【完結】私だけがストーリーを知らない乙女ゲームに転生しちゃいました。ヒロインなんて荷が重すぎます！！

ピンク髪はヒロインの証

父の怒りのスイッチはよくわからなかったが、私はとりあえず謝ることにした。
モブを馬鹿にする意図など毛頭なかったからだ。

「えっと、ごめんなさい。昔、ヒロインに生まれたかったって言ってた人がいたから、だったら代わってもらえないかなって軽く考えてました……」

「いや、僕も大きな声で怒鳴って悪かった。好きでヒロインに生まれた訳でもないのに……。でもな、ヒロインは『ピンク髪のアリス』って決まっているんだ。誰もお前の代わりは出来ないんだよ」

キターー！ピンク髪！！
薄々とそんな気はしてたんだよ……。
私の髪、アニメのキャラみたいな色だなと思ってたら、まさか乙女ゲームのヒロインだとは。
どおりで私以外にピンク髪がいないはずだわ。

アリスは、見事なピンク色の髪をしていた。
ピンクもピンク、まっピンクである。
生まれた時からもちろんこの色で、今思えばこの髪色を見ると、初対面の人は皆一様に驚いた顔をしていた。
確かに『ときラビ』を知っている人なら当然の反応かもしれない。

ううっ、じゃあ逃れられないじゃん……。
カツラとか無理だよね？

逃げられない運命を嘆き、ショックで俯いていると、父が静かに語りだした。

「僕は前世で、妹が『ときラビ』を居間のテレビで遊んでいるのを見ていてね」

ほうほう、妹さんが。
彼女とかじゃなくて良かった……。
前世の話だし関係ないとは思うけど、お母さんの手前、ちょっと気まずいもんね。
でも居間で乙女ゲームって、妹さんは結構メンタル強いな。

「妹は『ときラビ』の世界が大好きだったから、僕はこの世界に転生して『アリスの父』という役割を与えられたと気付いた時、全力で父役を努めようと心に誓った。母さんもそうだよな？」

父が母に同意を求めて向き直ると、母も頷いて口を開いた。

「私は前世で引きこもりだったから、『ときラビ』だけが楽しい思い出なの。だからここに転生できて嬉しかったわ」

おっと、なかなかヘビーな……。
でも2人の、ゲームと今の人生への思い入れは理解したよ。

「そうなんだね。お父さんとお母さんみたいに、みんなこの世界に愛着があって、自分に与えられた役回りをこなそうと頑張っているんだね」

私が言うと、両親は嬉しそうに笑った。

「わかってくれたか。大丈夫だ、アリスの未来は輝いているからな。妹は王太子推しだったから、僕もアリスが王太子ルートへ進んでくれたら嬉しい」

「あら、私は騎士団長の息子が好きだったわ。強くて真っ直ぐな性格で」

——なんですと？
王太子と騎士団長の息子？

「いやいやここはやっぱり王道の——」とか、「なに言ってるの、男らしいし守ってくれるほうが——」などと二人は揉め始めたが、正直それどころではない。

「ちょっと待って！私を置いていかないで！！『ときラビ』のアリスの恋の相手って、王太子様と騎士団長の息子さんなの！？」

言い争いを中断した両親があっさりと認めた。

「そうだよ。他にも宰相の息子とか、学園の先生もいたな。実は貴族っていう」

「お金持ちの商人の息子もいたわよ。爵位を買ったとかで」

アハハ。
もう笑うしかなくない？
どう考えても村育ちで庶民の私じゃ、釣り合わない人ばかりじゃん。
どうして上手くいくと思うんだろ？あ、ゲームだからか……。

「いくらゲームでも無理があるんじゃないかな……。あまりにも育った環境が違うし」

自分でも10歳が言う台詞ではないなと思ったが、言わずにはいられない。
両親が楽観的過ぎるのがいけないと思う。

「そんなことないわよ！恋をするのは決まっている事だし、みんな自分の推しとのハッピーエンドを願っているから、アリスはハーレムエンドを目指せばいいと思うわ」

母よ、何を素っ頓狂な事を言い出すのだ。
ハーレムエンドってよく知らないけど、きっと全員にいい顔をして、何股もかけるやつだよね？
無理！！
私、そういうの嫌いなんだよね。
そんな女、絶対嫌われるに決まってるし、最終的にどこに着地するわけ？
王太子もいるのにそんなふしだらなことして、国家反逆罪的なことになって最後は処刑されちゃうんじゃ……。

「私、そんなバイタリティーないし、性格的に無理だって！」

常識とか道徳心を取り戻して欲しいと思いながら2人を見つめると、父が何か閃いたようだ。

「そうだ！確か全員の好感度が高いと、隠しルートが現れるとか聞いたような」

更に厄介な事を言い出した。

「そうよ！私も噂は聞いたわ、隠れキャラ。でも追加ディスクの販売が延期されて、結局わからずじまいで。アリスならわかるかもね」

は？
私にハーレムエンドを目指させて、隠された攻略対象者を知りたいってこと？

「ふざけないで！私の人生は私のものなんだから！！みんなの思い通りになんてならないからね！！」

しかし私の魂の叫びは、テンションがすっかり上がってしまった2人によってかき消されたのだった。