【完結】私だけがストーリーを知らない乙女ゲームの世界に転生しちゃいました。ヒロインなんて荷が重すぎます!!

櫻野くるみ

文字の大きさ
8 / 25

男爵家へようこそ

しおりを挟む
事故の翌日、アリスの両親の葬儀が村で執り行われた。
アリスが二人の遺体を一度も確認することもなく――まあ、遺体なんて最初から無いのだから当然なのだが――葬儀は粛々と進んだ。

相変わらず嘆き悲しむ村人たちの演技には、素直に感心してしまう。
こっちは一滴の涙すら出てこないというのに。

形ばかりの葬儀が終わると、アリスは家へと戻ってきた。
黒いワンピース姿のまま、いつものダイニングの椅子でコーヒーを飲みながらしばしの休憩を取っていると、近付いてくる馬車の音に嫌でも気付いてしまった。

来たか……。

あの音は男爵家の馬車に違いない。
アリスが緊張しながら耳をそばだてていると――

「な、なんでこんな田舎に貴族のびゃしゃが!?」

思いっきり噛んでいる、残念なモニカの台詞が聞こえてきた。

あーあ。
モニカってば、あんなに練習していたのに。
でもある意味、動揺しているリアルさはうまく表現出来ていたと思うよ!
ナイスファイト!

落ち込んでいる彼女の様子が脳裏に浮かび、心の中で励ましていたら、玄関の扉をノックする音がダイニングまで届いた。
なんだかモニカがトチってくれたおかげで、平常心を取り戻せた気がする。
アリスはゆっくり扉に近付くと、落ち着いた動作で扉を開けた。

「おおっ! あなたがアリス様でいらっしゃいますね? 私はオーギュスト男爵家の執事、ジェンキンスと申します。主人に代わり、あなた様をお迎えに参りました」

恭しく頭を下げながら、立て板に水のごとくスラスラと述べる長身細身の男。
モニカより長い台詞なのにさすがである。
アリスも返事をしようとして……ふと言葉に詰まった。

待てよ?
これって、「あ、そうなんですか。じゃあ行きましょう」じゃ、やっぱりまずいよね?
初耳っぽく驚いてみせるのが正解なんだろうけど……面倒臭いな。

「ええと、どういうことですか?」

とりあえず何も知らないフリをしてみたら、正解だったらしい。
ジェンキンスが待ってましたとばかりに熱く語り始めた。
内容は母から聞いたものと同じで、祖母が使用人と駆け落ちしたというやつである。

「……という訳で、アリス様のお祖母様の兄、前オーギュスト家当主が、亡くなる前に一目会いたいと探しておられたのです!」
「はぁ、そうですか」

反応の鈍い私に、ジェンキンスの眉が下がる。

うん、ごめんね、ノリが悪くて。
でもそこは諦めてください。
私にはこれが精いっぱいなんです。

「ところで、アリス様のご両親はどちらですか?」

気を取り直した執事が尋ねてくるが、事故に遭ったことはゲームのストーリー上絶対に知っているはずなのに、白々しい。
この黒いワンピースが目に入らないのだろうか。

「両親は昨日事故に遭い、亡くなりました。さきほど葬儀が終わったばかりで……」

仕方なく説明をしていたら、ジェンキンスの肩越しに見える木の影で、その死んだはずの両親がおどけているのが目に入った。

ちょっと、何やってんの!?
あれは絶対面白がって見に来たな。
ああっ、もっとちゃんと隠れて!!

手で引っ込むように合図を送っていると、執事が不思議そうな顔をした後で、何かを察したようにフッと笑った。

「それは残念です。主人もさぞ悲しむことでしょう。しかしそれなら話は早い。アリス様、今日からオーギュスト家でお暮しください。皆、アリス様をお待ちしております」

正直、断りたい。
断りたいけれども、どうせ無理に違いないのだから、ここは余計な労力を使わないのが賢い選択といえるだろう。
アリスは大人しく申し出を受け入れた。

「よろしくお願いします」

『ときラビ』のストーリー通り、アリスは男爵家へ引き取られることになったのだった。

大切な物だけ簡単にまとめると、今まで見たことのないような豪華な馬車に静かに乗り込んだ。
馬車の窓からは親切にしてくれた村人やモニカ、木の影から両親が手を振っているのが見える。

「アリスちゃん、元気でね!!」
「アリス、頑張って!!」

たくさんの声援に、村で過ごした幸せな日々が思い出されて涙がこみ上げたが、それをなんとか押し留めて、精一杯の笑顔で感謝の気持ちを込めて叫んだ。

「行ってきます!!」

こうして、アリスは生まれ育った村を離れた。


◆◆◆


馬車で走ること三時間。
思っていたよりずっと早く、王都にあるオーギュスト男爵家へと辿り着いた。

――あれ?
こんなに近いものなの?
『ヒロインは辺鄙な村育ち』っていう設定の割には、案外都会に近かったんだな……。

当たり前だが、今まで住んでいた家より遥かに大きく、立派な屋敷である。
玄関の扉の前には、様々な制服の人々が並んでいた。

え、もしかして私を待っていたの?
なんだかみんなの目がキラキラしてる……。

「アリス様、いえ、アリスお嬢様。使用人一同、お嬢様にお仕え出来る日を心待ちにしておりました!」

ジェンキンスがやたら熱の籠った口調でアリスにお辞儀をすると、使用人たちも歓迎の笑みを浮かべながら声を揃えて言った。

「「「ようこそオーギュスト男爵家へ、アリスお嬢様!!」」」
「アリスです。よ、よろしくお願いします……」

歓迎され過ぎてて怖い。
この笑顔……これは絶対『モブの使用人だけど、ヒロインを支えるぞ!』的なことを考えちゃってるよね!?

いよいよ『ときラビ』のゲームが始まったことに、アリスは戦々恐々としていた。















しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

貧乏男爵家の末っ子が眠り姫になるまでとその後

空月
恋愛
貧乏男爵家の末っ子・アルティアの婚約者は、何故か公爵家嫡男で非の打ち所のない男・キースである。 魔術学院の二年生に進学して少し経った頃、「君と俺とでは釣り合わないと思わないか」と言われる。 そのときは曖昧な笑みで流したアルティアだったが、その数日後、倒れて眠ったままの状態になってしまう。 すると、キースの態度が豹変して……?

【完結】『推しの騎士団長様が婚約破棄されたそうなので、私が拾ってみた。』

ぽんぽこ@3/28新作発売!!
恋愛
【完結まで執筆済み】筋肉が語る男、冷徹と噂される騎士団長レオン・バルクハルト。 ――そんな彼が、ある日突然、婚約破棄されたという噂が城下に広まった。 「……えっ、それってめっちゃ美味しい展開じゃない!?」 破天荒で豪快な令嬢、ミレイア・グランシェリは思った。 重度の“筋肉フェチ”で料理上手、○○なのに自由すぎる彼女が取った行動は──まさかの自ら押しかけ!? 騎士団で巻き起こる爆笑と騒動、そして、不器用なふたりの距離は少しずつ近づいていく。 これは、筋肉を愛し、胃袋を掴み、心まで溶かす姉御ヒロインが、 推しの騎士団長を全力で幸せにするまでの、ときめきと笑いと“ざまぁ”の物語。

女避けの為の婚約なので卒業したら穏やかに婚約破棄される予定です

くじら
恋愛
「俺の…婚約者のフリをしてくれないか」 身分や肩書きだけで何人もの男性に声を掛ける留学生から逃れる為、彼は私に恋人のふりをしてほしいと言う。 期間は卒業まで。 彼のことが気になっていたので快諾したものの、別れの時は近づいて…。

王宮勤めにも色々ありまして

あとさん♪
恋愛
スカーレット・フォン・ファルケは王太子の婚約者の専属護衛の近衛騎士だ。 そんな彼女の元婚約者が、園遊会で見知らぬ女性に絡んでる·····? おいおい、と思っていたら彼女の護衛対象である公爵令嬢が自らあの馬鹿野郎に近づいて····· 危険です!私の後ろに! ·····あ、あれぇ? ※シャティエル王国シリーズ2作目! ※拙作『相互理解は難しい(略)』の2人が出ます。 ※小説家になろうにも投稿しております。

何もしない公爵夫人ですが、なぜか屋敷がうまく回っています

鷹 綾
恋愛
辺境公爵カーネル・クリスの妻となったフィレ・バーナード。 けれど彼女は、屋敷を仕切ることも、改革を行うことも、声高に意見を述べることもしなかった。 指示を出さない。 判断を奪わない。 必要以上に関わらない。 「何もしない夫人」として、ただ静かにそこにいるだけ。 それなのに―― いつの間にか屋敷は落ち着き、 使用人たちは迷わなくなり、 人は出入りし、戻り、また進んでいくようになる。 誰かに依存しない。 誰かを支配しない。 それでも確かに“安心できる場所”は、彼女の周りに残っていた。 必要とされなくてもいい。 役に立たなくてもいい。 それでも、ここにいていい。 これは、 「何もしない」ことで壊れなかった関係と、 「奪わない」ことで続いていった日常を描く、 静かでやさしい結婚生活の物語。

"番様"認定された私の複雑な宮ライフについて。

airria
恋愛
勝手に召喚され 「お前が番候補?」と鼻で笑われ 神獣の前に一応引っ立てられたら 番認定されて 人化した神獣から溺愛されてるけど 全力で逃げ出したい私の話。 コメディ多めのゆるいストーリーです。

【完結】王宮内は安定したらしいので、第二王子と国内の視察に行ってきます!(呼ばれたみたいなので、異世界でも生きてみます。の続編です)

まりぃべる
恋愛
異世界に呼ばれた佐川マリア。マリア・サガワとしてこの世界で生きて行く事に決め、第二王子殿下のルークウェスト=ヴァン=ケルンベルトと一緒に、この国をより良くしていきます!って、実際は2人で旅行がしたかっただけ? 呼ばれたみたいなので、異世界でも生きてみます。の続編です。 長くなりましたので、前作の続きでは無く新しくしました。前作でしおりを挟んでくれた方ありがとうございました。 読んでなくても分かるようにしております。けれど、分かりにくかったらすみません。 前作も読んで下さると嬉しいです。 まだまだ未熟なので、稚拙ではありますが、読んでいただけると嬉しいです。 ☆前作で読者様よりご指摘が有りましたのでこちらにも記載しておきます。 主人公の年齢は設定としてありますが、読者様が主人公になれたらな(もしくは好きな年齢に当てはめて読めたら)という思いを込めて敢えて年齢を記載していません。

十三回目の人生でようやく自分が悪役令嬢ポジと気づいたので、もう殿下の邪魔はしませんから構わないで下さい!

翠玉 結
恋愛
公爵令嬢である私、エリーザは挙式前夜の式典で命を落とした。 「貴様とは、婚約破棄する」と残酷な事を突きつける婚約者、王太子殿下クラウド様の手によって。 そしてそれが一度ではなく、何度も繰り返していることに気が付いたのは〖十三回目〗の人生。 死んだ理由…それは、毎回悪役令嬢というポジションで立ち振る舞い、殿下の恋路を邪魔していたいたからだった。 どう頑張ろうと、殿下からの愛を受け取ることなく死ぬ。 その結末をが分かっているならもう二度と同じ過ちは繰り返さない! そして死なない!! そう思って殿下と関わらないようにしていたのに、 何故か前の記憶とは違って、まさかのご執心で溺愛ルートまっしぐらで?! 「殿下!私、死にたくありません!」 ✼••┈┈┈┈••✼••┈┈┈┈••✼ ※他サイトより転載した作品です。

処理中です...