【完結】田舎育ち令嬢、都会で愛される

櫻野くるみ

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涙は見せません。

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今日、リリーは王都へ発つ。

早朝から通い慣れた牛舎を訪れ、牛達に最後の別れを告げる。

「元気な子牛を産んでね。」

お腹の大きな雌牛に撫でながら話しかけると、言葉が通じているのか、雌牛も悲しそうな瞳でリリーを見つめていた。


山羊や馬達にも挨拶をし、全ての場所を目に焼き付けるように見て回る。

「またすぐに戻ってこられれば良いのだけど。しばらくは無理そうね。」

リリーは悲しげに呟く。


王都へは馬車で5日の距離だ。
すでに荷物は馬車に積み込まれ、屋敷の前には別れを惜しむ使用人や牧場の者達が集まっていた。

「お嬢様がいらっしゃらなくなると、寂しくなります。」

「リリー様の笑い声が聴こえないと屋敷が静かすぎて…。」

涙を拭いながら悲しそうに話す従者やメイドに、最初は胸を打たれていたリリーだったが。

「お洗濯ものが一気に減りますね。」
「お食事の量も…。」
「繕い物だって半分以下になります。」

からかうように口々に使用人に言われ、唇を尖らせる。

「それではまるで、私が暴れん坊の大食らいみたいじゃない!」

リリーが言い返すと、何を今更と言った表情で笑われてしまった。

更に、

「王都では、走り回ってはいけませんよ。」
「木に登るのも駄目です。」
「知らない人から物を貰うのは危険ですからね。」

もはや子供相手としか思えないような注意の数々に、

「わかっているわ!私だってもう15歳のレディよ。」

と、ついムッとしながら言い返してしまう。
しかし、皆がわざと明るく言ってくれているのがわかると、

「次に会う時はみんなが驚くような令嬢になって、ビックリさせてみせるわ。」

と冗談めかして言ってみせた。



いよいよ出発の刻限となり、馬車に乗り込むリリーに、それまで静かに人々の後方で見守っていた執事のスチュアートが近付く。

「リリーお嬢様、お嬢様はそのままでよろしいのです。どうか変わらずに。辛いことがありましたら、こちらにお帰りください。私共はいつでもお嬢様のお帰りをお待ち申しております。」

温かい笑顔で告げられ、思わずリリーの涙腺が緩むが、なんとか堪えて微笑む。

「ありがとう、スチュアート。」

動き始めた馬車の窓から大きく手を振りながら、笑顔で叫んだ。

「行ってきます!」

 
手を振る皆の姿が小さくなり、牛舎が見えなくなっても、しばらくの間見られなくなる風景を、リリーはずっと眺めていた。






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