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王宮にお出かけします。
しおりを挟むリリーは今日もせっせとお菓子を焼いていた。
理由は朝食の時間まで遡る。
リリーが、今日のおやつにチーズスフレを焼くつもりだと話したら、父のウィリアムが自分も食べたいから仕事を休むと言い出した。
ただでさえ最近は娘のリリーにベッタリで、いつ仕事をしているのか謎の父である。
つい心配になって、お菓子は焼けたら仕事場まで持っていくからと言ってしまったのである。
父の仕事場・・・
それはつまり王宮であり、いまリリーは激しく後悔をしていた。
私、なんであんなことを言ってしまったのかしら。
しかもスフレは焼きたてが美味しいから、結局チーズタルトになってしまうし。
お仕事仲間がたくさんいらっしゃると困るから、多めに焼かないと・・・。
おやつの時間までに王宮に持参しなければならず、リリーはコックのレオも巻き込み、チーズタルトを作り続けていた。
なんとか焼き上がったチーズタルトをバスケットに詰め、次はリリーの準備にかかる。
なにしろ、謁見する訳でなくとも向かうは王宮である。
それなりの身支度が必要であった。
リリーは溜め息を吐いた。
さきほどからリリーが憂鬱に感じていたのは、大量のお菓子を作ることではない。
全ては王宮に出向くことにあった。
田舎育ちのリリーには、王宮は眩しく、近寄りがたく感じるのだ。
侍女のアイラにレースをふんだんに使った、華やかで上品な山吹色のワンピースを着せられ、鏡を覗く。
流行りのワンピースらしく、裾が広がりとても可愛らしい。
やっぱり似合ってないわね。
いつ見ても地味で平凡な顔だわ。
リリーは自分の顔を見つめ、心の中で呟く。
ありきたりな茶色の髪に、丸い目、酪農を手伝っていた為に日焼けした肌、荒れた手。
とても貴族令嬢には見えないわね。
自分の容姿に、自信も興味もあまりないリリーであったが、実際はそれなりに可愛らしい顔をしていた。
小動物のような目は、スペンサー家の人間に多い綺麗なエメラルド色であり、ウィリアムは自分と同じ色の目をしている娘を、生まれたときから溺愛している。
素直に感情が顔に表れ、いつも朗らかに笑っているリリーを見ると、周りまでつられて笑顔になってしまう。
令嬢らしくないそのままのリリーを、スペンサー家の皆が愛していた。
軽くお化粧もしてもらい、支度が済んだリリーはアイラと共に王宮へ向かう馬車へ乗り込む。
少し緊張気味のリリーに、
「お嬢様に会ったら、旦那様は飛び付いて抱きしめそうですね。」
などとアイラが言うものだから、緊張より心配が勝ってきてしまった。
お父様、王宮では冷静にお願いします。
心の中で祈っていたリリーであったが、王宮に馬車が到着するやいなや、待ち構えていたウィリアムが走り寄ってきた。
「お嬢様、頑張って下さい。プフッ。」
もはや笑いを押さえ込めていないアイラを軽く睨みながら、リリーは王宮へと重い足を進めたのであった。
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