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現れた男爵令嬢
「あのぉー、お茶会ってここで合ってますか?」
緊張感のない声が聞こえ、あまりの違和感に思わず動きを止めたアイリーン。
扉からピョコっと顔を出しているのは、ふわふわしたピンク色の髪が可愛らしい女の子だった。
まだ十五、六歳くらいだろうか、集まっていた他の令嬢よりもやや若く見える。
『この娘、誰!?』
同じく驚き、口を噤んだ皆の共通の思いを代表して、本日の主催者であるアイリーンがまず彼女に問いかけてみる。
さきほどまでの淑女にあるまじき姿を打ち消すように、ことさら優しく、しとやかに……。
「ええ、間違いございません。わたくしはこの屋敷の娘、アイリーン・オルケットですわ。失礼ですが、あなたは?」
「あ、私はユリアですっ。レイヤード男爵家に引き取られたばかりなんですけど」
どうやら平民から男爵令嬢として迎え入れられたばかりらしく、令嬢になりたてのほやほやなのだという。
どうりで見覚えのない顔のはずだ。
子供らしい動作は彼女に似合っていて微笑ましいが、確かに貴族の娘っぽくはなかった。
「ああ、そういえばそんな噂を聞いたような……」とエリスが頷いているが、問題はそこではない。
何故今日のお茶会の予定を知っていて、ここに現れたのかである。
王太子妃を決めるという国にとっては重要機密にあたる為、今日のお茶会は非公式にこっそりと行われていたはず。
「ユリア様はどうしてこの場所に? お茶会のことをご存じだったのですか?」
「ああ、それは――」
ごそごそと手紙を取り出したユリアは、アイリーンに手渡した。
何事かと他の令嬢もアイリーンの側まで集まってくる。
「王家の封蝋!? わたくしが拝見してもよろしいのですか?」
「はい、アイリーン様にお見せしろってお父様が」
「そうですか……。では失礼しますね」
もちろん開けられた形跡はあるが、男爵宛の手紙を読むのは気が引ける。
しかしそうも言ってはいられないので、アイリーンは意を決して中の手紙を取り出した。
ちなみに、封蝋はアイリーンが国王から届く手紙と同じものである。
「ええと……ユリアも候補者に加える……オルケット家の茶会に参加するように……!?」
「ええっ?」
「どうしていまさら……」
内容を掻い摘んで読み上げると、周囲から困惑したような声が漏れたが、一番動揺しているのはアイリーンだ。
はあっ!?
陛下ってば、ここにきてどうして新たな候補者を増やすのよ?
あ、なかなか王太子妃が決まらないから、よく状況を知らないこの娘に押し付けてしまおうって魂胆ね?
ようやく私が腹を括ったところなのに!
苛立ちを抑えてアイリーンは優雅にユリアに微笑む。
「ユリア様、せっかくいらしていただいたのですが、もう決まったところですの。せめてお茶を楽しんでいかれるとよろしいわ。お菓子も色々ありますのよ」
「えっ? もう決まったのですか?」
「ええ、わたくしに」
手紙をユリアに返しながらアイリーンがはっきりと言い切ると、エリスを始めとする令嬢たちがまた騒ぎ出した。
「まだ決まっていないと言ったでしょう?」
「そうですわ、話は終わっていませんわ」
埒が明かないと思ったアイリーンは、パンッと手を大きく叩くと、有無を言わさない口調で再び高らかに宣言した。
「わたくし、アイリーン・オルケットが王太子妃になります! 皆様はもうお黙りになって!」
すると、頑ななアイリーンの態度に腹を立てたのか、エリスがなかば投げやりな口調で言い捨てた。
「だったら私がなってやるわよ、王太子妃に!」
それを聞いた令嬢が、感化されたように口々に乗っかる。
「だったらわたくしが!」
「いえ、私よ!」
「私がなります!」
「あら、わたくしよ!」
「私でもいいはずですわ」
「あたくしが皆を守ります!」
「私にお任せを!」
「わたくしが代表して――」
何やらおかしなことになってしまった。
なんとアイリーン以外の九名も、全員自分が王太子妃になると言い出したのだ。
これではもはや取り合い状態である。
意味がわからない。
「あ、あの、皆様落ち着いて? 冷静に――」
「あのぉ、じゃあ私がなりますっ!」
落ち着かせようとしたアイリーンの耳に、ユリアの楽しそうな声が聞こえた。
緊張感のない声が聞こえ、あまりの違和感に思わず動きを止めたアイリーン。
扉からピョコっと顔を出しているのは、ふわふわしたピンク色の髪が可愛らしい女の子だった。
まだ十五、六歳くらいだろうか、集まっていた他の令嬢よりもやや若く見える。
『この娘、誰!?』
同じく驚き、口を噤んだ皆の共通の思いを代表して、本日の主催者であるアイリーンがまず彼女に問いかけてみる。
さきほどまでの淑女にあるまじき姿を打ち消すように、ことさら優しく、しとやかに……。
「ええ、間違いございません。わたくしはこの屋敷の娘、アイリーン・オルケットですわ。失礼ですが、あなたは?」
「あ、私はユリアですっ。レイヤード男爵家に引き取られたばかりなんですけど」
どうやら平民から男爵令嬢として迎え入れられたばかりらしく、令嬢になりたてのほやほやなのだという。
どうりで見覚えのない顔のはずだ。
子供らしい動作は彼女に似合っていて微笑ましいが、確かに貴族の娘っぽくはなかった。
「ああ、そういえばそんな噂を聞いたような……」とエリスが頷いているが、問題はそこではない。
何故今日のお茶会の予定を知っていて、ここに現れたのかである。
王太子妃を決めるという国にとっては重要機密にあたる為、今日のお茶会は非公式にこっそりと行われていたはず。
「ユリア様はどうしてこの場所に? お茶会のことをご存じだったのですか?」
「ああ、それは――」
ごそごそと手紙を取り出したユリアは、アイリーンに手渡した。
何事かと他の令嬢もアイリーンの側まで集まってくる。
「王家の封蝋!? わたくしが拝見してもよろしいのですか?」
「はい、アイリーン様にお見せしろってお父様が」
「そうですか……。では失礼しますね」
もちろん開けられた形跡はあるが、男爵宛の手紙を読むのは気が引ける。
しかしそうも言ってはいられないので、アイリーンは意を決して中の手紙を取り出した。
ちなみに、封蝋はアイリーンが国王から届く手紙と同じものである。
「ええと……ユリアも候補者に加える……オルケット家の茶会に参加するように……!?」
「ええっ?」
「どうしていまさら……」
内容を掻い摘んで読み上げると、周囲から困惑したような声が漏れたが、一番動揺しているのはアイリーンだ。
はあっ!?
陛下ってば、ここにきてどうして新たな候補者を増やすのよ?
あ、なかなか王太子妃が決まらないから、よく状況を知らないこの娘に押し付けてしまおうって魂胆ね?
ようやく私が腹を括ったところなのに!
苛立ちを抑えてアイリーンは優雅にユリアに微笑む。
「ユリア様、せっかくいらしていただいたのですが、もう決まったところですの。せめてお茶を楽しんでいかれるとよろしいわ。お菓子も色々ありますのよ」
「えっ? もう決まったのですか?」
「ええ、わたくしに」
手紙をユリアに返しながらアイリーンがはっきりと言い切ると、エリスを始めとする令嬢たちがまた騒ぎ出した。
「まだ決まっていないと言ったでしょう?」
「そうですわ、話は終わっていませんわ」
埒が明かないと思ったアイリーンは、パンッと手を大きく叩くと、有無を言わさない口調で再び高らかに宣言した。
「わたくし、アイリーン・オルケットが王太子妃になります! 皆様はもうお黙りになって!」
すると、頑ななアイリーンの態度に腹を立てたのか、エリスがなかば投げやりな口調で言い捨てた。
「だったら私がなってやるわよ、王太子妃に!」
それを聞いた令嬢が、感化されたように口々に乗っかる。
「だったらわたくしが!」
「いえ、私よ!」
「私がなります!」
「あら、わたくしよ!」
「私でもいいはずですわ」
「あたくしが皆を守ります!」
「私にお任せを!」
「わたくしが代表して――」
何やらおかしなことになってしまった。
なんとアイリーン以外の九名も、全員自分が王太子妃になると言い出したのだ。
これではもはや取り合い状態である。
意味がわからない。
「あ、あの、皆様落ち着いて? 冷静に――」
「あのぉ、じゃあ私がなりますっ!」
落ち着かせようとしたアイリーンの耳に、ユリアの楽しそうな声が聞こえた。
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