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二人きりの打ち合わせは心臓に悪いのです【騎士キース編】
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昨日はルカリオに振り回されて、屋敷へと逃げ帰った私。
おかげで話も宙ぶらりんになってしまったが、衣装自体は気に入っていたようなのでそのまま進めることにする。
ふとした瞬間にルカリオとの濃密な時間が思い出されると無性に恥ずかしく、今日はその記憶を追いやる為にも王宮への引っ越し作業に励もうと、朝からやる気だけは漲っていたのだが――
私は王宮内の廊下で一人途方に暮れていた。
身の回りの必要最低限なものだけを厳選して家から持参したはずなのに、思いのほか荷物が重かったのである。
やってしまいました。
自業自得なのは理解していますが、これは重すぎます……。
私は鈍感で無頓着なのに、変に心配性なところもある厄介な性格だとよく言われる。
今回もまさに私の悪い癖が出たらしく、つい多めに持ってきてしまったのだ。
しかも、一人で運べると使用人に大見得を切った挙げ句が、この体たらくである。
この世界ってば、魔法が存在しているのに、誰でも指先一つで物語の魔法使いみたいに何でも出来る訳じゃないところがミソなのよね。
移動も馬車だし、重いものは重いし。
あ、シンデレラも魔法の馬車に乗っていたということは、魔法があろうとなかろうと、馬車の存在はデフォルトなのかもしれません。
私は明らかに現実逃避をしていた。
魔術師の家系や王族は魔力量が多いとされているが、私には残念ながらそれほどの魔力は備わっていない。
よって、人力で乗り切るしかない場面も多いのである。
覚悟を決めて鞄に手をかける。
フンギィィィィ
令嬢らしからぬ踏ん張りで荷物を運んでいると、向こうから私を見つけたキースが駆け寄ってきた。
「お前、こんなとこで何やってんだ? 貸せ」
キースは口を開くなり、私の荷物を奪い取った。
「王宮でしばらく生活をすることになったので、屋敷から荷物を持ってきたのですが、つい詰め込みすぎてしまって」
肩で息をしながら答える私を、呆れたように見下ろしながらキースが歩きだす。
「俺が運んでやるから、部屋を教えろ。そんなノロノロしてたら日が暮れちまうぞ?」
「わぁ! 助かります!」
ぶっきらぼうだが、キースはいつだって優しい。
やたらと大きくて重い鞄を軽々と持ち上げる姿は、さすが鍛えている騎士だなと感心してしまう。
私はフフフとにやけながら、「こっちです」と足早にキースを追い越して誘導した。
「ありがとうございました。キース、今日の鍛練はもう終わったのですか?」
「ああ。時間が出来たから、昨日打ち合わせに参加できなかった分を、ルカリオに確認しとこうと思ってな」
なんだかんだで真面目にアイドル計画について考えてくれているらしい。
「昨日は衣装の打ち合わせだったのです。キースに時間があるなら、今から少しいいですか?」
「俺は構わねぇが」
急遽、私の新しい部屋でキースとの打ち合わせが始まった。
キースにも衣装のデザインを見せ、指を差しながら説明する。
「こんなのはどうでしょう? キースの衣装は、騎士団の制服っぽくマントを着けてみました。首のここと、袖口のここが青で、他の部分は三人同じ素材と色で統一します」
「ふーん。いいんじゃねーか? 俺、そういうのよくわかんねーし」
あまり興味無さげに言われた私は、つい唇を尖らせる。
だって、これでも一生懸命考えたのだ。
「キースってば、いっつもそうですよね。着られればなんでもいいみたいな」
「実際着られればいいからな。入らない服が多すぎる」
「確かにキースの体格だとなかなか普通の服じゃ……って、そうでした! 採寸を頼まれていたのでした!」
王子のルカリオは、常時細かい採寸結果が王家で保管されているが、キースとレンの分は無いので、採寸をしないと衣装が作れない。
今から採寸を済ませてしまおうと、王家の衣装部の人間を呼ぼうとしたのだが、「お前が測ればいいだろう」と、キースは勝手に騎士団の練習着を脱ぎ出してしまった。
「ちょっ、キース! 待って下さい。勝手に脱がないでーーーーっ」
直視出来ず、回れ右をしながら抗議をした私だったが。
「時間が勿体ないだろ? さっさとやるぞ」
キースは聞き入れる気もないらしく、脱ぎ進めている。
『いえいえ、脱ぎながらのその台詞は何だかいかがわしく聞こえるので止めましょうよ……』なんて思いながら、仕方なくメジャーを手にした私は、赤い顔のまま上半身裸のキースに近付いた。
うわぁ、たくましくて大きな体です。
腕も太いし胸板も厚くて、子供の頃と全然違いますね。
見事なマッチョ体型に、私は思わず恥ずかしさを忘れて見惚れていた。
「くくっ、そんなに男の体が珍しいか?」
キースに笑われ、我に返る。
「そんなんじゃありません! 測りますよ!!」
ぷりぷりしながら手を伸ばすが、身長差が大き過ぎてよろけてしまった。
屈んでもらうと誤差が生じそうなので、私は近くにあった椅子に乗ることにした。
胸囲や肩幅、袖丈などを測り終わり、首回りも測ろうと腕を伸ばした時、うっかり椅子の上で体勢を崩してしまう。
「きゃっ……ブフッ」
椅子から落ちそうになった私を、キースが見事な大胸筋で受け止め、背中に腕を回して支えてくれた。
「相変わらずドジな上、ちっこいな」
「離して下さい!」
キースは慌てる私が面白いのか、軽く抱きしめるとクルクル廻り始めた。
きゃああああー。
怖いですー。
目が回りますー。
恐怖心で私までキースの首に腕を回してしまい、気付けばさっきまであんなに恥ずかしがっていたキースの裸の胸に顔を埋めていた。
その後、無事に解放され、あやすように頭をポンポンとされたことだけはぼんやりと覚えている。
私はしばらくの間、魂が抜けたようにボーっとしていた。
――のだが。
夜、眠る時になって気付いてしまった。
あれ? 採寸って、別に上着を全部脱がなくても良かったのでは?
――キースもイジワルです!!
私は恥ずかしさでベッドの中でゴロゴロ転げ回ったのだった。
おかげで話も宙ぶらりんになってしまったが、衣装自体は気に入っていたようなのでそのまま進めることにする。
ふとした瞬間にルカリオとの濃密な時間が思い出されると無性に恥ずかしく、今日はその記憶を追いやる為にも王宮への引っ越し作業に励もうと、朝からやる気だけは漲っていたのだが――
私は王宮内の廊下で一人途方に暮れていた。
身の回りの必要最低限なものだけを厳選して家から持参したはずなのに、思いのほか荷物が重かったのである。
やってしまいました。
自業自得なのは理解していますが、これは重すぎます……。
私は鈍感で無頓着なのに、変に心配性なところもある厄介な性格だとよく言われる。
今回もまさに私の悪い癖が出たらしく、つい多めに持ってきてしまったのだ。
しかも、一人で運べると使用人に大見得を切った挙げ句が、この体たらくである。
この世界ってば、魔法が存在しているのに、誰でも指先一つで物語の魔法使いみたいに何でも出来る訳じゃないところがミソなのよね。
移動も馬車だし、重いものは重いし。
あ、シンデレラも魔法の馬車に乗っていたということは、魔法があろうとなかろうと、馬車の存在はデフォルトなのかもしれません。
私は明らかに現実逃避をしていた。
魔術師の家系や王族は魔力量が多いとされているが、私には残念ながらそれほどの魔力は備わっていない。
よって、人力で乗り切るしかない場面も多いのである。
覚悟を決めて鞄に手をかける。
フンギィィィィ
令嬢らしからぬ踏ん張りで荷物を運んでいると、向こうから私を見つけたキースが駆け寄ってきた。
「お前、こんなとこで何やってんだ? 貸せ」
キースは口を開くなり、私の荷物を奪い取った。
「王宮でしばらく生活をすることになったので、屋敷から荷物を持ってきたのですが、つい詰め込みすぎてしまって」
肩で息をしながら答える私を、呆れたように見下ろしながらキースが歩きだす。
「俺が運んでやるから、部屋を教えろ。そんなノロノロしてたら日が暮れちまうぞ?」
「わぁ! 助かります!」
ぶっきらぼうだが、キースはいつだって優しい。
やたらと大きくて重い鞄を軽々と持ち上げる姿は、さすが鍛えている騎士だなと感心してしまう。
私はフフフとにやけながら、「こっちです」と足早にキースを追い越して誘導した。
「ありがとうございました。キース、今日の鍛練はもう終わったのですか?」
「ああ。時間が出来たから、昨日打ち合わせに参加できなかった分を、ルカリオに確認しとこうと思ってな」
なんだかんだで真面目にアイドル計画について考えてくれているらしい。
「昨日は衣装の打ち合わせだったのです。キースに時間があるなら、今から少しいいですか?」
「俺は構わねぇが」
急遽、私の新しい部屋でキースとの打ち合わせが始まった。
キースにも衣装のデザインを見せ、指を差しながら説明する。
「こんなのはどうでしょう? キースの衣装は、騎士団の制服っぽくマントを着けてみました。首のここと、袖口のここが青で、他の部分は三人同じ素材と色で統一します」
「ふーん。いいんじゃねーか? 俺、そういうのよくわかんねーし」
あまり興味無さげに言われた私は、つい唇を尖らせる。
だって、これでも一生懸命考えたのだ。
「キースってば、いっつもそうですよね。着られればなんでもいいみたいな」
「実際着られればいいからな。入らない服が多すぎる」
「確かにキースの体格だとなかなか普通の服じゃ……って、そうでした! 採寸を頼まれていたのでした!」
王子のルカリオは、常時細かい採寸結果が王家で保管されているが、キースとレンの分は無いので、採寸をしないと衣装が作れない。
今から採寸を済ませてしまおうと、王家の衣装部の人間を呼ぼうとしたのだが、「お前が測ればいいだろう」と、キースは勝手に騎士団の練習着を脱ぎ出してしまった。
「ちょっ、キース! 待って下さい。勝手に脱がないでーーーーっ」
直視出来ず、回れ右をしながら抗議をした私だったが。
「時間が勿体ないだろ? さっさとやるぞ」
キースは聞き入れる気もないらしく、脱ぎ進めている。
『いえいえ、脱ぎながらのその台詞は何だかいかがわしく聞こえるので止めましょうよ……』なんて思いながら、仕方なくメジャーを手にした私は、赤い顔のまま上半身裸のキースに近付いた。
うわぁ、たくましくて大きな体です。
腕も太いし胸板も厚くて、子供の頃と全然違いますね。
見事なマッチョ体型に、私は思わず恥ずかしさを忘れて見惚れていた。
「くくっ、そんなに男の体が珍しいか?」
キースに笑われ、我に返る。
「そんなんじゃありません! 測りますよ!!」
ぷりぷりしながら手を伸ばすが、身長差が大き過ぎてよろけてしまった。
屈んでもらうと誤差が生じそうなので、私は近くにあった椅子に乗ることにした。
胸囲や肩幅、袖丈などを測り終わり、首回りも測ろうと腕を伸ばした時、うっかり椅子の上で体勢を崩してしまう。
「きゃっ……ブフッ」
椅子から落ちそうになった私を、キースが見事な大胸筋で受け止め、背中に腕を回して支えてくれた。
「相変わらずドジな上、ちっこいな」
「離して下さい!」
キースは慌てる私が面白いのか、軽く抱きしめるとクルクル廻り始めた。
きゃああああー。
怖いですー。
目が回りますー。
恐怖心で私までキースの首に腕を回してしまい、気付けばさっきまであんなに恥ずかしがっていたキースの裸の胸に顔を埋めていた。
その後、無事に解放され、あやすように頭をポンポンとされたことだけはぼんやりと覚えている。
私はしばらくの間、魂が抜けたようにボーっとしていた。
――のだが。
夜、眠る時になって気付いてしまった。
あれ? 採寸って、別に上着を全部脱がなくても良かったのでは?
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私は恥ずかしさでベッドの中でゴロゴロ転げ回ったのだった。
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