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三股の三番目みたいです

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リリーシュの腕を掴んだお姉さんは、真剣な目で彼女を見つめていた。
掴む力が特別強いわけでもないのに、逃がさないという意思がひしひしと伝わってくる。

「あなたもアンディに会いに来たのでしょう?」
「え? いえ、私は別に……」

こ、怖いんですけど。
お願いだから私のことは放っておいて。
こんなことで悪目立ちするなんてまっぴらなの。
あなたたちで勝手にやってちょうだい。

無関係な人間を装い、笑って誤魔化しながら立ち去ろうとしたのも束の間、まさかのアンディ本人が話しかけてきた。

「あれ? リリーシュじゃないか。あ、君も僕の勇姿を見に来てくれたの?」
「ほらっ! あなたもそうじゃないの!」
「アンディ様、そちらの方もお知り合いですか?」

やーめーてーー!!
なんで私を巻き込むのよ?
勝手に三角関係で修羅場ってればいいじゃない。
うわ、ますます騎士のお偉いさん夫妻の目が怖くなってる……。
早く逃げよう。

「いえいえ、私はたまたま通りがかっただけですので。それではご機嫌よう」
「嘘よ! そんなはずないわ。だってそのブローチ!」

銀髪お姉さんがリリーシュの胸元を指差した。
そこにはアンディから貰ったイエロートルマリンのブローチが飾られていた。

いっけない。
贈られたものだからってつい律儀に着けてきてしまったわ。
ん?
よく見ればこのお姉さんも同じブローチを着けてるじゃないの。
あ、あっちの小柄な令嬢も。

気付けば三人とも色違いの同じブローチを着用している。
可愛い令嬢が赤色のルビー、銀髪のお姉さんがブルーサファイア、そしてリリーシュがイエロートルマリンだ。

え、アンディ様……いや、もうアンディでいいや。
あいつ、三股かけてた挙句にみんなに同じブローチをプレゼントしていたってこと?
なんて無神経な男なの!!
しかも、本命がルビーでこのお姉さんがサファイア……どう考えても私って三番目の女じゃない!!

宝石の値段を思い出したリリーシュは、自分が三股の三番目だと悟ってしまった。

もうどうでもいいと思おうとしていたけれど、やっぱり腹だたしいわね。
なんなのよ、赤、青、黄って昔の戦隊トリオじゃあるまいし。
黄色なんて、カレー好きな食いしん坊じゃない!!

腹が立ち過ぎて、もはや意味不明な怒り方をしている。
黄色のヒーローについての認識も古いし、転生者でもないアンディがそんな話を知っているはずもない。

いっそキレ散らかして大暴れしたくなったリリーシュだったが、なんとか怒りを抑え込んで他人のふりを貫くことにした。
貴族令嬢の自分の立場をギリギリ思い出したのだ。
こんなことで、人の良い両親を泣かせたくはない。

「こ、このブローチはただの偶然です。私、騎士様の知り合いなんていませんし!」

野次馬がジロジロと好奇な目で見ている。
これ以上自分が醜聞に巻き込まれ、三番目だと思い知らされては堪らないと、リリーシュはアンディとは無関係だと訴えたのだが。

「まさか……。アンディ、私たち以外にもブローチを贈ってはいないでしょうね?」

お姉さんがまさかの疑問を投げかけた。

え、私たち以外にもまだいるの?
その発想はなかったわー。
実はトリオじゃなくて、五人の戦隊ものだったりしてね。

半目で現実逃避を始めたリリーシュに、慌てたアンディの声が聞こえる。

「いや、三人だけだよ。僕は三つしか贈っていない」
「は? 『三つしか』って言うのがおかしいでしょうが!」
「アンディ様、私このルビーのブローチをいただいた時、とても嬉しかったのに……」
「アンディ、貴様この落とし前はどうつけてくれるつもりだ!」

お姉さんが怒鳴り、令嬢が泣き始め、お偉いさんが青筋を立てている……。
いよいよ混沌としてきた中、肝心のアンディはオロオロするばかりで、なぜかリリーシュに助けを求めるような視線を送ってくる始末。
なんなんだこれは。

あ~、やってらんない。
どうして私がこんな目に合わなきゃいけないのよ。
冗談じゃないわ!!

見物人の興味本位の視線に堪え切れず、ストレスが溜まりまくったリリーシュは唐突にキレた。
ブチっと自分のブローチを力づくで毟り取ると、広場の噴水に向かって大きく振りかぶる。

「とりゃ~!!」
「え?」
「は?」

アンディとお姉さんの間の抜けた声が漏れる中、リリーシュがぶん投げたブローチは綺麗な放物線を描いて無事噴水にポチャンと着水した――はずだ。
音はしなかったが。

「ふい~、証拠隠滅っと」

パンパンと手をはたくと、一仕事終わったとばかりに額の汗を拭う真似をする。
なんだか清々しい気分だ。

「さて、私はそちらの騎士様とは無関係なので、もういいですか?」

リリーシュがにっこりと微笑むと、戸惑いつつも銀髪のお姉さんは「え、ええ……」と掴んでいた手を離してくれた。
まだ呆気にとられているアンディとお偉いさん一家をその場に残し、リリーシュは悠々とした足取りで広場を抜けると――全力で駆け出したのだった。
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