迷子の天使の話~王子妃セスから冒険者レノになった話 シリーズ第4弾~

氷室 裕

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28 両片思い

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 約束の正午、少し前。

 私は王太子らしく格式高い衣装を身に付けて、アリアが指定してきた場所へ向かった。いつもの四阿あずまやだ。

 アリアに会ったら、なんて言おうか。
 もし本当にノアが言っていたとおり、アリアの恋する相手が私ならば・・いや黒髪の庭師か?

 いずれにせよ、私であることには間違いはないのだから、この際私もアリアを好いていると伝えたい。

 言えるだろうか・・どう切り出すのが正解だ?そんな事を考えていたら、昨夜はまったく眠れなかった。

「ソル・・?」
「あ、ああ・・は、早かったね」

 私がまだアリアにどうやって話をしたら良いのかを悩んでいるうちに、アリアは四阿あずまやに来てしまった。

 アリア・・アリー?
 どちらで呼ぶのが正解なんだろう。
 分からなすぎて、私はどちらも呼べないでいる。

「私の方が早く来てソルを待っているつもりだったのに、貴方こそ早かったのね?」
「そうだな・・」

 アリアは私の格好を見ても特に何も言ってこなくて、私が王子で、庭師のソルだと分かっているのかすら、よく分からなくなってきた・・要するに、私はかなり動揺している・・

「ソル・・?」
「・・」

 どうしたらいい?
 言葉が出てこない。

 アリアが私の向かい側の椅子に座って、優しいまなざしで私を見ている。

「ソル、今日は呼び出してしまってごめんなさい。ちゃんと貴方に言付けた事が伝わるのか不安だったの。でも来てくれた・・ありがとう、ソル」
「ああ・・」
「ソル、この間はとても楽しかったわね?お買い物もダンスも!ソル、私!私ね・・」

 アリアは私を呼び出して、何を言おうとしているのだろうか・・少し緊張した様子だ・・いや、緊張というよりも悲しそうな・・顔?

 悲しい事?何が・・?もしかして、今日、私と会う目的は、別れを告げるため・・?

 ならば私から愛を語られても、迷惑なだけではないのか。私は思わずアリアから目を逸らしてしまった。

「ソル・・?貴方からは何も言ってくれないのね・・」
「今日は、どんな・・用、なのかな・・」
「そうよね?呼び出したのは私の方なのに。ごめんなさい!ソル・・私にはもう時間がないの。だから、さようなら・・さよならを伝えたかったのよ・・!会うのはこれが最後よ、それを伝えたかったの。じゃあ、これで」

 アリアが私の目の前で立ち上がって、立ち去ろうとしている。私に背中を向けて。離れてしまう。もう時間がない?私との、この時間が?それとも・・帰国の?

 駄目だ!どうであろうと、言わなきゃ駄目だ!アリアと最後になってしまう!アリアが国に帰ってしまう!!

「待ってくれ!教えて欲しい!!」
「ソル・・?」
「教えて・・?私は!何が、正解なのかが、分からないんだ・・だって君は!アリア、だから・・」

 アリアが立ち止まって、もう一度私の方に振り向く。涙で溢れそうな瞳で、真っ直ぐに私を見ている。

 私はゆっくりと立ち上がって、アリアの側に近づく・・でもまだ遠い。

「アリア!アリア・・私は、私は庭師のソルなんかじゃない・・」
「もう時間がないの。だから、貴方とお話をするのは、これが最後よ?」
「こういう時・・どうしたらいい・・?」

 一歩、足を踏み出して止まる。
 アリアを見つめる。

「そうね・・」
「私は、3年前から!初めて会った時から、アリアの事が好きだったんだ・・!でも君は、ユージーンと婚約する事を約束させられてしまったから・・」

 また一歩前へ進む。
 アリアの方に向かって。

「だけど、貴方は何も言ってくれなかったわ?私をユージーン殿下に渡してもいいと思ったのでしょう?」
「仕方がなかったんだ!言えなかった・・私と君とでは、歳が離れているから」
「私、歳なんて気にしないわ?」

 私はアリアの瞳を見て、私に何を言わせたいのかを悟った。
 もう一歩もっと近づいて、アリアの手を握る。

「アリア、私は、君の事が好きなんだ・・」
「私が会いたいと言わなかったら、貴方は私に何も言ってくれなかったの?それに、貴方ったらすぐに諦めてしまうんだもの。私の事、その程度の好き、なのよね・・?」
「違う!本当に好きだったんだ・・今もずっと!」
「・・」
「アリア?」
「・・」

 アリアが黙ってしまった。
 私はまた間違えてしまったのだろうか。

 アリアを、そっと引き寄せる。
 耳元で小さく囁く。
 
「好きだよ・・アリア、私を受け入れて?お願いだ・・」

 何度も何度も。
 アリアが、いいよと言ってくれるまで。もっと、耳元で優しく、何度も。

「アリア、好きだよ。お願い、お願いだから、ねぇ・・アリア・・」

 アリアから身体を離す。
 アリアの瞳を見ながら、もう一度はっきりと伝える。

「アリア、この私と結婚して欲しい。愛してるんだ、君を、心から」
「ソルヴィン殿下・・アリアも貴方の事が好きよ?ずっと、ずっと好きだったの・・ソル」
「アリア、愛してる!もう絶対に離さないよ?大切にする、アリー!」

 やっと・・アリアに私の気持ちを言えた。
 やっと、愛してると伝える事が出来た。

 私はアリアをそっと抱き締める。
 苦しくないだろうか・・

 身体を離してアリアを見つめる。
 アリアはにこりと笑って、私に言った。

「ソル、もう私を離さないでね?愛してるわ」
「絶対に離さない!アリア、愛してるよ」

 アリアは私を見つめて、見つめあって、優しく触れるだけの可愛らしいキスをした。













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