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20 突然の別れ
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僕はユージーン殿下に連れられて、王宮の長い廊下を歩いていた。
たどり着いた場所は、豪華な広い応接間だった。そこにはすでに人がいて、ゆったりとソファーに腰掛ける黒髪の美しい男性がいた。
「お待たせしました」
「ああ、来たか。私はソルヴィンだ。ノア、お前の話は聞いているよ。体調はどうだ?」
「は、はい、もうすっかり良くなりました・・」
ソルヴィンと名乗った若い男性は、とても綺麗なお方だった。僕の事をユージーン殿下から聞いているみたいで、体調を気遣ってくれる・・この方は一体誰なんだろう。
ソルヴィン様は僕に手招きをして、僕をソファーに座らせた。ユージーン殿下も同じように僕の隣に座る。
「ユージーン、お前は席を外せ。すぐに呼ぶから待機していろ」
「しかし!」
「心配するな、すぐに済むよ」
「・・分かりました」
僕はユージーン殿下が扉から出て行くのを目で追って、側から居なくなることがとても寂しく感じた。
「ユージーンがいないと不安か?」
「は、い・・」
「ふふっ、素直だな。ノア、お前はユージーンを慕っているようだな」
「慕う?えっと、あの・・僕を助けてくれた恩人だと思っています。沢山お薬を・・あ、お薬の代金は働いて必ずお返しします!」
「そうか、恩人か。体調は本当に良くなったのか?」
「はい、もうすっかり回復しました。だから、僕は元にいた場所に戻ります」
「毒味役に戻ると?それでいいのか?毒に当たれば死ぬ事になるぞ?」
「はい、そうなればそれこそ僕の本望です。ユージーン殿下をお守りして死ねるなら、僕は幸せです」
ソルヴィン様は僕の事をじっと見つめて、少し悲しそうな顔をした。
それから僕の腕をグイッと引っ張ると、優しく抱きしめてきた。
「あ、あの!あのっ!」
「しーっ・・」
「ソルヴィン様・・?」
「ユージーンの方が良かったか?私にはドキドキしない?」
「えっと・・ユージーン殿下は、その・・いつも側にいてくれて、僕は、安心してしまって・・ソルヴィン様はお会いしたばかりなので・・」
「確かにそうだな?そうか、お前はユージーンに抱かれているんだな?」
「抱かれる?ユージーン殿下は、僕に薬を塗って、僕が痛がると、優しく抱き締めてくれます」
「うむ、そうか。ならユージーンのキスは好きか?」
「キ!キス・・」
ソルヴィン様はなぜそんなふうに聞いて来るのだろう。僕がユージーン殿下にキスをねだっている事を知っていて咎められるのだろうか。
「どうなんだ?」
「あの、すみません!僕がいけないんです!僕がキスが欲しいって、ねだるから!き、気持ち良くて、だから!殿下は仕方なく・・」
「ふーん、お前から?お前はユージーンを好いているんだな」
「ちがうっ、だって!僕はそんな風に思ったら、駄目だから!早く、殿下のお側から、離れないと、僕は、駄目な人間だから!毒味役に早く、戻りたいんです・・」
「そんなに泣かなくてもいい。だけどノア、それ以上ユージーンを好きになるな。ユージーンは西国タリアネシアの第2王子だ。お前の相手ではない。それにユージーンには婚約者がいる」
ユージーン殿下を好きになっちゃいけない・・ユージーン殿下には婚約者が?
ユージーン殿下は優しくて、いつも殿下の優しい手が僕を撫でてくれるから、嬉しくて気持ち良くて・・あの碧い瞳が僕を溶かすから・・
やっぱり想っちゃ駄目なんだ。ユージーン殿下は、僕なんかが好きになってはいけない人だから。
「ううっ・・違う、僕、駄目・・違う、ふ、ぐすっ・・」
「泣くな、ノア。自分の気持ちに気が付いていなかったのか?だけど今ならまだ引き返せる。傷が深くなる前に、ユージーンを忘れろ」
「僕、ユージーン殿下を、好きに、なりません」
「そうだ。ノア、それでいい。これまで辛い事が沢山あったな、毒味役の件は申し訳なかった。毒に当たらなくて本当に良かったよ」
ソルヴィン様は僕を離して、そっと頭を撫でた。その瞳の色がユージーン殿下と同じように碧く煌めいて僕を見つめた。
「ソルヴィン、様・・僕は・・」
「もう心配しなくていい。お前を、もう毒味役にはさせないよ。お前はコリン子爵家の当主になるんだから。コリン家一族の処分については知っているな?世間一般の感情ではお前に同情を示す者が多い。お前はもう断罪者なんかではない。これからはお前がコリン子爵家を統治していくんだよ。最低限の支援はするから心配するな」
僕が統治を!?
そんな事、僕には出来ない・・怖い・・
「あの・・!!僕も父上達と一緒に処分して下さい!僕も魔術を使った事には変わりありません。極刑で構いません・・僕を処刑して下さい!」
「何を言って・・お前の罪は晴れたんだよ。処罰される対象ではないんだ。お前は先程も毒で死ねたらいいと言ったな、何故そんなにも死にたがる」
「還りたいんです・・どこか、分からないけれど、僕は死んだら、還る場所があるような気がするんです」
還りたい・・どこか暖かい場所が僕を待っている気がするから、死ぬ事は怖くない。
「駄目だよ、ノア、まだ死ぬには早いよ。生きて、お前はお前の使命を果たせ」
「僕の、使命・・?では、毒味役に戻ります!ユージーン殿下をお守りします!」
「はぁ・・お前という子は・・ノア、お前をしばらく私が預かろう。とにかくユージーンから離れるんだ。いいな?」
「いいえ!僕は地下へ戻ります。だから・・」
「ノア、私の言うことが聞けないのか?」
「・・ぐすっ・・ユージーン殿下とは、もう」
「もう二度と会わない方がいい」
さっきユージーン殿下を見送ったあの後ろ姿が、まさか最後の日になるなんて思っていなかった。
僕はユージーン殿下が好きだったんだ・・今ここで気が付くだなんて。だけど、それももう遅い。あれが最後・・もう殿下に会うことすら出来ないんだ。
婚約者がいるユージーン殿下にとっても、もう会わない方がいいに決まっているから。
「分かり、ました・・」
僕はその日から、もうユージーン殿下に会うことが出来なくなった。
たどり着いた場所は、豪華な広い応接間だった。そこにはすでに人がいて、ゆったりとソファーに腰掛ける黒髪の美しい男性がいた。
「お待たせしました」
「ああ、来たか。私はソルヴィンだ。ノア、お前の話は聞いているよ。体調はどうだ?」
「は、はい、もうすっかり良くなりました・・」
ソルヴィンと名乗った若い男性は、とても綺麗なお方だった。僕の事をユージーン殿下から聞いているみたいで、体調を気遣ってくれる・・この方は一体誰なんだろう。
ソルヴィン様は僕に手招きをして、僕をソファーに座らせた。ユージーン殿下も同じように僕の隣に座る。
「ユージーン、お前は席を外せ。すぐに呼ぶから待機していろ」
「しかし!」
「心配するな、すぐに済むよ」
「・・分かりました」
僕はユージーン殿下が扉から出て行くのを目で追って、側から居なくなることがとても寂しく感じた。
「ユージーンがいないと不安か?」
「は、い・・」
「ふふっ、素直だな。ノア、お前はユージーンを慕っているようだな」
「慕う?えっと、あの・・僕を助けてくれた恩人だと思っています。沢山お薬を・・あ、お薬の代金は働いて必ずお返しします!」
「そうか、恩人か。体調は本当に良くなったのか?」
「はい、もうすっかり回復しました。だから、僕は元にいた場所に戻ります」
「毒味役に戻ると?それでいいのか?毒に当たれば死ぬ事になるぞ?」
「はい、そうなればそれこそ僕の本望です。ユージーン殿下をお守りして死ねるなら、僕は幸せです」
ソルヴィン様は僕の事をじっと見つめて、少し悲しそうな顔をした。
それから僕の腕をグイッと引っ張ると、優しく抱きしめてきた。
「あ、あの!あのっ!」
「しーっ・・」
「ソルヴィン様・・?」
「ユージーンの方が良かったか?私にはドキドキしない?」
「えっと・・ユージーン殿下は、その・・いつも側にいてくれて、僕は、安心してしまって・・ソルヴィン様はお会いしたばかりなので・・」
「確かにそうだな?そうか、お前はユージーンに抱かれているんだな?」
「抱かれる?ユージーン殿下は、僕に薬を塗って、僕が痛がると、優しく抱き締めてくれます」
「うむ、そうか。ならユージーンのキスは好きか?」
「キ!キス・・」
ソルヴィン様はなぜそんなふうに聞いて来るのだろう。僕がユージーン殿下にキスをねだっている事を知っていて咎められるのだろうか。
「どうなんだ?」
「あの、すみません!僕がいけないんです!僕がキスが欲しいって、ねだるから!き、気持ち良くて、だから!殿下は仕方なく・・」
「ふーん、お前から?お前はユージーンを好いているんだな」
「ちがうっ、だって!僕はそんな風に思ったら、駄目だから!早く、殿下のお側から、離れないと、僕は、駄目な人間だから!毒味役に早く、戻りたいんです・・」
「そんなに泣かなくてもいい。だけどノア、それ以上ユージーンを好きになるな。ユージーンは西国タリアネシアの第2王子だ。お前の相手ではない。それにユージーンには婚約者がいる」
ユージーン殿下を好きになっちゃいけない・・ユージーン殿下には婚約者が?
ユージーン殿下は優しくて、いつも殿下の優しい手が僕を撫でてくれるから、嬉しくて気持ち良くて・・あの碧い瞳が僕を溶かすから・・
やっぱり想っちゃ駄目なんだ。ユージーン殿下は、僕なんかが好きになってはいけない人だから。
「ううっ・・違う、僕、駄目・・違う、ふ、ぐすっ・・」
「泣くな、ノア。自分の気持ちに気が付いていなかったのか?だけど今ならまだ引き返せる。傷が深くなる前に、ユージーンを忘れろ」
「僕、ユージーン殿下を、好きに、なりません」
「そうだ。ノア、それでいい。これまで辛い事が沢山あったな、毒味役の件は申し訳なかった。毒に当たらなくて本当に良かったよ」
ソルヴィン様は僕を離して、そっと頭を撫でた。その瞳の色がユージーン殿下と同じように碧く煌めいて僕を見つめた。
「ソルヴィン、様・・僕は・・」
「もう心配しなくていい。お前を、もう毒味役にはさせないよ。お前はコリン子爵家の当主になるんだから。コリン家一族の処分については知っているな?世間一般の感情ではお前に同情を示す者が多い。お前はもう断罪者なんかではない。これからはお前がコリン子爵家を統治していくんだよ。最低限の支援はするから心配するな」
僕が統治を!?
そんな事、僕には出来ない・・怖い・・
「あの・・!!僕も父上達と一緒に処分して下さい!僕も魔術を使った事には変わりありません。極刑で構いません・・僕を処刑して下さい!」
「何を言って・・お前の罪は晴れたんだよ。処罰される対象ではないんだ。お前は先程も毒で死ねたらいいと言ったな、何故そんなにも死にたがる」
「還りたいんです・・どこか、分からないけれど、僕は死んだら、還る場所があるような気がするんです」
還りたい・・どこか暖かい場所が僕を待っている気がするから、死ぬ事は怖くない。
「駄目だよ、ノア、まだ死ぬには早いよ。生きて、お前はお前の使命を果たせ」
「僕の、使命・・?では、毒味役に戻ります!ユージーン殿下をお守りします!」
「はぁ・・お前という子は・・ノア、お前をしばらく私が預かろう。とにかくユージーンから離れるんだ。いいな?」
「いいえ!僕は地下へ戻ります。だから・・」
「ノア、私の言うことが聞けないのか?」
「・・ぐすっ・・ユージーン殿下とは、もう」
「もう二度と会わない方がいい」
さっきユージーン殿下を見送ったあの後ろ姿が、まさか最後の日になるなんて思っていなかった。
僕はユージーン殿下が好きだったんだ・・今ここで気が付くだなんて。だけど、それももう遅い。あれが最後・・もう殿下に会うことすら出来ないんだ。
婚約者がいるユージーン殿下にとっても、もう会わない方がいいに決まっているから。
「分かり、ました・・」
僕はその日から、もうユージーン殿下に会うことが出来なくなった。
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