪、ノアを追いつめ毒殺しようとした罪を認めた。
コリン子爵家の人間は全て断罪され、身分を奪爵させ爵位を剥奪した。
コリン卿の血族血統のものは全て同等の処分として、新たにノアをコリン家の当主として子爵卿を襲爵させた。
この醜聞や不祥事は瞬く間に市井の噂となった。真実を知った民はみなノアの名誉を汚すようなこの事件について同情し哀れみをみせ、聖なる魔法の力を持つノアを敬った。
「ノアは、13才より前の記憶がないと言っていた。それは何故なんだ?」
「分かりません。ノアは誕生日の朝に何もかも忘れて記憶がありませんでした。ただ、この事件で母親を亡くし心を傷め、さらには何度も毒の影響で死にかけた・・ノアが自ら忘れる事を望んだのかも知れません」
「そうか・・これからお前はどうするんだ?お前はコリン家で陰ながらノアを守っていたんだろ?毒に苦しむノアを看病したのもお前なのではないのか?見つかれば殺されてもおかしくなかったはずだろ?」
「ノアが哀れだっただけです。それに俺はそもそもコリン家の奴隷です。俺の命なんてコリン卿にとっては何の価値もない。いつでも奪われる覚悟でした。これからは・・コリン卿がいなくなったなら、身分を持たない俺の生き様なんてまた誰かに買われて奴隷になるだけです」
「ドーガと言ったな。お前、ノアの護衛をしないか?これからはノアを危険から守ってやれ。俺がお前を雇ってやるよ」
ドーガがノアを幼い頃から見守っていたと考えれば、ノアの敵ではないことが分かる。この男もまた、ノアと同じようにコリン卿に苦しめられていたんだ。8才の頃から18年間も・・
「そんな簡単に俺を信用していいんですか?俺には身分を証明するものなんて何もない、ただの奴隷です。」
「お前はダリルがノアを痛めつけていた時、悔しそうに目を逸らしていた。それに俺の身分に気が付いてデニーバ一族を断罪した時、お前はほっとした顔をした。ノアを思っての事なんだろ?まあ、もしお前が何か不穏な行動をするようなら即刻切り捨てるが。さて、お前はどうしたい?」
ドーガは一瞬俺を見て泣きそうな顔をしたが、すぐに真剣なまなざしを見せて片膝を付いた。そして、礼をとると真摯な語調で言った。
「命に変えてもノアを守ります。俺を主の下臣にして下さい。命令に従います」
「分かった。ドーガ、お前はこれまで使い捨ての労働力として使われていた。人権の保障すらされず、無賃労働を強いられていたんだろ?デニーバの没収した財産の中から一部お前に与える。それからお前の奴隷解除だ。お前を俺の臣下にする。下臣などとへりくだるな。分かったか?」
「はい!主!」
「主って・・ははっ!まあ、いいよ。ドーガ、頼んだぞ!」
ドーガはどこかほっとしたような顔を見せて初めて笑顔を見せた。
「ああ、それから・・念の為確認なんだが、お前はノアをどう思っているんだ?」
「主、俺は主の想い人に手を出したりしませんのでご安心を。それから、ダリルがノアを何度も欲のはけ口にしていましたが、ナカにはモノを一度も挿れていません。ノアは処女ですので安心して下さい」
「は!?何言って!はぁ・・お前、俺の臣下になるなら口を噤んでろよ?余計な事は言うな。全てにおいて他言無用だ。あとでフリードに臣下の心得でも教えて貰え!」
「分かりました。フリード様、よろしくお願いします」
「ぷっ!くははっ!ノアが無事で良かったじゃねぇか!あー、それで?臣下の心得だっけ?任せろ、ドーガ」
そう言って、ドーガとフリードは顔を見合わせて俺を笑った。
40
あなたにおすすめの小説
流れる星、どうかお願い
ハル
BL
羽水 結弦(うすい ゆずる)
オメガで高校中退の彼は国内の財閥の一つ、羽水本家の次男、羽水要と番になって約8年
高層マンションに住み、気兼ねなくスーパーで買い物をして好きな料理を食べられる。同じ性の人からすれば恵まれた生活をしている彼
そんな彼が夜、空を眺めて流れ星に祈る願いはただ一つ
”要が幸せになりますように”
オメガバースの世界を舞台にしたアルファ×オメガ
王道な関係の二人が織りなすラブストーリーをお楽しみに!
一応、更新していきますが、修正が入ることは多いので
ちょっと読みづらくなったら申し訳ないですが
お付き合いください!
俺がこんなにモテるのはおかしいだろ!? 〜魔法と弟を愛でたいだけなのに、なぜそんなに執着してくるんだ!!!〜
小屋瀬
BL
「兄さんは僕に守られてればいい。ずっと、僕の側にいたらいい。」
魔法高等学校入学式。自覚ありのブラコン、レイ−クレシスは、今日入学してくる大好きな弟との再会に心を踊らせていた。“これからは毎日弟を愛でながら、大好きな魔法制作に明け暮れる日々を過ごせる”そう思っていたレイに待ち受けていたのは、波乱万丈な毎日で―――
義弟からの激しい束縛、王子からの謎の執着、親友からの重い愛⋯俺はただ、普通に過ごしたいだけなのにーーー!!!
冬は寒いから
青埜澄
BL
誰かの一番になれなくても、そばにいたいと思ってしまう。
片想いのまま時間だけが過ぎていく冬。
そんな僕の前に現れたのは、誰よりも強引で、優しい人だった。
「二番目でもいいから、好きになって」
忘れたふりをしていた気持ちが、少しずつ溶けていく。
冬のラブストーリー。
『主な登場人物』
橋平司
九条冬馬
浜本浩二
※すみません、最初アップしていたものをもう一度加筆修正しアップしなおしました。大まかなストーリー、登場人物は変更ありません。
【BL】捨てられたSubが甘やかされる話
橘スミレ
BL
渚は最低最悪なパートナーに追い出され行く宛もなく彷徨っていた。
もうダメだと倒れ込んだ時、オーナーと呼ばれる男に拾われた。
オーナーさんは理玖さんという名前で、優しくて暖かいDomだ。
ただ執着心がすごく強い。渚の全てを知って管理したがる。
特に食へのこだわりが強く、渚が食べるもの全てを知ろうとする。
でもその執着が捨てられた渚にとっては心地よく、気味が悪いほどの執着が欲しくなってしまう。
理玖さんの執着は日に日に重みを増していくが、渚はどこまでも幸福として受け入れてゆく。
そんな風な激重DomによってドロドロにされちゃうSubのお話です!
アルファポリス限定で連載中
二日に一度を目安に更新しております
【完】君に届かない声
未希かずは(Miki)
BL
内気で友達の少ない高校生・花森眞琴は、優しくて完璧な幼なじみの長谷川匠海に密かな恋心を抱いていた。
ある日、匠海が誰かを「そばで守りたい」と話すのを耳にした眞琴。匠海の幸せのために身を引こうと、クラスの人気者・和馬に偽の恋人役を頼むが…。
すれ違う高校生二人の不器用な恋のお話です。
執着囲い込み☓健気。ハピエンです。
縁結びオメガと不遇のアルファ
くま
BL
お見合い相手に必ず運命の相手が現れ破談になる柊弥生、いつしか縁結びオメガと揶揄されるようになり、山のようなお見合いを押しつけられる弥生、そんな折、中学の同級生で今は有名会社のエリート、藤宮暁アルファが泣きついてきた。何でも、この度結婚することになったオメガ女性の元婚約者の女になって欲しいと。無神経な事を言ってきた暁を一昨日来やがれと追い返すも、なんと、次のお見合い相手はそのアルファ男性だった。
あなたと過ごせた日々は幸せでした
蒸しケーキ
BL
結婚から五年後、幸せな日々を過ごしていたシューン・トアは、突然義父に「息子と別れてやってくれ」と冷酷に告げられる。そんな言葉にシューンは、何一つ言い返せず、飲み込むしかなかった。そして、夫であるアインス・キールに離婚を切り出すが、アインスがそう簡単にシューンを手離す訳もなく......。
王太子殿下に触れた夜、月影のように想いは沈む
木風
BL
王太子殿下と共に過ごした、学園の日々。
その笑顔が眩しくて、遠くて、手を伸ばせば届くようで届かなかった。
燃えるような恋ではない。ただ、触れずに見つめ続けた冬の夜。
眠りに沈む殿下の唇が、誰かの名を呼ぶ。
それが妹の名だと知っても、離れられなかった。
「殿下が幸せなら、それでいい」
そう言い聞かせながらも、胸の奥で何かが静かに壊れていく。
赦されぬ恋を抱いたまま、彼は月影のように想いを沈めた。
※本作は「小説家になろう」「アルファポリス」にて同時掲載しております。
表紙イラストは、雪乃さんに描いていただきました。
※イラストは描き下ろし作品です。無断転載・無断使用・AI学習等は一切禁止しております。
©︎月影 / 木風 雪乃
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる