【完結】婚約破棄をされるので、幼馴染みからの告白で上書きしたいと思います!

櫻野くるみ

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追い詰められていく婚約者

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「これはこれはトーリ殿。はて、このような素晴らしい夜には似つかわしくない言葉を耳にしたような……。私の聞き間違いだろうか?悪いがもう一度、メイソン伯爵代理の私にもわかるように言ってもらいたい」

シンシアの義兄は口許に笑みを浮かべているものの、その目は一切笑っていない。
ほとばしる冷気に、トーリが一瞬びくついたのがわかった。

さすがお義兄様!
お父様はこういう時に甘さが出ちゃうから、お義兄様は適役だったわ。
いかに無粋なことをしているかを指摘しつつ、伯爵代理という身分を強調するーーうまいやり方ね。
それにしても、この位でビビるなら婚約破棄なんて言い出さなきゃいいのに。

「な、何度でも言ってやる!お、俺はシンシアとの婚約を破棄し、この愛するルイーザと結婚するんだ!!」

ルイーザの腰を引き寄せ、どもりながらも義兄と対峙するトーリ。

あーあ、言っちゃった。
よくそんな非常識なことを、今のお義兄様を前にして言えたわね。
非常識だとも気付いてないから言えるんでしょうけれど。
ーーああ、貴族達の私に対しての憐れみの目を感じるわ。
これが惨めで嫌だったのよね……でもしばらくの我慢よ!

今や夜会に集まっていたすべての貴族はこちらに注目し、動向を見守っている。
トーリとルイーザには侮蔑の、シンシアには同情するような視線が注がれていた。

「ほう、そちらの令嬢と。貴殿は私の大切な義妹に、今夜のエスコートを断る手紙を昨日になって送りつけ、代わりに浮気相手を伴い、何の話し合いの場も持たずにこの場で婚約破棄を一方的に訴えたとーーはははっ、これは愉快だ!」

不愉快そのものといった表情で、義兄が低い声で笑っている。
かえって怖い。
そして、会場にはトーリの不義理に対する嫌悪感が広がっていく。

そろそろお義兄様がキレそうよね。
一旦止めないと。
計画を知らないお義兄様は、次はきっと私を気遣って「別室にてとことん話し合おうじゃないか」とか凄みそうだし、それじゃ私が「フラれ女」のレッテルを貼られたまま退場することになっちゃうわ。
レナードが入ってくる絶好の瞬間を作らないと。

義兄の圧におどおどしているトーリをチラッと見ながら、シンシアは義兄を止めに入った。

「お義兄様、ありがとうございます。私は大丈夫です。トーリ様に確認したいこともあるので……」
「本当に大丈夫か?無理はするなよ?」
「はい、お義兄様」

労るようにシンシアの肩を抱く義兄だが、わざと心配そうに振る舞っているだけで、彼が茶番に付き合ってくれているのは百も承知だ。
シンシアがトーリに少しも未練がないこともわかっているし、何よりシンシアの本性を知っているのだから、こんなことで心が傷付くほど繊細ではないと熟知している。
まぁその分、プライドは人一倍傷付くのだが……。

臨機応変に効果的な行動をとれる義兄は、色々な意味で今夜の最高のパートナーだった。


シンシアは義兄に場を譲ってもらうと、周囲を順に見渡した。

「カートナー侯爵夫妻、この場にお集まりの皆様、私的な問題に皆様を巻き込んでしまい、申し訳ございません」

シンシアが神妙に頭を下げると、「シンシアちゃんは全く悪くないわよ!」と、真っ先にカートナー侯爵夫人が庇うように声をあげた。
それにつられ、方々から「そうよ」「ひどい話だ」といった言葉が発せられる。
婚約者の不貞ということで、特に女性からの援護が大きいようだ。

「トーリ様、私の何がいけなかったのでしょうか……」

『私に悪いところなんてあるはずがないでしょ』と思いつつ、シンシアはトーリの立場を更に追い詰めようと、わざと弱々しい演技をする。
とことん同情を買ってからのほうが、レナードが登場した時の反応も大きくなるはずだからだ。

「何がいけないだと?お前は可愛げがない上、全部が嘘臭いんだよ!言葉も表情も!!」
「そんな……」

シンシアが傷付いた風に口を手で覆うが、覆った手の中で「あいつ、思ったより鋭いじゃないの……」とこっそり呟けば、義兄が笑いを堪えながらプルプル震えているのが視界に入った。
トーリはなぜかシンシアが猫をかぶっていることを直感的に気付いていたようだが、時すでに遅し。
この場の支配者はとっくにシンシアであり、トーリの言葉は戯れ事で、ただの悪口と捉えられた。

「シンシア様に何て言うことを!」
「シンシア嬢ほどの素晴らしい令嬢はなかなかいないというのに……」

皆がトーリを怒りを込めた目で睨み始めた頃、ようやく待ち望んでいた声がホールに響いた。

「シンシア!」
「レナード様?」
「ごめん、僕は部外者だってわかっているけど、どうしても伝えたいことがあって……」

ようやく今宵の役者が揃い、シンシアは心が沸き立つのを抑えられなかった。



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