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忠実過ぎる人々
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両親だけは、いまだ『ときラビ』の隠れキャラの話で盛り上がっている。
前世で二人が生きている間に隠れキャラについて情報解禁されることはなく、転生したこの世界でも真相を知っている者は限られているらしい。
だからこそ今でも多くの人が謎として興味を持ち続けており、『はたして本当に隠しルートは存在するのか!?』『隠れキャラは誰?』と、七不思議や都市伝説のように語られているのだとか。
……って、ツチノコか!!
そんなことは私の知ったこっちゃないのだ。
いるかどうかもわからない隠れキャラの為に、なんで私が何股もするような浮気性の尻軽女にならなければいけないのか。
そんな軽い女を取り合う男共もバカ過ぎるでしょうが。
そこでアリスはふと疑問に思っていたことを思い出した。
「そう言えば、私って貴族に引き取られるって聞いたんだけどそれは本当なの? お父さんとお母さんがいるのに、二人を置いて他の家になんて行きたくないよ」
盛り上がっていた両親がピタッと動きを止めた。
明らかに変な空気が流れている。
……あれ?
訊いちゃいけないやつだった?
再び視線で会話を始めた二人が、覚悟を決めたようにこちらを見た。
え、またこのパターン?
さっきも同じ光景を見たばかりのような……。
黙って様子を窺っていると、唐突に父が明るく声を張り上げた。
「アリス、お父さんとお母さんは五年後に馬車の事故で死ぬ!!」
…………なんだってぇ!?
そんな堂々と不幸な宣言をされても、なんて答えたらいいのかわからないよ!
お母さんもなんでそんなキメ顔でこっち見るのよ。
「えーと、随分細かい予言だね。それはつまり、ゲームの進行で決まっているってこと?」
悲壮感のカケラも無く言われたので、アリスもつい軽く返してしまう。
両親は嘆き悲しむというよりは、事故が自分たちの人生における最大の見せ場だと考えているらしく、目が爛々と輝いている。
全く困った人たちだ。
そのモブ根性、なんとかならないだろうか。
「そうだ。僕たちが馬車に轢かれて事故死して、アリスがひとりぼっちになった時に、男爵家の執事がアリスを引き取りに村にやってくるんだ。そうだったよな、母さん?」
「そうよ。私の亡くなった母が男爵家の娘だったの。使用人だった父と駆け落ちして……って、『ときラビ』のゲーム内では言っていたわ。実際は母からは何も聞かされてはいないけれど」
な、なるほど……?
貴族が家族の忘れ形見を迎えに行く話は確かに聞いたことがあるし、私は実は男爵家の血を引いているってことだよね。
アリスは納得したように頷いたが、どうしても訊いておきたいことが出来てしまった。
「お母さんはゲームのおかげで、自分が本当は貴族と関わりがあるっていう知識があったのに、おばあちゃんにおばあちゃんの親について尋ねたり、男爵家と連絡を取ろうとは思わなかったの?」
すでに返事はわかりきっている気はした。
でもアリスは訊かずにはいられなかったのである。
「そんなことしないわよ! そんなことをしたら、『ときラビ』のストーリーが変わっちゃうかもしれないもの!!」
ですよねー。
そう言うと思っていましたとも。
「あ、でも」と母が付け足した。
「例え私が男爵家に名乗り出ていても、迎え入れられることはなかったと思うわ。だって」
「「ストーリーが変わっちゃうから」」
アリスは母とハモっていた。
うん、そうだよね、完璧に理解したよ。
そのお貴族様もゲームの進行に忠実なんだよね。
でも一言だけ言いたい!
『みんな自分の意思はどこやった!?』
まさかおばあちゃんの駆け落ち自体も、ストーリーで決まっていたからとか言わないよね?
……あり得るな。
ロマンチックの欠片もないじゃん!
アリスは呆れつつも、話を元に戻した。
「で、二人は本当に死ぬつもりなの?」
内心少し不安を感じながら尋ねたというのに、思いっきり笑い飛ばされてしまった。
「アッハッハ!! まさか。死んだふりだよ。ふり」
「うふふ、アリスったら面白い子ね。馬車に轢かれるなんて痛そうで無理だもの。村のみんなも事故に見せかける協力をしてくれることになっているのよ」
そこは忠実にやらないのかーーいっ!!
思わず心の中で突っ込んでしまった。
「ふ、ふーん。まあ、生きてるなら安心したよ」
「そうだろう? 僕たちは表舞台からは消えるけど、アリスを陰から見守るから安心していなさい」
色々疑問は残るが、アリスは両親が死なないことに安堵していた。
そして、両親と過ごせる時間を大切にしながら、あっという間に五年の月日は流れたのだった。
前世で二人が生きている間に隠れキャラについて情報解禁されることはなく、転生したこの世界でも真相を知っている者は限られているらしい。
だからこそ今でも多くの人が謎として興味を持ち続けており、『はたして本当に隠しルートは存在するのか!?』『隠れキャラは誰?』と、七不思議や都市伝説のように語られているのだとか。
……って、ツチノコか!!
そんなことは私の知ったこっちゃないのだ。
いるかどうかもわからない隠れキャラの為に、なんで私が何股もするような浮気性の尻軽女にならなければいけないのか。
そんな軽い女を取り合う男共もバカ過ぎるでしょうが。
そこでアリスはふと疑問に思っていたことを思い出した。
「そう言えば、私って貴族に引き取られるって聞いたんだけどそれは本当なの? お父さんとお母さんがいるのに、二人を置いて他の家になんて行きたくないよ」
盛り上がっていた両親がピタッと動きを止めた。
明らかに変な空気が流れている。
……あれ?
訊いちゃいけないやつだった?
再び視線で会話を始めた二人が、覚悟を決めたようにこちらを見た。
え、またこのパターン?
さっきも同じ光景を見たばかりのような……。
黙って様子を窺っていると、唐突に父が明るく声を張り上げた。
「アリス、お父さんとお母さんは五年後に馬車の事故で死ぬ!!」
…………なんだってぇ!?
そんな堂々と不幸な宣言をされても、なんて答えたらいいのかわからないよ!
お母さんもなんでそんなキメ顔でこっち見るのよ。
「えーと、随分細かい予言だね。それはつまり、ゲームの進行で決まっているってこと?」
悲壮感のカケラも無く言われたので、アリスもつい軽く返してしまう。
両親は嘆き悲しむというよりは、事故が自分たちの人生における最大の見せ場だと考えているらしく、目が爛々と輝いている。
全く困った人たちだ。
そのモブ根性、なんとかならないだろうか。
「そうだ。僕たちが馬車に轢かれて事故死して、アリスがひとりぼっちになった時に、男爵家の執事がアリスを引き取りに村にやってくるんだ。そうだったよな、母さん?」
「そうよ。私の亡くなった母が男爵家の娘だったの。使用人だった父と駆け落ちして……って、『ときラビ』のゲーム内では言っていたわ。実際は母からは何も聞かされてはいないけれど」
な、なるほど……?
貴族が家族の忘れ形見を迎えに行く話は確かに聞いたことがあるし、私は実は男爵家の血を引いているってことだよね。
アリスは納得したように頷いたが、どうしても訊いておきたいことが出来てしまった。
「お母さんはゲームのおかげで、自分が本当は貴族と関わりがあるっていう知識があったのに、おばあちゃんにおばあちゃんの親について尋ねたり、男爵家と連絡を取ろうとは思わなかったの?」
すでに返事はわかりきっている気はした。
でもアリスは訊かずにはいられなかったのである。
「そんなことしないわよ! そんなことをしたら、『ときラビ』のストーリーが変わっちゃうかもしれないもの!!」
ですよねー。
そう言うと思っていましたとも。
「あ、でも」と母が付け足した。
「例え私が男爵家に名乗り出ていても、迎え入れられることはなかったと思うわ。だって」
「「ストーリーが変わっちゃうから」」
アリスは母とハモっていた。
うん、そうだよね、完璧に理解したよ。
そのお貴族様もゲームの進行に忠実なんだよね。
でも一言だけ言いたい!
『みんな自分の意思はどこやった!?』
まさかおばあちゃんの駆け落ち自体も、ストーリーで決まっていたからとか言わないよね?
……あり得るな。
ロマンチックの欠片もないじゃん!
アリスは呆れつつも、話を元に戻した。
「で、二人は本当に死ぬつもりなの?」
内心少し不安を感じながら尋ねたというのに、思いっきり笑い飛ばされてしまった。
「アッハッハ!! まさか。死んだふりだよ。ふり」
「うふふ、アリスったら面白い子ね。馬車に轢かれるなんて痛そうで無理だもの。村のみんなも事故に見せかける協力をしてくれることになっているのよ」
そこは忠実にやらないのかーーいっ!!
思わず心の中で突っ込んでしまった。
「ふ、ふーん。まあ、生きてるなら安心したよ」
「そうだろう? 僕たちは表舞台からは消えるけど、アリスを陰から見守るから安心していなさい」
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