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攻略対象者との距離

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放課後、歓迎会に参加する為に教室を出ようとしていたら、廊下の奥から発狂したかのような女性の叫び声が響いてきた。

え、何?
怖いんだけど……。

教室内もざわめいていると、廊下の叫び声は止む気配の無いままどんどんこちらに伝染してきている。
一体何が起こっているのかと身構えていたらーー。

「アリスー、みんなで迎えに来ちゃったよ~」

ベクターが開けっ放しの扉から顔を覗かせ、ひらひらと手を振っている。

相変わらず憎らしいほど可愛いな。
ん?みんな?

ベクターに『おいで』とジェスチャーされ、廊下に出てみて驚いた。

「え?ユリウス様?うわ、ジェイル様にルード様、どうしてシモンズ先生まで!?」

なんと、B組の前の廊下に、生徒会関係者が勢揃いしていたのである。
つまりはヒロインの私を含めて、『ときラビ』の主要登場人物が全員集合してしまった訳で、周囲のテンションは上がりに上がり、もはや収拾がつかなくなっていた。

「何!?何ですの?ヒロインを囲む攻略対象者達!!こんな貴重なシーンが見られるなんて。ああ、尊い……。スチルでもあまり存在しないのに」

「なんでこの世界にはスマホがないんだ!記録として残しておきたかった……」

なるほど、さっきの叫び声も納得だわ。
確かにこれだけのイケメンが揃うと圧巻かも。
「尊い」っていうのはよくわからないけど。

熱狂する人達を見ていたら、かえって冷静になってしまった私に、ユリウスが説明をしてくれた。

「せっかくだから、生徒会の姫をみんなでエスコートしようという話になってね」

おおぅ、発想がなんてジェントルマンなんだ。
『姫』が私なんて申し訳ない……。

「オレ達の歓迎の気持ちってやつだな」

「僕は無理矢理連れてこられただけだから勘違いするな、大食い姫」

「なんでそういうこというかなー?歓迎しているくせにぃー」

「さぁ、時間がなくなりますから行きますよ?」

5人に誘導され、人垣がパカッと割れた中を歩く私達……。

って、これじゃあ本当に『たくさんの王子に囲まれてチヤホヤされている姫』そのものじゃん!!
すでにハーレムエンド感が出ちゃってない?
いやいや、全く恋愛感情は無いですからね!!

アワアワと動揺していた私だったが、生徒会に準備された豪華な食事で、瞬く間にそんなことは吹っ飛んでしまった。

「うわぁ、美味しそう~!!昨日ステーキ丼と迷ったハンバーグと唐揚げもあるー」

感嘆の声をあげる私に、ジュースを注ぎながらベクターがぎょっとした顔をした。

「え?ステーキ丼食べたの?」

「しかも大盛りだ」

「ルード様、余計なことは言わなくていいんです!!」

「ふふふ、アリス落ち着いて。乾杯するよ?では、生徒会の新メンバー、アリスを歓迎してカンパーイ」

「「「「「カンパーイ」」」」」


歓迎会は、とても楽しく、あっという間に時間が過ぎていった。
前世の記憶がなく、何より『ときラビ』を知らない5人と過ごす時間は、ヒロインであることを求められ、それを重荷に感じて生きてきた自分が、唯一自分らしくいられる貴重な空間であることに気付いたのだ。

「ふふふ、私、とっても楽しいです!!」

「それは良かったよ。アリスは望んでこの学園に来たわけではないのだろう?少しでも学園生活が楽しくなればいいと思ったんだよ」

「そうそう、悩みもあるみたいだしな。ここではアリスらしく自由に振る舞えばいい」

ユリウスとジェイルに言われて驚いた。
2人がそんな風に思ってくれていたとは。

「ありがとうございます。私、生徒会に誘ってもらえて良かったです!!」

ベクターとシモンズ先生も笑っていた。
ルードの表情だけはわかりづらくて良くわからなかったけれど。


こうして生徒会に入った私は、思いがけず居心地が良くなってしまった生徒会室に、授業の時以外は入り浸るようになった。
仕事は多いが、気遣いが出来る顧問のおかげで、負担になるようなこともない。

5人の攻略対象者とも随分仲が良くなったと思う。

「ユリウス様、だからそれは私がやるって言ったのに!!すぐに私を甘やかすのは禁止って言ったでしょう?あ、今度手伝ったら、ユリウス様の苦手な脇腹コチョコチョお見舞いしますから!!」

「悪かったよ、アリス。つい手を出したくなったんだ。お願いだからコチョコチョはやめよう?ね?」

ユリウス様はキラキラ王子様だけど、優しすぎるのが欠点なので、時々愛のムチをくらわせるのだ。
おかげで私達は兄妹みたいな関係になった。
「アリスは可愛い妹だから」と、実際言われることも多い。

「アリス、今度また一緒に街に行かないか?アリスがいる方が連中が喜んで色んな話を聞かせてくれるんだ」

「いいですけど、また騎士の鍛錬の日はやめてくださいよ?私がサボらせたって責められるんですからね!!」

ジェイル様は騎士以外の将来も視野に入れたら、平民の生活に関心が出てきたらしい。
ゲームでは騎士団長候補だったから、ストーリーが変わってしまうと焦る人達に私が責められているが、いい傾向だと思っている。
私は元平民の知識を買われて、ジェイルの『下町の師匠』になった。

「ルード様、また女の子に冷たい態度をとりましたね?あの子、震えてたじゃないですか!この陰険メガネ!!」

「君は食べ過ぎで態度ばかりが大きくなってないか?僕は無駄な時間が嫌いなんだ。ああ、この時間が一番無駄だったな」

ルードは相変わらずで、クールというより気難しく面倒で困った人という印象だ。
すっかりケンカ友達になってしまったが、向こうは満更でもなさそうだ。

「アリス君が古代史に目覚めてくれるとは嬉しいです」

「もしかして、古代文明の発掘でミイラとか出たりしてません?黄金のマスクとか!」

生徒会に入ってから、前世の学生時代の記憶を部分的にだが思い出すことが多くなった。
私は世界史が好きで、ツタンカーメンの呪いなどに興味を持っていたことを思い出し、今は先生にこちらの世界のピラミッドについて質問攻めにしている。

「アリス~、うちの商会で新しく仕入れた食材なんだけど、どう思う?アリスは商品開発の才能があるから、卒業したらうちに入ってよ~。お願いっ」

「ベクターの商会はお給料も良さそうだし、結婚する気もないから雇ってもらおうかな?」

前にも他国から入荷した食材だとアボカドを見せてくれた時に、レシピを提案したらベクターに感動されたことがあった。
前世の日本の知識があれば当然な上、国民に受け入れられるのも分かり切っていたのだが、ベクターには尊敬され、私は商会のアドバイザー的立場になってしまった。

編入して数ヶ月。
私はこのように、恋愛ではないが5人との距離も縮まり、全員と仲良くしていた。

まさか、この状況がハーレムルートと見なされ、隠れキャラが出現するとも思わずにーー。

そしてその隠れキャラと恋に落ちるとは、夢にも思っていなかったのである。






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