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心をガッチリ掴みました
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私は好奇心に満ちた視線を一身に浴び、思わずたじろいでいた。
そうでした……貴族って、好奇心旺盛なんでした……。
居心地の悪さを感じながらも、私は気合いを淹れ直すと胸を張り、わざと自信たっぷりに話し出した。
「この度、私が立案したのは『アイドル計画』です」
『アイドルグループを作って借金返済しちゃいましょう計画』とフルネームで言いたいところだが、場違い感がすごいので自発的に省略しておく。
「アイドルとは、熱狂的なファンを持つ人のことを指します。今回、私はルカリオ王子、騎士団長のご子息キース様、宮廷魔術師団長のご子息レン様にご協力を依頼し、アイドルになっていただくことを承諾していただきました」
まだ話の全貌が見えず、困惑している人々に尚も話を続ける。
「この三名の方々で、アイドルグループ『チェスターズ』を結成したのですが、今後チェスターズの皆さまには歌と踊りによるファンサービスを行い、利益を生み出す活動をしていただくつもりです」
私の計画がよほど衝撃的だったのか、たちまち驚きと不安の声が聞こえてきた。
その中には『王族に旅芸人のような真似を?』や、『そんな高位の方々を見世物にするなんて……』といった、非難めいた言葉も多い。
うんうん、当然の意見です。
国の宝である彼らに、屈辱的な思いをさせたくはないと普通は考えますよね。
「とんでもない提案なのは百も承知です。しかし、ルカリオ様、キース様、レン様も我が国の窮状について熟慮された結果、計画に同意してくださいました。そして、この無茶な計画も捉え方次第では、国民に寄り添う王侯貴族というアピールにつながったり、新しい娯楽の提供、それに伴う国民の一体感など、いい面もあるに違いないのです」
三人が同意してくれた理由が、王妃様への畏怖の念と隣国の姫たちと結婚したくなかっただけという事実は黙っておく。
用意していた耳障りのいいメリット部分を強調していると、前世でのプレゼンの授業がぼんやりと思い出された。
「私の話だけでは不可解な点が多いと思いますので、これから彼らの様子をご覧いただきます。こちらにチェスターズの映像がございますので」
私は水晶を掲げるように持つと、魔力を流し込んだ。
にわかに皆の頭上が明るく輝き出し、チェスターズの三人の姿が空中に現れる。
すると、まだ三人が空に浮かび上がっただけなのに、若い令嬢が黄色い声を上げた。
「きゃーっ、並んで立っていらっしゃるだけで一枚の美しい絵のようですわ!」
「仲がよろしいのは知っておりますけれど、なかなかこんな場面は見られませんものね」
彼らが横に並んでいる映像だけでこの反応ですか。
ふふふ、ナイスリアクションです。
ニマッと笑った私はすでに勝利を確信していた。
再生が始まり彼らが国歌を歌い出すと、庭園は更に沸き立った。
興奮から我先に立ち上がり、口々に感想を述べている。
「こんな素敵な声をしていらしたのねぇ」
「聞き慣れた曲なのに、目が話せませんわ」
合間の談笑する様子や爆笑している顔が映し出されると、もはや声にならないのか悶絶する女性たち。
それは若い令嬢に限らず、母、祖母世代の女性も同じだった。
むしろ小さい頃を知っているからこそ、その成長に感動しているようだ。
普段大人びて見せている彼らも、影では少年らしい笑顔を浮かべていることが嬉しかったのかもしれない。
映像が終わる頃には皆が興奮で頬を紅潮させ、会場のボルテージは最高潮に達していた。
「今のは試しに映したものですが、今後、今の国歌を歌う姿を収めた完全版の水晶を販売いたします。また、ファンで構成されるファンクラブの開設を考えておりますし、人を集めてコンサートを開催したり、書籍販売などを国内、国外問わず行っていく計画です。皆様にはファンになっていただき、率先して話を広めてくださると嬉しいのですが」
私が言い終えると同時に、ダリアとアスターが真っ先に賛成してくれる。
「私、水晶が出たら買うわよ。ファンクラブも早く作りましょうよ!」
「私もファンになりましたわ! 早く生のお姿を拝見したいです!!」
お茶会の参加者たちもテンション高く二人に続いた。
「早く領地に戻って広めないとねぇ。まだまだ私の影響力を馬鹿にしてもらっては困るわ」
「うちの商会でも積極的に扱いますわ。まあ、こんなに素敵なのですから、放っておいても話題になるに決まっていますけれど」
無事、影響力を持つ貴族女性たちの後ろ楯を得ることが出来たようだ。
いつの間にか私の隣に立っていた王妃様が、微笑みながら皆を鼓舞する。
「このアイドル計画は、普段男性の補佐に回りがちな私たち女性が中心となって広めていく必要があります。貴族間の確執、貴族と庶民の垣根、国内国外、そういったことを取っ払い、一致団結してチェスターズを盛り上げていきましょう!!」
「「「「「「はいっ!!!!!!」」」」」」
王宮の隅まで届きそうな、やる気に満ちたいい返事が庭園をこだました。
「あ、そうそう、表向きは王妃である私の発案となっているから、アイリスちゃんのことは秘密にしてね」
王妃がウィンクをしながら付け加えると、皆クスクス笑いながら頷いたのだった。
そうでした……貴族って、好奇心旺盛なんでした……。
居心地の悪さを感じながらも、私は気合いを淹れ直すと胸を張り、わざと自信たっぷりに話し出した。
「この度、私が立案したのは『アイドル計画』です」
『アイドルグループを作って借金返済しちゃいましょう計画』とフルネームで言いたいところだが、場違い感がすごいので自発的に省略しておく。
「アイドルとは、熱狂的なファンを持つ人のことを指します。今回、私はルカリオ王子、騎士団長のご子息キース様、宮廷魔術師団長のご子息レン様にご協力を依頼し、アイドルになっていただくことを承諾していただきました」
まだ話の全貌が見えず、困惑している人々に尚も話を続ける。
「この三名の方々で、アイドルグループ『チェスターズ』を結成したのですが、今後チェスターズの皆さまには歌と踊りによるファンサービスを行い、利益を生み出す活動をしていただくつもりです」
私の計画がよほど衝撃的だったのか、たちまち驚きと不安の声が聞こえてきた。
その中には『王族に旅芸人のような真似を?』や、『そんな高位の方々を見世物にするなんて……』といった、非難めいた言葉も多い。
うんうん、当然の意見です。
国の宝である彼らに、屈辱的な思いをさせたくはないと普通は考えますよね。
「とんでもない提案なのは百も承知です。しかし、ルカリオ様、キース様、レン様も我が国の窮状について熟慮された結果、計画に同意してくださいました。そして、この無茶な計画も捉え方次第では、国民に寄り添う王侯貴族というアピールにつながったり、新しい娯楽の提供、それに伴う国民の一体感など、いい面もあるに違いないのです」
三人が同意してくれた理由が、王妃様への畏怖の念と隣国の姫たちと結婚したくなかっただけという事実は黙っておく。
用意していた耳障りのいいメリット部分を強調していると、前世でのプレゼンの授業がぼんやりと思い出された。
「私の話だけでは不可解な点が多いと思いますので、これから彼らの様子をご覧いただきます。こちらにチェスターズの映像がございますので」
私は水晶を掲げるように持つと、魔力を流し込んだ。
にわかに皆の頭上が明るく輝き出し、チェスターズの三人の姿が空中に現れる。
すると、まだ三人が空に浮かび上がっただけなのに、若い令嬢が黄色い声を上げた。
「きゃーっ、並んで立っていらっしゃるだけで一枚の美しい絵のようですわ!」
「仲がよろしいのは知っておりますけれど、なかなかこんな場面は見られませんものね」
彼らが横に並んでいる映像だけでこの反応ですか。
ふふふ、ナイスリアクションです。
ニマッと笑った私はすでに勝利を確信していた。
再生が始まり彼らが国歌を歌い出すと、庭園は更に沸き立った。
興奮から我先に立ち上がり、口々に感想を述べている。
「こんな素敵な声をしていらしたのねぇ」
「聞き慣れた曲なのに、目が話せませんわ」
合間の談笑する様子や爆笑している顔が映し出されると、もはや声にならないのか悶絶する女性たち。
それは若い令嬢に限らず、母、祖母世代の女性も同じだった。
むしろ小さい頃を知っているからこそ、その成長に感動しているようだ。
普段大人びて見せている彼らも、影では少年らしい笑顔を浮かべていることが嬉しかったのかもしれない。
映像が終わる頃には皆が興奮で頬を紅潮させ、会場のボルテージは最高潮に達していた。
「今のは試しに映したものですが、今後、今の国歌を歌う姿を収めた完全版の水晶を販売いたします。また、ファンで構成されるファンクラブの開設を考えておりますし、人を集めてコンサートを開催したり、書籍販売などを国内、国外問わず行っていく計画です。皆様にはファンになっていただき、率先して話を広めてくださると嬉しいのですが」
私が言い終えると同時に、ダリアとアスターが真っ先に賛成してくれる。
「私、水晶が出たら買うわよ。ファンクラブも早く作りましょうよ!」
「私もファンになりましたわ! 早く生のお姿を拝見したいです!!」
お茶会の参加者たちもテンション高く二人に続いた。
「早く領地に戻って広めないとねぇ。まだまだ私の影響力を馬鹿にしてもらっては困るわ」
「うちの商会でも積極的に扱いますわ。まあ、こんなに素敵なのですから、放っておいても話題になるに決まっていますけれど」
無事、影響力を持つ貴族女性たちの後ろ楯を得ることが出来たようだ。
いつの間にか私の隣に立っていた王妃様が、微笑みながら皆を鼓舞する。
「このアイドル計画は、普段男性の補佐に回りがちな私たち女性が中心となって広めていく必要があります。貴族間の確執、貴族と庶民の垣根、国内国外、そういったことを取っ払い、一致団結してチェスターズを盛り上げていきましょう!!」
「「「「「「はいっ!!!!!!」」」」」」
王宮の隅まで届きそうな、やる気に満ちたいい返事が庭園をこだました。
「あ、そうそう、表向きは王妃である私の発案となっているから、アイリスちゃんのことは秘密にしてね」
王妃がウィンクをしながら付け加えると、皆クスクス笑いながら頷いたのだった。
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