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再会は感動的に?
しおりを挟むエミリアはひたすらバーシャルの町を駆けていた。
動きやすいワンピースを選んではいたが、先程まで戦地だった場所を駆け抜ける、見るからに育ちの良さそうな令嬢は目立っていた。
「あの、ダニー様は?副団長はどこにいますか?」
騎士を見かける度に、尋ねてまわる。
王都からダニエルと同行してきた者は、エミリアだと気付くと一様に驚いた顔をしたが、ダニエルがいると思われる方角を教えてくれた。
何度かそれを繰り返したが、一向にダニエルは見つからず、走り疲れてきたエミリアは段々腹が立ってきた。
なんでこんなに見つからないのよ?
斬られたって、無事なんでしょうね?
あーもう、令嬢の私を走らせるなんて、ダニー様のくせに!!
勝手に様子を見に来ておいて理不尽な言い分なのだが、余裕のないエミリアは苛立つ気持ちを吐き出すように、通りで思いっきり叫んだ。
「ダニーさまぁぁぁ、どこですかぁぁぁ?」
一体何事かと、負傷者の手当てや、瓦礫の撤去で騒がしかった通りは、一瞬静寂に包まれた。
その直後だった。
「ブフッ、あはははは!!やっぱりエミィちゃんの声だったか。おい、ダニエル、早くこっち来てみろよ!!」
「なんだルシアン?俺は本部に戻らないといけ・・・」
細い路地からルシアンと、続いて面倒臭そうにダニエルが現れたが、エミリアに気付くと動きが止まった。
「ダニー・・さ・・ま・・・?」
「エミィ・・・なのか?」
制服はボロボロで、所々血を流していたが、ダニエルが立ちつくしながらエミリアを見つめている。
「ダニー様!!」
今すぐ抱きつきたいが、ダニエルは斬られたのだからと、自分の衝動を抑える。
「怪我は?斬られたのでは?」
「いや、斬られてない。危なかったけどな。」
良かった!
間違った情報だったんだ。
エミリアがホッと息を吐くと、ルシアンが何があったかを説明してくれた。
どうやら、逃げ遅れた町人を誘導していたルシアンが敵に狙われ、それを助けに入ったダニエルが斬られたと勘違いし、部下が報告をしたらしい。
しかし、話の途中で今更ながらエミリアは気付いた。
「あれ?ルシアン様じゃないですか。ご無事で何よりです。」
「うえぇぇ?今、俺だって気付いたの?嘘だろ?俺がエミィちゃんの声に気付いたのに。全く、ダニエルしか見えてないんだもんな。邪魔物は先に行ってるよ。」
呆れたように言ったルシアンだったが、顔は笑っており、手を振りながら行ってしまった。
二人きりになり、エミリアがチラッとダニエルを見ると、ダニエルは明らかに落ち着かない様子である。
もしかして、照れてるの?
なんだか嬉しくなったエミリアは、噛み締めるようにダニエルの名を呼んだ。
「ダニー様!」
今度は感情のままに駆け寄り、飛び付くと、ダニエルはしっかりと抱き留めてくれた。
その腕の温かさや匂いは以前と変わっておらず、エミリアは安心して涙が溢れてきた。
「もう!心配したんだから!!ダニー様のバカバカ!!」
怒りつつも、ギュッと抱き締めるエミリアに、ダニエルの顔は緩みっぱなしだ。
「悪かった。でも俺は無事だから、成長したエミィの姿をよく見せてくれ。」
抱き着いた腕を離そうとして、ようやくエミリアは自分の状態に思い至った。
私ってば、走りまくって髪グチャグチャだよね?
会えるならもっとお洒落もしたかったし、泣いたせいで変な顔だし!
エミリアはもう一度、思いっきりしがみついた。
「無理です。私、今グチャグチャなので。こんなはずじゃなかったのに。」
「ははっ、今更だ。もうさっき見ているしな。綺麗になってビックリした。幻かと思ったよ。」
再会したら、『あら、見惚れて声もでないんですか?』と言ってやる予定のエミリアだったが、実際褒められると恥ずかしくなってしまった。
「本当?おかしくないですか?」
おずおずと距離を取ったエミリアの全身を、ダニエルが愛おしそうに眺めていたが、やがて顔を手で覆い、困ったように言った。
「いや、こんなに一気に女っぽくなって、正直参ってる。綺麗になり過ぎだろ。抱き締めた感触が全然違うし。」
ルシアンのやつ、適当な報告しやがってと、ブツブツ呟いているが、チラチラとエミリアを見やる視線は、以前とは違った、男性の熱を帯びたものだった。
エミリアはエミリアで、久しぶりに見るダニエルは逞しく、戦いの直後の野生的な雰囲気に、高鳴る胸が抑えられなかった。
ダニー様、髪を切る時間もなかったのかしら。
前より長めで、セクシーに見えるわ。
少し目線が近くなって、嬉しいけど恥ずかしい。
お互いがお互いに見惚れているのを、居合わせた騎士や町人がニヤニヤと見ていたが、その時間は唐突に終わった。
「副団長ー!!早く戻って下さい!全く、『五分前行動は騎士の常識』じゃなかったんですか!」
遠くでダニエルを呼ぶ部下の声がした。
聞き慣れたフレーズに、思わず笑みが溢れた。
ダニエルは現実に引き戻されると、エミリアに手を差し出した。
「行くぞ、エミィ。」
「はいっ!」
笑顔でダニエルの手のひらを握り返すと、二人揃って騎士団本部へと歩き出したのだった。
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