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騎士の気持ち。
しおりを挟む三年前の戦いで起きた父との出来事を、洗いざらい少女に告げたダニエル。
それはまるで、教会で神と司祭に告解をしているようで、冷静な顔で話を聞き入れる少女は、神聖な聖職者に見えた。
なんで俺は、初対面の小さな女の子にこんな話をしているんだろうな。
俺はずっと、俺の罪を誰かに聞いてほしかったのかもしれない。
ダニエルが自分が抱えている後悔を全て吐き出すと、それについて特に感想を述べることもなく、形見の短剣を見せてほしいと請われた。
見せるのは構わないが、五歳の少女に刃物を渡すことには一瞬躊躇してしまう。
自分が見張っていれば大丈夫かと手渡せば、徐に鞘から抜こうとした為、益々焦った。
「なにかかいてあるの。」
少女に見せられた時は、正直半信半疑だった。
今までも、この一年、何度も短剣を眺めていたからだ。
しかし、持ち手と鞘にかけて、まるで模様に紛れさせるようにその言葉は彫ってあった。
『私は大切な者を守った。お前も大切な者を守れ』
なぜ今まで気付かなかったのだろう。
後悔が、俺にこの文字を見えなくさせていたのだろうか?
しかし、全てが必然のようにも感じた。
公園で少女に出会い、少女に父の遺志を伝えてもらう・・・
全部が父のもたらした縁で、この一年はダニエルが自分を見つめる機会として、必要な時間だったのかもしれない。
珍しく感情的になっていたのか、涙が溢れてきた。
泣いたのは、いつぶりだろうか。
父親が亡くなった日も、葬儀の日も、ダニエルは涙を見せず、しっかりと務めを果たし、さすが騎士団長の跡取りだと参列者たちは口を揃えた。
ダニエルの葛藤する内心には気付かずに。
少女が、レースの女の子らしいハンカチをこちらに差し出しながら、情けない顔をしている。
「じつようてきじゃありませんが、よかったらこれをつかってください。」
さっきまで、神の使いかと思うような神聖さを纏っていたのに、すっかり元の大人びた少女に戻っていた。
相変わらずの言い回しが面白く、久しぶりに腹の底から笑った。
誤解していた父の想いに気付かせてくれたお礼を言うと、少女は照れたように口を尖らせて言った。
「だにえるさまはまだわかいのですから、これからだにえるさまのたいせつなひとを、まもってあげてください。」
俺の大切な者か。
こんな小さい子に諭されるとはな。
でもせっかく親父に助けてもらった命、俺もグダグダ悩んでないで、誰かを守れるようにならないとな。
この三年、ずっと後悔を引きずって生きてきたダニエルが、前を向いた瞬間だった。
その後、彼女は迎えが来たと、慌ただしく去っていった。
辛うじて、名前を訊けたことにホッとする。
「またな。」と最後に声をかけたが、それはダニエルの本心だった。
ヘンテコな口調で、それでいて慈悲深いエミリアは、ダニエルの印象に強く残り、心を揺さぶった。
駆けていく後ろ姿を眺めながら、ダニエルはエミリアが自分に与えてくれた影響と、『大切な者』について考えていた。
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