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王都に戻ることになりました。

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「おはよう、外は良い天気よ。」

「今日もよろしくね!」

リリーは今日も牛舎で元気に声をかけて回る。
牛達とのコミュニケーションは、酪農に欠かせない。
うん、皆元気そうだ。

満足げに微笑みながらも、ここでの生活もあとわずかだと思い出し、リリーは胸がキュッとなった。



リリー・スペンサーは、一応、伯爵令嬢である。
王都で生まれ、両親、兄と共に王都の屋敷で5歳まで過ごした。
しかし、生まれつき身体が弱く、すぐ体調を崩しては寝込む娘を案じ、両親はリリーを領地で静養させることにしたのである。

愛するリリーと離れて暮らすことは、リリーの家族にとっては断腸の思いであったが、全てはリリーの身体の為と、泣く泣く領地へと送り出した。


ここスペンサー領は王都の北部に位置し、酪農が盛んな土地で、牛や山羊を飼育し、乳製品を生産している。
この国に流通する乳製品の大部分を占めるほどの生産量を誇っている。

自然豊かと言えば聞こえはいいが、要は田舎であった。

人より動物が多く、都会の娯楽は何も無い。

しかし家族と別れ、数少ない使用人と暮らし始めたリリーは、あっという間にここでの生活に馴染んだ。


それから10年。
リリーの身体は、嘘のように健康になっていた。
むしろ元気過ぎると使用人達に心配されるほどだ。

朝早くから牛の搾乳、牛舎の清掃、餌やり・・・
領主の娘であるリリーに、そんなことはさせられないと最初は止められていたのだが、リリーは酪農に興味を持ち、牧場に入り浸った。

動物と触れ合い、領民達と近い距離で接し、野山を駆け回り・・・
気付けば型破りな伯爵令嬢へと変貌を遂げたのである。


そんなリリーも15歳。
とうとう王都へ呼び戻されることになった。

今まではのらりくらりと先延ばしにしていたが、学院への入学や、社交界のこともある。
本来は、体調が落ち着くまでの滞在のはずであったのだから、充分我儘は通した。
本心は帰りたくはないが、3日後、ここを発つことになっている。


寂しさと、王都での生活へのわずかな期待を胸に、リリーは空を見上げた。


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